507.零層にみんなが揃った。お帰りなさい。ここが貴方の最後の頁です。


 僕とリーパーが、最後の約束を交わす。

 一方で、100層の中心部にて、すでに『第零の試練』は始まっている。


 過去の『試練』と同じく、表面上は決闘の形式に近い。


 僕が召喚した十人とノイ・エル・リーベルールが、互いの力を比べ合っていく――のだが、少し目を離した隙に、ノイは更なる変身を遂げていた。


 依然として、彼女は這いつくばったまま。だが、大量の『魔獣の腕』を背中から生やして、触手のようにどこまでも伸ばしていた。


 かつて『元の世界』でセルドラと戦った僕と同じく、禍々しい軟体の海洋生物の姿だ。ただ、僕の海の底に沈んでいく紫の海月クラゲのような姿と違い、ノイは次元の深海を揺蕩う黒の菟葵イソギンチャクに近かった。


 100層は白虹の魔力と黒紫の暗雲が混ざり合い、いまや距離や方角といった色々な概念が歪んでいる状態だ。

 ただ、『理を盗むもの』たちは歴戦も歴戦。

 その上で、次元魔法使いとの交戦経験は豊富。

 たとえ魔法や戦いが苦手な者であっても、得意な『理を盗むもの』とコンビを組むことで、《ディフォルト》の壁を突破して術者ノイに向かって行けた。


 ――その『第零の試練』は伝説的を超えて、神話的となる。


 そして、抽象的でもあった。

 みんなの属性魔法によって、宗教画や戦争画を見るかのように壮大となる。

 ノイの次元歪曲によって、多視点的絵画キュビズム魔法現実的絵画マジックリアリズムを見るかのように人知を超える。

 美術館で神話の戦いを彩った絵画を見て回るかのような錯覚の中で――漏れなく大英雄の十人が、一斉に動き出して――その全てを、ノイは無数の『魔獣の腕』で見事に対処していく。


 ノイの思考速度と反応速度は神懸かっている。

 単純に速いだけでなく、彼女は十人全員の動きを読み切っていた。

 みんなの『剣術』や『体術』が発揮される前に、『魔獣の腕』で全ての初動を押さえ込む。みんなの属性魔法が発揮される前には、《ブラックシフト・オーバーライト》の暗雲が発動そのものを覆い隠そうと襲い掛かる。


 明らかにスキル『並列思考』や『分割思考』がないと、出来ない芸当だった。

 だが、そんなスキルをノイは持っていないと、僕は同じだから分かっている。


 彼女は生まれながら、器用な真似マルチタスクとは正反対の性質をしている。

 だというのに、彼女が『理を盗むもの』十人を同時に把握して、その攻撃を捌き切れているのはひとえに――経験ゆえ・・・・


 僕が最初に連想したのは、千年生き続けた『吸血種』クウネルの処世術。

 彼女もスキルはなくとも、長い年月で培った経験だけで生まれ持った違いスキルに匹敵する力を発揮していた。

 それは過去の始祖カナミぼくの『表示』でも計れない『数値に表れない数値』の一つ――


 ノイは自分に向いていなくても、何千年も頑張ってきた。

 たとえ苦手だろうが、何千年も我慢して、その苦手に耐えてきた。

 その長く苦しい経験分だけ、出来ないことでも出来るようになった。


 ――いや、出来ないといけなかった人生だったから、出来る・・・

 その酷くシンプルで悲しい強さを、悲鳴のように情けなくも、彼女は主張していく。


「あ、集まればっ、ボクに勝てるとでも思ったなら、それは間違いだ! そんな簡単に上回れるほど、ボクが弱いわけないだろう!? ボ、ボクは万を超える年月を生きた! 億を超える人生を見守った! 永遠とも思える時間も忍んだ! そのボクに、たった一度の人生で弱音を吐く君らが届くものか! いかに君らが千年の集大成だろうと、足りない! たとえ千年に一人の王だろうとも、ボクの方が為政者として優秀だ! 千年に一人の剣聖だろうとも、ボクのほうが剣士として優秀だ! 千年に一人の魔法使いだろうとも、それは同じ! 全てにおいて、ボクが上回る!!」


 長い経験ゆえに、全ての才能を圧倒できる。

 そう苦しそうに吐き出しながら、一部の暗雲の形状を変えた。


 いま口にした通り、『理を盗むもの』の全てを上回るべく、剣や籠手や旗。

 みんなが得意とする獲物や魔法を、それぞれの『魔獣の腕』に持たせて、あえて真正面から打ち破ろうとした。


 そのノイの力は、本当に凄まじかった。

 言葉も含めて、本当に底知れない。

 ただ、それでも……。それでも、まだノイは暗雲の奥深くで、立ててすらいない・・・・・・・・


 動けば動くほど、涙を流すように《ブラックシフト・オーバーライト》を撒き散らしていく。

 反則的な強さを示せば示すほど、ノイの弱々しさと疲れは際立っていく。


 いままでの『理を盗むもの』と同じだ。

 言外に「限界だから、助けて」と叫んでいるようにしか見えないまま、彼女は叫び続ける。


「見ろ! ボクのほうが上だ! 君たちに、カナミ君は守れない! ボクに守れないものを、君たちが守れるわけがない!!」


 そして、ノイは追い詰められるように、狙いを変えた。


 相川渦波ぼくだ。


 戦っている十人は『想起収束』で召喚された存在。

 たとえ倒しても、また召喚され直される可能性がある以上、術者を絶つ必要がある。必然的に、『魔獣の腕』のいくつかが僕に向かって伸びて、襲いかかってくる。


 その『魔獣の腕』の手には、僕の《ブラックシフト・オーバーライト》を固めて作った全てを『なかったこと』にする黒紫の剣が握られていた。

 これに斬られれば、僕は今日という日を『上書き』されるだろう。


 その未来を避けるべく、一番後方にいた『火の理を盗むもの』アルティが、僕を守ろうと駆けつけようとしてくれる。

 彼女は周囲の黒紫の暗雲と『魔獣の腕』の相手で精一杯だったが、それでも「必ず助ける」と、限界を超えた火炎を絞り出そうとしていた。


 ――だから、すぐに僕は「大丈夫・・・」と笑いかけた。


 それを見たアルティの表情は緩み、ため息が漏れて、動きが鈍る。


 いままでの僕の「大丈夫」と違って、心から信じて貰えた。それが本当に嬉しかった。

 だから、アルティの火炎は、僕の助けに間に合わない。

 しかし、大丈夫――



「――魔法《フレイム・フランベルジュ》」



 代わりに、もう一人の火炎が間に合う。


 それは「波打つ剣フランベルジュ」という魔法名でありながら、壁のような火炎を迸らせた。

 その熱く鋭く早く巨大な火炎の剣は、勢いよく目の前を通り過ぎる。

 僕を守るように、迫り来る『魔獣の腕』と黒紫の剣たちを払い除けていった。


 そして、目の前に、一人の少女が立つ。

 よく見知った背中と熱だった。

 肩の上で切り揃えた黒髪に纏う焔から、『本物の糸』も強く感じられる。


 だから僕も、アルティと同じように顔を緩ませた。

 安堵の溜息と共に、その名前を呼んでいく。


「『マリア・・・』、ありがとう。リーパーも繋げてくれて、ありがとう……」


 感謝した。

 いま、いつかの夜にラスティアラが言った「仲間との絆」に、心からのお礼を言いたい。


 そのお礼を聞いて、僕の隣のリーパーも心からの笑みを見せる。


「いひひっ! もう大丈夫だよ、アルティお姉ちゃん! いま天上の隙間に、アタシの魔力が通ったから! ということで、――複合魔法《コネクション・ダークスワンプ》!」


 『地上』から『地下』まで「仲間との絆」を繋げた魔法は《コネクション》の応用で、リーパーのオリジナルのようだ。

 彼女の足下の影が沼のように広がって、その奥が別の場所と繋がっている。


 少々未完成ながらも、あの紫の扉と同じ効果を発揮していた。

 やはり彼女は、僕の次元魔法の真似が上手い。闇属性によるアレンジもだ。


 はっきり言って、そのセンスは最初から僕に匹敵――いや、闇属性のアレンジにおいては、僕やノイさえも超えて天才的だ。


 その天才が僕やノイに出来たことが、出来ないはずがない。

 そう僕はリーパーの魔法センスを受け入れられたが、ノイは違ったようだ。


「あ、ありえない……! ありえない!! 『最深部』と繋げて……、喚んだ? だ、だだだだとしてもっ! カナミ君のことを彼女は『忘却』してるはず! な、なんで、見ず知らずの誰かを、守る……!?」


 受け入れられないのは、マリアの行動もらしい。


 そして、二度も名前を呼ばれたことで、ついに目の前の黒髪の少女は振り向く。

 先ほどまで喋っていたアルティにそっくりな可愛らしい顔を僕に向けて、彼女は呟く。


「なぜ、守る……? それは……――」


 呟きながら、ジィッと僕を見つめる。


 その先の言葉は出てこない。

 僕の名前を呼ぼうとして、頭の中から出てこないのだろう。『忘却』の力によって、大切な名前を失っていると強く実感して、マリアは――


「……ふふっ。それでも、です。……安心してください。必ず助けますから」


 僕に笑いかけた。

 覚悟を決めた表情も見せて、前を向いた。


 そのマリアの背中から伝わってくるのは、燃えたぎるような心の熱気。

 確かに、相手ぼくの名前は分からない。『カナミ』という三文字すら、口から出てこない。……だから、どうした? そんなことは、大して問題ではない。それで止まるならば、炎は炎と言えない――

 

 と言わんばかりのマリアの隣に、先ほど助けに向かってくれていたアルティが丁度辿り着いて、その強い親友を自慢していく。


「《ああ、そういうことだ、元『世界の主』ノイ・エル・リーベルール。……『忘却』してるから、助けることができない? 名前が呼べないから、愛せない? あぁ、なんて詰めの甘い話だ。どうして、それくらいのことで安心したのか、私は不思議でならない。――この私たちマリアが忘れたくらいで、本当に忘れるわけないだろう?》」


 笑うアルティは心底嬉しそうだった。

 それと本当に無茶苦茶な挑発を言っていると思う。


 当然、ノイは全く共感できず、呆然としつつ困惑していた。

 対して、僕には深く共感できて、何度も頷ける。


 かつて、同じような『忘却こと』があった。


 マリアは一度パリンクロンやリーパーの洗脳を受けながら、それでも自分の願いを間違えなかった。僕だって、同じように陽滝から何度か記憶を消されたことがあった。

 経験者として言わせて貰えば、記憶喪失というのは――、慣れなくもない・・・・・・・


 むしろ『忘却』を繰り返し続けていく内、逆に整然とした記憶の中ではっきりとしていくものもあった――!


 その奇縁の人生を、マリアとアルティが『詠唱』を紡ぐように、高らかに謳ってくれる。


「《ああ。むしろ『忘却』で忘れたからこそ、本当に忘れてはいけないものが分かったんだ――》」

「たとえ記憶を失ったとしても、魂が覚えています。全身全霊を懸けて、守りたい大切な魂の感触を、はっきりと――」

「《だから本当に……、私と一緒だな。ありがとう、『マリア』の決心のおかげで、私は私が『忘却』した私を思い出せた。『理を盗むもの』になって、本当に良かった――》」

「お礼は私のほうですよ、アルティ。あなたが『理を盗むもの』になってくれて、本当に良かった……。おかげで、最後は一緒に――」


 アルティがお礼を言いながら近づいていく。

 マリアも鏡のように、同じ歩幅で近づいていく。


 互いが互いの頬に両手を伸ばして、詠んでいく。


「「《――守れる。私は私と一緒に、大切な人を必ず守り抜ける》」」


 触れあう瞬間、互いの纏う炎が混ざり合った。

 火炎魔法が共鳴していくだけではない。


 ――『親和』だ。


 二年前、あの焼けた家の前で、マリアが『火の理を盗むもの』の魔石を受け継いだときと同じ光景だ。

 ただ、全く同じというわけではない。

 以前よりも炎は大きく燃え盛っていた。


 以前よりも深く、心は繋がっている。

 互いの魂を、さらなる次元へと昇華していける。


「――――っ!!」


 そんなことはさせないと、ノイも。僕と同じ感想を抱いたからこそ、僕ごとマリアたちも押し潰す勢いで、《ブラックシフト・オーバーライト》を集めて襲わせようとする。だが――



「――魔法《アレイスワインズ・・・・・・・・》」



 背中から、風が吹く。

 ティティーの白翠の風と違って、それは透き通るような輝きで彩られた風だった。


 僕にとっては追い風――だが、それが『逆風の魔法》であると、すでに僕は視て知っている。


 そして、それが誰の魔法であるかも理解しているから、本当に安心して、背中からの気持ちいい風を全身で感じた。

 いま話した間に、魔法《コネクション・ダークスワンプ》から這い出て、マリアの隣に立ったのは――


「マリア! カナミを救うなら俺も一緒だ! その為の剣を、俺は爺さんから受け継いで来たんだ……!!」


 隻腕隻脚を『魔力四肢化』で補った金髪の少女。


 お馴染みの探索者服を纏ったディアが、魔法の義手を剣に変えていた。

 それを鍛錬し抜いた騎士のように美しく、鋭く一閃してから、地上で元『剣聖』フェンリル・アレイスから受け継いだ魔法に、魔力を注ぎ込みながら叫ぶ。


「アレイスの剣は、決して後ろに敵を通さない! ああっ、カナミは俺たちで必ず守るんだ!! ――魔法《アレイスワインズ・守護風イージス》! この不気味で危ないモヤモヤを全部、押し戻せぇえっ!!」


 その魔力の剣はどこまでも伸びて、地平線まで斬った。

 同時に、ノイに向かって『逆風』も吹き抜ける。


 新たな空気の流れによって、少しずつだが黒紫の暗雲が遠ざかっていく。


 その様子を、前方で同じく暗雲を水晶の剣で斬っていたローウェンが振り向いて、驚きながら見ていた。

 自分以上の『魔力物質化』を操る少女が、「アレイス」の名を冠した魔法を使っているのだ。当然だろう。


 ただ、ディアはローウェンの視線に応えることはない。

 仕方ないことだが、もっと関わりの深い守護者ガーディアンだったアルティに視線を向けて、《アレイスワインズ》を維持しながら提案していく。


「――って、ほ、本当にっ! アルティ師匠がいる!? おい、リーパー! 100層で『火の理を盗むもの』と一緒なら、マリアの記憶は戻るんだよな!? いまがチャンスだろ!? 早く頼む!!」

「うん! その為の準備はしてる! 条件も揃ったから、あとはアタシが預かった『世界』の魔力を――」


 地上でどのような戦いと会話があったのかは知らない。だが、二人の慌てた会話から、少しだけ察することが出来た。


 ずっと中立と嘯いていたリーパーが、マリアの『忘却』を解決する手段を持っているらしい。

 いまの僕の体力では、『忘却』を『想起』に『反転』させるのは難しいので助かる――と思ったが、そのディアと僕とリーパーの望みに、制止がかかる。


 全身を炎に変えて、人型のモンスターフレイムエレメントと化して、マリアの頭を抱えるように憑いた『火の理を盗むもの』アルティだった。


「《いや、それは少し待って欲しい、『死神』ちゃん。このままでも、私たちは大丈夫だ。――いや、このままが、私たちはいい・・んだ。あえて、見せてやりたい。『マリアわたし』たちは『忘却』のおかげで、むしろ想いは強まったことを。つまり――》」


 そのアルティの下で、ゆっくりとマリアが瞼を持ち上げる。


 失ったはずの眼孔に、『火の理を盗むもの』の炎で燃え盛る『炯眼』が輝いていた。

 マリアはアルティと心を合わせて、言葉の続きも読み合わせる。


「「《この瞳も、炎も……! いつか大切な人を助けられる『祝福』だったことを!!》」」


 綺麗に重なった声と魂。

 ディアが守ってくれている間に、どこまでも二人は『親和』し直していく。


 その光景にノイは苛立っていた。

 攻撃の邪魔をした《アレイスワインズ》に悪態をつきながら、すぐに次の手を打つ。


「こ、こんな風の壁……! 風と暗雲の相性が悪いならば、物理的に腕を伸ばせばいいだけ! その薄っぺらい風を貫いて、その中から『上書きオーバーライト』を広げる!!」


 その為ならば、いかに『モンスター化』が進んでも構わない。

 ノイは苛立ちのままに、さらに『魔獣の腕』を増やしていく。


 次は暗雲だけでなく『魔獣の腕』も、ディアに襲いかかる。間違いなく、それは『逆風』の魔法だけで跳ね返せるものではない。


 ディアの苦手とする接近戦は避けられない。

 だが、決してディアは《アレイスワインズ》を解かない。


 『逆風』と共に、出会った頃には想像できない『剣聖』に見紛う動きで、その魔力の剣を振るっていく。しかし、当たり前だが、全てを払うのは不可能。


 先んじて届いた『魔獣の腕』を一時的に防げても、その奥から続くものまで斬り払うことはできない。

 このままでは、いつか必ず無数の『魔獣の腕』に押しつぶされるのだが――


 先ほどの僕と同じように、ディアも安心していた。

 彼女も僕と同じように、仲間を頼ると決めていたからだ。

 その心のままに、頼りになる最後のパーティーメンバーの名を――


「ここだっ!! 方角は、これで分かったはずだ!! こっちだあああああアアアア、スノォオオオオオウッッ――!!」


 全力で叫んで、応援を頼んだ。

 すると、ずっと震えていた天上に、一際大きな衝撃が奔った。


 ――ついに、割れる。


 天窓を突き破ったかのように、100層の空間の壁が砕け散った。

 同時に、閉じた部屋を開け放ったかのように、奥から陽の光が射し込んだ。


 砕け散った空間の破片は硝子のように、星屑のような煌めきを100層に降らせる。

 そして、そのキラキラと輝く空を切り裂くように、落ちてくる巨大な蒼き『流星』。


 竜人ドラゴニュートの跳び蹴りではない。

 人の百倍はある体積のドラゴンが天上を体当たりで壊して、この100層まで侵入して来ていた。


 そのドラゴンは僕たちの戦場に向かって一直線。

 『流星』となって、落ちて、飛翔く。

 着弾先は、名前を叫んだディアの前。

 先ほどアルティを守ったセルドラにそっくりな『竜の咆哮』と共に、その大きな体積で無数の『魔獣の腕』を押し潰して――


「ッガァアアァアアアアアアアァアアアア゛アアァアア゛アア゛ア゛ッッ――――!!!!」


 墜落すると共に、100層全体が揺れた。


 隕石が落ちたかのように、浅瀬全ての水を吹き飛ばす水飛沫が、彼女を中心に爆発した。

 その大地震と大瀑布を起こした巨大な蒼きドラゴンに向かって、ノイは慌てた声を出す。


「ド、ドドドドドドラゴン!? なんで、モンスターが、ここまで――」


 もちろん、僕たちは彼女がモンスターではないと知っている。


 彼女の規格外の水飛沫によって、100層に一瞬の激しい通り雨が降る。

 そして、その雨が上がり切ったとき、いま落ちてきた蒼の少女の姿と名前が、はっきりと分かる。


 彼女は『全身竜化』をコントロールして、既にあっさりと『人』に戻っていた。

 暢気にも、竜の爪先に引っかけて持ち込んだ自分の服を、雨が降っていた間に早着替はやきがえする余裕まであった。


 いつもの民族衣装を纏った竜人の少女の名は、スノウ・ウォーカー。

 彼女がグルグルと腕を振り回しながら、自らの敵を探して周囲を見回していく。


 一眠りした彼女は、完全回復していた。

 いや、セルドラとの戦いに負けたおかげで、あの魔法《竜殺しの竜刃ドラゴンジェノサイズ・アーダー》を食らい、さらに強く成長していた。

 体内に《血脈希釈チェンジロック》を宿し続けることで、『完全竜化』を完璧に支配している。


 ――つまり、スノウ・ウォーカーは負けても、決して諦めずに必ず立ち上がり、その度に強くなっていき続ける。どこまでもどこまでも。


 その竜人ドラゴニュートとしての真価のまま、彼女は次の強敵を探して、途中で僕と目が合った。

 すぐに僕は「よかった」と微笑みかけたが、その表情を見たスノウは不満げに叫ぶ。


「ま、間に合った! けど、間に合ってないぃ!? ちょっと寝てた間にカナミが、なんか浄化されてない!? 私ナシで!」


 遅れて現れたことを理解して、スノウは悔しげな表情を作った。


 その平和的な反応に、僕は苦笑いを浮かべてしまう。

 それは僕だけじゃなく、リーパーもだった。


「いひひー! 確かに、間に合ってないねー! でも、そのおかげで体力マンタンなスノウお姉ちゃん! あの人をゆっくりと話し合えるくらいまで、懲らしめよう!? アタシと一緒にさ! ――魔法《シフト・闇憑きミミック》!」


 天上が開いたのを確認したリーパーは、《コネクション・ダークスワンプ》を放置して、別の次元魔法で移動する。

 そして、スノウの背中から抱きついて、すぐさま別の魔法を唱えた。


 それは対象にとり憑いて、その『死神』の力を与える魔法。


 民族衣装の上に闇の衣を着たスノウは、指差された方角に目を向けた。

 その先で、死したはずの『理を盗むもの』たちとノイが戦う壮絶な光景を見て、僅かに困惑顔を見せつつ――


「…………っ!! リーパーがお願いするなら……! というよりっ、あのラグネ・カイクヲラ? は、みんなで押さえ込まないとやばいって、流石の私でも分かる!!」


 しかし、すぐに仲間を信頼して、詳しい話は聞かずともノイに向かってクラウチングスタートの体勢を取った。


 遅れたからこそ、ここから先は迅速に、迷いなく――その誰が見ても突貫する直前のスノウに、パーティーメンバーのマリアとディアも各々の魔法を上乗せしていく。


「スノウさん! 私たちの炎も纏って!!」

「スノウ! 俺たちの風も纏え!!」


 二人の炎と風が衣のように、スノウの強靱な竜人の身体に纏わり付いた。

 さらに、闇の衣から溢れ出す魔力が、彼女の両脚と翼を黒く染め上げる。


「スノウお姉ちゃんっ! たとえ、この先が歪んだ次元だろうとも、アタシたちの魔法が必ず繋げる! だから、この薄暗い地下の底を、地上のように切り裂いて!!」

「任せてっ、リーパー! 『みんな一緒』に、飛翔こう! もちろん、せーの、でね!!」


 掛け声があがった。

 そして、全員の呼吸が合わさる。


 そのとき、ディア、マリア、スノウ、リーパーの間から『本物の糸』を強く感じる。目の前の全てから、『詠唱』も感じた。


 先ほどの『理を盗むもの』たちのように、次々と繋がっていく仲間たちの魔法――



「「「「――共鳴複合魔法《ドラグーンワインド・ブレイズアクセル》!!」」」」



 いい魔法名だと思った。

 僕のセンスとは少し違うけれど、僕を意識して即興でイカした魔法名を作り合わせてくれた事実だけで嬉しい――と思ったときには、もうスノウの姿は消えていた。


 先ほどの爆発的な水飛沫だけでなく、今度は音速の壁を砕く衝撃波ソニックブームともなっていた。

 ディアが目の前で風の壁で守ってくれなければ、余波だけで僕は吹き飛んでいただろう。


 それは単純な『竜の風』による飛翔ではない。

 炎の熱による特殊な気流が浅瀬すれすれに発生して、黒紫の暗雲を押し退ける通り道を作っていた。さらにはノイの作る《ディフォルト》の次元の壁も、リーパーが衝撃波ソニックブームに次元魔法を乗せて上手く相殺して、砕いていた。


 ノイまで届く道理は整っている。


 だが、スノウの突進は、ずれて、外れる。

 ノイは立ち上がって避けない代わりに、別の次元魔法を付け足すことで、逸らして避けていた。ただ、すぐにスノウは「分かってた」と言うように、折り返しを始める。


 マリアとディアの『炎の風』が、阿吽の呼吸の術者二人のコントールによって、着陸前の戦闘機のように逆噴射する。

 その呼吸にスノウも合わせて、姿勢制御してから、もう一飛翔ひととび――今度は100層の遙か奥から、戻るように突進し直す――が、二度目それも次元を歪まされることで敵まで辿り着くことはなかった。


 スノウは翼の『竜の風』で制止をかけつつ、浅瀬に両手足をつけながら、「んー!」と悔しげに唸る。

 その様子をノイは指差して、自らの力を誇示しながら、諦めることを促していく。


「……と、ととと届くものか! ボクの次元魔法は、誰にも破れない! だ、だから、こうして姿を現しているんだ……! ボクには掠り傷すらできない! 傷一つ付かないっ、永遠に!!」


 ただ、震えていた。

 ノイの声は震え続けている。


 対して、スノウたちは諦める様子はない。

 まだまだここからだと元気よく、次の攻撃を思案していく。


「んー! やっぱり、ただ真っ直ぐってだけじゃ駄目か! これ、カナミの《ディフォルト》よりも歪つに、ずれてるね。でも――」

「でも、いつかは必ず届くよ、スノウお姉ちゃん! 他にも色々な組み合わせを試して、魔法の穴を探そう!」


 そう言って、リーパーは一旦《シフト・闇憑きミミック》を解除して、スノウから離れた。そして、全く別の戦術を考えようとしたとき、一人の『理を盗むもの』が声をあげる。


「《リーパー》!!」


 ローウェンだった。

 いましがたの《ドラグーンワインド・ブレイズアクセル》のおかげで戦いに余裕が出来て、さらに距離も近くなり、我慢し切れなかったようだ。

 それはリーパーも同じ気持ちのようで、堪らず名前を呼び返す。


「ロ、ローウェン」


 もう別れは十分すぎるほど済ませた二人だ。

 リーパーとしては、親友と約束した通り、心配の要らない立派な姿を見せ続けたい。それをローウェンも分かっているからこそ、少し言葉を選んで――


「《リーパー……、……私の親友しんゆうっ! 丁度いいところに来てくれた! 私一人だけでは、暗雲を斬り切れなくて困っている! 次は私に力を貸して、試して欲しい! 親友リーパーの次元属性の力が、いまの私には必要だ》!!」


 親友に協力要請した。

 それはリーパーにとって、初めてローウェンに戦いで頼られた瞬間だった。


 だから、どうしても抑えきれない歓喜の笑顔が溢れ出てしまって――


「い、いひひっ……! いひひひひひひっー!! そこまで親友ローウェンが言うなら、もー仕方ないなー! ちょっと行ってくるね、スノウお姉ちゃん! 色んな組み合わせで、色々なことを試そう! ということで、ここからはローウェンと一緒に……、合体!!」


 二人の関係を仲間内で一番よく知っているスノウは、リーパーに小さく「行っておいで」と見送って、ローウェンには「また泣かせたら、潰すから」と厳しい目で釘を刺した。


 そのスノウの目に、ローウェンは深く頷き返した。

 さらに、抱っこを求める子供のように飛びついたリーパーを、その胴体で受け止める。同時に《シフト・闇憑きミミック》が再発動して、ローウェンの体内にリーパーは溶け込み、二人は一心同体となっていく。


 まずローウェンの獲物である透き通った水晶の剣が淀み、黒く染まった。

 その上で、リーパーの闇の衣と同じものを羽織る。

 黒衣の騎士がノイの前で、堂々と剣をアレイス流『剣術』で構える。

 その姿は、まさしく――


「《ああ、一緒だ、リーパー。二人で、千年前の本当の『死神・・』の力を見せてやろう。……『未練』を失ったから、力を失った? ……魔力のない剣士に、魔法の暗雲は斬れない? ……いいやっ、それは違う!! 親友と力を合わせたとき、それが私たちの最高のコンディション! 本当の意味で、魔を絶つ刃となる! 『死神』ローウェン・アレイスの真価だ!!》」

「そーゆうこと! みんなも見てね!! これが童話の『死神』グリム・リム・リーパーの本当の姿だよっ!!」


 楽しそうにリーパーは、これが本当の姿だと吹聴した。


 それは死角に潜む童話の怪異とは全くの逆で、堂々とした英雄の姿。

 いまリーパーは本当の意味で自らの生まれグリム・リム・リーパーを超えて、完全に自分のものにしていた。


 そして、僕の親友二人が、『死神』の一閃を闇に向かって放ち、地平線まで斬り裂いていく。

 その雄々しい姿を見つつ、先ほどのローウェンの言葉を思い出して、僕は唸る。


「ぁ……、あぁ……」


 確かに、この『終譚祭』は……、長年の願いが叶う日のようだ。

 『未練』を果たしただけじゃなくて、その先まで手が届く……。


 そう思ったとき、さらに戦場の各所で『地上』と『地下』が繋がっていくのが見え始める。

 まずローウェンたちが向かった先とは逆方向から、若々しい女性の声が聞こえた。

 ノワールだった。気絶したシアを移動させ終えて、この神話めいた戦いに自分も参加する気概を見せる。


「先生! シアを安全なところまで運び終えました! あと結界も、一応! 次は何をすればいいですか!?」 


 僕相手と違って、ノワールはアイドに対してとても素直だった。

 ただ、その頼もしい増援に、ずっと戦場の中心で移動妨害用に『魔法』を維持していたアイドは、先を行く大人として微笑みかけて、首を振る。


「《……速い。とても素晴らしいです、ノワール。しかし、自分の指示も授業も、もうあなたには必要ないでしょう。いまや単純な力だけでなら、あなたたちのほうが上。ここはあなたたちがあなたたちの思うことをしてください。……ライナーもです》」


 近くに居た別の生徒にも、アイドは諭した。

 ライナーは尊敬する先生から卒業を言い渡されて、自分を回復してくれたノスフィーに近づき、暗雲に向かって先陣を切っていく。


「……はい! 先生、どうか見ててください! ノスフィー、このまま援護を頼む! これから僕はティティーと一緒に、風魔法を中心にして戦う!!」


 そして、もう一人の先生である『風の理を盗むもの』にも頼った。

 その声に反応して、戦場の前方で『魔獣の腕』を千切っては投げていたティティーが振り返りながら、了承していく。


「《ライナーよ! ちゃんと分かっておるようじゃのーう! あの可愛い『世界の主』様は、どういうわけか風が弱点! ということで、ノスフィー! お願いするのじゃー!!》」

「《……ふふっ、仕方ありませんね。本当は『御旗の三騎士』だけに集中したいのですが、いま二人の風の力が、あの妙な暗雲に対して特別有効なのは事実。全力でバックアップしてさしあげますよ。気持ち悪いライナーに、敬愛するティティー》」


 頼られたノスフィーは愛しそうに二人の名を呼んだ。そして、嬉しそうに自身を象徴する『光の御旗』を、ブンッと大きく振った。


 いまや、その光魔法の効果範囲は暗雲のない100層全て。

 『北』も『南』も、『過去』も『現在』も、纏めて光を浴びて、それぞれが活き活きと戦いを再開していく。


 ノワールはアイドの結界維持を手伝いつつ、《レヴァン》の強奪に再度集中し始めていた。

 ライナーはティティーと共に《ワインド・風疾走スカイランナー》で駆け飛んでいき、『魔獣の腕』と《ブラックシフト・オーバーライト》で満ちた最前線に飛び込んでいく。


 そして、その頼れる風魔法使い二人と入れ替わるように、一人の『理を盗むもの』が休憩するかのように、前線から離れる。

 ローウェンが我慢し切れなくなったように、彼もまた話さずにはいられなかったのだろう。

 仲間のリーパーと離れて、一人となっていたスノウに向かって、話しかける。


「《……スノウ、遺伝子回復の術式を、見事自分のものとしたな。流石は、俺たちの末裔だ》」

「うん。セルドラも、ちゃんと『本当の英雄』になったんだね。ただ、もうグレン兄さんは……」

「《ああ。グレンは俺が食らった。おかげで、あいつの全てが俺のものとなり、共に在る。俺たちは『本当の英雄』に、やっとなれたんだ。この身体の黒き翅脈と振動こえが、その証明だろう》」


 セルドラは自分の翼の『黒い糸』を見ながら、そう伝えた。


 言葉は少なく、抽象的な会話だった。

 だが、竜人ドラゴニュートだけで通じ合えるものがあったようで、二人は同じ方向を見ていた。

 話しながら、誰も居ないはずのところに目を向けている。


 ラスティアラと同じく、そこにいる・・のだろう。

 ぼやけて薄らとだが、僕にもグレンさんの姿が見える気がした。

 その現象はファフナーの本当の『魔法』の力か、100層の『最深部』の力か。それとも――


「うん、兄さん。……聞こえるよ。だから、グレン兄さんの歩いた道の続きを、私も飛翔きたい」

「《俺も聞こえて……、願った。あの『最強の魔人』グレン・ウォーカーの歩いた道の跡を、俺も飛翔きたいと……》」

「――魔法《フライ・ロスソフィア》」

「《――魔法《フライ・ロスソフィア》》」


 弔うような祈りと共に、スノウとセルドラは揃って、同じ魔法を唱えた。


 部分的に『竜化』を行う変身魔法だ。

 二人の背中に翼が生えて、両腕が肥大化して三本指の巨大鉤爪に変わっていく。


 蒼き竜と黒き竜が並び立つ。

 それは、ついにセルドラが亡き従姉あねと肩を並べたかのような光景でもあった。


 二人の《フライ・ロスソフィア》は共鳴していたようで、どちらの翼にも黒い翅脈を張り巡らされて、鼓動のように震えていた。

 いま間違いなく、二人とグレンさんは共に在る――だから、三人は・・・共に同じ道を選び、飛翔び立つ。呼吸を合わせて、さらなる強敵であるノイへと向かっていく。


 それを近くで見ていた『血の理を盗むもの』ファフナーは、一切口出しできなかった。

 竜人ドラゴニュート二人の後ろに付いていくことを諦めて、遠くで一人ごちる。


「《……あー、くははっ。俺にも黒の翅脈グレンは付いているんだが、あの美人さんにセルドラさんごと取られちまったなあ。……まあ、流石にマジの竜人ドラゴニュートを追うのは無理だからな。それなら、俺は――》」


 ファフナーは自らの腕に『黒い糸』が巻き付いているのを見つつ、戦いの相方がいなくなったことを嘆いていた。

 そして、すぐに新たな相方を探して、視線をこちらに向けた。

 僕の隣にいるラグネの幻を見て――


 しかし、あいつに共闘を誘いかける前に、彼の両隣の浅瀬に血が滲み、広がり始めた。

 血の池から、二人の『血の人形』が起き上がっていく。


「《……【ローレライ】。……ヘルミナさん》」


 ファフナーは『血の人形』の背丈だけで、二人の魂を識別した。


 その性質上、はっきりと彼女たちは姿を現して、意思も確かに持っていた。

 二人が応援に駆けつけてくれたことをファフナーは喜び、自分の役目をはっきりと見出す。


「《ああっ! くははははっ! そろそろ、友情だけでなく愛の証明もしないと、なんだか不味い気がしてきたところだった! 二人ともっ、俺の援護を頼むぜ! なぜなら、俺こそがファニアの代表! 『魔人』の代表でもあり、『全人類』の代表! 【ファフナーニール・ヘルヴィルシャインローレライ】だからだ!! ついでに昔の知り合いも全員、喚ぶかぁ!? ――魔法《旧人類史の英雄譚ロストレヴァンシズ・エピックシークエンド》でなあっ!!》」


 そう宣言して、赤の双剣を十字に構えると、さらに足下の血が広がった。

 合わせて、地の底から這い上がる『血の人形』の数も、一体ずつだが増えていく。


 次々と増えていく味方たち。

 その光景に、僕は安心できた。


 だが、ずっと全員と纏めて戦っているノイは、当然ながら逆だろう。

 その増援たちに向かって、顔を顰め続けている。

 何度も首を振っては、ずっと全員に言っている自分の言葉を繰り返す。

 何度でも何度でも、それを『呪い』のように言い聞かせる。


「か、数に入らないって、言っている……! どれだけ集まろうとも、一人にさえ・・・・・満たない・・・・! どれだけ助けが来ても、意味などない……! なかったんだっ!!」


 ずっと黒い暗雲の中で、這いつくばっているせいだろうか。

 まるでノイは暗い部屋の中で、嘆き泣いているように見えた。


 自分で口にして自分で傷ついているようにも感じた。

 だから、そのノイの叫びに返答するのは『理を盗むもの』――ではない。



(――数に入らない・・・・・・。ノイ様、それは私たちもでしたか?)



 新たな声が、100層に響き渡る。

 明らかに肉声ではなく、魔法による拡声。


 振動魔法を得意とするスノウとセルドラの声かと最初は思ったが、すぐに違うと分かる。

 拡声音の発生源は、上空。

 砕け散った天上で、光り輝く魔力の翼を羽ばたかせる人影が二つ、遠目に見えた。

 その二人が《ヴィブレーション・聖声ゴスペル》を使用している使徒たちだと気づいたとき、さらなる拡声魔法が鳴り響く。


((――『全ては新たな門出の祝福の為に』『未来よ光よ巡り合う魂よ愛しさよ』。――共鳴神聖魔法《シオン》))


 見上げた先の天上から、ふーっと息を吐きかけるように。

 大小様々な光のシャボン玉が大量に発生して、100層の浅瀬に向かって落ち始める。


 その魔法には、何度も助けられた。

 効果は単純で、『魔力の阻害』。

 単純だからこそ普遍的な力を持つ神聖魔法が、降り積もる冬の吹雪のように真上から押し寄せてくる。

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