第5話 練習してますか?勉強してますか?



 7月上旬。


 入学から3ヶ月。すみれの弁当を食べ続けて3ヶ月。そしてハードな練習メニューをこなして3ヶ月だ。

 俺の練習メニューは大変だけどその分成長している実感がありとても楽しい!監督からは「これ他の奴がやったら退部するからお前専用な」と言われた。解せぬ。


 練習メニューの例を上げると例えば監督が三塁に向かってノックをする。その間俺はすみれからノックを受ける。

 監督が別の部員交代させ三塁へとノックをする。その間俺はすみれからノックを受ける。

 監督が三塁を守れる全選手へのノックを終え、今度は外野に向かってノックを始める。その間俺はすみれからノックを受ける。

 俺の体力や集中力が切れ始めたら休憩なのだが、休憩に入るとなぜか他の全部員のノックが終わっている。他のメニューも似たような感じだ。



「武田が頑張るのを見て他の部員が触発されているから助かる!まあ武田はベンチ外だけど。」



 スタミナだけなら文句無しに突出しているんだけどなーと監督は言いながら俺は1年目夏のベンチ外が決まった。

 『お前は体力も集中力も凄い、育てるのがとても楽しい。だけど今回は時間が足りない』それが監督の評価。

 評価してもらえるのは嬉しいけどベンチにも入れなくて悔しいからもっと頑張ろう。



「勉強に付き合ってあげているのに他の事考えてない?集中力あんたのシンカー並みにバラバラなんだけど。」

「覚えたてだから仕方ねーだろ…カーブとシンカーで秋の新人戦はどこまでいけるかな。」

「今は期末テストの事考えなさいベンチ外。」



 すみれは高校に入って割とすぐに自分の事を「私」と呼ぶようになった。

 期末テストで赤点を取ると夏休みに補習が入り練習時間が潰れるので野球のためには勉強も必要だ。そこそこの点を取って夏休みは練習漬けの日々を送るんだ…!



「ああ、いっとくけど練習漬けだとあんた壊れるまでやるからメリハリつけて遊んでもらうからね?」

「え、今までそんな事してなかっただろ?」

「今までは授業が練習時間を減らすストッパーになっていたからよ。それが無い以上自制が必要よ。とりあえず夏祭りと海は確定ね。ベンチ外でヒマなんだから連れて行きなさいよ。」

「ヒマってお前…」


「来年の夏なんて遊ぶヒマ無いでしょっていってんのよ。来年は兵庫に連れて行ってくれるだけでいいわ。最低でも一週間は旅行したいわね。」

「……おう。」



 兵庫県、それは全国の高校球児が目指す甲子園のある県だ。

 来年はベンチ入りじゃなくて甲子園出場しろとのすみれなりの発破。

 一週間というのは初戦敗退してさっさと帰ってこないようにとの意味。出場だけではこの親友は物足りないようだ。





「「「やだ、あのカップル長期旅行の打ち合わせしてる。」」」





「そういや一緒に勉強する予定だった観音寺と厳島遅いな。」

「厳島じゃなくてギャル子でしょ。」

「あっ悪い。」



 観音寺はクラスメイトで野球部の長身ゴリマッチョ強打者。テスト前で部活が休みなので一緒に勉強をする予定だった。

 ギャル子はクラスのギャル。本名が厳島ナントカというゴツイ名前で可愛げが無いからギャル子って呼んでくれと自己紹介で言っていた。クラスのみんなもギャル子と呼ぶが先生だけは本名で呼ぶせいでギャップで本名が印象に残ってしまっている。

 ゴリマッチョとギャルは波長が合うのか同じように高めのテンションで一緒に居ることが多い。

 というか俺すみれ、観音寺ギャル子はセット扱いされている。



「うぃーっす!告られて相手してたら遅くなっちったメンゴメンゴ!」

「相手がしつこかったんで俺が回収してきたぜ。」



 勉強会に遅れて2人がやってきた。ギャルに絡むしつこい男もゴリマッチョ観音寺にかかれば余裕だったようだ。

 とりあえず流れを切って空気を入れ替えようと俺は明るめに親友、ギャル、ゴリマッチョに声をかける。



「よしじゃあ赤点回避のためにみんなで勉強しようぜ!」

「いや赤点回避が目標なのあんただけよ。」

「中間平均85点だったよー☆」

「俺も全教科60点以下は無かったな。赤点って30点未満だったよな?武田お前…」



 お前ら全員優等生かよ!!



「私なんて栄養学の勉強も同時進行でやっているんですけどねー学校の勉強の30点くらいなんとかしなさいよ。教えてあげるから。」



 練習といい弁当といい、なんか最近すみれに頭が上がらなくなってきた気がする。恩返しも込めて来年は兵庫に…じゃなかったまた注意される。勉強やるぞー。

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