481.即興の夢


〝「――■■■ラ!」〟

〝「■■■! ■ー■! ■■ド!」〟

〝「起き■、セル■■! ■■許■■ないと■■■■ろ■!? セ■■■ァ!!」〟

〝「■■■様! ■■ド様、万■!」「■■■様!」「ロー■!」「■ー■様、万歳!」「ロ■■!」「■ード!」「ロー■!」〟

〝――震える・・・――〟


〝なんだろう、これは……〟


振動こえを感じる。

 地鳴りのように、足場も身体も震えては、耳の中で反響する。


 歓声だと、すぐに分かった。

 千年前や現代でも、それを俺は何度も聞いて、耳慣れていた。

 『英雄』として凱旋しては、いつも俺は――


「――ロード、万歳!」

「ロード!!」

「ああ、我らがロード様だ!」

「誇りの竜の王よ!!」


 一心不乱の歓声と喝采に迎えられていた。


 ――どういうわけか。


 俺の眼前には、百を超える竜人ドラゴニュートたち。

 全ての咆哮が折り重なって、一つの名前を讃えていた。


 そして、その集団の奥には、声以上に見慣れた黒い石の建築物の数々。

 空を見上げれば、暗雲の空を狭める崖が両端に聳え立っている。


 ――いつの間にか。


 俺は故郷の地に立っていた。

 間違いなく、谷間に潜む竜人ドラゴニュートの隠れ里だ。


 里の中央広場に一族が揃って、小人数だけども大規模な歓声を生んでいた。

 しかも、里一番の屋敷の前に立つ俺に向かってだ。

 どうして? と考える前に、屋敷の入り口から一人の竜人ドラゴニュートが出てきて、俺の隣に立った。


 年若い女性で、里に伝わる民族衣装を何重にも着ていた。鎧のように分厚くなっているが、動きに不自由はなく、可憐に柔らかく、歩いていた。

 スノウとティティーの面影のある女性が現れると、さらに歓声は増す。

 彼女が里の長であり、王のようだ。


「――皆の衆、待たせたな。今日も一日頑張ろうか」


 一言、女王は喉を震わせた。


 すると、集まった竜人ドラゴニュートたち一同が、さらなる大歓声で応えてから、すぐさま散開していく。

 各々が忙しなく里の中を動き回り、戦場で陣営を張るかのような作業を始めた。


 ――ありえないことに。


 俺が食い殺したはずの同族たちが全員生きていて、活き活きと働いていた。

 当時よりも、少し年老いている風貌だが、見間違えはしない。


 そして、いま俺の隣に立っているのは、立派に成長した従姉あねの『王竜ロード』。

 その名の通り、彼女は里の女王となっていた。

 ただ、それだと色々と歴史に矛盾が出る。


 ――『悪竜ファフナー』の儀式はどうなった?


 そう疑問に思いつつ、里を見回していると、ふいに一人の竜人ドラゴニュートが叫ぶ。


「総大将様ぁー! 指示通りに飾り付けていますけど、このような感じでよろしいのでしょうかー!?」


 その視線は俺に向けられている。

 すぐに隣の『王竜ロード』が、俺に小声で話しかけてくる。


「呼ばれているよ。フィリオン家のおかしらさん」

「……あ、ああ。……総大将、なんだろうな。俺が」


 震えつつ短く答えると、『王竜ロード』が少し心配してから、くすりと笑う。


「……生返事だね。ちゃんと『女王を護る智竜クイーンフィリオン』と呼んでくれないと、返事したくないということかな? 相変わらず、君は我が侭で欲深い。でも、あれはまだ少し恥ずかしいから、我慢しようか。もう少しあとだ」


 まるで長年連れ添った幼馴染のように、『王竜ロード』は親しげに話す。

 そして、俺の代わりに、先ほど叫んで聞いてきた竜人ドラゴニュートに向かって「それでいいよ!」と答えた。


 …………。

 どうやら、こういう関係のようだ。

 場所は俺の故郷だが、俺の全く知らない時間と環境。

 完全に、儀式が『なかったこと』にされている。


 それを前提にして里の観察を進めると、過去になかったものが足されているのを見つけた。

 竜の里の最奥にて、見知らない道が伸びていた。

 粗削りだが、谷が抉られて、外の世界との『繋がり』が新たに作られている。


 その道にも飾り付けが行われているのを見て、俺は疑問を零す。


「あれは、一体……」

「一体……って、君の友であるティティーやアイドたちを迎える準備だろう? しかし、友とはいえ、どちらも他の隠れ里の要人様だ。宴をもって、歓待せねば」


 聞けば、答えてくれる。

 他の里と交流があると知って、「そうか」と生返事を続ける俺に、従姉あねが一度も見せたことのない笑顔で「ただ、おまえの友と言えども、ティティーのほうは私のほうに懐いているがな。外で上手く美人をひっかけてきたようだが、残念だったな」と自慢げに話していく。


 ティティーが『統べる王ロード』になっていない。

 俺が他の『魔人』の里を襲撃して潰していないからか?

 だから、従姉が北のロードを名乗って、境界戦争そのものが起きない?


 なんと都合がよく、夢のような物語。

 俺の声は震え出す。


「み、南のほうは……、どうなっている?」

「南? 南からの客人は、昨日すでに到着済みだろう? 本当にどうした? あれもお前が作ってくれて、大事にしているえにしだろうに」


 そう言って、従姉は指差した。


 その先にあったのは、里でも一際大きな黒い家屋。

 俺の生まれたフィリオン家の屋敷の前に、竜人ドラゴニュートではない一団が集まっていた。


「ほら。ヘルミナ・ネイシャさんが、ずっとフィリオン家の文献を探っているだろう? 弟子の子供二人もだな。……あの少年は特に、君に懐いているじゃないか。忘れたわけではあるまい?」


 おそらくだが、地方民族の歴史調査を目的に派遣された一団。

 その中には、癖っ気のある金髪の少年も交じっていた。


 その透き通った碧眼と、俺は目が合う。

 少年は大声と手をあげながら、こちらに駆け寄ってきた。


「あっ! フィリオンさーーーん!! 一族の朝礼ってやつ、やっと終わったんですね! それでお忙しいところ恐縮なのですが、少しお時間ください! ちょっと知りたいことがありまして!」

「ファ、ファフナー……」


 その少年の名を、俺は零した。

 ずっと声は震えている。


「はい、その『悪竜ファフナー』についてですね! 古代から続く『竜人種』と『翼人種』の文献は、俺の好きな神学の要素が薄いのですが……。なんとっ、『悪竜ファフナー』の儀式には、神の存在がはっきりと記述されていました! どの文献よりも興味深いです! なので、できれば、フィリオンさんの口から色々と教えて欲しいです!」

「……ほ、ほんと、懐いてんな。なんでだ」

「懐いて……? あぁ、よく言われますね。でも、尊敬してるだけですよ。だって、俺もあなたみたいな『人』になりたいですからね」

「俺みたいに? それは、ど、どうして・・・・――」

「どうして!? そんなの当たり前です! だって、あなたが・・・・――」


 もう耐えられなかった。

 血と魂が沸騰するような感覚の中、ずっと「茶番に付き合うな」という振動こえが背中から聞こえている。


 続いて、魂の奥底から湧いてくるのは、千年前の別の思い出。

 いま見せられた『夢』に刺激されて、俺は『現実』の同じ場面を思い出していく――〟



 千年前の記憶。

 ゴースト混じりの少年と、俺は一緒に旅をしていた。


 地獄のような北の大陸を歩くのは、『最悪な実験場』から抜け出した二人。

 北の隠れ里の悪竜である『魔人』セルドラ。

 南のファニアの亡霊である『魔人』ファフナー。

 血の積み重ねによって生まれた『最高傑作』の二人は、揃って『なりたい自分』に名を偽って、自由に旅していた。


 その旅の中で俺は、先ほどの『夢』と同じように、よく少年に「セルドラさーん!」と間の伸びた声で呼ばれて、何度も駆け寄られていた。

 本当に何度もあった。

 例えば、とある夜。


 荒野で野営を行い、二人で焚火を挟んで、寝ずの休息を行っていたとき。

 俺は聞いた。雑談の流れで、とても軽く「懐いてんな」と言うと、すぐに「だって、俺もあなたみたいな『人』になりたいです」と答えられた。


 なぜか、俺は憧れられていた。

 似た生まれの後輩に、いつも輝いた目を向けられ続けていた。

 ただ、千年前の俺は、いつも目を逸らす。


 『逃避にげ』て、まともに言葉を受け取らず、「世辞は要らねえよ」と何度も答える。しかし、それにそいつは何度も食い下がり、「本当に、あなたみたいになりたいんです!」と話すのだ。

 その熱意に負けて、俺は続きを聞いてしまったことが一度だけあった。


「俺みたいに? それは、どうして・・・・――」

「どうして!? そんなの当たり前です! だって、あなたが・・・・――」


 『夢』だろうと、『現実』だろうと、同じ返答が続いていく。

 この少年は全く変わらない。

 どこへ行っても、何があっても。

 どんな生まれでも、運命でも、環境でもないのだろう。

 ただ、一人の『人』として、この俺のことを――



〝「――あなたが・・・・恰好いいからです・・・・・・・・!」


 少し照れた様子で、そう少年は言った。

 さらに続きを、無邪気に足していく。


「あなたは『悪竜』の儀式で、この地に溜まった『呪い』を一身に受けました。邪悪という邪悪を押し付けられて、さらには普通の『幸せ』を取り上げられて……、この世の全てを苦しみに感じて……、それでも・・・・あなたは耐えた・・・・・・・!! 血の悪意を乗り越えて、その最悪な儀式を自ら、止めた!! そして、いまも尚っ、『呪い』を抱えていながら、諦めずに真面目に生きている!! 誰よりも助けが必要なはずのあなたが、各地で人助けをして回っている!! まさに地獄に灯る希望の光! 伝説の『魔人』の生まれ変わり! 強きを挫き、弱きを守る! 我らが北の地が誇る総大将であり大英雄様!  ――ええっ、とても格好いいんです! だから、俺もあなたのようになりたいっ!!」


 そう讃えられた。

 輝く瞳を向けられた。


 …………。

 こんなの誰でも『逃避にげ』るだろう……。


 実際、『現実』の俺も「世辞だ」と処理して、この純粋な少年をこれでもかと地獄に叩き落としてやることになる。


 ああ、落としたんだ……。

 俺は、俺の名前ファフナーを、地獄に落としたくて、堪らなくて……――


「そうか……。俺のようにか……」


 納得して、俺は頷いた。

 ただ、答えながら唇を噛んだ俺に、調査団の少年は戸惑う。


「ええ、いつかあなたの隣に俺も……。ど、どうしました?」


 もう俺は、自身ファフナーから『逃避にげ』ないと誓った。

 トラウマならば食らって行けと、スノウから教わった。

 ずっと体内のグレンの魔石は、俺が震えている以上に震えている。

 それは俺への呪詛――でなく、激励の祝福こえ。死ぬほど嫌がりながらも、「夢幻ゆめまぼろしだ、セルドラ」と助けようとする振動こえが、ずっと背中を押し続けているのだ。


「フィリオンさん? ……もしかして、泣いてます?」

「見てろ、ファフナー」


 だから、俺は泣きながら、その名を呼び、少年の隣を歩いて通り過ぎた。


 そして、南からやってきた他の二人に近づく。

 まずはヘルミナ・ネイシャ。

 目が合った。彼女から挨拶をかけられる前に、俺は手を伸ばした。その太く大きな腕で、その頭を果実を割るように握り潰した。間を置かずに、隣の少女の頭も、逆の腕で潰す。


 振り向くと、少年は呆然としていた。

 理解が追い付かないのだろう。

 先に反応して声をあげたのは、直近の竜人ドラゴニュート

 大人の竜人ドラゴニュートは驚愕しつつも、顔を真っ青にして俺に近づいてくる。


 俺からも近づいて、手の届く距離に入る――と同時に、殺す。

 同じように頭部を潰した。丈夫な竜人ドラゴニュートなので、念入りに心臓を抜き取った。


 その心臓を大口を開けて呑み込み、次の獲物に向かう。

 周囲の竜人ドラゴニュートたちが異常に気づき、大声をあげ始めた。

 しかし、考える暇を与えずに、俺は駆け出して――残らず全てを殺して、丹念に心臓を抉り取っては、口に放り込み、ごくりと呑み込んだ。


 圧倒的な暴力による虐殺だ。

 阿鼻叫喚となる暇さえ与えず、迅速に次々と。

 手あたり次第に殺していっては、口に入れていく。

 逃げ出すものも全て逃がさない――つもりだったが、途中で吐いてしまう。すぐさま地面に吐瀉したものを両手で広い集めて、土ごと食い戻した。


 涙が滲んだ。

 けれど、俺は逃げ出す竜人ドラゴニュートを全て食い殺そうと、考えられる限りの最高の効率で殺し喰っては回り――立ち塞がる『王竜ロード』。


「ど、どうして……? 『女王を護る智竜クイーンフィリオン』……!」

「…………」


 『王竜ロード』に「どうして」と聞かれて、俺は何も答えない。

 ただ、殺して、食らう為に、動いた。


 戦いにはならなかった。

 彼女が俺に伸ばした手はひしゃげて、あっさりと心臓は抜かれた。

 ただ、それだけでは死なないと知っているから、急ぎ、空いている手で頭部を潰して絶命させた。


 従姉を殺し終えた俺は、さらに殺していく。

 殺して殺して殺して、殺し尽くしていき、周囲に竜人ドラゴニュートがいなくなったところで、語り掛ける。


「……ちゃんと見たか? これが俺だ」


 地獄と化した里の中央で、佇む少年に白状した。


 そして、「俺はこういうやつだぞ」と示すように、周囲に散らばった血肉にも手を付けていく。

 残さず食べないといけないから、必死に共食いしては、少年と話す。


「俺はファフナーになった……。たとえ夢幻ゆめまぼろしだとしても、それを『なかったこと』にするつもりはない……。だって、こいつらを食らったおかげで俺は、あんなにも大きく、恰好よく、立派になって、おまえに憧れられたんだからな。その血の一滴たりとも、無駄にはできねえ」


 この「おかげで」という言葉が本当に最悪で、吐きそうだった。

 だが、俺はトラウマさえ食らい、もっと成長して、化け物のように強くならなければいけないのだ。


「ち、違います……。あなたはフィリオンさんで、ファフナーじゃない……!」


 その俺の姿をファフナーは見つめて、そう否定した。


 目と目が合い、少年の瞳に染まる感情を知っていく。

 俺は憐れまれていた。


「きっと、これは貴方の代まで積み重なった儀式の『呪い』のせいです……! 儀式を止めてしまったから、いままでの死者の怨念が……。けど、クソッ……。こ、これはもう……、もうっ……!」


 どうやら、涙を流す俺に、何らかの事情があると考えたようだ。


 だが、いかなる事情があれども、周囲の惨劇は取り返しがつかない。

 そう少年も答えを出したようで、言葉を失い、膝を突き、暗記した一文を口にする。


「――い、一章七節〝試練とは希望と幸運の賜物。明日に進んだという証を必ず残してくれる〟……」


 神に祈りだしてしまう。


 死した魂たちの安寧を求めて、自分にできることを最後までやろうとしていた。

 そして、その祈りの間も、少年の瞳は惨劇を引き起こした俺を「救うべき『魔人』」として、憐れみ続けている。


「あぁ……。ほんと、おまえは……」


 変わらない。

 こいつだけは『夢』だろうと『現実』だろうと変わらない。

 おかげで、俺は『夢』から何度だって覚められそうだ。


「ファフナー、よく聞け。さっきおまえが言った通りだ。儀式は上手くいかず、止まってしまった。ずっと宙ぶらりんのまま、『呪い』だけが千年後まで続いてしまう。なぜなら、俺は……、神を殺せなかった」


 神という単語が出たとき、祈り続けていた少年の肩が震えた。

 祈りが止まり、俺の続きの言葉に耳を澄ませた。


 真実を伝える。



「――だって、そんな都合のいい・・・・・神はどこにもいない・・・・・・・・・



 殺そうにも、そんなやつはいなかった。

 邪神と呼ばれたノイも含めて、騙りばかりだった。


 その俺の言葉を聞いて、少年は顔をあげた。

 また目が合う。

 今度は向こうが俺の心を読み、真実だと確信したのだろう。

 少年の瞳は戸惑い、迷い、震え出した。


 その幼きファフナーに向かって、先人として俺は教えを説く。


「『最深部』にいたのは、神を演じる『弱い人』だけだった。……だから、やらなきゃいけないんだ。ファフナー、わかるな? 俺の『悪竜ファフナー』も、おまえの『偉大なる救世主マグナ・メサイア』も、どちらも誰かがやり切らなきゃいけない。神に頼ることなく、誰かが」


 未来に待つ運命を、先んじて言い聞かせていく。


 その真実は、信仰深い彼にとって残酷な話だろう。

 呑み込めば、深い悲しみに囚われて動けなくなるかもしれない。

 いや、そもそも俺の教えなど、信じはしないか。もし全て放棄して『逃避にげ』出したとしても、俺が少年を責めることはでき――


「い、いなくても……! たとえ、神がいなくても……! ――それでも、俺はあなたを救いたい! せめて、あなただけは!!」


 少年は俺を見つめ返して、そう言った。


 神よりも、俺を信じてくれた。

 その上で、その碧い瞳は欠片も諦めることはなく、口からは「まだだ。まだ俺は――」と呟いて、尖った骨を手に持ち、立ち上がった。


 俺が食い荒らして、残した骨だ。

 それを武器つるぎにして、少年は生き残ろうとしていた。


 殺意は全くない。未だ俺を「救済すべき『魔人』」として憐れんだまま、生き残るために最善を尽くそうとしていた。


 ……強い。

 強過ぎる……。

 だから、『理を盗むもの』とは違う……。


 仲間の振りが上手いやつだから、今日まで気づくのが遅れた。

 この少年は神がいなくとも、きっと死ぬまで――いや、死んでも、立ち向かい続ける精神こころを失わない。


「……眩しすぎるな。だから、憧れたのは俺のほうだったんだ。おまえのような『強い人』に俺はなりたくて……でも、最後まで俺は『弱い人』だった。でも、もうそういうのは関係ねえよな。強かろうが、弱かろうが、関係ねえ。……いつか誰かじゃなくて、俺たちが、やらないといけない。……ファフナー・・・・・分かるな・・・・?」


 そう俺は続けた。


 最後の一言は、目の前の少年に言ったわけではない。

 けれど、少年は「はい」と頷いて、尖った骨を両手に持ち、生き抜く意志を見せてくれた。


 これから、この少年は俺と戦うのだろうか。

 それとも、実力差を理解して、一旦竜の里から逃げ出すのか? そのあとは一人旅? 果たして、少年の運命はどう変わっていくのか――と、いくら考えても所詮、全ては泡沫の『夢』。


 俺は少年と憧れ合う瞳を、合わせたまま。

 ゆっくりと、目を閉じていく。

 潰れるくらいに強く、深く、絞めつける。


 まだだ。

 この憧れの少年のように、俺も立ち向かい続けろ。

 どれだけ絶望的な相手でも、最後まで生き抜け。


 ――たとえ食らった家族たちの骨を、刃にしてでも。


 俺は瞼を閉じて、魂を震わせることで、必死に祈った。

 ただ、もう「救って欲しい」と、下から見上げる祈りではなかった。

 俺は憧れの言葉を借りて、「それでも、あなたを救いたい」と、全身の『黒い糸』と共に祈り、瞼を閉じ続けた。

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