第34話嫁、妻、ワイフ!?

 ヤエ達の話は簡単に言えばこうだった。

「私達を3人とも娶れ」

 無茶苦茶言ってくれるが、3人ともそれが共通の望みらしい……

「重婚しろってか!?」

「大丈夫! アンタはどーせ人間とは非なる存在よ」

「事実婚でもいい!」

「アナタ? まさか逃げようとか考えて無いわよね?」

「百歩譲ってヤエとヒエは良いよ? でも茉希ちゃんは人間でしょうが!」

「平気だって師匠! どうせアタシも似たようなもんだし!」

 そういやそうだった……茉希ちゃんはある意味? 歴史を捻じ曲げてるんだった。

「うーん? どうなんだろう……全員を幸せに出来る自信ないけど?」

「アナタ一人じゃね、でも私もヒエも茉希もいる、幸せにするって言って黙ってると思う?」

「アンタはそうやって抱え込むから……ねっ?」

「そうなの?」

「ヤエとヒエには分かってるんだよな? 俺がバツイチって」

「知ってる……アナタと私達の繋がり、融合された魂の記憶を見たから……」

「幸せってさ与えるばかりじゃない、与えられたって良いんじゃない?」

「どんな女だったの?」

「それは……ちょっと言えないかな、ごめん茉希ちゃん」

「幸せを受ける事が当然と思っている様な女よ」

「そして自分が1番って女、健の記憶……忘れたいだろうけどね」

 そう……今にして思えば酷い話だ、俺の元嫁は決して俺を名前では呼ばなかった、『ねぇ』とか『あのさ』とか、ヤエ達みたいに呼んではくれなかった……まっそれだけじゃ無いんだけどね! ちょっと思い出している俺の顔に翳りが見えたのか。

「アナタ、大丈夫? ごめんなさい……嫌な記憶を」

「いや……結果的に言えばさ、3人とも出逢えたんだし、ある意味感謝だね」

「アタシ呪ってあげようか?」

「お互いにもう力が無いじゃん、それにさ……もう昔の話だから」

 そう、過去より今だ……俺の大切な人はここに居るんだから。仮にだ3人と事実婚すると仮定して、ヤッパリ要るのかなぁ? 『アレ』普通の人なら一組で済むけど……俺の稼ぎじゃいつになるやら。

「あのさ3人とも本当に良いの? 俺こんな奴だよ? 誰一人も選べなくなるような」

「違うわよアナタ、アナタは私を愛してくれて……でも誰も切り捨て無かった」

「アンタの事だから私達全員を抱いた事で悩んでたんでしょう?」

「私達も悩んでた3人でどうしようって、でもね全員アナタを愛してしまった、一緒にいたいって」

「それは変わらないんだよ師匠、だから」

「アンタはそのままで良い、変に幸せにしようとか思わないで今迄通り私達を見てね」


「「「そういう訳で! これからも末永くよろしくね!!!」」」

 あれ? 俺は返事して無いぞ? 3人とも前向きすぎだけど……ちゃんと見れるかな自信ないけど……

「ありがとう3人とも……このアパート模様替えしようか?」

「どんな風に?」

「寝室を1つにする、俺の使ってる部屋を共通の部屋にしよう」

「それって……」

「俺の寝相と、いびきと、歯軋りに文句言わない?」

「知ってる! さっそく模様替えするわよ!」

「引っ越すって選択肢は無いんだね師匠?」

「このアパート気に入ってるんだよね俺」

「アタシも!」

 全員で、ああでもないこうでもないと言いながら模様替えが始まった。ヤエが風水的に良いらしい感じで家具の設置を指示し、主に俺と茉希ちゃんが運んで行く、ヒエは掃除機をかけて綺麗に掃除していた。最後に誰が俺の隣で寝るかで揉めたが……

「俺とヤエは奥な、ヒエと茉希ちゃんは新聞配達があるだろう? 踏まれたら嫌だから手前ね」

「でも……さ……その……」

「3人とも決めたんだよね?」

「うっうん!」

「アナタ……その話は今夜ゆっくりと話しましょう?」

 ヤエの妖艶な笑みに背筋が寒くなる、何でだ? 男なら嬉しい事のはずなのに、ヤエの笑みが怖い……アレ? これって逆に俺がヤバくないか? 俺を愛してくれる、うん……これは気持ちだ、でも……『アッチ』のスイッチが誰かに入ったらどうなる? しまった! 模様替えとか言い出すんじゃ無かった……猛獣の檻に放り込まれた餌じゃないかこれじゃ、どうしよう? 考えろ俺!

「やっぱ」

「うふ……逃す訳ないでしょ? 私達が……」

 俺の自分のバカさ加減に今気づいた、さっき決めた俺の寝る場所は、部屋の奥の隅……つまり……

「嵌めたな俺を?」

「「「さぁ?」」」

「声揃えて言ったんじゃ答え合わせじゃん」

「大丈夫! 無理強いはしないから!」

「アナタ……私、前にも言ったけど子供が欲しいの……」

「そんなのアタシらもだよねヒエ?」

「でも……今だけ人間の私達に子供が出来るのかしら、ヤエ?」

「分からない……でもヒエにもあるでしょう? この気持ち」

「うん……まっ良いか! 健頑張ってね!」

「アナタの為に美味しい『料理』作るからね!」

「アタシはテク……」

「茉希ちゃんはちょっと黙ろうっか」

「もう!」

 でも本当はね……ちょっと怖い……幸せなのが、今迄俺は独りだった、無くす者のも無くて空っぽの俺の心を愛情? で満たしてくれた3人……アレ? 更に不味いことを思い出す。ヤエを家族に紹介したいって、それが3人って……どうしよう? 紹介出来ないぞこれ聞いてみるか?

「あのさ……ヤエ、ヒエ、茉希ちゃん、前にヤエを家族に紹介したいって言ったんだけどさ」

「こうなっちゃったじゃん? それでねどうしようかと……」

「良いんじゃない? 私ちょっと興味あるのよねアンタの家族」

「そうなの?」

「私はアナタに任せる」

「アタシはちょっと……」

「何で?」

「アタシの心の記憶、曖昧だけど師匠の家族を……」

「アレはもう無かった事だよ、茉希ちゃんは悪く無いんだよ」

「じゃあ……アタシも挨拶するよ」

「オッケー! じゃあ今度ね皆で行くよ」

「それもあるけど……アナタ?」

「ん? どうしたのヤエ」

「結構ね、お金皆で稼いでたのよ」

「エンゲージリングとか憧れちゃった?」

「そこまで要らないわよ、もうちょい気軽なね」

「ヒエの言う通り、私達の家族の証としてね」

「茉希ちゃんの分もだよな?」

「当たり前でしょう? 何が良いかは茉希とアナタで考えておいてくれる?」

「予算は?」

「結構あるわ、大切な物を買うのにね」

 少しふさぎ込んでいる茉希ちゃんに声をかける。



「茉希ちゃん、一緒に考えてくれる?」


 


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