第67話 防壁壊し

 何だ今の物凄い音は。


 俺は音の発生源を探る。


 防壁があるあたりから聞こえたような。


 すると、もう一度同じような音が聞こえてきた。

 二度聞いたら確信した。間違いなく防壁が攻撃を受けている。


「防壁を攻撃してきおるようじゃな。しかしどう攻撃したら、こんな凄まじい音が響くのか……。もしかして勇者の力で壊そうとしておるかもしれんな」

「その可能性が高いな」

「それなら早く行かないと、壁が壊されちゃうかもしれないにゃー!」


 レーニャの言う通りだ。

 仮に勇者が防壁を破壊しようとしているのなら、俺たちで対処しなければ、ほかの者たちでは対処不可能だろう。


 防壁が破られてしまえば、あの軍隊が一斉に町に雪崩れ込んできてしまう。


 そうなると、一日すら持たない可能性があるぞ。


「一刻も早く行こう」


 俺たちは急いで、攻撃を受けている北の防壁に向かった。


 防壁に近づくと、巨大な鉄球がめり込んでいるのが見えた。


 内側からめり込んでいるのが見えるので、もう少しで貫通するところだったみたいだ。


 もしかして勇者はあれを投げているのだろうか。もしくはスキルか。

 それとも、投げているのは勇者ではなく、攻城兵器でも所有しているんだろうか。


 まあ、ステータスさえあればあれだけ巨大な鉄球を投げるのも可能だろうから、勇者が投げていると見ていいかもしれない。


 俺たちは防壁の上に登る。


 防壁の外を見てみても、投げている勇者は見当たらない。だいぶ遠くから投げているようだった。


 しばらく観察していると、鉄球がかなりのスピードで飛んできた。


 鉄球は防壁に当たらず、町の中に落ちていった。


 人々の悲鳴が響き渡る。


 今のはミスだろうが……鉄球が落ちた場所にいた人は、死んでしまっただろう。


 誰もいないところに落ちていればいいが。


 俺は敵に怒りを覚えた。


「どうやって、防げばいいかのう? かなり速いからそう簡単には防御できんぞ」


 俺のスキルに、鉄球から防壁を守るのに、良いスキルはないだろうか?

【隕石(メテオ)】は、攻撃力はずば抜けているが、そこまで精密に落とすことはできない。

【闇爆(ダーク・ブラスト)】が一番いいかもしれないが、軌道を逸らすだけで、防壁自体には当たりそうな気がするな。


 ここは自分の体で受け止めるか。


 俺の現在の攻撃力は、1344、防御力は1523ある。


 防壁を一撃で木っ端微塵にするほどの威力があるわけでもないし、恐らく身を呈して守っても、俺にダメージは入らないだろう。


 仮に多少ダメージが入っても、【再生(リジェネ)】スキルがあるので、問題はない。


 一度身を使って鉄球を落としたら、防壁の下に落ちることになるだろうが、このくらいの防壁の高さならジャンプすれば超えられるので、特に問題はない。


 そして鉄球が飛んできた。

 今度は軌道的に壁に当たりそうだ。

 タイミングを合わせて俺は防壁を飛び降りようとする。「テツヤ!」と止めようとするメクの声を無視して、俺は防壁から飛び降り、鉄球に殴りかかった。


 鉄球は砕け散る。


 殴った腕も全く痛くない。

 これなら、何度でも同じことができる。


 地面に落ちた俺はジャンプして防壁の上に登った。


「なんというか、お主本当に人間をやめつつあるのう……」

「凄まじいにゃ……」


 メクとレーニャが驚きながら、俺の行動を見ていた。


 とにかくこれで防壁は守れる。


 何度か鉄球は飛んできたが、全て撃ち落とした。


 すると、しばらく全然飛んでこなくなった。


 諦めたかと思っていると、別の場所から防壁を破壊する音が聞こえてきた。


 急いでその鉄球が当たった場所に俺は向かう。


 もう一発飛んできてた。俺はそれは何とかガードする。


 しかし、今度は先程までいた場所に鉄球が飛んできて、防壁に直撃した。


 ……これ、一人で守るの無理ゲーじゃないか?


 事前にどこに投げてくるのか分かっていないと、防御は不可能である。


 しかし、鉄球を投げて来ている勇者がどこにいるのかが分からないから、無理のような気がする。


 とりあえず俺は、最初に守っていた場所に戻る。こちらの損壊は非常に激しいので、守らないとすぐに壊れてしまう。


「テツヤ、わしを元の姿に戻せ。わしも魔法を使えば何とかガード可能じゃ」

「いや、メクには勇者戦で戦ってほしいし、それに短い時間変身したところで、あまり意味がない。あと一人が二人になったところで、この防壁の広さだと、意味が薄いような気がする」

「それもそうじゃな……」


 しかし、どうするか……。


 鉄球が飛んできた。

 俺がいる場所に来たのでそれを防ぐ。


 そういえばさっきは、一度防いだら攻撃する場所を変えて来たので、次は攻撃場所を変更してくるだろう。


 変更箇所は先ほどと同じ場所にするはずだ。壁を壊したいなら、何度も同じ場所を攻撃する必要があるからな。


 移動には時間がかかるし、少し待ってそれでここに来なかったら、敵は攻撃場所を変えているということになる。


 しかし、結局パターンを変えて来たり、もっといろんな場所に鉄球を放つようになったら、対処は不可能である。


 相手の馬鹿さ加減に期待するしかないのだろうか。

 鉄球も無尽蔵に投げられるというわけではないだろ。何とか防いでいれば、壁を壊される前に球切れになるかもしれない。

 しかし、スキルか何かで鉄球を作っている場合は、残量は多いだろう。スキルで作成するということは、MP消費で作っているということなので、勇者のMPは非常に高いだろうから、作れる量も多い。


 とにかく今は防ぎ続けるしかない。


 しばらく待って、今いる場所に鉄球が飛んでこなかったので、俺は場所を変えた。


 予想通りの場所に鉄球が飛んできたので、俺はそれを防いだ。


 そしてしばらく待って、攻撃が飛んでこないことを確認すると、最初にいた場所に戻る。


 すると、そこに鉄球が飛んできたので防いだ。


 問題はここからだな。


 敵があまり考えていないタイプなら、次もさっきの場所に来るが、ここで時間を貯めてこの場所に撃って来たり、もしくは、一度も攻撃していない新たな場所に攻撃して来たりしたら、敵は割と考えて攻撃してきているということになる。


 どうするか悩んだが、この場所から動かないと決めた。

 他の場所はまだ鉄球を食らっても問題ないが、この場所にまた来た場合、壁が壊れてしまう危険性がある。


 俺はこの場所に待機した


 しばらくすると、鉄球が飛んできた。


 どうやら敵は時間を貯めて、移動したと見せかけて、同じ場所を攻撃するという選択をしたみたいだ。


 今回は防ぐが、次からは予測ができない。


 同じ場所に来る可能性もあるし、場所を変えてくる可能性もある。

 場所を変えてくる可能性の方がどちらかというと高いが、この場所に攻撃してくる可能性も決して低くはない。


 俺はリスクを考え、動かないことにした。


 すると、今度は場所を変えて来たようで、防壁に鉄球が当たる。


 流石にこれはちょっと守り難くなってきたな……。


 そう思っていると、


「テツヤさん! 援護に来ました!」


 リコが、ローブを身につけた魔法使いっぽい格好の人たちを引き連れて、防壁の上に登って来た。


「この方たちは、町の中でも魔法を使う力量が特別高い方達です。青の神水でMPを上げて、高レベルの魔法を何度も使えるようなっておりますので、鉄球も防ぐことができます!」

「本当か!」


 守り切れないと思っていたので、これは朗報だった。


 その後、リコの部下の魔法使いたちを壁の上に配置して、防衛が始まった。


 俺たちは必死で防壁を守る。


 援軍にきた魔法使いは、数が多く、防壁のほとんどをカバーすることができ、そして、リコの言う通り、きちんと鉄球を撃ち落とすくらいの魔法を使うことが出来た。


 ただ、それでも百パーセント撃ち落とせるわけでなく、失敗する確率も結構あるので、俺が守っている場所以外は、鉄球が何回か当たって、ボロボロになっていた。


 一番ボロボロになっている箇所に、俺が行くことで、何とか防壁が壊されるのは防ぐ。


 長時間守ると、鉄球は飛んでこなくなった。


 弾切れか……? これは守りきったか……?


 気を抜いてはいけないので、神経を張り詰めながら、俺は眠気を堪えながら二十時間ほど壁の上に立ち続けるが、結局飛んでくることはなかった。


 それからは、交代で見張り始めたが、やはり鉄球は飛んでこない。


 まだ完全に油断することは出来ないが、恐らく何とか鉄球から防壁を守りきることに成功した。



「っち、弾切れか」


 後方から鉄球を投げていた勇者ヒロシは、投げる球がなくなり忌々しい表情で舌打ちをしていた。


 彼の鉄球は自分で作っていたわけではなく、部下の魔法使いに作らせていた。


 巨大な鉄球を作るのは、結構難しい魔法でそう簡単につくることができない上、MP消費量も多いので、一人で作られる量は限られている。


 五十人くらい鉄球を作れる魔法使いを集めて、作らせていたが、遂に全員のMPが切れて、投げることが出来なくなった。


「どうしましょうか。壊せはしませんでしたが、だいぶ痛んでいるようですし、あとは兵達で力押しをさせましょうか?」

「……それじゃあ、時間が無駄にかかるくねーか? こんな場所にずっといるのもかったるいしなー」


 戦場での生活は決して、楽ではない。

 ベッドは硬いし、飯はあまり美味しくないし、耐えがたいものであった。


 ヒロシは一刻も早く、城に帰って、うまい飯を食って、フカフカのベッドで寝たいと思っていた。


「はー……仕方ねー……外から狙っても壊せねーなら、近くからぶっ壊すしかないな……」

「ヒロシ様、それは少々危険だと思います。敵はヒロシ様の攻撃を防ぐくらいの力量を持っています」

「俺がやられるとでも言うのか?」


 ヒロシは、アレベラスを睨み付ける。


 アレベラスは萎縮し、頭を下げて謝罪をした。


「ふん、まあ、確かに駿の奴もやられちまったんだ。油断するのはマジーよな」


 とヒロシは考える。彼は勇者達の中では、物事を慎重に考えるタイプだった。


「でもやっぱ無駄に時間がかかるのは嫌だなぁ……うーん、どうするか……別にちょっと防壁に近づくくらい問題なくないか? そのあとはすぐ離れれば良いわけだし」


 あくまで勇者達の中ではであって、通常の人間に比べると、楽観的な考えを持っていたが。


「そうですね……それなら危険もなく壁を壊せるかと」

「よし、じゃあそれで行くか」


 ヒロシは早速、自ら先陣に立ち防壁を壊しに行く準備を始めた。

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