314.■■■、■■■■■――

「何を言っているのですか……? 生き残るのがわたくしだけ? 渦波様が本気で戦いさえすれば、負けることは絶対にないでしょう!? あの『魔法』っ! あの未来を改変する魔法さえ使えば、決して負けることはありません!!」


 唐突に敗北宣言をした僕に対して、ノスフィーは僕に勝利の助言を行う。


「いや、あれはもう使ってる。それでこれだよ……。いまから僕は死ぬまで謝り続けるから……。その間、ノスフィーは前に町で言っていた通り、考慮し続けてくれ……。一考してくれるだけでも十分だから……」


 もう僕の勝利はないと断り、話を続ける。

 その行為を理解できない様子のノスフィーは、少し遠くで横たわるラスティアラを指差して、声を荒らげて僕を咎める。


「謝り続けても意味なんてありません! 戦わなければ、わたくしは倒せません! このままだとラスティアラさんが本当に死にますよ!? ラスティアラさんを見捨てる気ですか!? それでいいのですか!?」

「ああ、いい。そのときは僕も一緒に死ぬ。僕たちの負けになるけど、ノスフィーは消えない。だから、いいんだ」

「い、言っている意味が……。先ほどから、わたくしにはよくわかりません……!」


 いま指差されているラスティアラが無事な時点で、絶対に反撃はありえない。

 この乱戦の中、あえてノスフィーはラスティアラへの攻撃を避けていた。その優しい彼女が『未練』を抱えたまま消えることを、僕たちは認めない。


 もちろん、いま僕は自殺しようとしているわけではない。

 僕もラスティアラも、ノスフィーならば・・・・・・・・――と信じているだけだ。

 死のうなんて思っていない。僕たちならば『みんな一緒』に生きて帰って、ノスフィーも含めた全員で幸せになれると信じて――僅かな可能性に命を賭けている。


「……ごめん。ちょっと分かり難かった」


 僕は腰に下げた剣を、心の中で親友に謝罪しながら乱雑に床へ捨てる。


「なぜ、剣を――!?」

「……絶対にノスフィーとは戦わない」

「い、いまっ、わたくしたちは戦っています!! 敵として! わたくしは渦波様の『一番の敵』です! ――《ライトアロー・ブリューナク》!!」


 ノスフィーは戦いを証明するように巨大な光の槍を生成し、僕に向かって投擲した。


 それを僕は避けなければ、魔法で対抗することもしない。両腕で頭部を固めて、真っ向から受け止めようとする。


 光の槍が奔り抜け、右の前腕の肉が抉れ、白骨が露出した。


 無詠唱の回復魔法で腕の傷を治しながら、僕は微笑する。

 回避行動を取らなかったのに魔法は直撃しなかった。


「……違う。ノスフィーは敵じゃない。僕にとっての『一番の敵』は僕だったんだ。千年前の記憶を見て、いまノスフィーと話して、確信した。僕に倒すべき敵がいたとしたら、それは千年前の『始祖カナミ』であって、決してノスフィーじゃない……!!」

「そ、そんなの……! そんなものは言葉遊びです……! 現実に、いま戦っているのに……!」


 ノスフィーは未だに戦おうとしない僕を見て狼狽する。

 その表情から、少しずつ裏から表に傾いている気がした。流石はラスティアラ式の説得方法だ。まだ説得を諦めるには早いことを僕に教えてくれる。


 しかし、そろそろ回避なしの防御だけでは限界が近いので、もしもの場合のことを口が利けなくなる前に伝える。なまじ多くの可能性みらいが見えるせいで、心配事も多い。


「ノスフィー、ライナーにはそれとなく頼んである。僕とラスティアラが死んでしまったときは、ライナーと協力してラグネと陽滝を救ってあげて欲しい。それから、陽滝と共に新しい人生を歩んでくれ。父親の『一番』は無理だったとしても、陽滝の――母親の『一番』を目指して、人生を生き切って、『未練』を果たして……。どうか、笑顔で終わって欲しい」

「勝手に……! 勝手に話を進めないでください! まだ敵の話は終わってません!」


 互いの話のずれ具合にノスフィーは顔を青くして、目に見えて焦りを加速させていく。何度も首を振って、何度も歯噛みして、最後に顔と声を明るくする。


「……い、いやっ、これは脅し! わたくしを脅してるんですね!? そうです! 駆け引きです! これは戦いの駆け引きでっ! わたくしを攻略するための渦波様の作戦!!」


 ノスフィーは光の旗を地面に突き刺し、赤い剣を両手で強く握り締める。

 そして、いま持つ力の中で最も強いものを選択する。


「ならば、わたくしが使うべきは魔法ではない! ――本当の『魔法』!」


 剣が赤く発光する。

 『血の理を盗むもの』の必殺の魔法が発動しているのだろう。

 その赤を見るだけで足が竦み、逃げ出したくなる。その切っ先が近づくだけで悲鳴と涙が出そうになる。その刃が触れることを想像しただけで発狂しそうだ。


 しかし、僕は踏みとどまる。


「いざとなれば渦波様と言えど、絶対に! 絶対に――!!」


 ノスフィーが自分に言い聞かせるように叫びつつ、その剣を真直ぐ前方に構えて、突進してくる。


 稚拙も稚拙。それは剣術どころか攻撃かも怪しい突きだった。

 子供でも簡単に避けられるだろう。


 だが、避ければノスフィーが傷つく・・・


 いま一番に優先すべきはノスフィーだ。

 『自分』でも『運命の人』でもなくて、『ノスフィー・フーズヤーズ』だ。

 そう僕が思っていることを、ノスフィーに信じてもらうためにも僕は動かない。


 ――そして、いま、その【二度と戻らない】という『理』が僕の腹部を貫く。


「ぐっ、うぅぅ……!!」


 赤い剣が血の赤に染まり直っていくのを、僕は自分の両目でよく確認した。

 この恐ろしい剣を一歩も動かずに受け入れた自分を褒めてやりたい。


 その軽く微笑を浮かべている僕に対して、ノスフィーの口元は歪みきっていた。


「な、なんで……!? 治らないんですよ……! 渦波様っ、これ! これは治らないんですよ!?」


 慌ててノスフィーは剣を腹部から抜く。

 その傷口から、どろりと大量の血液が流れ出す。それを見て、敵であろうと毅然に努めていた表情が完全に崩れ去っていく。


 狼狽の頂点に達したであろうノスフィーは両目を忙しなく動かして、助けを求める。


「誰か……! ラ、ラスティアラさん! 渦波様が避けてくれなくて! それでっ! ラスティアラさんっ!!」


 いましがた自分が刺した相手を頼ったことから、本当に混乱しきっているのがよくわかる。

 当のラスティアラは大量出血で意識が朦朧として、返事ができない状態だ。声を出せない彼女の代わりに、僕が答える。


「ファフナーに頼めば治る傷だから大丈夫だよ……。それに、もし間に合わなくても問題ない。ラスティアラも僕も、おまえのためなら死んでもいいって思ってる。おまえを『一番』に考えてる。全部わかった上でその剣を受けてるから、何も心配しなくていい……」


 ラスティアラだけじゃない。

 僕自身よりもノスフィーを優先する。


 その僕の返答を聞き、ノスフィーは震える。

 限界一杯まで眉をひそめて、距離を取っていく。


「こ、こんなのっ、狂ってます……! お二人とも、狂ってます……!」

「違う……、僕たちは正気だよ。正気でずっと話してる。そして、心の底から思ってる。本当にごめんって、嘘偽りなく謝りたいって思ってる……! それだけは信じて欲しい……!!」


 証明する為に一歩前に出る。

 しかし、腹の傷が深く、上手く距離を縮めきることはできない。どれだけ傷を手の平で塞いでも、出血は止められない。


 一歩だけで焼き鏝で腹の中を掻き回されている様な痛みに襲われる。僕が痛みに耐え切れても、身体が本能的に制止を選択してしまいそうになる。

 しかし、僕は身体の反射を抑え込むのには慣れている。

 強引に二歩目を進む。


 謝罪の言葉を少しでも近くで届けようとする。

 その僕の二歩目を見たノスフィーが止めるように叫び返す。


「あ、謝りたいのはわかってます! わかってますし、もう許します! だから、どうか止まってください! そもそも渦波様は謝る必要はないのです! わたくしは悪い子でっ、この千年後の世界で、たくさん悪いことしてきました! ティティーとアイドに手を貸して、あなた様を困らせました! このフーズヤーズで色んな人を利用して、その心を魔法で変えました! このままわたくしを放っておけば、わたくしの偽りの平和の光が世界を侵略していくことでしょう! わたくしはっ、この世界にとって最悪の敵と言えるほど、悪いことをしてます!! そんなわたくしに謝る必要なんてっ、一つもありません!!」


 僕が謝らなくていいなんてことは、絶対にないだろう。

 ただ、そのノスフィーの優しさからこぼれた「許します」という言葉によって、少しだけ心は楽になる。僕は顔を少し俯け、やっと聞けた言葉を噛み締める。


 その間も、ノスフィーは僕を止めようと必死に叫び続けていた。


「――謝るのではなく、敵であるわたくしと戦ってください! 恨んでっ、憎んでっ、殺してください! 渦波様がすべきことは、悪を討つことです! この光で人々の自由を奪いっ、偽りの幸せを広げる最悪の敵っ、『光の理を盗むもの』を討つこと! それは渦波様にしかできません! ――なにより、いますぐわたくしを倒さないとお二人が死んでしまいます!! 渦波様っ、死ぬのですよ!?」


 僕は三歩目を進みながら、そのノスフィーの言葉を聞く。


 胃から汲みあがってくる血液が邪魔で仕方ない。

 しかし、決して言い間違えないように僕は答える。ノスフィーに許しの言葉を貰ったいましか、これは言えないことだ――


「そうだね……。確かにノスフィーは、千年前と比べて悪い子になったと思う……」

「そうっ、悪いのは全てわたくし! わたくしは倒すべき悪い敵! だから、いますぐ――」

「けど、いいんだ。悪い子だとしても大目に見る。――ノスフィーは『娘』だからね」


 許し合えるタイミングだけは逃さずに、娘であると繰り返す。

 特別だと告げる。たとえノスフィーが世界を滅ぼそうとしていても、決して僕もラスティアラも戦わない。むしろ、味方につくだけの準備がある。


 その大雑把過ぎる敵味方の識別方法を聞いたノスフィーは呆然とする。

 そこへ向かって僕は四歩目五歩目を進み、叫ぶ。


「ああ、僕が言いたいのはそれだけ……! それでも、僕はノスフィーを一番に優先する! 何があっても味方ということだけなんだ……!!」


 そして、僕は手を差し伸べる。

 腹部の致命傷のせいで、その動きは拙い。

 けれど、絶対に方向を間違えることはない。横たわるラスティアラでもなく、腹の傷口でもなく、ノスフィーに手を向ける。


「し、信じません――! わたくしは――!!」


 六歩目七歩目八歩目と進む僕から、ノスフィーは逃げるように後ずさる。

 その手が信じられず、瞳を揺らし続け、唇を震わせる。


 どうか信じて欲しいと僕は九歩目十歩目と歩き続け――そこで足元から力を失い、僕は膝を突いてしまう。

 おびただしい出血の中、ぼやける視界の先にいるノスフィーを讃える。


「……ノスフィーの勝ちだ」


 もう限界だ。

 血を含めた何もかもが空になる寸前だ。

 昼間から続く連戦に、突入前に『未来予知』などの大魔法の連発。この四十五階では無防備に『理を盗むもの』たちの各属性の魔法を食らってきた。その結果を『表示』させる。



【ステータス】

 名前:相川渦波 HP4/543 MP10/1514 クラス:探索者



 残り一桁。百分の一以下の命。

 むしろ、いまの十歩が奇跡と言っていいだろう。

 動かなくなった僕を見て、ノスフィーは弱々しい声で否定する。


「いいえ、渦波様が負けるはずありません……。だって、渦波様は最強です……。わたくしが勝てるはずないんです……。絶対に……」

「僕の『魔法』だと、僕がノスフィーに勝つ未来なんて一つもなかったよ……」


 なぜなら、勝ち負け以前に僕はノスフィーと戦えない。

 それを信じて欲しい。

 信じてもらえると信じて、僕とラスティアラはここまで来たんだ。

 僕たちの間にも絆はあると信じて――


「む、娘だからですか……? そんなのおかしいです……! だって、わたくしを娘と思う義理なんて渦波様にはありません! 一つもありません!! 使徒の計略で勝手に生まれて、いつの間にか生きていた『魔石人間ジュエルクルス』! そのわたくしを娘と思う理由がない!! 一つも!!」


 ノスフィー側から思いがけない言葉が返ってくる。

 少し誤解があったかもしれない。


「違う、ノスフィー……。娘だからってのが先じゃない……! それ以前に僕は、ノスフィーが・・・・・・ノスフィーだから・・・・・・・・、ノスフィーを助けたいって、そう思ってるんだ!!」


 順番が違う。まず僕が思ったのは、ただノスフィーを助けたいという気持ち。

 『娘』は最終的な答えでしかない。

 その誤解が残ったまま、終わるわけにはいかない。


「ノスフィー、僕は視てきたんだ……。どれだけノスフィーが頑張ってきたかを視た。そして、ノスフィーがどんな気持ちで生まれて、どんな気持ちで僕と出会ったかも視た。だから――!」


 血溜まりの中、僕は立ち上がる。

 限界を超えて魔力を振り絞る。


「か、過去を見たとしても、あのときのわたくしはもうここには――」

「大丈夫、いまも見てる……! いまのノスフィーを僕は見てる! もう見失ったりしない! 二度とっ!」


 振り絞って喉から声を出す。

 そして、十一歩目を踏む。続く十二歩目を進み、近づいていきながら、最後の魔力を魔法に変換していく。


「ノスフィー、お願いだ。これが僕の最後の魔法だから、この手を掴んで欲しい――」


 もう勝負はついている。ノスフィーの勝利だ。だから、何があっても逆転はない――それを前提にして、魔法をかけさせて欲しいと正面から強請る。


 僕は傷口を手で抑えるのを止める。

 そして、右腕に残った全魔力を集め、《ディスタンスミュート》を発動させた。

 その微かに紫に発光する右腕を彼女に差し伸べる。


「ノスフィー、遅れてごめん……。本当にごめん……」


 本当に遅い。

 このフーズヤーズ四十五階、大広間。

 ノスフィーと僕が初めて出会った場所に、やっと僕は帰ってきた。


 本当に長い時間がかかったけれど、ここは作り直されただけの場所だけれど、もう手遅れだとわかっているけれど――それでも謝りたい。この手を差し伸べたい。


 身体は血まみれで、もう一歩も前には進めない。

 もう死の間際だけれど、僕はノスフィーのことだけを考えて、ノスフィーのことだけを見て、ノスフィーに向かって手を――伸ばす。


「渦波様……」


 ノスフィーは名前を呼び、僕と同じように右手を持ち上げる。

 震えながらもゆっくりと、不安げに恐る恐ると。

 その差し伸ばされた手を、手に重ねた。


 ――《ディスタンスミュート》が発動する。


 しかし、その少ない魔力と瀕死の身体で発生する『繋がり』はか細い。

 ゆえに届くのは、たった一つ。一つだけ。


「僕はノスフィーに生きて欲しい。そして、幸せになって欲しい。この命に代えてでも・・・・・・・・・


 命を失っても、助けたい。

 この理不尽な世界の中、悪夢に苛まされ続けたノスフィーを助けたいと思った。

 心を繋げて、それだけを伝える。

 苦しみ自殺しようとする『娘』の手を強く強く握り締め、どうか生きて欲しいと僕は願い続ける。


「くっ、うぅうっ……!!」


 ノスフィーは歯を食いしばって、喉の奥から声にならない声を漏らした。


 いま僕の気持ちは誤解なく伝わっただろう。

 《ディスタンスミュート》の魔法の効果だけではなく、ここまで積み重ねた言葉によって届いた実感がある。


 そして、ノスフィーの声は膨らむ。

 どこまでも声は震え、掠れ、裏返り――軋むような慟哭を発する。


「うぅ、ぁああ――あ、ああぁあ、ぁあああぁああ、ぁあアアアアァア――!」


 その果て、ノスフィーは膝を地面に突く。

 その手に握った『ヘルミナの心臓』を床に落とす。


 ノスフィーは剣で斬られたわけではない。魔法を食らったわけでもない。けれど、先ほどの僕と同じように立っていられなくなっていた。


 このフーズヤーズ城の四十五階で、僕は攻撃ではなく言葉だけを投げ続けた。

 その話し合いの力が、いまようやく通じたのだ。


 ノスフィーに合わせて、僕も瀕死の身体で膝を突く。

 目線の高さが合い、互いの瞳の中に互いの姿が映る。


 本当の意味で向き合う。


 やっと親と子が、初めての出会いを果たすかのように。

 やっといま一人の少女が世界に生まれ落ち、この明るい世界を目にしたかのように――


「ぁあ、ぁああ……。わ、わたくしは……! わたくしは……!!」


 ノスフィーの声と共に、未来の変わる音も聞こえてくる。

 回り続けていたコインが倒れる音だ。


 そのコインは裏から表に――


「わ、わたくしはお父様を・・・・……」


 それを証明する言葉が、ノスフィーの口からも発せられる。

 同時に僕たち二人の目尻から涙が一筋落ちる。



 ――辿りついた・・・・・



 この呼称のために、ラスティアラと僕は命を懸けた。

 成功の『未来』の枝に収束していくのを感じる。

 死の間際までノスフィーとの絆を信じ続けたことで、僕は最良の結果を引き寄せた。

 あの未来。朝陽が出ると同時に『みんな一緒』にハッピーエンドの未来に。

 いま、固まった。


「わたくしもお父様と一緒に……! みんなとも一緒に、本当は……!!」


 ノスフィーに手が届いた。信じてもらえた。絆を得た。

 千年前にはできなかったことを、いまの僕ができたのだ。嬉しいに決まっている。


 結局、戦いは起こらなかった。

 最後まで話し合えた。

 そして、それを可能にしたのは強さではない。心の成長でもない。


 ――僕という存在の根本的な変化だ。


 そう、僕は変われたのだ。

 生まれ持った悪癖を乗り越え、『次元の理を盗むもの』や『代償』にも負けず、自分の選んだ道を進みきった。

 あの最低最悪の『相川渦波』を、自分自身の力で是正できたたおせた


 だから、いまノスフィーが僕の手を握り返してくれている。

 この最低最悪だったぼくを許してくれている。


 誇らしく、目尻と口元が緩む。

 本当に勇気を出してよかった。

 恐れずに勇気を出して、命を懸けたからこそ、この最上の結果を得られた。

 だから、感謝したい。

 そう、僕に勇気をもたらしてくれた彼女・・に――



「――チッ・・



 その彼女・・の顔を浮かべた瞬間。

 その彼女・・の舌打ちが聞こえた。


 ――気の緩み。


 原因は間違いなく、《次元決戦演算ディメンション・グラディエイト先譚リアライズ』》。

 未来が視えるせいで・・・・・・・・・、あれだけ戦いの後の隙を警戒していた僕が、余りにどうでもいい自賛の言葉を頭に浮かべてしまった。


 これが最後だからと、もう他に敵はいないからと、『未来視』で確認済みだからと、完全に成功の未来に入ったと、自分を褒めた――


 ――その隙を彼女・・は的確に突く。

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