第65話 勇者軍

 俺たちは一度敵の戦力を見るため、防壁の上に立って、外にいる勇者軍を眺めてみた。


「これは……想像以上だな」

「そ、そうじゃな」

「多いにゃー」


 大量の軍隊が、ヴァーフォルを包囲していた。

 数万と言っていたが、そのくらいは間違いなくいそうである。


 軍隊は人間だと思っていたが、実際は獣人が多いようである。

 特に狼の獣人が多いようだ。


 占領した地域の兵を使っているのだろうか。

 それならあまり士気は高くないかもしれないな。

 勇者を見つけて倒せば、すぐに逃げていく可能性が高いと思われる。

 ただこの数の中、勇者のもとに行って倒すのは、非常に困難な気がする。


 外の兵士を見て、非常に不安な思いを抱きながら俺は防壁を降りた。


「どう思う?」


 自分より軍事に詳しそうなメクに、尋ねてみた。


「うーむ……数は確かにあまりにも多かったが、ほとんどが獣人兵で、恐らくあまり忠誠は高くない。じゃが、家族を人質に取られておる可能性が高いから、死に物狂いで戦っては来るじゃろう」

「人質か……」

「それでも、勇者が死ねばすぐに逃げ出すじゃろうがな。勇者への恐怖も獣人たちが、大人しく従っておる一つの要因であろう」

「勇者を倒せるか?」

「前回みたいに誘い出せれば分からんが、これだけの軍勢を率いておるということは、今回来た勇者は用心深い性格の可能性もあるかものう。簡単には引っかからんかもしれん」

「性格の問題というより、俺たちが仲間を一人殺したから、それで恐れているんじゃないか?」

「その可能性もあるのう。まあ、どっちにしろ用心深くはなっておるじゃろう」


 誘い出すのは難しいか?


 しかし俺の限界レベルは1で一見弱い。

 それで安心して、誘い出されてくれるかもしれない。


 とにかく勇者を倒せさえすれば勝ちなら、何とかなるかもしれない。


 俺たちはリコの家に戻ると、何やら様子がおかしい。


 リコの家を大勢の兵士が取り囲んでいた。

 門番はいたが、あんな大量の兵士はいなかった。


「何だあれ?」

「リコの部下の兵士じゃろうか?」


 守りを固めたのか?

 とにかく話を聞いてみよう。


「あの、中にようがあるんだが」

「中には誰一人入れるなと、言われている」

「リコの知り合いなんだけど」

「我々は聖女のリコの兵隊ではない」

「なに? じゃあ誰の」

「アルマーフィフ様だ」

「誰だそれは?」

「知らんのか。七賢人のお一人であるお方だ」

「七賢人?」

「……お前、俺をおちょくっているのか? それとも余所者なのか?」

「余所者だ」

「簡単に説明すると、この町の政治を取り仕切っておられる方が、七賢人だ」


 それはかなり偉い人のようだ。

 この町は合議制なんだな、この町は。


「何でリコの家を包囲している」

「それは言えん。とにかくここに入れることは出来んから、帰れ」


 どうする。はっきり言って、いいことをしに来ているとは思えない。

 何が目的なのだろうか。


「……多分じゃが、リコを勇者の下へと行かせる気じゃな」

「何?」

「話し合いというのも、そこまで間違うておらんじゃろう。戦っても勝てるか分からから、まずは話し合いでリコに勇者の下に行くよう要求するはずじゃ。リコの性格を考えれば、飲むはずじゃと読んでおるはず。仮に断られた時の場合、一か八か実力行使に出るじゃろう」


 なるほど……。

 七賢人の一人とやらにしてみても、リコの存在はメリットが多いはずだが、町の滅亡と天秤にかけた時、差し出した方がいいと判断したわけだ。


 違う場合もあるが、予想が当たっていた場合、一刻も早くリコの下に行かねばならない。


「メク、レーニャ、強行突破するぞ」


 俺の言葉を聞き、二人は頷いた。


 俺は兵士の腕を掴む。


「な、何だ?」


 そして俺は、後ろに引っ張り兵士をどかした。

 大怪我をしないよう、だいぶ手加減をする。


「お、お前!」

「何を!」


 兵士たちが動揺して質問してくるが、俺たちは耳を貸さずにリコの家に向かって走りだす。


「止まれ!」


 止まれと言われて、止まるやつはいない。構わず走り続ける。

 門が閉まっており、入れなくなっていたが、俺は門を壊して中に入る。


 そのまま走り続ける。

 レーニャもメクもちゃんと付いてきている。


 リコの家に入る。


 何やら言い争いをする声が聞こえてきたので、俺はそこに向かった。


「ふざけるな! リコ様はこの町の宝だぞ!」

「宝を守って町の人が滅ぼされたのでは、意味がありません。リコさん、ここは一つその身で町民を救ってくださいませんか? 恐らく勇者もあなたの能力を欲しているだろうから、殺しはしないでしょう」


 そのやりとりだけで、俺は予想が正しかったという事を確信した。


 アルマーフィフとやらは、リコを勇者に差し出すためにここに訪れているらしい。


 絶対に止めなければ。


 兵士たちが、客間への道を塞いでいる。

 狭い道なので、どかす事が難しい。


「なんだお前らは! 止まれ!」


 俺たちの存在に気づいたようだ。剣を抜いて構えてくる。


 こういう時に役に立つのは、【雷撃サンダーショック】だ。

 敵を気絶させて、先に進もう。


「【雷撃サンダーショック】!」


 俺の手から雷撃が迸る。

 敵の兵士は「ぐわぁっ!!」と声を上げた後、気絶した。


 俺の攻撃に兵士たちが一斉に、攻撃してくる。

 何度も【雷撃サンダーショック】放ち、敵を全員気絶させた。


 倒れた兵士たちを跨いで、俺は客間へと向かった。

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