第3話:彼女ができる

それからしばらくはその人と会わなかった。

その事も頭から薄れていっていた。


そしてとある休日の事である。

街中をぶらぶらしていると、ぱったりその人と会った。

「あ、久しぶり♪」と彼女。

「あ、おひさ。その後はどうだい?」と私。

「うん。元気になった。」

「そうか。よかった。」と心から思った。

そしてしばしの沈黙。

「ねえ、デートしよ♪」といきなり彼女が言った。

「え?えー?!」ときょどる私。

「そこの喫茶店。久しぶりに話でもしようよ。」

「あ、お茶ね。いいよ。」

そうしてサテンに入った。

「何頼む?」と彼女。

「俺はエスプレッソで良いや。君は?」

「私は千夏。もう忘れたの?」

「千夏さん…だね。」

「千夏でいいよ。」

「え?それってなんかラフすぎやしない?」

「だって昨日今日あった仲じゃないんだから。呼び捨てでいいよ。」

「わかった。んじゃ千夏は何頼む?」

「私はショートケーキとアメリカン。」

そうして注文をして席で待つ。

「千夏はあの大学の…ピアノ科?」

「うんそうよ。よくわかったわね。」

「いや、ただなんとなく。」

「冬真さんてすごく感がいいね。」

「さんはいらないよ。」

「え?」

「自分の時だけさんを付けて。他人行儀過ぎるよ。」

「…そ、だよね。んじゃ君付けで良い?」

「そだね。その方がこしょばくない。」

などと軽い自己紹介をした。

「ここのサテン、良く来るの?」と俺。

「うん。週一回は来てるよ。」と彼女。

「へー。」

と、水を飲む。

「冬真君は何科なの?」

「現代音楽科。ボーカルとギターやってる。」

「へー。ギター弾けるんだー。すごーい。」

「何もすごくないよ。俺ぐらいのレベルなら五万といるよ。」

「いやいや、私的にすごいんだー。」

「千夏はピアノが出来るじゃん。」

「ピアノの方が簡単だよ。」

「じゃお互いすごいって事で(笑)。」

「そだね(笑)。すごいすごい♪」

2人笑った。

そうこう話をしていると注文が来た。

エスプレッソを飲んでみる。

「…おいしい。こんなに香りの高いエスプレッソは初めてだ…。」

「あれ?この喫茶店に来たのは初めてなの?」千夏が聞いた。

「うん、初めて。…いやおいしい(笑)。」

「そう(笑)。よかった。実はケーキも美味しいんだよ、ここ。」

「うん?え、あ、甘いの苦手なんだ。俺。このエスプレッソも砂糖入れてないし。」

「そうなんだ。残念。でもブラックコーヒー好きだなんて大人だね。」

「そうかな?」と照れ笑い。

「うん、大人大人。」


なんだろうこの幸福感は。いつまでも続いてほしいようなそんな時間だった。

余韻に浸りながらしばしの静寂。

「ねえ、私と付き合わない?」

「…え?えー?!」

突拍子もない事を言う人だ。

私はどうしていいかわからなくなった。

「付き合おうよ。」とまた彼女が言った。

「え?何回かしか会ってないし。…それに俺なんかでいいの?」

「あなただからよ。」

少しの間、彼女の目を見てみる。

そして揺るがない意志の強さが見てわかった。

「…わかった、付き合おう。というか、お願いします(笑)。」

「ぷ(笑)。冬真君って何でも笑いに変えてくれるね。嬉しいよ。」

「そ…かな?」と2人笑いあった。

その日の夜は初めて幸せすぎて眠れないという夜になった。

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