第85話 エンシェントドラゴン

 イエティを倒した後、しばらく山を登り続けると、凄まじい雄たけびが上空から聞こえてきた。


 驚いて上を見ると、とんでもなくデカいドラゴンが空を飛んでいた。


 町で倒したドラゴンより、二回りはデカい。


 そのドラゴンはもう一度雄たけびを上げて、俺たちの眼前へと急降下して降り立った。


「ここは下等生物の入っていいような場所ではないぞ」


 物凄く低い声で、ドラゴンが喋った。


 このドラゴン喋りやがったぞ?


 ドラゴンって喋るもんなのか?

 でも町で倒したドラゴンは喋っていなかったのだが……


 俺は鑑定をしてドラゴンを見てみる。


『エンシェントドラゴン 個体名:ルバーヴォン Lv.71/74 102歳

 すべてにおいて高い能力を持つ、ドラゴンの上位種。

 言葉を操り、魔法も使いこなす。飛行速度も非常に素早い。 

 HP 1221/1221

 MP 602/602

 スキル 【アイスブレスLv6】【ファイアーブレスLv5】【ポイズンブレスLv5】【再生リジェネ】【速度上昇スピードアップLv5】

 耐性 【氷耐性Lv9】【炎耐性Lv9】【毒耐性Lv9】』


 エンシェントドラゴン……こいつが……


 めっちゃレベルが高いし、HPもかなりの数字だ。俺よりは低いのだが。


 ただ言葉が話せるとなると、案外会話で何とかなるかもしれない。


「さっさと立ち去らなければ、消し炭にしてやろう。さあ、今すぐ山を下りろ」

「この山で探している人がいるんだ」

「人などお前ら以外におらん。さあ消えろ」


 生命の魔女はいないのか?


 いや、やはり自分の目で頂上付近に行かないと、確信は持てないな。

 隠れながら暮らしているという可能性もあるからな。


「どうしても会いたいから、探すくらいはさせてくれないか?」

「ならん。今すぐに立ち去れ」


 エンシェントドラゴンのルバーヴォンは、牙を剥いて俺を威嚇してきた。


 仕方ない。戦うしかないようだ。


「レーニャ、メク、少し下がっていろ」

「にゃ、にゃ~……」

「た、戦う気か? こいつは恐らくエンシェントドラゴンじゃぞ……一旦引くべきでは……」

「大丈夫だ」


 二人は後ろに下がった。ルバーヴォンの威圧感に押されて、少し怯えているようだった。

 細かいステータスは見えないが、あくまでHPやレベルを見る限りでは、決して倒せない敵ではないと思う。


 こちらを明らかに見下しているため、油断もしているだろう。


 まず一撃強烈な攻撃をお見舞いしてやろう。


 俺は【隕石メテオ】を使用した。


 ルバーヴォンの背中にめがけて【隕石メテオ】が一直線に落下していく。

 スキルレベルが低かったころに比べると、【隕石メテオ】はかなり大きくなっている。ルバーヴォンも巨大なドラゴンではあるが、直撃したら大ダメージを受けるのは間違いないだろう。


 相手は油断していたため、回避不可能な位置に落ちてくるまで、攻撃に気づかなかった。


 慌てて回避しようとするが時すでに遅し、【隕石メテオ】がルバーヴォンの背中に命中した。


「グオオオオオオ!!」


 痛みでルバーヴォンは大声を上げる。

 鑑定で見る限り、まだ死んでいないが、三百ほどHPが減っている。


 あと何度か命中させる必要があるな。


 俺はもう一度使おうとすると、ルバーヴォンは飛び上がる。


 攻撃してくるのかと身構えると、


「きょ、今日のところはこれくらいで勘弁してやろう! だが山を出ないといずれひどい目に遭うからな……!」


 と言いながら飛び去って行った。

 若干涙目だった気がする。


 俺は呆気に取られてあんぐりと口を開ける。


 しばらくすると、上空から「い、いたいよ~!!」という情けない叫び声が響き渡ってきた。


 あれか、あいつ口では貫禄たっぷりに演じていたが、かなりのヘタレだったのか?


 逃がしたから【死体吸収】で強くなるチャンスを逃がしたが、まあ、追い払えたので良しとしよう。


「えーと、じゃあ先に進むか」

「そ、そうじゃな」

「何か怯えて損した気分にゃん」


 途中洞窟などで休憩も挟みつつ、俺たちは山を登り続けた。


 しかし、こんなところに本当にいるのだろうか。

 登り続けていて、何度も疑問に思ったのだが、ここまで来ておいて確認もせずに帰るのは流石に嫌なので、俺たちは登り続ける。


 周りは雪と霧で確認できないので、ここが頂上付近なのかどうか分からないが、かなりの時間登ったが発見は出来なかった。


「うーん、いないにゃ~……」

「噂はデマじゃったのかのう……」


 二人とも少し諦めの気持ちが出てきているようで、がっかりしたようにつぶやく。


「まだ諦めるのは早い。ここで見つけきれなかったら、メクの呪いを解く手がかりを完全に失ってしまう」

「……そうじゃな」

「そうにゃ。頑張って探すにゃ」


 俺たちは気を引き締め直して、捜索を行う。


 しばらく歩いていると、


「あ!!」


 誰かが叫んだ。

 俺の声でも、メクの声でも、レーニャの声でもない。


 全く身に覚えのない、幼い少女のような声であった。


 声の聞こえた方を慌てて確認すると、霧ではっきりと姿を見ることは出来ないが人影があった。


「師匠!! 帰ってきたんですね!!」


 その少女(?)はこちらに駆け寄ってきて、メクを抱え上げた。


「ぬお、何をする!」

「師匠、待ちくたびれたのですよ! 一年も待ったんですから!」


 とても嬉しそうにそう言った。

 声の通り、少女だった。

 年齢は十代中盤くらいだと思う。

 緑髪のツインテール。

 大きな目が特徴的な少女だ。

 魔女が身に着けるような、とんがり帽子をかぶっており、この寒さの中で寒くないかと言いたくなるくらい、ラフな服装をしていた。


「ちょ、ちょっと待つにゃ! 師匠はアタシの師匠にゃ! お前何なのにゃ! 師匠を離すにゃ!」


 レーニャがメクを奪い取るため、掴む。


「な、何ですかあなたは! 師匠から手を離してください!!」


 レーニャと少女がメクを引っ張り合う。


「や、破ける! 離すのじゃとにかく! 破けても死にはせぬが、気分的に良くないのじゃ!」


 二人とも思い切り引っ張り合いするものだから、メクが引きちぎれそうになっている。この体で両断されても死なないようだが、俺もそんな姿は見たくはない。


 レーニャと少女の二人もメクの叫びには気づいたようで、同時にメクから手を離した。


「ふう、助かった。一体何なのじゃ」

「師匠、何だか喋り方が変ですよ」

「わしはお主を弟子にした覚えはない。誰じゃお主は」


 メクがそう言うと、少女は物凄くショックを受けたような表情をした。


「な、なんですと……? このルリを忘れたと……? 名前もあなたが付けて下さったではないですか…………そんな……酷すぎます……」


 ついに少女は泣き出してしまった。

 ルリという名前だそうだ。


「あー、落ち着くのじゃ。話が見えんが、お主の師匠とやらは間違いなくわしと同じ格好をしておったのか?」

「当たり前です」

「わしの名はメク・サマフォースじゃ。お主の師匠は何という名じゃ」

「え? メク? サマフォース? 師匠の名はクラリカと言ったはずですよ」

「では別人じゃ。わしの名はクラリカじゃない」

「えー? 嘘ですよ。だって師匠以外そんなヘンテコな格好……」

「ヘンテコで悪かったな!」

「あれ? でもそういえば色が違いますね……師匠は白色じゃなかったような…………あ、そうです! 確か師匠は黒色でしたよ!」

「真逆の色ではないか! なぜ間違えた!」

「うっかりしていました。長い間お会いしていないので、忘れていましたよ。あなたは私の師匠ではございませんね」


 誤解は解けたようだ。


 しかし、さっきから師匠師匠と言っているが……

 恐らくメクと色違いの格好をしているようだ。

 村で聞いた時の話によれば、魔女はメクと同じようなぬいぐるみの姿に変身したらしい。


 それを総合して考えると……


「お主のいう師匠クラリカとは、生命の魔女と呼ばれておらんかったか?」


 俺の考えをメクが代わりに言った。


「はい、そうですよ。あれ? もしかして皆さん師匠のお知り合いなのでしょうか?」


 ルリはあっさりとそう返答した。

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