第5話 窮地

 だいぶ歩くがめぼしいものは見つからない。


 そうだ、ちょっと試してみたい事があったから試してみよう。

 この世界はゲームっぽいから、もしかしたらステータスとか見られるんじゃないかと思っていたんだ。


 どうすればいいんだろう、とりあえずステータスオープンって言ってみるか。


「ステータスオープン」


 俺がそう言った瞬間、一枚の少し厚い板が出現する。

 その板は俺の目の前で浮かんでいる。

 板の表面に、


 名前  テツヤ・タカハシ

 年齢  25

 レベル 1/1

 HP   20/30

 MP   3/3

 攻撃力 3

 防御力 3

 速度  3

 スキルポイント 0

 スキル 【死体吸収】

 耐性  無


 こう書かれてある。

 ステータスオープンで見れるんだな。


 たぶん弱いんだろうなこの数字は。

 レベル1/1ってのが、限界レベルが1だということを表しているのか。


 スキル死体吸収ってのがあるが、これが初期に貰えるスキルか?


 強いのか? いや、俺を召喚しやがったミームってやつは、初期スキルは弱いって言ってたな。

 それが本当なら、このスキルは使えないスキルだろう。


 死体を吸収して、それ以上なにも起こらないのなら、確かに無駄なスキルでしかない。

 あまり期待はしないでおくか。


 しかし、HPが減ってるな。不良どもに殴られたせいか。


 それでこれ、消すにはどうしたらいいんだ? オープンで出たから……


「ステータスクローズ」


 俺がそう言った瞬間、ステータスが書いてある板は消えた。

 オープンで出して、クローズで消す、だな。覚えた。


 とにかく今の俺はこの世界で最弱の存在だ。

 それでも絶対に死んでなんかやるもんか。

 存分に注意を払って出口を探そう。


 俺はそう思い、歩き出した。


 数分歩き、何だか腐ったような臭いが漂い始める。


 吐き気を催すような臭いだった。

 臭いは前方から漂ってきているようだ。


 何だか気味が悪いので、臭いのする方向を避け、別の方向に向かって歩いた。


 しばらく、歩いていると……


 カツ、カツ、カツ、カツ。


 何かの足音が聞こえてくる。

 二足歩行している生物の足音だ。


 人間? もしくは……


 俺は周りを見回して確認する。

 足音を出している者は見つからない。


 足音は徐々に大きくなっていく。

 俺はどこか隠れる場所を探すが、無い。


 なら逃げるしかない。

 足音が聞こえてくる方向の逆方向に、俺は早歩きする。


 すると、足音のテンポが速くなる。


 走り出した!


 俺も合わせて、走って逃げる。


 だが、足音は徐々に大きくなってくる。


 相手のほうが速い!


 俺は後ろを振り返ってみる。


 少し遠くのほうだが、俺を追いかけてきている者を発見。


 体格は小さく、角が額から生えている緑色の人型の生物。

 小さいが凶悪な顔をしており怖い。

 たぶんだけど、ゴブリンって奴じゃねーかなあれは。


 最弱のモンスターってイメージだけど、棍棒持ってるし、レベル1の俺では倒すのは恐らく不可能。


 逃げるしかない……が。


 ゴブリンの方が俺より速い! 数倍はやい。


 つーか、俺遅くね? 

 何か若い頃より明らかに数倍遅くなってるんだが。


 確かに運動不足だけど、ここまで遅くなるか?

 もしかして、レベル1になったから、身体能力が元の世界よりおちているのかも知れん。


 そんなことよりこのままじゃ、確実に追いつかれる!


 どこか隠れる場所は?


 走りながら探す。


 ん? この臭い。


 さっき嗅いだ腐った臭いが、また漂ってきた。

 そういえば俺が逃げている方向は、先ほど臭いが漂ってきているからと、避けていた方向じゃないか。


 臭いがきつくなれば、あいつらも逃げるかもしれない。

 今回は臭いは我慢して走り続けよう。


 そう決めて、走り続ける。

 ただ、ゴブリンたちも臭いなど気にせず俺を追いかけている。


 あいつら、何なんだよ。なんで追いかけてくる! 俺を食う気か!? 食ってもうまくないぞ俺なんか!


 頭の中で文句を言っていると、ゴブリンたちが走りながら何かを投げてくる。


 石だ。

 何十個も投げられる。


「いだっ!」


 そのうち一個が右足に当たり、俺は声を上げながら転倒。


 走っていたので、勢いよく転がる。

 全身を打つ。体中に痛みが走る。

 そして、地面に伏すような体勢で止まる。

 土と血が混ざったような味が口に広がる。


 何とか立ち上ろうとするが右足が動かない。

 先ほどの投石で、怪我を負ってしまった。


 ちらりと後ろを見ると、先ほどまで走っていたゴブリンが今度は歩いてこちらに来ている。

 俺を仕留めたと確信したからか、ニヤニヤと笑い顔を浮かべていた。


 くそ、動け! 動け足!


 何とか足を動かそうとするが、動かない。

 仕方ないから這ってでも、逃げようとする。


 クソ! ふざけんなよ! 何で俺がこんな目に遭わなくちゃならいんだ!


 理不尽だという思いが胸にこみ上げてくる。


 きのこに命を助けられたときは神様の存在を信じそうになったが、そんなものはやはりこの世にはいないようだ。


 ゴブリンたちが迫ってくる。俺をどうする気かは分からない。ただ捕まったら無事ではすまないだろう。

 この状態で逃げ切れる可能性は限りなくゼロに近い。


 それでも俺は「生きたい」という本能に従って、地を這いつくばりながらも前に進む。


 ん? これは……


 地面に穴が開いている。


 ものすごい腐敗臭が穴の中から臭ってきて、俺は思わず顔をしかめた。

 どうやら周辺の腐敗臭の発生源は、この穴だったらしい。


 穴の底は暗くてよく見えない。

 ものすごく深くて落ちたら死ぬ可能性もある。


 それ以前に、こんな臭いを発生させている場所に飛び込むことに、ものすごい抵抗感がある。


 ただ、このままだと確実に俺は死ぬ。


 ――――行くしかない!


 俺は意を決して穴の中に飛び込んだ。

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