第61話 ヴァーフォルに到着
ヴァーフォルに初めて来たとき、私は町の通りを見て言葉を失いました。
それまで私は人間以外の種族の方を見かけたことがありませんでした。
アイサもイザベラさんも人間で、城下にあった町にいた人も、すべて人間でしたので、獣人などの人間とは異なる種族は、今まで一度も見たことがありません。
そのためヴァーフォルの通りに、異種族の方々が歩いているのを見かけて、強い驚きと感動を抱きました。
町に着いたときは、ほぼ無一文の状態でしたが、途中でモンスターなどを退治してお金になりそうなものを取ってから町に行きました。
アイサの家で狩りをした経験があったので、その時はモンスターを退治することへの抵抗感はだいぶ薄れていたので、退治することは出来ました。
日本では戦いや暴力とは無縁だった私ですが、この世界に来てからはそこは大きく変わりましたね。
それで、取ったものを市場で売ると、それなりのお金が手に入りましたので、最初はそのお金を使って、町を見て回っていたりしました。
私は柄にもなくはしゃぎながら観光をしていました。
むしろいつもは騒がしいアイサの方が静かでした。昔を思い出すように町を見て回っていたと思います。
特に興奮したのは図書館を発見した時ですね。
異世界に来てから本は読めないだろうな、と諦めていたのですが、あったので、とても嬉しく感じたのを覚えております。
その日は図書館には入らず、観光を続けました。
観光を続けて楽しいことばかりではありませんでした。
この町は、貧富の差が激しく、少し町はずれまで行くと、住む場所もない人々が路上で生活をしていました。身なりは汚く、体は痩せ細っていてまともに食べることも出来ていないのでしょう。
そんな境遇に追いやられているのは、大人だけでなく子供もいました。
治安も悪く、男の人に囲まれる経験もしました。
昔なら囲まれると怖くて動けなかったのですが、アイサが後ろにいたので、何とか勇気を振り絞ります。
私のその時のレベルはかなり高く、ステータスも優秀でしたので、それを上回る人はほとんどいないので、戦えばあっさりと追い払えました。
私は、この町の現状を見た時、私の役目はこれなんだと思いました。
貧しくて苦しんでいる人たちを救う、それこそがこのスキルを持った私に出来ることであると考えました。
その日は宿に泊まって、翌日からさっそく私は活動を開始しました。
「どうするの?」
アイサがそう尋ねてきました。
「あの人たちはとにかく飢えて苦しんでいるみたいだから、ここは私のスキルの紫の水を飲ませてたいの」
最初はそうすると、決めました。まずはお腹が空いていては何もやる気が起きませんからね。
紫の水は、ほんのちょっと舐めるだけで、空腹が解消されます。
まやかしというわけではなく、本当に栄養を補給しているので、紫の水だけでも生きて成長することも可能です。
さらに紫の水は、ほかの水よりも使った水が、復活するペースが速いのです。
全部使った状態から、満タンになるまで10分で済みます。
小さめの樽を購入してきて、紫の水を移して、満タンにして貧しい人たちがいる場所へと持って行きました。
日本にいた頃の私はまったく力がなかったのですが、レベルが上がったおかげで力強くなり、軽々と樽を持って歩くことが出来ます。
到着した後、樽の中に入っている水をなめたら空腹がなくなると言います。しかし、紫の水何て一見すれば毒です。誰も舐めてはくれません。
私は自分で舐めてみて、毒でないことを証明します。
それでも全員は舐めに来てくれませんが、一人の子供が父親に促され、紫の水をなめに来ます。子供を毒見役に使う、あまりいい方ではありませんでしたが、ここは舐めてくれる人がいてよくはありました。
その子供は、指に水をつけて、それをペロリと舐めます。
「凄い! ほんとにお腹いっぱいになった!」
子供がそう言うと、恐る恐るですが、大人たちも樽に近づき、水を舐めて行きました。
すると、本当に腹がいっぱいになると、知り我も我もと、水を求めて大挙してきます。
水を瓶か何かに掬って持ち帰ろうとする人も現れました。
大騒動が起きてその時は、どうしようか困惑しました。
とにかく騒動を治めるため、一度、全員を樽から離す事にしました。
抵抗されましたが、そこはアイサと私で力づくで何とかします。
貧民の方々はレベルも低く、限界レベルまでレベルが上がっている私とアイサには太刀打ちは出来ません。
全員を樽から離す事が出来ました。
そして、私はこれが自分のスキルで出したものであるということを説明し、【虹色の神水】を使って紫の水を出すところを見せました。
水は毎日大量に出るし、舐めただけでも空腹が収まるからそんなに大量には要らない。水が欲しい人にはいつでも上げるから、暴動を起こすような真似をせず、列を作って順番に適量を取っていってほしいという事を告げました。そのルールを守れない人には、水は絶対にあげないとも宣言しました。
貧民の方々は話を聞くと、平伏し私を「聖女様」と呼び、きちんとルールを守って水を受け取るようになりました。
私が聖女と呼ばれたのは、その時が初めてです。
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