第26話厄介事 その2

 女神の怒りに触れた……そんなところか。急激な都市開発により、神事等を怠り開発を急いだ結果……女神の力が弱まり悪しき力を抑え込むことが出来なくなり、瘴鬼が産まれた。人の手により力を失い自ら治める土地を穢され絶望し鬼と化し、今俺の目の前にいる! この鬼の正体は……ノエ、随分と変わったなぁ。

「おい! このデカブツの正体は分かってるんだよな?」

「だから苦労してんだよ!」

「じゃあノエを今から元に戻す! その後の事は分かってるな?」

「後って何さ!」

 こいつら全員分かってないのか!? もうほっとこうかな……

「ちゃんと神事を執り行いお社を建て直す?」

「そういう事だよ! 出来なきゃ何度も鬼になるぞ女神は!」

「わっわかりました市役所の担当者に……」

「それじゃ遅い! やべっ!」

 鬼が俺を狙い始めた、まぁ良い! 逃げ脚には自信がある。鬼の攻撃は全て躱して社に近づくと、後から気配を感じて伏せると車が飛んできて社を破壊された。

「あっぶな!! おいおいおい! 自分の社を粉々にするかよ!」

「もうノエ様は……」

「お前等も諦めてんじゃねぇよ!! めんどくせぇなぁ! もうちょっと気合い出せ!!」

「そう言われても……」

「それでも腕を下げるな! やれる事をやれよ! 人間の被害者が増えるぞ!」

「取り敢えず湧いてくる瘴鬼共を駆逐してくれ! ノエは俺が何とかするから!」

「りょ了解だ! 皆行くぞ!」

 俺は霊脈と地脈の交わる場所が社だと思っていたが少し離れているな……鬼のいや……ノエの攻撃を避けながら場所を探るが、不味い寄りによって帰宅ラッシュのバイパスのインターチェンジど真ん中だ! 躊躇しているとノエが向かって来るどうする? 戻るか? このままこの霊脈と地脈が文字通り交差するインターチェンジに飛び出して神気を叩き込むか? 幸い渋滞中だ目的地までは一気に駆け抜けられる、ノエが道路に入って来れないよう神気で結界を張ると、そのままインターチェンジの真ん中迄走り続け辿り着くが。ノエが飛び上がり空中から飛び掛かってくる。

「マジかよ!」

 左手を掲げて結界を張るが、防ぐ事はできてもこのままじゃ神気を叩き込むことができない! 何より野次馬が車から顔を出し始める。クソ!

「許せよノエ様よ!」

 左腕を結晶化させて腕を大砲型に変化させると、結界ごとノエを上空に打ち上げた! 野次馬共が上空を見上げているスキに、左腕に神気を集中させた上で結晶化させて地面に叩き付ける。その直後、強大な地響きが鳴り響き大地が揺れ直下型地震並みの衝撃が辺りを襲う。周囲は大パニックだった。

 そんな中俺は地脈の流れと霊脈の流れを確認していた、良し! 地脈を穢していた『ナニ』かは消滅した、霊脈にも力が流れていくのが分かる。この地震はその反動だろう、上空に打ち上げたノエを左腕から伸ばした神気で掴むと社跡に向かった。辺りは今だに大混乱だったが社跡には6人組がグッタリとしていた。

「ほらよ女神様だぞ」

 上空からノエをユックリと降ろすと6人の前に差し出した。

「何があったかはノエに聞きな、俺は帰る」

「ちょっとまってくれ! あんたは一体」

「通りすがりのオッサンだよ」

「ですが……その力はまるで……それにその……」

「いいか? お前等がしっかりとしないとノエがまた鬼になるぞ、ちゃんと神事を社をな!」

「はい! それはもう直ぐに!」

「ならばよーし! じゃぁな!」

 

 カッコつけて去ってはみたが身体はガタガタだった、歳かねぇ……アレ? 目の前がチカチカして来る、ヤバいか……久しぶりに神気を使ったからか? 息が荒くなり動悸が激しくなる、不味いなぁ……大女神様んとこいって修行しなおすか。重くなった身体をどうにか引きずり駅に着くと大混雑だった、そう言えば地震を起こしたんだっけ、スマホを取り出してヤエに連絡を入れようとするが通信障害で圏外だ。21時か……絶対に心配してるだろうな、駅の構内は人混みでごった返しどうするよ……帰るって約束したしな……タクシー乗り場迄人が並んでいる、いやタクシーは使わないけどね。暫くすると運行再開のアナウンスが案内され安堵した瞬間、俺は意識を失った……




 暗い意識の底で大女神様は待っていた。

「ありがとうございます八神さん、やり方はアレでしたが……」

「アレって……無茶言わないで下さいよ……」

「それでも貴方のお陰です、既にノエは意識を取り戻しました……ほら出て来なさいノエ」

 ポワッと小さな光が集まると、初めて合った時よりも背が伸びて居るようだった。

「ありがとう……おじさん」

「あ〜良いよ別に、それよりも痛くなかったか?」

「ちょっと痛かった……けど……本当にありがとう」

「あと女神何だから俺より歳上だよな? だからおじさんじゃなくて、八神健な覚えといて」

「うん……わかった、もうこんな事が起きないよう頑張る」

「なら良かったね、土地管理上手くやりなよ? 暴れちゃ駄目だよ……じゃないと……」

「大丈夫ですよ、八神さんノエも今回の件で成長するでしょう」

「ならいいや、頑張ってなノエ様……俺もう疲れたみたいで……帰らなきゃ……ヤ……え……」


△ △ △


 健が居ない夕飯を3人で食べ終えると、大きな地揺れがアパートを揺らした。

「おっと! このアパート大丈夫かな?」

「いっそ潰れてくれれば引っ越せるのにね〜」

「二人共何言ってるのよ! 茉希テレビつけて!」

 テレビには緊急地震速報が流れていた、震源地は中央区!? 震度6!?

「結構でかいね……あっ……ちょっとヤエ!」

 心配になり健のスマホに電話するが何度かけても出ない、それどころか電話自体が繋がらなくなった。寒気が血の気が引いて行く……アパートを飛び出そうとすると、ヒエと茉希に止められた。

「ちょっと落ち着きなよヤエ!! もし健に何かあれば私達は神の座に戻るでしょう!」

「そうだよ師匠なら大丈夫だよ! だってさ……アタシ達はここに居るんだから! きっと帰って来るよ!」

「でもっでもっ!」

「どっちみちアタシ達はどうやっても今、新潟には行けない……電車も止まってるはずだし、ほら」

 テレビを見ると電車が運休、道路は渋滞これじゃ……ヒエがそっと寄り添ってくれる。

「大丈夫! 健の無事を信じましょ! ほら麦茶飲んで落ち着いて……」

「ありがとうヒエ……ごめんね取り乱して……手を握ってくれる? 不安なの……」

 何も言わずヒエが手を握り頭を撫でてくれる。

「でも不安を煽る訳じゃないけど、今日中はちょっと厳しいかもね」

「そうね……」

 茉希がテレビのチャンネルを変えていく、どこのチャンネルも地震速報ニュースだ。幸いな事に倒壊等は起きておらず、間もなく電車も動く事が駅前から中継されていた。映像を見ると凄い人混みだ、バス停にタクシー乗り場そして駅と映像が切り替わっていくと、アナウンサーがインタビューをしている画面が一瞬映ったが。

「茉希! チャンネルを戻して!」

「へっ? おっおう!」

 チャンネルを戻すと、さえない顔をした私達が愛する男が呑気にインタビューに答えていた。目から安堵の涙が溢れるヒエもだった……茉希は、ほらねってドヤ顔をしている。

「今日は帰れないかもですね……家族には申し訳ないです、俺は元気だよ〜!」

 テレビから健の声がして来た、うん……無事ならそれで良い……ちゃんと帰って来てくれれば……


△ △ △


 さてとテレビで上手く伝わってればいいけど……スマホは相変わらず圏外だし、どこか安いホテルかネットカフェを探すか……


 こうして夜の街を宿を求め彷徨う事になったのだった。



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