第32話 危機

「【解放リリース】」


 リーザースはそう言った瞬間、リーザースの体が一回り大きくなった。


 とっさに鑑定してみる。すると、奴のHPとMPが二倍になっていた。どういうことだ?


 とにかく、攻撃の手を緩めてはいけない。おれはリーザースの足元を狙って斬りかかる。なぜか避けずに俺の剣撃をリーザースは受けた。攻撃は足に直撃したのだが、おかしい、一切痛がる素振りを見せない。効いていないのか? 鑑定してみると、3ぐらいしかHPが減っていない。


「悪魔はですね。地上に出るさい、色々と力に制約をかけられるんです。【解放】はそういった制約を一定時間解除出来るスキルなんですね。まあ、ざっとステータスは通常の倍になっております」


 他のステータスも倍になっているのか……!

 俺の剣撃では、まともにダメージが通らないのか。


 レーニャが後ろから攻撃を仕掛ける。

 まずい、今のこいつに攻撃したら!


 リーザースは軽く手で振り払うような動作で、レーニャを攻撃。


「にゃー!」


 攻撃を受けたレーニャは、勢いよく吹き飛んだ。かなりのダメージを受けたようで、【獣化ビーストモード】が解けて、猫の状態になる。

 鑑定をして見てみると、HPが10分の1まで減っていた。死んではいないようだが、大ピンチだ。


「クソ!」


 俺は焦りながら、リーザースを攻撃する。レーニャをもう一度攻撃されるわけにはいかない。


 先ほどより、力を込めて剣を振る。

 しかし、スピードも強化されているリーザースは、それを軽く避けて、


「安心してくださいよ。まずは、あなたから殺してあげますので」


 と言いながら、俺の腹に蹴りを入れてきた。俺は後ろに吹き飛び、仰向けに倒れる。

 腹に激痛が走る。腹を押さえ、「うぅ……」と呻き声を上げながら立ち上がった。すると、闇の塊のようなものが飛んできて、俺の顔に直撃し、爆発した。

 焼け付くような痛みが上半身を襲う。

 痛みで意識が少しずつ遠のいていく。


「強化された、ワタクシの【闇爆】を食らっても、まだ息がありますか。本当に頑丈ですね」


 勝てない。

 こいつには勝てない。


 息があると言っても、もう虫の息だ。立ち上がることもままならない。


 クソ、やっぱりここは理不尽だ。何でこんな奴が俺を狙ってくるんだ。

 ちくしょう。


「まあ、しかし、もう立てないようですね。今楽にして差し上げます」


 リーザースがそう言って、ゆっくりと近づいてくる。

 死ぬのか……ここで……


 俺が死んだらどうなる。

 メクは死ぬのか分からないけど、レーニャは確実に殺される。


 そう考えると、自分が死ぬという事実よりも、抵抗を感じた。


 諦められない。


 俺は、必死で力を込めて立ち上がろうとする。

 だが、体が言うことを聞かない。


 動け足、手! こんな所で死ぬわけにはいかねーんだよ!


 心の中でそう叫んだ直後、


 いきなり視界が真っ黒に染まる。


 なぜか倒れていたはずの俺は、周囲が真っ黒く染められた空間に佇んでいた。


 なんだここは? どうなっている?


 俺が混乱していると、


『情けねぇな』


 いきなり、俺の背後から男の声が聞こえた。

 振り返って確認する。


 目だ。


 真っ黒の空間に不気味な目が浮いていた。


 この目には見覚えがある。


 俺の右手に刻まれた刻印の目と同じだ。

 口はないがこいつが、声を出しているのだろうか?


『へぼいお前に、俺様が力をくれてやろうか?』

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