第5話 約束してほしい、誰も殺さないって
明知の予想外の返事に誰しもが耳を疑った。その単語は生まれてから何度も聞いたことのある単語のはずなのに。本来とても恐ろしいこの単語に若者は鈍感になりすぎている。しかしどうだろうか、明知が今言った言葉、その言葉に全員の理解が追い付いていない。何を?どうするって?コロス?コロスっていったいなんだろう?
数秒の沈黙のあとすぐに明知はその発言を咎められた。
「明知君、勢いで言ってしまったんだろうけど、撤回するなら早い方がいい。」
冷静に玉井が諭すように述べる。
「馬鹿じゃないの?」
「自分で何言ってるかわかる?」
「もうやめて、やめてやめて」
そんな声が一気に明知に浴びせられる。
返事をしない明知に対して、何か言ったらどうだと高梨が言うと、明知は予想外の返答をする。
「今言ったことを撤回する気はない。僕としたことが、やっと目が覚めた。やっぱりここは殺し合いの場所なんだよ。殺さなきゃ殺される、平木君のように。僕は生きたいんだ、生きなきゃダメなんだ。まだまだ人生の途中、未来の投資にって勉強してきただけの人生、君たちと違ってここで終わるわけにはいかないんだよ。だから、生きるためにその障害、殺人犯岡部を殺す。殺す。殺す。」
明知は腕に血管が浮き出るほど大きく力を込めている。
「まだ、岡部さんが犯人と決まったわけじゃないよ。」
飯島はよほど根が優しいのかいまだに岡部をかばおうとする。
「まだそんなこと言ってるのか・・・。あの状況で他に誰が平木を殺せる?女子ってのもあるし、当然寝るときは鍵だって閉めていただろう。つまり岡部以外あの扉は開けることが出来ないはずだ。岡部が平木を自分の部屋に誘導してその中で殺した。これしか考えられないでしょ。」
「でも僕たちが行った時には彼女の部屋の鍵、開いてたんだ。だから僕たちは部屋に入れた訳でしょ。・・・そうか、言ってて気が付いたけど、他の誰かが平木君を殺した後、岡部さんの部屋から脱走した可能性だってあるよね。」
明知に問い詰められる飯島をかばう形で高梨が反論する。
「やっぱり考えてみると色々おかしいよ、あの時は冷静に考えられなかったけどさ。やっぱり動機もないし、なんでこのタイミングってのも不思議だし。」
古見も続けて明知に反論する。
「・・・・まず高梨、お前はアホか。鍵は内側からでも開けられる。平木を殺してから他の奴らが部屋にくるまでに内側から鍵を開けておいて第三者介入の可能性を残すなんてことは簡単にできる。こんだけ用意周到なんだ、鍵の故障って可能性も低い。そして古見、岡部に殺す動機がないだ?じゃあ誰にはあるんだよ?平木は殺されたんだぞ。」
飯島を助けようとした2人だったが、明知に何も言い返すことが出来なくなってしまった。
誰も何も言えなくなり、沈黙が続いた。
やはり、岡部が犯人としか考えられない。もし仮に今平木の部屋にいる9人の中に真犯人がいるとすればそいつはきっと内心でほくそ笑みながら涙を流し、真人間のふりをしているのかと考えると無性に吐き気がするので考えたくない。
岡部が犯人だと決めつけた方が精神衛生上良いということも薄々全員が気付いていた。
沈黙が続く中、明知が発言した。
「僕はもう自分の部屋に帰るよ。僕の予想が正しいなら岡部は自分の部屋以外で殺し出来ないだろうし、いつまでもこうしている訳にはいかないからね。それと、殺人犯が相手だし僕一人じゃ力不足だ。協力者が欲しい。皆で今後安心して共同生活を送りたい人、今日の夜腕時計がの数字が508を過ぎた頃に僕の部屋に来てくれ。302号室。それじゃ。」
そう言い残すと明知は平木の部屋を離れた。
皆夜中の発砲音を聞いており、何者かが銃を所有していることがわかている現状、不安で誰もお互いから離れようとはしなかったが、明知が部屋を出てから時間も経ち、残った面々ももそろそろということで8人そろって部屋を出て、皆がそれぞれの自室に戻るのだった。
部屋に戻る途中で高梨は古見と飯島に声をかけ、その夜高梨の部屋で集まることとした。
この施設では、食料品やシャワールーム、トイレがすべて個室に配備されているので自室から出ることなく生活を送ることが出来る。平木の部屋から帰った面々はそれから誰も自分の部屋から出ることはなかった。
――部屋から見える空がすっかり暗くなり、高梨の部屋には古見、その後飯島がやってきた。正確な時間はわからないので古見が来てから大分時間が空いてからの飯島の到着になった。
「集まったね。いやあ、別に大した話があるわけでもないんだけどね。」
この集まりを企画した高梨がそういう。
「いや、私は嬉しかった。正直疑心暗鬼っていうか、もう何を信じたらいいかわからなくなっていたから。」
「そうだよね、僕もなんやかんや最初のこの3人が一番信用できるからさ。」
飯島の安心した発言に高梨も同調する。
一週間ほど11人で共同生活を送っていたが、結局この3人で喋っていることも多かったためか、飯島も高梨もこの3人が一番落ち着くようだ。
「で、まあ急なんだけど。誰も、明知に協力する気はないよね?」
高梨がそう聞くと2人は当然と首を縦に振った。
「そうだよね、良かった。安心したよ。もし二人が殺しに協力するような人だったら安心できないもん。人を殺すなんて人として、一番やってはいけないことだからね・・・・。」
飯島は古見がこの発言に明らかに動揺していることに気が付いた。
ひょっとして古見が、いやそんなわけはない。
「約束してほしい、この3人は絶対に誰も殺さないって。」
高梨は真剣な表情でそう続ける。
そんなの当たり前じゃないかと言う古見達だが、いいから約束をしてほしいと言いたげな鋭い眼光で2人を見つめる高梨に気圧されて、古見と飯島は絶対に人を殺さないと約束をした。その時の高梨はなんだか満足しているようだった。
そして時間が過ぎ、それじゃあ眠たくなってきたのでお先にと飯島が部屋を出ていった。
古見はずっと聞きたかった質問をついにする。
関係性を壊してしまいそうで躊躇っていた質問。
「ねえ、岡部さんを殺したの、高梨君じゃないよね?」
実際は数秒だったのだろうが、古見にとっては高梨が返事をするまでの時間がとても長く感じられた。そんな古見にとっての長い長い空白の時間の後高梨は口を開いた。
「もちろん僕じゃない。・・・僕は君たち2人だけは信用しているんだけど、君は僕のことをそんなに信用できないかな?初対面の時から思っていたよ、君は僕にだけはあまり心を許してくれないなって。何か理由でもあるの?」
質問に対して予想外の質問で返された。
「いや、ならいいんだ。疑ってごめん、もちろん信用してるよ。」
とだけ古見は答えた。
その後は少し気まずくなったので古見も自室に帰ることにした。
古見が自室に帰ると飯島がやってきた。さっき話したばっかなのに何の用だろうと思ったが、とりあえず部屋に招き入れて話を聞いた。
すると部屋にあがってきて早々、飯島は古見に直球の質問をする。
「岡部さんの件について、何か知ってるてることあるの?」
古見は何のことだかさっぱり分からず、何も知らないと真っ向否定した。
「そうだよね。ごめんね、疑ってるわけじゃなくて。たださっき高梨君が話しているとき、古見君がすっごい動揺しているみたいだったから。別に犯人だとか言うつもりはなくて、何か心当たりあるのかなって・・・。」
古見は反省した。自分はそんなに体に出やすいのかと。
それにしても信用している人から疑われるというのはこうも辛いものなのだなと、その辛さを知った古見は、明日もう一度高梨に謝罪しようかなと考えた。
――9日目が始まり、腕時計の数値が508になった頃、明知の部屋を訪れる者が一人だけいた。
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