『手足を売るばあさん』

朧塚

峠にある謎の神社。

 私は今年、大学生になったばかりだった。

 所謂、サークルの友人達と一緒に、ドライブに出かけるのが日課になっていた。

 そのドライブの途中、峠の途中に公園らしき場所があって、車を停める事になった。すると。神社のような場所が見つかった。神社の文字はかすれており見えなかったが、ありがたいものだと考えて、みなで拝殿に手を合わせた。……ただ、一体、何を祀っているのか、まるで分からなかった。

 帰りに、何か露天商みたいな人間を見つけた。

 果物でも売っているのか、あるいは神社だから、御札でも売っているのかと、みなでその人間に近寄った。老婆だった。陰気な雰囲気を醸し出している。

 みなで、その老婆が何を売っているのか見てみた。

 みると、何か粘土……あるいは、陶器のようなものを売っている。

 どうも、それは、人形の手足みたいだった。

「いりますかねえ? お安くしておきますよ?」

 老婆はなんとも言えない笑い声をあげていた。


「この辺りで売られている、お守りなんです」

「効果はなんですか?」

 ミカは首を傾げる。

「交通安全ですよぉ。買っておいて、損は何もありません」

 老婆は言う。

 極めて、不気味だ。

 この老婆も一体、何者なのか分からない。

 しかし、何故か、この人形の手足は魅力的に映った。

絶対に買わなければならないんじゃないかと私達は考え始めた。よくよく見てみると、人形の手足の先にはキーホルダーが付いており、可愛らしく見える。ささやかな旅の想い出として買っておいて損は無いのではないかと思うようにした。


 私達は人形の手足を、買う事にした。

 一つ五百円で全部で二千円だ。私は両腕を二本、買う事にした。そして、友人達三名もそれぞれ、手足を買う事にした。ミカは左手以外の右足、両脚の三本。リョウイチは、両脚二本。カナは手足全部を買った。

だが、ワタルだけは気持ち悪いと言って買うのを止めた。一週間後、ワタルは交通事故に合い、四肢に深刻な負傷を追った。医者いわく、右腕と左脚はもう使えなくなるかもしれない、という事だった。ワタルは昏睡状態だった。

 そして、更に一週間後、ミカが階段からこけて、左腕を強打し骨折した。

 私、カナ、リョウイチ、そしてミカ本人が絶対に、あの峠に向かった時に買った人形の手足が関係しているという話になった。


ミカは人形の手足を三本買った。だから、左腕だけで済んだのだろう。

 私は、両腕を買ったが、両脚を買っていない。

 リョウイチは両脚を買ったが、両腕を買っていない。


 私は次の日には、ネットで検索した拝み屋をやっている場所へと、リョウイチと共に向かった。

 そこで言われた言葉が…………。


「はあ。悪霊ですか…………」

 所謂、お祓いを行っていると言う若い男性は、少し呆けたような顔で答えた。

 

「はい。二週間くらい前に、ある峠に行って以来、何と言うか“憑かれた”んです……」

 私は本当に困り切っていた。

 このままだと、私は両脚に大怪我を負う事が見えている。ミカは運よく、軽傷だったが、ワタルの場合はもう手足が一本ずつ動かない可能性が高いらしい。私は車椅子生活を考えると、真っ青になっていた。リョウイチも両腕を失う事を考えて、嫌な気持ちになっていた。


「ちょっと分かりませんね。その、人形の手足、見せて貰えますか?」

 言われて、私とリョウイチは人形の手足を見せる。キーホルダーが付いている、可愛らしいものだ。

 拝み屋はそれを見て、首をひねっていた。

「これ、人間の皮膚で出来ていますね。しかも、多分、貴方達のモノなんじゃないですか?」

 拝み屋は小さく溜め息を吐いた。

「とにかく、わたしではどうにも出来ません。ご友人が怪我をしたのなら、貴方達は怪我を最小限にするようにするしかないのではと。一応、魔除けの御札は差し上げますが……」

 その拝み屋は、どうにも胡散臭い感じがしたが、一応、話は聞いてくれた。


 結局、五日後、私はバイクにひかれて両脚を骨折して、その数日後に、リョウイチは雨の日に車を走らせていて、カーブを曲がり損ねて両手に怪我をした。リョウイチの場合は、私よりも怪我が軽く、入院するまでも無かったらしかった。


 ちなみに、手足全部を買った、カナだが。


「気持ち悪くて、全部、捨てちゃったよ」

 そう、私とミカ、リョウイチに告げた。


 一ヵ月程、経過した頃だろうか。

 カナは不審火が起きたアパートで焼死体となって発見された。

 とくに、カナの両手両足は特に焼け爛れ、炭化してしまったらしい。

 あれから、ワタルは昏睡状態から眼を醒まさない。

 ワタルの右腕と左脚は、結局、切断する事になったらしい。


 大学生活も終わり、あれから数年経つが、私達三名は、今も、あの謎の老婆から買った人形の手足を大切に保管している…………。あの老婆が何者だったのか、今でも正体が分からない。


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『手足を売るばあさん』 朧塚 @oboroduka

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