第63話 話を終えて

「すみません、長々と話してしまって」

「いや、聞きたいって言ったのは、俺たちだし、話してくれてありがとう。面白い話が聞けてよかったよ」

「そ、そうですか、それは良かったです」


 リコは照れたように笑みを浮かべた。


 しかし、話を聞く限りではリコはこの町で、すごい権力を握っているようだな。


 要は、この町を掌握しているようなものじゃないか。あくまで民衆のためなので、問題はないけど、こんな短期間で凄いな。


 彼女は最初に出会った時は、弱々しい女の子という印象だった。実際不良相手に、ビクビクと怯えるばかりだったし。異世界に来てからだいぶ成長したんだな。


 もう外も暗くなってきている。

 そろそろ帰らなくては、迷惑だなと思い、


「じゃあ、俺たちはそろそろ帰るよ」


 椅子から立ち上がりながら言った。


「あ、そうですか。今日はお話していただいてありがとうございました」

「いや、俺もリコの話を聞けて、楽しかったし。あ、でも刻印が災いを引き寄せるって話は、忘れないでくれよ。リコは味方も多いみたいだから、やられないかもしれないけど、念のため用心しておいてくれ」

「分かりました。肝に銘じておきます」


 リコの堅苦しい返事をする。


「また来てねー、おじさんとぬいぐるみさんと、猫のおねーちゃん」


 アイサが微笑みながら手を振りそう言った。


 お、おじさん?

 そこまで老けてないはずだけど……まあ、この子からしたら俺なんておじさんか……。

 俺は軽くショックを受けながら、アイサに手を振り返した。


 俺たちはリコの家を出て、宿へと帰った。


 ○


 一方その頃、勇者、大島弘おおしまひろしは、目的地に向けて進軍していた。


 弘は、大きな硬い鎧を身につけて、左手に盾を、右手に剣を持っている。


 どちらかといえば、彼は防御を得意とするタイプであった。


 彼に付き従う部下の兵たちは、数万を超える。


 人間だけでなく、獣人の兵も多い。弘が攻め落とした城は多くが、獣人が支配していた場所であった。

 弘は、家族を人質に取り、兵たちをさからえなくなるようにしていた。獣人兵たちの表情は重苦しい。弘個人に忠誠を誓っているものなどいない。しかし、勇者のとてつもない力と、家族を人質に取られているという事実は、彼らから逆らう気力を完全に奪い去っていた。


 ちなみに家族を人質に取るという手は、弘が考えたのではなく、部下のアレベラスが考えた作戦である。弘は強さに関していえば申し分ないくらい強いのだが、頭の方は悪く、その上、日本で本格的な戦争をする経験など当然あるわけがないので、軍事に疎かった。その辺りを部下が上手くカバーをしていた。


「今回攻める町には、何があるんだっけ」


 弘が横にいたアレベラスに質問をした。


「大きな図書館が一番の魅力でしょう。知識は国の宝となります」

「図書館? そんなもんどーでもいい。女はいるのか、良い女は」

「女……ですか。そういえば聖女というのが、最近になって出てきたらしいですね」

「聖女? そいつは良い女か?」

「詳しくは分かりませんが、容姿は良いという噂を聞きましたよ。それよりも、強いスキルを持っているようです。なにやら飲むとレベルが上がる水があるそうです」

「何それは本当か!?」


 レベルを上げたいと思っていた弘には、これ以上ない情報であった。


「よし、そいつは確実に捕まえるぞ。ブスでもだ。俺のためにこき使ってやる」


 彼はニヤリと笑う。


「あとどれくらいだ?」

「もうすぐ到着するかと」

「よし、レベルを上げる水があるなら、敵を倒す必要は無いよな。最初は聖女を引き渡したら、攻めないでやるといえ。この軍量なら敵も縮みあがって、渡してくるだろう」

「了解しました」


 弘はそう命令し、ヴァーフォルへと進軍を続けた。

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