第82話 テンノース山

 町を出る前に、ドラゴンの肝を買ってくれたおっさんから、ハルカード帝国の地図を貰っていた。


 テンノース山の近くには、シャムド村という場所があるようだ。

 まずはそこに立ち寄って、テンノース山の情報を集めておこう。


 結構遠い。


 到着まで十五日はかかりそうだ。

 地図で見る限り、ハルカード帝国は相当巨大な国のようだ。

 クレンフォス王国よりも領土自体はかなりある。

 それでも戦力は互角のようなのは、獣人が戦上手なのだろうか?


 俺たちはシャムド村に向かって歩き続ける。


 今回もなるべく早くテンノース山に行きたいので、道中魔物狩りは行わなかった。


 途中で帝都に寄って、物資を購入したりしながら、長旅を行い十日でシャムドに到着した。


「寒いにゃ~……」


 シャムドは非常に寒い場所であった。

 雪がしんしんと降っている。


 事前に帝都に寄った際、シャムド村は寒いところであるという情報を聞いていたため、厚着をしている。

 ただ俺は正直、薄着でもなぜかあまり寒さを感じない。

 日本にいた時は寒がりだったのだが……

 たぶん【氷耐性】を持っているからだと思うのだが、実際どうなのかは定かではない。


【氷耐性】を持っていないレーニャは、厚着をしているのにも関わらず、ブルブルと震えて非常に寒そうである。


「しかし、ここまでくると流石に山の大きさに圧倒されるのう」


 メクがそう呟いた。


 その視線の先には、テンノース山がある。


 シャムド村から見るテンノース山はそれはそれは大きかった。

 標高何千メートルあるのだろうか。

 富士山よりも大きいかもしれない。


「さて早速あの山に魔女がおるという情報を集めたいのじゃが……」

「ここ龍人しかいないね……」


 帝都には意外と龍人以外の種族も見かけた。

 獣人はいなかったのだが、人間は少なくとも俺以外の奴が住んでいたようだ。


 この村には龍人しかいないようである。


 相手にされるのだろうか?


「あんたら、珍しいお客さんだね。ようこそシャムド村へ」


 温和な表情を浮かべた、龍人の中年女性が声をかけてきた。


 すると龍人たちが集まってきて、珍しがるように俺たちを見た。


 どうもこのシャムド村に住んでいる龍人たちと、帝都やアルメイクに住んでいる龍人たちと文化に違いがあるようだ。


 この辺にいる龍人たちは、人間どころか獣人のレーニャをも好意的に見ている。


 国境からだいぶ離れた場所にある村だから、異種族に悪印象を抱いていなのだろうか?

 それとも、ただ単に器の大きな人が多い村なのか?


 まあ、どっちでもいいか。

 この調子なら話を聞くことは可能そうだ。


「テンノース山に魔女がいるかもしれないと思ってきたんだが、噂か何か聞いたことないか?」

「え? テンノース山に魔女? 聞いたことないわね。ていうか、仮にいた場合、テンノース山に行くつもりなのあなた達」

「そうだが……」

「駄目よぉ。あそこはドラゴンの神様がおられる場所なんだから。立ち入ったら殺されちゃうかもしれないわよ」


 ドラゴンの神様?

 それは確かにやばそうな奴だな。

 神には流石に勝てないかもしれない。


「おいおい脅すなよ。ゴッドドラゴンは龍人や人間に構うほど暇じゃないさ」


 会話を聞いていた龍人の男がそう言った。


「まあ、それを置いてもテンノース山には、エンシェントドラゴンの巣があるとか、とんでもなく危険な場所なのは間違いなけどさ。行かない方がいいとおもうっつーか、そもそも魔女とやらがいるとも思えないぜ」

「エンシェントドラゴンとはまたとんでもない存在の名前が出たのう」


 メクが驚いた様子で呟く。


「強いのか?」

「今の時代まともにエンシェントドラゴンと対峙した者はおらんから、強いかどうかも分からん。まあ、天変地異を起こすレベルの存在じゃとは、伝承では伝わっておる」


 それはまた……強そうだな。


 うーん、やはり生命の魔女はここにはいないのだろうか?


「魔女様をお探しなのですか?」


 背後から女性に声をかけられた。

 振り向いて声の主を確認すると、小柄な龍人の女性が立っていた。


「そうだけど……」

「数年前の話ですけど、私、テンノース山に興味本位で行ってみたことがあるんですよ。そしたらワイバーンに襲われて、死にそうになったところ魔女様に助けられたのです」

「それは本当か? その魔女は生命の魔女と名乗っておったか!?」

「生命の魔女……そう言われればそうだったような……結構昔の話でまだ子供だったので、はっきりとした記憶はないんです。でも確かに魔女様に助けられたことは覚えています」

「山のどこに住んでいいるのかとかわかるか?」

「えーと……確か山頂付近に住んでられると、お聞きした覚えがあります」

「山頂……」


 俺は山を見る。

 この山の山頂に住むなんて、常人では難しいと思う。

 空気が薄いだろうし、何より死ぬほど寒そうだ。


 生命の魔女とやらは自分の魔法で、何とかしているのだろうか?


「あ、でもそういえば、あなたの姿を見て思い出しましたわ」


 龍人の女性はメクに視線を向けてそう言った。


「わしを見て何を思い出した?」

「魔女様は私を助けて、それから村の近くまで運んでくれましたが、そのあと帰るときあなたのような姿になって帰っていきましたわ」

「な、何じゃと!?」


 メクのような姿、つまりぬいぐるみになって帰っていった?

 どういうことか分からない。

 自分にも呪いをかけたということか?

 何でそんなことをする必要がある。


 メクも考えているが、よくわかっていないようだ。


「訳が分からんが、じゃが生命の魔女がわしに呪いをかけたという可能性はあがったな。よし、早速テンノース山を登るぞ!」

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