479.クイーンフィリオン



 どんな願いでも叶えられる『最深部』。

 その最初の到達者は、千年前の竜人ドラゴニュートセルドラ・クイーンフィリオンだった。


 『最強』と名高い俺が、そこで『適応』を手に入れて、『無の理を盗むもの』となったのは有名な話だ。


 しかし、その話の実際のところは、少し違う。


 あのとき、俺は何もかもが限界だった。

 自らの愉しみの為なら、もう世界を滅ぼしてもいいとさえ思っていた。

 そんな自分が大嫌いで、俺は故郷の神様の伝説を信じた。


 それは大陸各地で古代から伝わる『竜人種』と『翼人種』の伝説。

 伝説の生き残りである『悪竜』と『邪神』が、幾万もの時と血を積み重ねて、いつか運命の決着をつける――と、そう伝わっていた。


 『邪神』だろうとも、神様は神様。

 一縷の希望を繋いで、俺は『最深部』に向かった。

 つまり、俺が『最深部』に向かった理由は侵略や好奇心ではなく、純粋な神頼み。どこにでもいる碑白教の信者の一人でしかなかった。


 その末に、古代から伝わる運命の二人は、ついに邂逅する。

 使徒ディプラクラと次元の歪んだ道のりを乗り越えて、世界樹の根元にある『最深部』まで辿り着く。


 歴史的瞬間だ。


 ただ、向かい合うのは、『心の弱い悪竜セルドラ・クイーンフィリオン』と『心の弱い邪神ノイ・エル・リーベルール』。

 種族の代表として戦うはずだった二人は、どちらも精神こころが限界だった。


 殺し合いどころか、諍いすら起きなかった。

 二人は出会い、二人に失望し合っただけ。

 俺の弱さに、ノイは失望して。

 ノイの弱さに、俺も失望して。

 とりあえず、挨拶はした。その、お互い大変だねと。それから、互いに譲れるものを譲り合って、無暗な干渉はしないことを決めて、なあなあの空気で解散した。

 それで、幾万もの時と血を積み重ねた『竜人種』と『翼人種』の伝説は終わり。


 ――本当の『最深部』の歴史とは、こんなにも情けないものだった。


 直後、俺はファニア生まれの若きゴーストの『魔人』に、『自らの役割ファフナー』を押し付けた。

 今度こそ、普通の『幸せ』を得られるようにと、俺は世界中で実験と検証を重ねていくのだが……。


 欠陥品が無理に『適応』しようとしても、生まれるのは悪循環のみ。

 俺が失敗する度に、周りは『不幸』になった。

 その果て、俺のせいで人生が狂った『血の理を盗むもの』ファフナーと、俺は戦うことになる。


 全部俺のせいなのに、千年前の『世界奉還陣』の戦争では、あの若きゴーストの『魔人』が最凶の化け物ファフナー扱いされていた。

 そして、俺は人類の希望の一人『大英雄』セルドラとして、後の歴史に残ってしまう。

 それは罪深く、無恥で、本当に『最悪』で――


(――泣かないで、セルドラ。辛いなら、また逃げていい)


 そして、悪化していく幻覚。

 『血の理を盗むもの』による血の雨を浴びたせいか、それはよく幻聴こえた。


「あ、あぁ……。また……」


 カナミの『改編』の魔法で、亡き『王竜ロード』と俺は『一緒・・』にして貰った。


 こいつと『一緒』だから、俺は普通の『幸せ』に手が届くようになった。

 土を食べても、空気を吸っても、美味い。

 どこに行っても、何を見ても、笑える。

 二度目の本でも、異世界の本でも、面白い。

 ――と綺麗な言葉で繕っても、結局それはカナミの魔法の力であり、幻覚の一種。辛い現実から『逃避にげ』させて貰っただけで、俺の根本の問題は何も解決していない。


 だから、ずっと俺は心の底で自分を嫌っていて、死に場所を求め続けている。

 ちょっと辛いことがあると、すぐに『逃避にげ』たがる。


 その姿は余りに情けなくて、格好悪くて、何よりも――


(恥じゃない。……普通の『幸せ』を味わう権利は、誰にでもある)

「…………」

(やっぱり、地下ここは駄目。暗いし、黴臭いし、錆臭いし……、一旦地上うえに戻ろう? いまなら、お祭りの空気で地上うえは一杯。『糸』も一杯で、きっと何をしても楽しい。騒がしくて明るくて、すぐ『幸せ』になれる)


 血の雨の中で、亡き従姉あね竜人ドラゴニュートが微笑み、優しく「逃げろ」と言ってくれる。

 たとえ全てを投げ出しても、いつか必ず都合のいい神様は赦してくれるという――碑白教の信者ならではの助言だった。


(もちろん、このまま膝をついたままでもいい。ここでセルドラが祈っていれば、必ず届く。どんなときでも見守ってくださる邪神様の下まで――)


 隣に立っている幻覚の従姉あねは、視線を99層の中央にある魔法の扉に向けた。

 その優しさに、俺は涙が止まりそうになる。


(そ、そうだよな……。諦めて、泣いて、縋って……。祈っていれば、いつか……。いつか……、だ、誰かが・・・……)


 けれど、その涙に滲む視界にしっかりと、ずっと映っているのだ。


 血の雨の中でも、それは目立つ。

 砕けた赤い水晶の散らばる道が、半ばで途絶えていた。


 続きは「おまえが継げ」と、手元の赤銅色の魔石が訴えている気がした。

 目の前の『王竜ロード』よりも大きな死者の声が、ずっと背中から聞こえる気がした。

 いまも、グレンあいつが俺を許さず、離さず、傍で見ている気がするから――



誰も来ない・・・・・……。自分が、行くしかないんだ……」



 末裔グレンに恥じない言葉を、俺は選んだ。


 従姉あねが硬直して、視線をこちらに向けた。

 幻覚のはずなのに、魂を持っているかのような動きだ。


「当たり前だ。『逃避にげ』続けても、その先には何もなかった。祈っているだけでは、誰も救えなかった。どんなに苦しくても辛くても……、それでも・・・・死ぬまで真面目に・・・・・・・・頑張って生きる・・・・・・・。それしかなかったから……、もう『逃避にげ』ない。たったそれだけの……、ことだったから……。くはっ、くはははは……」


 俺は自嘲した。

 すぐに『王竜ロード』は首を振る。


(何もない訳ない。あの扉の先に、邪神様は確かにいる。その邪神様の〝誰もが幸せになれる魔法〟で、あなたは『幸せ』な結末が約束されて――)

「いないから、おまえは死んだんだろ? ……やっぱり、『過去』の頁は、俺自身の手で捲るべきだったな。くははっ……。楽して魔法で読み飛ばすから、こうなる……。まだ里の儀式が続いていることすら、俺は気づけていなかった」


 泣きながら、はっきりと幻覚に言い返してやった。


 ただ、その反論の仕方は、自分の言葉と少し違うと思った。

 この物語中毒らしい表現は、誰が言っていた? たぶん、カナミだ。ティアラとヒタキとラスティアラをうしない、しかし「死ぬまで真面目に頑張って生きようとしていたカナミ」から、一番大切なのは「自分の力で進むこと」と、俺は教えて貰っていた。最初から、教わっていたんだ……。


(……里の儀式は、もう全部終わってる。千年前に)

「いいや、まだ続いてんだ。だって、あれは邪神を殺して、『世界の主』を奪うまでが儀式だった。なのに、千年前の俺は、邪神に救ってくださいって祈っちまった……。おまえと一緒だな。だから、あのクソ儀式は変質しちまった。『適応』は大人たちが代々作ってきたものかもしれない。けど、『逃避』は『幼き一幼竜セルドラ』たちみんなで生んだものだ)


 どちらも人工で、不安定で、特殊な形の『呪い』だろう。

 その二つから目を逸らし続けたから、こんなに大きく育ってしまった。


(儀式から『逃避にげ』続ければ、膨らみ続けるのは当たり前だ。だって、続いているんだからな。……だから、『逃避にげ』るんじゃなくて、食らって乗り越えるしかなかったんだ。最初から)


 これも誰かの言葉のような気がした。

 これは、グレンか? いや、違う。さっきスノウと話していたときに、教わったような気がする。


 俺は涙の溢れる瞳を動かした。

 あれだけ騒がしかった戦場で、まだ青い長髪の竜人はすやすやと寝ていた。


 次に起きたとき、スノウは自らの兄が死んだことを知るだろう。

 そのとき、殺した俺を見て、どんな顔をするだろうか。

 激昂してくれるのならばいい。しかし、もし逆だったならば――


 想像するだけで、苦しくて辛くて、死にたくなった。


 急ぎ、俺は立ち上がろうとする。

 まだ身体は震え、ふらついて倒れそうだ。

 涙が止まらず、前が見えにくい。

 それでも、俺は兄の魔石を手に、スノウに近づいて――そのまま、力の入らない両腕で身体を抱えた。


 重たい。

 単純な重量の話だけでなく、あらゆる意味で重たいやつだと思った。


 そんな失礼なことを考えながら俺は、また歩き出す。


 もう向かう先は、地上うえではない。

 その逃げ道は、もう閉ざされた。

 だから、当初の予定とは、逆に。

 グレンの作った赤い道の上を戻り、『最深部した』に行こうとする。


(あ、従姉あねとして、私は……、従弟あなたに普通の『幸せ』を掴んで欲しい。いますぐ、その子を連れて地上うえに戻れば、まだ間に合う。道半ばで倒れた若き『英雄』を助けた『大英雄』を騙れば、みんなから感謝されて――)

「その『英雄』を騙るってのは、従姉ねえさんが子供ガキの頃に考えた妥協案だろ? いまの俺が叶えたいのは、『英雄』を騙ることじゃない……。その程度じゃあ、もう『未練』は晴れない……」


 首を振って、遮った。


 俺の『未練』は、従姉あね一人の願いを叶えることだけではない。

 だって、あの日、俺が食い殺したのは一人だけじゃない。


従姉ねえさん……。俺は辛くても苦しくても、故郷の『里の一幼竜セルドラ』の本当の願いを叶えたいんだ。それが俺の本当の『未練』だから……」

私の願いは・・・・・……、あなただけでも・・・・・・・幸せ・・、普通に生きてくれたら、それで――)

みんなの願いは・・・・・・・みんなで・・・・幸せ・・、普通に生きることだった。……当たり前だ。『幼き一幼竜セルドラ』たちみんなは、本当は最後までみんな一緒に、生き抜きたかったに決まってる……」


 それは本当に当たり前で、神の『改編』の魔法によって矮小化されかけた『未練』だった。


 カナミが『過去視』で俺に従姉あねばかり見せたのは、この大き過ぎて『晴らしようのない未練』の『改編』に都合が良かったからというだけだろう。


 だが、本当の歴史は少し違う。

 俺は従姉あね一人とだけ『繋がり』があったわけではない。

 あんなに狭い世界で長い歴史を紡いだ隠れ里で、そんなことはありえない。


(駄目……、私だけを見て。もう従弟あなたには、私だけでいい。邪神様のお導きに、背いては……!)

「おまえだけが特別じゃなくて、みんなだ。里のみんなが特別な家族だった」

(セ、セルドラ……――)

「けど、そのみんなを食い殺したのは、俺……。それを『なかったこと』にはできない。その『過去』を変えるのは、みんなを吐き捨てるも同然だ……。だから、吐くのを我慢してでも、行くしかない。だって、みんなが生き抜いたかどうかは、これからの俺次第なんだ……。これから俺が何を為すかで……、み、みんなの生まれた意味と、か、価値が……」


 言い淀む。

 加害者側の言い分が身勝手過ぎて、口にするだけで吐きそうだったからだ。


 辛い。

 苦しい。

 恥ずかしい。

 死にたくなる。

 けど、その苦しい道をスノウは示した。

 グレンの赤い道も導いている。


 たとえ遥か遠くの血縁だろうとも、俺と繋がっている新しい一族たちが、その道を進むことを望んでいたから――だから、俺は一族みんなに恥じない道を選んで――途絶えた赤い道の先を歩き、ファフナーが作った魔法の扉まで辿りつき、その前に立った。


 ここを通れば、もう二度と戻れないだろう。

 しかし、俺は地上うえでなく次の層したに、後退もどる。


従姉ねえさん、俺は『里の一幼竜みんな』の本当の願いを叶えに行くよ。たとえ、それがもうどうやっても叶わないものだとしても……。それでも、行くよ……」


 神の考える『計画』とは、逆方向を行った。

 こうして、竜人ドラゴニュートセルドラ・クイーンフィリオンが、また100層に到達する。


「くっ、くははは……」


 扉をくぐった先は、とてもくらい。

 どこまでも浅瀬が広がっていて、その上に石畳の道が一つ敷かれていて、両端に楼台が一定間隔に立っている。


 恐ろしき100層だが、俺は慣れた足取りで、スノウを抱きかかえて歩いて行く。

 深淵の闇を歩いている気分だが、楼台のおかげで迷わないで済む。


 道を進むにつれて、さざ波の音が聞こえてきた。

 周囲の浅瀬に波が立ち、ゆったりと後方に流れていっている。

 その流れの意味を知っているからこそ、俺は逆らうように波の発生源に向かう。


 道のりは、静か。

 もう俺は幻覚を視ていなかった。

 従姉弟おれたちに似て、根性のない幻覚だ。おかげで、こんなに俺は心細い。それは本当に『最悪』で……、ありがとう。すまない……。

 と自分でも分からない悪態と謝罪を繰り返していると、幻覚の代わりに、左右の浅瀬で淡く光る『魔石線ライン』のようなものが複雑に絡み合っているのが見えた。


 光る線で波打つ水面に巨大な魔法陣が描かれて、揺らめいている。

 千年前に人類を絶滅手前まで追い込んだ『世界奉還陣』に似ている。


 しかし、比べ物にならないほどに、こちらのほうが完成度は高い。

 大陸一つどころではない術式の規模と密度だ。

 だからこそ、その中心部に向かって、急ぐ。


 この100層は時間と距離の感覚が狂うので、どれだけ歩いたのかはわからない。

 なので、いつも通りに「いつの間にか」だった。


 気づけば、歩く石畳の道の先に、巨大な淡い光を見つけた。

 深淵の中、紫色に光輝く巨大な樹木のようなものが聳え立って、優しく灯っている。


 地上うえにある『世界樹』と同じくらいに大きくて、視界一杯の高さ。

 色違いの『世界樹』は神秘的な光景だったが、その濃い紫色にトラウマしかない俺は悪寒と吐き気が止まらない。


 さらに急ぎ歩いて、その光る『世界樹』の根元に向かっていく。

 もう一度、どれだけ歩いたのかわからない不確かな時間と距離が過ぎ去っていき――また「いつの間にか」辿りつく。


 樹の根本まで。

 『世界の主』を証明する玉座まで。

 その固そうな石の椅子の上には、全ての発生源が座っていた。


 ――黒髪黒目の『異邦人』アイカワカナミが、神の座で目を瞑っていた。


 最後に見た装いと同じく、黒いローブの姿だ。

 だが、他は大きく変化している。まず何よりも、魔力量がおかしい。膨大や尋常という言葉では足りず、神や太陽といった概念的な言葉ものが頭に思い浮かぶ。その輝く紫色は美し過ぎて、目と心が潰れまいと直視を避けるしかない。身体が勝手に、礼拝の姿勢を取りそうになった。


 そして、その神々しさに拍車をかけるのは、ローブから覗く素手と素足の神々しさ。

 皮膚全てに、『魔石線ライン』が浮かび上がるような術式が刻み込まれていた。おそらく、100層に広がっていた魔法陣と同じものだろう。……想像したくないことだが、魔法陣と同化したカナミが世界全体に広がっているのだ。


 その手足をよく観察すれば、実体がない。

 『半魔法』とでも呼ぶべき状態だ。

 どうやら、物質的な肉体から『魔の毒』のみで構成された魔法的存在に換わろうとしている途中のようだ。


 ――そう、途中・・


 つまり、まだ間に合う。

 こうして認識出来る内ならば、まだ『人』を捨て切っていない。

 むしろ、どっちつかずの不安定な状態は好機と、自分に言い聞かせながら俺は挨拶を投げかける。


「よぉ……」


 呼びかけられたカナミは、もう俺の来訪に気づいている。

 ゆっくりと閉じた瞼を持ち上げてから、その漆黒の瞳の中に俺の姿を入れて、答える。


「……やぁ」


 千年前と同じく、俺は神と挨拶を交わし終えた。

 しかし、千年前のノイとは比べ物にならないほどの威圧感だった。


 これで、本当に隙だらけだって……? 

 大陸の儀式を一身に受けて、いま史上最大で最幸な魔法を構築中ゆえに、余裕はない状態らしいが……。


 到底、そうとは思えなかった。

 その漆黒の双眸を覗き込むと、その奥に幾重にも重なった鏡があるような気がする。

 合わせ鏡の中に入って、無限の自分に囲まれているような感覚だ。


 背筋が凍り、鳥肌が立ち――そして、這い寄られる感覚も。


 100層の浅瀬で揺らめく水面が、カナミに近づいたことで渦巻き始めていた。

 その水面から不可視の『糸』が這い出て、ぞわぞわと俺の足を伝おうとしている。


 ただ、先ほどから動くのは『糸』だけで、カナミ自身は何もしない。動かない。

 俺の続きの言葉を待っているのだろう。


 ――仄暗い100層を静寂が満たす。


 その静寂を破ったのは、俺でもカナミでもなかった。

 俺たちから少し離れたところに、捕らえられたマリアが眠り続ける揺り椅子がある。

 その足元で、あのノイが呑気なことに、マリアと一緒に眠っていた。

 安心し切った彼女が起きて、目をこすりながら、俺の帰還を驚く。


「……え? あれ? セルドラ、なんで……?」


 頭部を傾けて、ラグネ・カイクヲラ譲りの茶色い長髪を揺らし、『計画』にない俺の行動を不思議がった。


 正直、俺も同じ気持ちだった。

 いま俺のステータスを見れば、『混乱』の数値は大変なことになっているだろう。


 だから、自分でも探るように、ここまで来た経緯を話していく。


「99層に侵入者が来た……から、俺は戦った。ファフナーは清掃員のやつと沈み、グレンは死んで、スノウはここだ。予定通り、俺より強いやつはいなかった。この俺が『最強』だった」


 結果だけで言えば、そうなる。

 だが、成果を言えば、逆。


「ただ、その『最強』の俺に勝利して、越えて、ここまで侵入してしまったやつがいる。……グレン・ウォーカーだ。そして、いま、スノウ・ウォーカーも。ウォーカーの兄妹二人は、俺以上の『最強』だった」


 99層の門番として、自らの敗北を報告した。


 カナミの『計画』には、俺の穏やかなる死は予定されていても、敗北はなかっただろう。

 ただ、その『計画』外の状況を前にして、カナミは一切の動揺はなく、薄らと微笑を張り付けているままだった。


 余裕だ。

 歓迎すらしている顔。


 どうやら、まだ足りないらしい。

 ここに俺が立っているだけでは、まだまだカナミにとっては「嬉しい計画外のこと」らしい。


 ……いや。

 分かってる。

 誰かじゃないんだ。

 いまから、俺が越えるんだ。

 このカナミの表情が歪むほど、もっともっと先へ――


 その俺の戦意にノイは気づかず、顔を明るくして喜んでいく。


「え……? えぇ? 侵入されたって……、それ、死んだから魂がってことかい? えっとつまり、兄のほうは殺して、妹の『スノウ』は捕獲したってことだよねえ? ……いいよいいよっ! 死人は出すなって話だったけど、まあ一人くらいは仕方ないじゃないか! なんか千年前と同じくらいに号泣してるから、またすごい失敗をしたのかと思った! けど! もう『マリア』だけでなく、『スノウ』も倒したなんて、『計画』の何倍も早くて、順調じゃないか! さあ、早く『スノウ』も封印しよう! あっ、でもあるじの魔法構築が一段落つくまで、ボクが預かってたほうがいいか。三人入れるくらいに、封印用ベッドを広くして――」


 眠るスノウを回収しようと、機嫌のいいノイは這ったまま、こちらに近づこうとしていた。

 その間も、俺はカナミを睨み続けて、いまのノイの言葉の確認をしていく。


「カナミ、聞いてくれ。もし本当に『計画』への対抗手段が、『ディア』と『スノウ』ならば……。ここで、俺は『スノウ』が目覚めるまで、戦おうと思う。殺したグレンの魂の分まで……いや、俺たちが殺してきた全ての魂の分まで、本気で戦い抜きたい。たとえ相手が、神や世界だろうとも、『晴らしようのない未練』でも、もう『逃避にげ』たくない」


 這い出そうとするノイでも分かるように、魔力と戦意を明確に発していく。


 これで戦いが完全に終わるまで、ノイは絶対に近づいてこないという信頼が、この『心の弱い邪神』にはあった。

 対して、カナミは少し困った顔で、俺の戦意を遮ろうとする。


「セルドラ、君が全てを背負う責任はない。悪いのは、あの儀式だけだ。だから、君は『王竜ロード』さんと『一緒』に、普通の『幸せ』を――」

「いいや、違う。責任はある。……その『一緒』のはずの従姉あねが、もういない。竜の里のセルドラたちも、もういない。俺が食い殺したからだ。その上で、幼き日の俺は名乗った。かの『女王あね』を守る『里の一幼竜セルドラ』だと、同じく幼き日の『ファフナー』に向かって、なりたかった自分を騙った。それが、俺の全てであり、真の名となる――」


 周囲に聞かせるように話す。


 ここならば、その竜の里のみんなにも届くだろう。

 先に行ってしまったグレンやファフナーも聞いているだろう。


 俺は眠る竜人ドラゴニュートの少女を、優しく地面に横たわらせた。

 その前に立ち、守るように、名乗りを上げる。



「――我が名は、『無の理を盗むもの』セルドラ・クイーンフィリオン」



 ただ、その足は震えている。

 怯えて、身体は竦んでいる。

 情けなく、ぼろぼろと涙を零し続けている。 


 本当にみっともない。

 それでも、俺は恥を忍んで頭を下げて、頼み込む。


「セルドラ・クイーンフィリオンは、神に『決闘』を申し込みたい。この愚かで臆病な俺に、あと一度だけ。貴方に挑戦する機会を頂きたい」


 瞬間、空気は張り詰めて――すぐにカナミが破る。


「ノイ、動かないで。……彼は僕に名乗ったみたいだ」


 カナミは断らない。

 願えば、必ず応えてくれる。


 ノイを手で制止して、神の座から立ち上がった。


 ただ、カナミが神の座を離れると言うのは、『計画』の中でも最悪のケースであり、最終手段だ。

 最終手段それを、いま出し惜しみなく、迷いなく、切られた。

 俺相手に一切の油断はないということだ。

 その過大評価に俺の身体の震えは増して、ノイは困惑を増させていく。


「え? それって、え……?」


 俺の報告以上に、カナミの制止の意味が呑み込めなかったようだ。

 しかし、少しずつ理解していって、俺を敵として認識し始める。


「う、裏切ったってこと? なんで? ……ボクたちは、二人で何万もの未来の枝葉を確認した! いや、何万どころじゃない! 無限のパターンを視て、シミュレーションを繰り返した! セルドラだけは、特にだ! 完璧に無限の『糸』で、全ての未来を閉ざして、雁字搦めにしてやった!! 『糸』に逆らえば、『不幸』になる! それも普通の『不幸』じゃない! ――『最悪』だ!! なのに、どうして!?」

「ノイ、いつも通りだ……。いつも通り、『理を盗むもの』との戦いが始まる。本当に、いつものことだから心配要らない。大丈夫」

「か、神様……。その状態で、戦うの? 魔法構築を維持しながらってことだよね? 本当に、その余裕はあるの?」

「ある。けど、この座とマリアたちを、ノイには守って欲しいな。どっちも起きないように、全力でお願い。限界まで、戦いは『なかったこと』にする。それでも、本気のセルドラの叫び声は、次元を超える・・・・・・

「う、うん……。離れて、見守る。ボクは全力で隠れてるよ……」


 カナミは未来の先の先まで、全て理解わかっている。

 そう思わせる口調で、視線を眠るマリアとスノウの二人に向けた。


 そして、ノイが頷き返したのを確認して、ゆっくりとカナミは歩き出す。

 未来が見えているゆえに、逡巡は一切ない。

 確かな足取りと共に、その喉を震わせる。


「セルドラ、君もいつでも逃げていい。この世に生まれた全ての魂は、普通の『幸せ』を得る権利がある」


 この期に及んで、念を押された。

 その全く対等でなく、壮絶な甘やかしは、鏡を見ているような気分だった。


「俺と同じこと言いやがって、クソ野郎が。くははっ」


 本当に『最悪』だ。

 そんな俺が、俺は大嫌いだ。

 殺したいくらいに嫌いだ。


 その自己嫌悪する俺を、この鏡は甘やかそうとしてくるから、さらに嫌いだ。


「同じだからこそ、それがセルドラの本当に欲しい言葉だ……。何度でも逃げていいと……、みんな逃げていいと……、ずっと君の心は言っていた」


 都合のいい言葉ばかり。

 その言葉に逃げこめば、すぐにでも俺は楽になれるだろう。

 けれど、もう無理だ。


 俺と『親和』する魂が、より辛く苦しい道を先に行きやがった。

 俺より若くて弱い末裔も、決して楽をしようとしなかった。

 俺に逃げ場は、もうない。


「いいや、カナミ。本当に俺が欲しかった言葉は違ったみたいだぜ。……グレンのやつが、その言葉をくれた。おかげで、これから俺は……。俺は――」

「セルドラ、言うな・・・


 先んじて、次の言葉を止められた。

 しかし、俺は握り込んでいた右手を開く。

 赤銅色の魔石が輝いていた。


 ごくりと。

 その魔石を、口から呑みこんだ。

 さらに毒は回る。

 その毒のままに、俺は恥知らずにも。

 身勝手にも、外道にも、『最悪』にも――



「――『本当の英雄・・・・・俺がなる・・・・



 みんなが大切に繋いだものを、この俺が口にした。

 まるで貪り、啜るように。


 その強欲で暴食な姿は、醜悪を超えて、ただただ恥晒し。

 伝説の邪悪な『竜人種』そのもの。

 だから、里の儀式の続きが、ついに――

 千年越しに、やっと進んだのを実感する。


 ――『本当の悪竜・・・・・いま・・俺はなった・・・・・


 俺は『悪竜これ』が大嫌いだ。

 子供ガキの頃は悪ぶるのが格好いいと勘違いしていたけれど、もういい年の大人だ。

 好きになれるはずがない。


 そもそも、子供ガキの頃の俺が、本当になりたかったものは――

 一族の誰みんなよりも高く飛ぶ竜人ドラゴニュートだった。

 世界中みんなから心から畏敬される『大英雄』だった。

 末裔たちみんなに語り継がれる『最強』のご先祖様だった。

 ずっと根底にあったのは、誰にも恥じない――恰好良い自分。


 いまの厚顔無恥な俺とは、真逆。

 だから、自己嫌悪で吐きそうになる。罪悪感で死にたくなる。


 けど、もう吐けないし、死ねない。

 グレンのおかげで、逃げ道はもうない。そのなりたい自分なんてものが、死の間際に叶っていいわけないとも、やっと理解できた。

 たとえ、どれだけ無様で格好悪くても、俺は『本当の英雄』を目指すしかない。


 それは本当に笑えなくて、楽しくもなくて、吐きそうでも吐けなくて、死にたくても死ねなくて――でも、やっと俺は生き抜くことができそうで――


 そのぐちゃぐちゃの精神状態を、カナミは読み取っているのだろう。

 相反するものが混在しているのは慣れているという様子で、穏やかな声で俺を落ち着かせようとする。


「無理だ、セルドラ。君は儀式に捻じ曲げられただけで、普通の子供だった。だから、君の従姉あねは捻じ曲げなおして欲しいと、祈った。……彼女の『契約』を、無駄にするな」

「無駄になるかよ。もう何があっても、みんなは無駄にならねえ。だって、みんなが食い殺された……おかげで・・・・、これから俺は神を救うんだぜ!? しかも、その神に代わって、世界までも救う!! 強き者として弱き人々を、永遠に救い続けていくんだ!! 『里の一幼竜セルドラ』が、『本当の英雄』になる!! ――だ、だからァッ!!」


 みんなが食い殺されたおかげで・・・・

 これだけは絶対に言いたくなかった。

 考えられる限り、最低で最悪な台詞だったから、声が震えた。


 俺はみんなに許されたい――けど『逃避にげ』過ぎて、もう許してくれるみんなは残っていない。

 俺は誰にも恥じたくない――けど『逃避にげ』過ぎて、もう恥じるところしか残っていない。


 吐かないように、喉を絞る。

 両肺を潰して、強引に振動こえを出す。

 首横の突筋すじと血管を限界まで浮かび上がらせた。


 みんなに聞こえるように、大振動おおごえで。

 儀式に関係なく殺された魂たちにこそ、いま届けと。

 やっと本当の死者たちみんなとも、本気で向き合って――


「みんな! もっと俺は苦しむから! 死ぬまで真面目に、頑張って生きるから!! みんなの『未練』とは最期まで付き合うから!! 死ぬほど格好悪くても、もう『逃避にげ』ないからっ!! 本気で、みんなの血を繋げていくからっ!! みんなが生きられなかった分まで、『セルドラ』として精一杯生き抜くからっ!! 心優しい神様が苦しむ代わりに、この最低で『最悪』な俺が、いつまでも苦しみ続けるからぁっ!! だ、だからぁっ!! だからっ、だからだからだからっ、だからぁあああぁああああアアアアッッ――!!」


 地獄に向かって、『竜の咆哮』で叫ぶ。

 けれど、「だから、許して欲しい」とか「だから、みんなも一緒に生き抜いたことになる」とは、死んでも続けられない。

 口にすれば口にするほど苦しい「だから」だった。

 だからこそ、俺は「だから」と繰り返し続けて、千年前からずっと止まっていた儀式の続きを始めたい。


 数々の失敗は、『なかったこと』にしない。

 全てのトラウマは食らって、力に変えて、この道の続きを歩きたい。


 俺はぞわぞわと這い上がってくる『糸』の中を、引き千切りながら進んだ。

 当然、〝誰もが幸せになれる魔法〟になろうとしているカナミは、顔を顰めた。


 そして、手をかざす。

 いまの俺の叫びに返答することはなく、代わりに紡ぐのは優しい魔法――


「――魔法《次元決戦演算ディメンション・グラディエイト・前日譚リコール』》」

「魔法に頼んなァア!! なんでも奇跡に縋って、願って、祈って、それで普通の『幸せ』!? なれるわけねえだろぉおがあぁああああああ!!」


 その戦いを始めさせない先手の魔法は、すぐさま『竜の咆哮』の振動で叫び散らした。

 ただ、さらにカナミは――


「――魔法《リーディング・シフト》」

「楽すんなァアア!! その楽な道を進み続けて、おまえはおまえを誇れるか!? その道の先、必ずおまえは『ラスティアラ』に恥じ、苦しみ、自殺を選ぶ! いまの俺見りゃ、分かんだろぉおおがよぉおおおおお!!」


 カナミは魔法で、何かを読み聞かせようとした。

 しかし、また俺は叫び、その『竜の咆哮』で空間を満たした魔力を霧散させた。


 全く戦う気のないカナミは、俺の叫びに一切聞く耳を持たず、都合のいい次元魔法ばかりを構築し続けていく。

 『紫の糸』を触手のように、ぞわぞわと蠢かせては、俺の身体に這わせようとする。


「――魔法《次元決戦演算ディメンション・グラディエイト・再譚リヴァイブ』》」

「逃げるなぁッ! 戦えぇえ!! いいから、俺と! 神の座を、賭けて! 戦ええぇえ!! 自分おれを見ろ! じぶんから逃げるなぁああ!! 戦えええええええええええええ――――!!!!」


 俺の叫びを無視して、『改編』に入ろうとしたのを『竜の咆哮』で散らした。


 それは本当に大きな振動こえ

 考えられる限り最高の叫びを、カナミの耳の鼓膜だけでなく、魂に直接ぶつけて振るわせていく。


 それでやっと聞こえたのか、俺に向かってカナミは返答を――いや・・違う・・


「セルドラ、君を病気から救いたいんだ。普通の『幸せ』を手に入れるには、もう治すしかない。……ああ、『過去』も『失敗』も『不幸』も、何もかも全て捻じ曲げ治すしかなかった。辛い物語だったならば、上書いて直すしかなかった。たとえ、その先に待つのが、片田舎で稲を刈るような『幸せ』だとしても、僕はい――」

「…………っ!? は、はぁっ、はぁっ、ははっ、ははは、はぁっ、くははは――」 


 会話が噛み合わない。


 これだけ俺が必死に話しかけても、並行して視ている『過去視』と『未来視』のせいで、遥か遠くの雑音程度なのだろうか。


 だから、その漆黒の双眸はずっと揺れ続けて、壊れた機械のように「救う」や「『幸せ』にする」を全自動で繰り返すだけ……。〝誰もが幸せになれる魔法〟そのものとなることで、この辛い現実からカナミは逃げようとしている。

 その身に覚えのありすぎる見事な『現実逃避』に、俺は――



「――ぶっ殺してやる」



 泣きながら、ぽつりと。

 唇を噛みつつ、本当に久しぶりに。

 他人への殺意を持った。


 ただ、それを聞いたカナミは、どこか宙を視ながら答える。


口だけだったね・・・・・・・セルドラ・・・・。……やっぱり、みんなの言う通り。君は生まれながら、この異世界で一番弱く、優しい『魔人』だった。ははは」

「くはっ、くはは! 会話になんねーなー、おい! 鏡に向かって独り言かぁ、これぇ! 狂ってやがる! もうなんもかんも狂ってやがる! くはっ、あははははハハハハハハッ!」


 どちらも狂って、合わない。

 おそらく、『未来視』で「カナミを殺せない俺」を視て、いま「だった・・・」と過去形で言ったのだろう。


 死ぬほど、気持ち悪かった。

 お互いのから笑いがそっくりなのも、殺したかった。


「誰よりも『理を盗むもの』しやがって、気持ちわりぃ……。このまま、おまえも楽な道を行くつもりなら、ここでね! 『逃避にげ』た先で、こう・・ならないように! その神の座を、いますぐ俺に空け渡せぇえっ!!」

救うしねは、優し過ぎる……。……僕は死なない。『ラスティアラ』と二人一緒に、永遠を生きるからだ。『ラスティアラ』、見ていて欲しい。救うのは、この僕だ。これから、この誰よりも優しい幼竜も救おう。いつも通り、それはまるで、『ラスティアラ』の好きな物語の『英雄』のようで――」


 いつの間にか、カナミの手には例の『ラスティアラ・フーズヤーズの手記』があった。


 ぺらぺらと本を捲り、幻覚と話すカナミ。

 例の『狭窄』が悪化して、まともな精神状態ではない。


 いや、俺の精神状態も十分に限界おかしいのだが、カナミは俺以上に限界おかしい――

 たとえ空間や時間が一致しても、本当に会話可能かどうか疑わしくなってくる。

 はっきり言って、埒が明かない。


「…………。はあ……。やろうぜ」


 だから、『第八十の試練』を。

 あの対等に話すために弱らせる戦いを、もう一度。

 でないと、会話すらできない。


 ただ今度は、傷の舐め合いなんてぬるいことは考えない。


 楽せず、殺す気でやろう。

 死ぬほど、苦しませてやろう。

 を突き立てて、悲鳴をあげさせてやろう。

 神様にこそ、「みんな助けて」と命乞いさせてやろう。


 たとえ、その相手が鏡で。

 俺にとっても、死ぬほど苦しい『第八十の試練』になるとしても――


「今度こそ、その神の力を残さず食らってやる。――魔法《フライソフィア》」


 故郷に伝わる古代の鮮血魔法を唱えた。

 その『竜化』促進によって、俺は敵を食らう準備を終えるのだが、途中で身体に違和感を覚えた。

 肥大化し始めた両翼に、黒い血管のようなものが浮かんでいた。

 それが『黒い糸』と気づき、いる・・と分かる。


 翅脈は震えるだけでなく、いまやっと本来の役割を果たしていた。

 体液を運搬する。

 毒液を運搬する。

 振動こえを運搬する。


 ――いま、俺は生き地獄にいる。しかし、もっと『最悪』にも、殺したいほど嫌いな俺を応援するしかないあいつが、いま、本当の地獄にいると思うと――


 振動こえに背中を押されて、『一緒に・・・嗤って・・・、毒塗れの黒い『魔人』は歩き出した。


 暗い海の底よりも深い100層で。

 『本当の英雄/悪竜ファフナー』として、神への再挑戦は始まる。


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