第24話閑話 ある休日のお話

 トチを拾って来て1ヶ月が過ぎた、ヒエがちゃんと毎日躾けたようで、トイレに爪研ぎの失敗は無くなっていた。そんな日々がゆっくりと過ぎていったある日の休み。

「もうお昼か……あれ?」

「どうかした健?」

「作り置きが無いな……ヒエ今日のお昼どうする?」

「う~ん……カップラーメン?」

「見つかるとヤエがうるさいよ?」

「だよね〜トチ?」

「にゃう〜」

「しょうがない買ってくるか……そうだな……ちょっとヤエの様子見がてら行かないか?」

「良いかもね! トチも連れてって良い?」

「店には入れないぞ?」

「トチをお外に連れて行くだけだから!」

「しょうがないなぁ……じゃ行こうか」

 トチを抱っこしてヒエがついて来る道すがら。

「なぁ? ヤエの様子を見に行くのって初めてだよな?」

「そうね、ヤエってば、恥ずかしがって来ないで! って言うのよ」

「なるべく他人のフリして入るか」

「その方が良いかもね、私は顔が割れてるから外でトチと遊んでるね」

 程なくして惣菜屋キッチンサイトウに着いた、中を覗くとヤエがキッチンで何か料理中だ昼時という事もあり混んでいるな……

「ヒエ、何か食べたいリクエストあるか?」

「そうね……任せる!」

「そう言うのが1番困るんだよ……文句言うなよ?」

「わかってるよ、ね! トチ!」

「じゃ行ってくる!」


 店内に入ると若い女の子が接客中だった、さて、ガッシャーン! ヤエだよな……音の方を見るとヤエが謝っていた、どうしてって顔してるけどね……女の子にオススメを聞いてみる。

「いらっしゃいませ!」

「今日のオススメ何かあるかな?」

「酢豚と筑前煮になります! あっそちらのコーナー特にオススメです!」

「賞味期限が近いの?」

「ちっがいますよ! 当店の店員が日替わりで作ったオススメです!」

 ノリのいい子だなぁ……どれどれ親子丼の上に乗せるやつか……これで良いかな、米さえ炊けば楽だしな。ヤエの挙動不審さが面白い、きっとテンパってるんだろうな、あんまり長居するのも悪いので。

「じゃあこの親子丼の上に乗せるやつ下さい二人分で」

「ありがとうございます!」

 店を出ようとするとキッチンから不意に声をかけられる。

「八神健さんだよね?」

 ヤエじゃない、振り返って顔を見ると誰だ? 俺より年上のオバちゃんだった、ヤエが何故か驚いているが……

「どちら様で?」

「昔と言っても八神さん覚えていないかね……ほらスーパーミヤモトで働いていたでしょ!」

 そんな昔か……もう忘れていたのに。でもこの人に関する記憶が無い、本当に誰だ?

「まぁ働いていましたけど……」

「歳は取ったけど、相変わらず整った顔してるから直ぐに分かったよ」

「小野寺茂子よ! 惣菜部にいた!」

「シゲコさん? ……あっ! 良く豚汁作ってくれた?」

「そうよ! 久しぶりね!」

「ですね」

「ん! って言う事はヤエちゃんと住んで居る同居人って八神さんかい!?」

「茂子さん! 仕事中です!」

 おやおや、ヤエが呼んだのか店長さんらしき人が現れましたね。昔の事は思い出したくも無いので、さっさと退散しようとする事にすると若い女の子が出ていく俺に。

「ありがとうございました! また来てくださいね!」

「気が向いたらね」

 店を出るとヒエがトチと遊んでいたので

「お待たせヒエ、昼は親子丼だ!」

「良いじゃない! ヤエはどうだった?」

「なんかテンパってたな、ヤエには帰って来たら謝らないとな」

「まっ私も一緒に謝ってあげるね」

「ありがとうヒエ」

 流石に昼過ぎだ暑い……さっさと帰って昼にしよう。アパートに着くと部屋が涼しい、米を研ぎ準備をするとヒエがトチをブラッシングしていた。

「毎日良くブラッシングしてるなヒエ」

「だって抜け毛とか気になるでしょ? 私は掃除担当よ、こうしてブラッシングしてあげればね」

 確かに……トチは気持ち良さそうだし部屋も綺麗だし、ヒエって意外と良いお嫁さんになるんじゃないか?

「ねぇヒエってさ本当は料理とか出来るんじゃないの?」

「なんで?」

「だってさ掃除洗濯何でもしてくれるじゃん、なのに料理だけヤエってのはさ」

「それに昔言ってたよな? 何でも出来るって」

「覚えていたのね、確かに料理もやろうと思えば出来るわよ……ただね」

「ヤエがさ……どうしても健には自分の手料理を食べてもらいたいって、それでね」

「そうだったのか……じゃ今のは聞かなかったことにするよ」

 ご飯が炊けたようなので親子丼にして二人で食べる。

「やっぱり美味しいなあの店の料理」

「ヤエの料理の腕が上がってるのが理解できたようね?」

「うん、良い人達に巡り会えたようでなりより!」

 食後の後片付けをヒエが終わらせると。

「どうする? 周回する? 島作る?」

「う~ん……レトロゲーム機買ったよねこの前?」

「あ〜アレね! 忘れてた! やってみようか?」

 押入れの中からレトロゲーム機の入っているダンボールを取り出すと。

「これどれ位人間界で昔のゲーム機なの?」

「25年位前かなぁ……俺が若造の頃だな」

「何のゲームを買ったの?」

「ちょうどその頃流行っていた格ゲーだよ、懐かしいなぁ……あの頃は……まっ良いか」

 ゲーム機をテレビに繋いで電源を入れると懐かしい起動画面が表示される。

「ヒエやってみるか?」

「先ずやって見せてよ」

「オッケー見てなさい! オッサンゲーマー舐めんなよ!」

 やってみたが思った以上に技が出せない、こんなに難しかったっけ? 四苦八苦しながらゲームを一通り終わらせると、ヒエが対戦を申し込んで来た。

「操作できるのか?」

「大丈夫よ、スマホで作品名で調べたから! アンタが負けたら今日の後片付けヨロシク! 行くわよ健!」


 ……数時間後

「何で!!」

「あっはっは! 私に勝とうなんて10年早いのよ! どうする? まだやる?」

「もうやめる……暫らく修行させて……」

「じゃ今日の後片付け宜しくね〜! トチ! 一緒に遊ぼ!」

「ふみゅ?」

 ヒエに何度か勝つ事は出来たが、連敗しまくって流石に凹んだが……これはこれで楽しかったが! 次こそ見てろよ! 1人プレイではなぁ……ってもう夕方か!

「たっだいま~!」

「おかえり茉希ちゃん」

「おかえり〜」

「今日はヒエと何してたの師匠?」

「ヤエの働くお店を見に行って、ゲームしてただけだよ?」

「ふーん? 本当にヒエ?」

「そうよ? 格ゲーでボッコボコにしてやった位かな」

「あっは! 師匠ゲーム弱いの?」

「ぐっ……ベッ別に悔しくないし!」

「アタシとやろうよ! ねっ! 教えてよゲーム」

「よし! 俺の格ゲーリハビリに付き合って!」

「オッケー!」

 二人でテレビの前で並んで用意していると

「ただいま!」

「「「おかえり!」」」

 ヤエも仕事を終えて帰ってきたが……

「健!! 後で話があるからね! シゲコさんから聞いた事も確認したいし!」

「ヤダよ! お店に行ったのはヤエの働く顔が見たかったからだよ!」

「っ!?」

「一生懸命に頑張って働くヤエはカッコ良かったよ、いつもお疲れ様!!」

「あっ……うん……夕飯の準備するわね」

 別の部屋からヒエの声が聞こえてくる

「美味しいのお願いね〜」

「わかったわよ! もうっ! 健、今度のお休み私に付き合ってよね!」

「了解しました」

「ちょっとアタシは!?」

「茉希ちゃんとはこの間デートしたじゃない」

「帰りが一緒の電車待ちで入った、スタバでコーヒー飲んだのがデート!?」

「まぁまぁ茉希こっちで3人でトチと遊びましょ」

「遊ぼう茉希ちゃん?」

「うーん納得いかないけど……今度ちゃんとデートしてよね師匠!」

「考えておくから」


 こうして休日は過ぎていく……また明日から仕事だ!




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