430.血の海
混線は正した。
が、私の心はさざめき続ける。
「(ふぅぅ……、はぁー……)」
落ち着いて、深呼吸をした。
この血の香りが、私を癒やしてくれる。
赤い海に半分沈んだ街だろうと、故郷の懐かしい空気が感じられる。
かつては
沼に足を突っ込んだかのように、動きにくい。
鼻は痛み、目は沁みて、舌の奥で鉄の味がする。
耳には、ずっと漣の音が纏わりついている。
それは大陸から溢れる血潮の満ち引きの音だ。
遠くから響く悲鳴も合わさって、一つの音楽となっている。
――私の日常の音が、さざめく心を落ち着かせてくれた。
ただ、その心地いい生活音の中には、耳慣れない雑音も少し混ざっていた。
妙に訛りの強い少女の高い声。
私の目の前で、同じく血の海に浸かった黒髪赤目の少女クウネルが喋る。
「――あ、あのー、会長? その『血の人形』、他のやつみたいにドロドロっと消えていませんよ? じぃっと、あてたちを見てますよぉー? さっきから、ずっとー!!」
ク、クウネル……?
この人が、
いま私を指差して震える少女が、本物の上位魔人であるとわかり、少しだけ興奮する。
どうやら、カナミと《ディスタンスミュート》で繋がったことで、知識が少し共有されたようだ。
おかげで、ここにいる『一次攻略隊』のことも、私が目覚めた場所もわかる。
いま私たちは、人類が防塁を築いていた場所より一日突き進んだ地点にいる。
本来の地図ならば、レギア国の首都を示しているあたりだ。
「クウネル、気にしないであげて。彼女は、
そして、そのクウネルに答えたのは、『一次攻略隊』リーダーのカナミ。
一歩退いた私から視線を移して、隣のクウネルを安心させるべく笑いかけている。
「あ、当たりってなんじゃい!! 正直、会長の言う当たりって、嫌な予感しかせえへんでぇ……」
しかし、むしろカナミの笑顔は、クウネルの不安を加速させてしまったようだ。
怯えるクウネルに向かって、私は脅威がないことを伝えようとする。
「(――心配は、要りません。私はどこにでもいる
ここは研究院内ではない。
けど、お客様を歓待する職員のつもりで、拙いながらも敬語を必死に使い、彼女の心配を取り除こうと努力した。
「は……? え? もしかして、『血の人形』さん。いま、あてに何か言ってる?」
「(はい。いま、あなたに言っております。私はただの清掃員ですので、気軽に清掃員さんと呼んで下さい)」
「え、え? わ、『私は柄付き雑巾に液体モップ』……? 『口に含んだ夕焼けは校庭中――ってぇ、なんじゃそりゃあ! 何言ってんの!? 怖いわぁ!」
だが、その必死なコミュニケーションは、虚しくも空を切る。
言葉が正常に伝わってくれていない。
私が発した言葉とは別のものを、クウネルは聞き取ってしまっている。
悲しいことだが……、どうやら、彼女もかつての研究院の人たちと同じようだ。
この血生臭い環境に頭をやられてしまい、言語能力に異常をきたしている。
これは非常に困る――と思った矢先、隣から助け舟が出される。
「クウネル、彼女は『ただの清掃員だから、心配要りません』って言ってるよ。清掃員さんって、気軽に呼んであげて」
「いや、絶対そうは言ってませんって! あて、耳がいいんで自信あります! 明らかに、いま、『私は柄付き雑巾に液体モップ』って言いましたよ。……会長、まじで怖いんで、そういう出来の悪い怪談みたいな冗談はやめましょう」
カナミが私の言葉を伝え直してくれたが、それをクウネルは信じようとしない。
どれだけ信用ないのだろう、この人。
「クウネル、こういうことで僕は冗談なんて言わない。ここに来てから、ずっと僕は本気だ」
「……マ、マジ? いまの話はマジで、この『血の人形』と会長は波長が合ってらっしゃる?」
「いや、それはちょっと違うかな。同じ人生を追体験して、少し彼女への理解が増しただけだよ」
辛抱強く説得し続け、とうとうクウネルが折れた。
私がカナミとだけ意思疎通できているとわかり、彼女は信じられない様子で周囲を見回す。
『一次攻略隊』のメンバーは残り二人。
「本当らしいな。深く考えると頭が痛くなりそうだが……」
「そ、そんなことよりも、気持ちが悪いわぁ。カナミ、『びにーるぶくろ』を、もう一つ……」
こちらの二人も、私の言葉がわからないようだ(そもそも、シスのほうは気分が悪すぎて、私の存在にすら気付いていないかもしれない……)。
非常に残念なことだが、この探索パーティーで正気を保っているのはカナミだけのようだ。
上位魔人のクウネル、『無の理を盗むもの』のセルドラ、使徒のシスという贅沢なメンバーでも、この環境には耐えられないとわかり、少し落胆する。
やれやれと肩をすくめる私を見て、カナミは苦笑いを浮かべて話す。
「清掃員さん。もう大体のことは《ディスタンスミュート》でわかってると思うけど、いま僕たちはファフナーに会いに行くところなんだ」
「(……はい、そのようですね。先の追体験とやらで、少し理解できております)」
「その道中、僕は手の届く範囲は助けていってる。君のような『血の人形』は倒すんじゃなくて、《ディスタンスミュート》で繋がって、その人生を読んで、『未練』を理解して、魔法で『夢』を見せてる。……簡単に言うと、念仏唱えて、成仏させて回ってる感じかな?」
カナミは冗談めかすが、それは本当に恐ろしい
つい先ほど彼は誤解なく理解する為に、私の人生を生まれから死まで、きっちりと読みきった。
ざっと十年分ほどの時間を、一瞬に凝縮してから、その脳に叩き込んだのだ。
普通ならば、脳が焼き切れる。
しかも、拷問と陵辱ばかりの私の人生は、凝縮するには暗鬱過ぎる。
だというのに、いま彼は平気な顔をして、私の『幸せ』を案じている。
ふと視線を横にずらすと、血の浅瀬の上にたくさんの肉塊が、ぷかぷかとたくさん浮かんでいる。これが、成仏した『血の人形』たちの残骸なのだろう。
いま見える範囲だけでも、十は数えられる。
一つにつき十年ほどの体験としても、もう彼は百年分も、ここで精神年齢を重ねてしまった。その事実が本当に恐ろしく、私は心配する。
「(あなたは……、その、平気なのですか……?)」
「まだまだ大丈夫だよ。いまの僕の魔力なら、《ディスタンスミュート》は連続で使える。君には『未練』がなかったから、《
胸を叩いて、まだまだMPはあると自慢する。
私は魔力の話でなく、精神の消耗の話をしたのだが、上手く伝わらなかった。
相手が正気だとしても、伝わらないときは伝わらないものだ。
「そう。――清掃員さんには、『未練』が一つもなかった。正直、どうして、こんなところで魂が引っ掛かってるのかわからないほどに、君は立派に人生を生き抜いた。もし
その言葉は優しい。
本当に優しい。
しかし、その黒い瞳を覗けば、底のない深淵が永遠に続いているように感じる。
いま「弔い」と言ったとき、その瞳が何もない宙に向いた。
本来ならば、そこに『切れ目』のようなものがあり、その奥に死者である私は向かうべきなのだろうが……。
「(そっちに行けば、みんなが待っている……?)」
「ああ、待ってる。君の家族たちが、みんな待ってるよ」
吸い込むような漆黒の双眸。
そこには温かな慈愛が満ち溢れていた。
千年前と変わらず、騙そうと思えば、ころっと騙せそうなお人好しに見える。
しかし、違う。
間違いなく、あれから変わっている。
かつて研究院で顔をしかめていた少年が、この『血陸』で一切の動揺が見られない。
多くの『試練』を乗り越えて、心身が鍛え上げられたのだろう。
たとえ、いまここで誰が自殺しようとしても、迷いなく止める決断力がある。
もし目の前で誰かが死んだとしても、静かに看取るだけの精神力がある。
どのような理不尽に直面しても、前だけを見据えて進む実行力がある。
それを確信できる。
この人が、いまからファフナーに会う?
その光景を想像して、どうしてか私は――
「(まだ残ります)」
「そう……。ちなみに、ここの道ってわかる? 見ての通り、すごく迷いやすいところなんだけど」
「(全くわかりません。あの研究院から出たことがありませんし、いま私は目を覚ましたばっかりですので……。しかし、一つだけわかることがあります。この赤い海の漣の発生源に向かえば、『血の理を盗むもの』がいます。千年前も、そうでした)」
「ありがとう、いい情報だ」
「(いえ……)」
すでにわかっていた情報だろうに、カナミは律儀にお礼を言ってくれた。
もう私は、このパーティーの役に立てないとわかり、一歩引き下がる。
そして、自分のことに集中する。
手の平を見たところ、『血陸』と同じように真っ赤だった。
スライム系モンスターが混じっている『魔人』のように、弾力のある液体で身体が構築されている。
人の肉はなくなり、魔法の血だけで動く人形。
先ほどのクウネルが口にした『血の人形』という呼称が相応しい身体だ。
予期せず、私は両親と同じ『魔人』のような存在に近づけたようだ。
ショックはない。
そういう変化・改造は何度も見てきたし、生前の身体と比べると綺麗になったと言えなくもない。
私が新たな身体を揺すったりしていると、少し離れたところにいたメンバーたちの声が聞こえてくる。
「ほ、本当に『血の人形』と会話してたぁぁ……! また会長のやべえやつ度が、ぐんぐん上がってるよぉ……。助けてくださいぃ、シス様ぁ」
「ゆ、揺らさないで頂戴。私、いまそれどころじゃないの。喉まで来てるの」
ビニール袋を持って俯いているシスに、クウネルが助けを求めて抱きついていた。
その後ろでセルドラが、少し自慢げに報告していく。
「クウネル、俺は清掃員の言葉の規則性がわかってきたぞ。たぶん、いまさっきの『血液を齧り数えり場の――』ってのは、ファニアの研究院に関することを話していただろ? 清掃道具あたりに、何か特別なロジックがありそうだ。『モップ』は何度も出てきてるからな」
「セルドラ様は、なーんで素で周波数を合わそうとしてるんすかねえ。ほんと引くわー」
私の言語を理解しようとするセルドラを見て、クウネルは嫌そうな顔をして距離を取った。その仲を取り持つように、カナミがフォローを入れる。
「セルドラ、かなり正解に近いよ。クウネルも、できれば頑張って欲しい。ここの『血の人形』たちの言葉は、確かに難解で、支離滅裂に聞こえるかもしれない。――でも、確かな
「ちょっとな訳ないでぇ。……いやまあ、会長に言われた以上、頑張りますけど」
頬が緩む。
なんだかんだで、仲のいいパーティーのようだ。
この『血陸』でも、家族のように楽しく『冒険』しているのが伝わる。
だからこそ、こちらだけ言葉がわかるというのは、少し寂しいと感じた。
みんなの話に加わろうと思っても、私はたった一人としか意思疎通できない。
「(ファフナーが光神様に入れ込んだのも、ちょっとわかる気がしてきました。教祖様って恥ずかしげもなく、こういうことを素面で言えるから教祖様なんですね。いまのお言葉、とても感動致しました)」
「…………。皮肉じゃなくて、本気で言ってるね。いまのは、そういうつもりで言ったんじゃないんだけど……。でも、そう聞こえるのか。ファフナーと話すときは、気をつけないと」
「(説教がましい人、彼は好きですよ?)」
「僕が好きじゃないんだって」
カナミと歓談する。
だが、それに他の仲間たちは加われない。
またクウネルは怯え、シスの吐き気は増し、セルドラは首を捻り続ける。
私とばかり話すのは良くないと気づいたカナミは、気を取り直して手を叩く。
「よ、よーし。新しい仲間が一人増えたところで、探索を再開しようか! 進行方向は北西! グレンさんが生活している区域まで真っ直ぐ行こう! いつも通り、クウネルは血を押し退け続けて。セルドラは
カナミは調子の悪いシスに近づきつつ、視線を私に向ける。
共に『過去視』をしたおかげで、目と目で通じ合える『繋がり』が私たちにはあった。
視線から「後ろをついて来て」というメッセージを受け取り、頷き返す。
こうして、リーダーの指示を受けて、パーティーは迅速に行動を始める。
先頭にクウネルが立ち、「むっ」と眉間に皺を寄せて、何らかの特殊能力を使用する。
途端に、私たちの周囲の血の水位が下がっていった。
半径5メートルほどの血が干上がるかのように消えて、石畳の街道が露出する。
ぽっかりと赤い海に、丸い穴が空いた感じだ。
それはクウネルを中心にして常に動く安全地帯だった。
歩きやすくなった道を進み始めて、そのすぐ後ろでセルドラがクウネルをいつでも守れるように護衛する。
彼の喉奥では、ソナーとやらを行う怪音が、常に鳴っている。
覚えがある。
千年前、盲目の『魔人』たちが使っていた『
この『血陸』を探索するのに、この二人組ほど向いている人材はないだろう。
どちらの斥候技術も、魔法中心でなく『魔人』としての特性を利用しているのが大きい。
長期的な探索において、魔力の節約は最大の課題だ。
それを二人はクリアしている。
そして、さらに後ろで控えているのは、戦闘において万能で最強のカナミと回復魔法に特化したシス。
この『一次攻略隊』メンバーが本当に理想であることを、私は後方で何度も頷いて納得する。
血溜まりを歩くときのコツなどを伝授しようかと思ったが、その必要性はなさそうだ――と、私が『血陸』の先輩ぶった視線を向けていると、それを先頭を歩くクウネルは感じ取ったようだ。
本当に敏感な人だ。
クウネルは小さな声でリーダーに相談していく。
「いやあ、あの清掃員さんとやら、本当に付いて来ていますね……。会長、このままずっと連れていくつもりですか? あれ、予定にないイレギュラーですよ?」
「あの清掃員さんは『第七魔障研究院』の職員で、ファフナーと面識がある。その上で、ファニアで一番の『幸運』持ちだ。彼女の『里帰り』は、僕たちの為にもなるよ」
「え、『里帰り』をしたがっているんですか? なるほど。それなら、ここから先の道案内で、色々と使えるかもしれませんね。正直、あての頭の中にある地理、ほとんど役に立ってませんし」
「あ、いや、彼女に道案内はできないよ。別に、彼女が『里帰り』したがっているわけじゃないからね。清掃員さんは自分の人生に満足してたし、とても『幸せ』だったから――」
「はあ? なら、なんで――」
私に関する情報の差によって、会話が少しずつ噛み合わなくなっていく。
ただ、その問題が露になる前に、別の問題が発生する。
「おいっ。前方から近づいて来てる。例の『血の人形』が、三体」
索敵を担当したセルドラが報告すると、すぐにクウネルはお喋りを切り上げて、迅速に先頭から離脱する。
シスの隣まで退いて、勢いよく頭を下げる。
「先生方! お
戦闘には絶対関わらないと誓っている動きだ。
その迅速過ぎる動きに、私は苦笑いを浮かべた。
対して、先生と呼ばれた戦闘担当の二人は慣れた様子で、接敵前の計画を立て始める。
セルドラは前方数百メートル先を指差して、カナミに聞く。
「あそこにいる三体だ。……カナミ、俺は問題なく戦える。それでも、またやるのか?」
「まだ余裕あるからね。正直、MPの消費量よりも自然回復量のほうが上回ってるんだよ。《ディメンション》を対策されて使えない分、ここで頑張らないと――」
言い終える前に、カナミは動き出した。
一呼吸で地面を蹴り――、消える。
比喩でなく、本当に消えた。
速過ぎて、私の目では追えなかったのだ。
魔法の発動は感じられなかった。
しかし、魔法のように消えて、気づいたときには前方の人影が四つに増えていた。
私は目を凝らす。
カナミが『血の人形』の胴体に、その腕を突き刺し終えていた。
私のときと同じだ。
魔法の『繋がり』を作って、その人生を読み取ることで『未練』を知り、それを叶えることで、『血の人形』の原動力を失わせようとしている。
すぐに一体の『血の人形』が水風船が破裂するかのように、血の海へ還っていった。
続いて、カナミは二体目に突き刺した。
ほんの一秒ほどで、その圧縮した人生を読み切り、また弾けさせていく。そして、三体目へ――
…………。
あっさりとしたものだ。
『未練』が濃い者には《
おそらく、この『血陸』に魂が引っかかり、自由気ままに生活をしている『血の人形』たちは、この世への恨み言を募らせているだけの死者だ。
その死者の恨み言を
クウネルの広げる安全地帯が戦場に辿りつく頃には、全てが終わっていた。
立っているのはカナミだけで、『血の人形』たちは形を保っていない。
カナミは息を乱しながら、こちらに振り向く。
返り血を浴びて、鮮やかな赤に染まった顔を拭いながら――
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……。ここで頑張らないと、僕が活躍できるところがないから……、やらせて」
全てが終わったあと、カナミは続きを言い終えた。
止める間もなかったセルドラは呆れながら、勝手に一人で出向いたリーダーに苦笑を浮かべる。
「俺は魔力じゃなくて、おまえの心の具合を心配してるんだがな。……あっさりとしたもんだが、毎回何十年分もの人生を視るのは、正気の沙汰じゃない」
「確かに、ちょっと疲れるけど……。余裕があるうちは、
「はあ……。できるだけ、か。それがおまえの望みなら、全力でやるしかないか。やれることをやり切らないと『未練』になるのが、俺たち『理を盗むもの』の辛いところだ」
「そうだね。もう『未練』だけは残したくない」
それにカナミも苦笑を浮かべて応えた。
戦友同士の絆を感じる。
セルドラも私と同じく、カナミと人生を共有し終えているとわかった。
言葉少なくとも、その心は繋がっている。
その二人の後ろで、おずおずとクウネルが手を挙げる。
「あのー、そろそろ本当に休みませんかー? 会長だけでなく、あても疲れてきました。もうかなり歩きましたよ? 赤い霧のせいで、時間もはっきりしないし……」
セルドラがカナミに「心の疲れ」について話したのをチャンスと見て、クウネルは休息を提案する。
そのメンバーからの要求を、リーダーが手を顎に当てて吟味していく。
「んー……。正確には、防塁を飛び降りてから二十三時間十七分と三十秒ちょっと経ってるね。もうそろそろ二日目だ。事前報告どおり、ここは時間感覚がおかしくなるね」
「って、おぉううい!? もうそんなに歩いてんですかぁ!? 会長、早く言ってくださいよ!!」
「誰かがギブアップするまで言わないでおこうと思って。……案外、クウネルって歩けるんだね」
「もー歩けません! すぐ休みましょう! いま休みましょう! シス様もこんなだし!」
クウネルは肩を貸していたシスを指差して主張する。
ただ、当の本人は片腕を掲げて、「わ、私は、まだまだ行けるわよー」と言っている。
その二人を前に、カナミは悩んでいる振りをし続けるのだが、途中でセルドラが話に割り込む。
「カナミ、向こうに休めそうな家がある。探索一日目の終わりは、ここらで丁度いいだろ」
真っ赤な街中にある一つの家屋に目を向けていた。
それを聞いて、カナミはクウネルの要求を了承していく。
「そうだね。まだ『血陸』探索は始まったばかりだ。少し休憩しようか」
そう言った瞬間、クウネルは「やったー、キャンプだー」と喜んで、シスと一緒に空き家へと向かっていった。その後ろをセルドラが慌てて「待てっ、ソナーは《ディメンション》と違って、中を正確に把握できていない! 俺が先頭だ!」と止めつつ、ついていく。
さらに最後尾のカナミも続き――、その顔を横に向けた。
片目だけで私を見て、呟く。
「……それに今日はもう、一番いい『未来』を当てられた」
その言葉の意味は、薄らとだがわかる。
私という
いま、私は傍観者として、このパーティーの後ろを歩いている。
ただ、ついていっているだけだが――、舞台の上に立っている気がした。
手を引かれ、歩かされているような感覚が、確かにあった。
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