188.セーブポイント『迷宮の孤島』


「あ、待って待って。今日はわらわもついていくよ」


 二人して外へ出ようとするのを、ロードが止める。

 驚くことに、ライナーと話していた短い時間でテーブルに並んでいた全ての料理をたいらげていた。


「ロードもついてきてくれるのか?」

「だって、あそこで戦うんでしょ? 風の魔法使いじゃないかなみんじゃあ、死んじゃうかもしれないからね」


 とても軽い様子で僕の死を告げる。例の六十六層というところは、それほどまでに危険なところなのだろうか。

 ライナーはロードの同行に嫌そうな顔で答える。


「キリストは僕が飛ばす。別におまえはついてこなくていい」

「と、飛ばす……?」


 物騒な言葉が飛び交うので、それの意味を問う視線を二人に投げる。


「六十六層は『空』だからね。壁も迷路も、何もない『空』」

「その『空』にいるドラゴンがやっかいなんだ。もう何度も戦ったが、攻略の目処が全く立たない。だから、キリストを僕は待っていたんだ」

「『風竜エルフェンリーズ』ちゃんだねー。んー、なつかしー」


 六十六層の空には竜がいるらしい。

 それも、いまのライナーでも「攻略の目処が全く立たない」とまで言わせる竜だ。


「行こう、キリスト。僕たち二人でドラゴンを狩ろう」

「竜か……。任せて。これでも『竜殺し』って呼ばれてるらしいからね」


 ライナーが握手のため、手を差し出した。それを僕は強く握り返した。



【パーティー】

 ライナー・ヘルヴィルシャインが加入しました



 そして、『表示』が視界に写る。


 このシステムを考えて作ったのは僕だと思うと、急に恥ずかしくなってくる。にやけた顔で黙々と『表示』の魔法を開発しているのが目に浮かぶ。


 本当にゲームっぽい演出が好きだな『始祖カナミぼく』……。


 とはいえ、この『表示』が合理的であるのも確かだ。これのおかげで助かった場面は多い。


 そして、加入のついでにライナーのステータスを確認する。



【ステータス】

 名前:ライナー・ヘルヴィルシャイン HP369/369 MP102/246 クラス:騎士

 レベル25

 筋力12.24 体力9.21 技量10.56 速さ15.34 賢さ12.00 魔力9.89 素質3.87

【スキル】

 先天スキル:風魔法2.01

 後天スキル:神聖魔法1.25 剣術2.34 血術1.00 最適行動1.22 不屈1.02



 真なるレベルアップを経て、ライナーはラスティアラたちにも見劣りしない人材と進化していた。ハイリの魔力と魂を吸収したおかげか、格段にステータスが上昇している。

 

 才能に恵まれ、性格は(他の仲間たちと比べて)まとも。何より頼れる同性であることが最高だ。ようやく、まともな仲間が入ったような気がする。


 後ろで「わらわも仲間、わらわも仲間!」と騒ぐ守護者ガーディアンを置いて、人知れず感激しながら僕は食堂レストランの外へ出る。


 迷宮へは街の端から向かうらしく、僕たちは街中を横切っていく。

 その途中、自身のステータスを確認する。



【ステータス】

 名前:相川渦波 HP293/293 MP945/945 クラス:探索者

 レベル22

 筋力12.55 体力14.11 技量18.57 速さ22.96 賢さ18.67 魔力38.34 素質6.21

【スキル】

 先天スキル:剣術3.79

 後天スキル:体術1.56 次元魔法5.27+0.10 感応3.56

       編み物1.07 詐術1.34 魔法戦闘0.73 鍛冶0.69



 パリンクロンと戦っていたときは文字化けしてたステータスが元に戻っていた。戦闘が終わり落ち着いたことで、ようやく『表示』が追いついたように見える。


 そして、陽滝の魔石が抜けた影響を再確認する。スキルは最後に確認したときと変わっていない。だが、他の数値には変動が出ている。

 まず絶対に変わるはずのない素質が少し削れているのが目につく。それにともなって、魔力の値も減少している。ただ、これが陽滝の魔石が抜けた影響ならば、余りに少ないと感じた。

 理由を考えてみるが、心当たりは見つからない。悪いことではないので悲観することではないが、正直に喜ぶこともできない。


 最後にレベルが上がっているのも確認する。ライナーにそれとなく聞いたところ、寝ている間に、治療の一環でレベルアップも済ませたらしい。レベルアップできる状態のままにしておくのは危険だとロードが助言したようだ。


 こうして現状の確認を行っている内に、僕たちは目的の場所へと辿りつく。

 そして、その非現実の極まった風景に唖然とする。


 街の端――大地の端は途切れ、崖となっている。遠目で見ても恐ろしかったが、近くで見るとより恐ろしい。

 下を覗き込めば、どこまでも続く黒い闇。石が一つカラっと落ちたが、すぐに音もなく闇へ吸い込まれる。反響音は一つも返ってこなかった。底のない谷であると理解して、背筋が凍る。


 その崖は街を囲むようにぐるりと伸びている。おそらく、遠くから見れば、黒い空に街が浮かんでいるように見えることだろう。


 そして、崖の手前にぽつんと紫色の《コネクション》が一つ立っているのを見つける。

 その《コネクション》の完成度は異常だった。僕の作る扉とは、見るからに密度が違う。触れれば消えるような脆さなど微塵も感じさせず、聳え立つ山のような安心感があった。


 高位の次元魔法コネクションに、さらに高位の次元魔法が重ねがけされているようだ。何らかの魔法で、空間ごと固定されているのだろう。この扉が壊れることは永遠にないと、次元魔法使いであるゆえにわかった。


「行くぞ、キリスト――」


 その《コネクション》を通って、僕たち三人は例の六十六層へと侵入する。

 迷宮の裏側から表側へと次元を跳躍し、懐かしい迷宮へと帰る。


 扉の向こう側に待っていたのは、一面に広がる草原だった。

 迷宮の中だというのに、風が吹きすさび、背の低い草が揺れる。少し薄暗いが、それでも地上と見間違えそうになるほど開放感がある層だった。

 視界を遮る障害など一つもない――と思ったが、それは違った。草原の真ん中に塔のような細い螺旋階段があった。

 最低限の迷宮のていをなすかのような、申し訳程度の階段だ。


 これが空の階層――


「ここが六十六層……。何もないね……」

「ああ、上を見てくれ。見ればわかる」 


 ライナーに促され、僕は空を見上げる。

 一瞬、何を見ればいいのかわからなかった。

 それほどまでにそれは巨大すぎた。全体を把握するのに時間がかかったのだ。


 そのにび色を、初めは迷宮の天井かと思った。

 だが、すぐに違うとわかる。その鶯色の天井は動いていた。まるで生き物のように。


「え、もしかして……」

「ああ、あれが六十五層への道を阻む竜。『エルフェンリーズ』だ」


 雲よりも巨大な生物が、悠々と飛行していた。

 遠くを飛んでいるというのに、首を大きく動かさなければ、その生物の翼を見つけることはできなかった。


 息を呑む。

 少し前、僕はドラヴドラゴンという名の竜を殺した。

 スノウ・ローウェン・リーパーという、いま思えば万全の布陣で、危うくなりながらも倒したのは記憶に新しい。


 しかし、あの難敵だったドラヴドラゴンと比べても、この竜は桁が違う。



【モンスター】エルフェンリーズ:ランク67



 ランクはドラヴドラゴンの二倍以上。そして、体長は十倍以上――いや、下手をすれば五十倍近くはある。

 討伐に現実味があったドラヴドラゴンと違い、このエルフェンリーズは倒す瞬間をイメージすることすらできない。嵐や地震といった自然の災厄を相手にしている感覚だった。


「見てのとおりだ。でかすぎる体に、でかすぎる魔力。風竜だから、空中戦は最高クラス。さらに、風魔法も使ってくるから、速度と感知能力も最高クラス。知能は高く、戦いの駆け引きを理解している。その上、一切慢心することもない。そんな化け物が、六十五層への階段を守ってるんだ」

「な、なるほどね……」


 ただのボス部屋だった。

 別に守護者ガーディアンだけがボスだとは誰も言っていない。長い百層の中には、こういう層もあるのだろう。


「先にちょっと情報収集させて。――魔法《ディメンション》」


 とりあえず、次元魔法で階層全体を把握する。

 六十六層の空間を僕の魔力で満たしていくことで、すぐに全容を把握することはできた。


 直径二十キロメートルの草原が広がっており、石の壁と天井に囲まれている。高さは一キロメートルくらいだろうか。必然と螺旋階段の長さも、そのくらいになる。そして、中央の螺旋階段があるところの上下に、各階層へ続く穴が空いている。この閉鎖空間の出入り口は、その二つの穴と背後にある《コネクション》だけだ。


「これ、六十七層したへは行けるの?」

「ああ、下へ行く分には何も障害はない。ただ、下へ行っても、もっとでかい竜が二匹いるだけだぞ?」

「そ、そう」


 いま下へ行くメリットはない。いつもと違い、僕たちは『最深部』ではなく『地上』を目指さないといけない。


「ん、んー……。それじゃあ、とりあえず近づいてみようか」

「登る途中で襲ってくるから気をつけてくれ」


 ライナーは期待している目で僕を見ている。まさか、あの竜に僕が一方的に勝利するとでも思っているのだろうか。

 もちろん、様子見での挑戦である。


 竜のせいでゴゴゴと効果音の鳴っていそうなの空の下を進み、石造りの頼りない階段まで辿りつく。

 すぐに僕たちは階段を登り始める。僕は『クレセントペクトラズリの直剣』、ライナーは『アレイス家の宝剣ローウェン』と『ルフ・ブリンガー』を手に持って、いつでも迎撃できる状態だ。ちなみにロードは徒手空拳で登っている。


 そして、いくらか階段を進んだところで、ライナーが戦闘開始を促す。


「キリスト、そろそろ来るぞ――!」


 僕も《ディメンション》でわかっていた。宙に浮かぶ巨大竜が身体を捻じ曲げ、その頭部をこちらへ向けていた。太陽と見紛う巨大な瞳が二つ、僕たちの姿を映している。

 同時に、竜が強大な魔法を構築していることも感じ取る。ただ、《ディメンション》で感じ取ることはできても、『魔法相殺カウンターマジック』はできない。そのイメージに必要な氷結属性の魔力を生成できないからだ。


 まず、ゆっくりとエルフェンリーズの翼が動いた。それだけで魔力の含んだ嵐が巻き起こる。干渉することすら困難な『竜の風』が僕たちを襲い掛かり、動きを封じ込められる。そして、そこに追撃される本命の攻撃。


「――ァアガァアァガアア゛ア゛アア゛!!」


 山よりも大きな竜が、恐ろしい速度で突進してくる。

 ただの体当たり。低階層のモンスターの常套攻撃手段だ。


 だが、六十六層にまで至れば、規模がまるで違う。普通のモンスターが使えば稚拙な攻撃だが、相手が山より大きな巨体ならば話は別だ。それだけで人には抗えぬ無慈悲な暴力となる。


 対応する暇もなく、階段へ竜の巨体は直撃する。

 もちろん、翼からは『竜の風』が生成され続けている。炸裂弾のごとく風は吹き荒れ、砂糖菓子を砕くかのように階段を解体していく。


 風に襲われ、足場を失い、宙へ放り出される。

 常人ならば死を覚悟をする状況だが、ここにいる三人はとても冷静に次の行動へ移っていた。


 崩壊する瓦礫に張り付き、ライナーは足場を確保している。ロードは羽を広げて飛んでいる。味方の無事を確認して、僕は攻勢に転じる。


 落ちる階段の破片を蹴って、空を翔る。

《ディメンション・決戦演算グラディエイト》がある限り、足場を踏み外すこともなければ、重心のバランスを間違えることもない。地上であるかのように空を走り、竜へと近づいていく。


 僕の速度は風よりも速い――と錯覚するほどある。それだけの身体能力を僕は持っている。その速度のまま竜の視線を切り、死角へと入り込む。ただ、急所を選ぶほどの余裕はない。

 無造作に竜の背中へ、剣を突き立てる。


「――っ!?」


 しかし、甲高い音が鳴り響くだけ。

 僕の渾身の突きは、エルフェンリーズの鱗を貫くことはできなかった。むしろ、ダメージを受けたのは僕のほうだった。返ってきた衝撃で手が痺れる。


 剣が全く通らないとわかり、僕はもう一度空を翔る。

 落ちていく瓦礫の中からライナーを見つけ、声をかける。


「ライナー! ちょっと剣を換えてくれ!!」


 この展開を予測していたのか、ライナーは迷うことなく『アレイス家の宝剣ローウェン』を放り投げる。代わりに、僕は『クレセントペクトラズリの直剣』を投げ返し、装備交換を成立させる。


 そして、もう一度同じ手順を繰り返して、エルフェンリーズの鱗を突破しようとする――が、これも駄目。巻き直ししたムービーのように、また弾き返される。


「か、硬すぎる! タイム! ちょっと一旦逃げる!!」


 僕が使える攻撃手段は限られている。

 剣による攻撃か、氷結魔法による攻撃。二つしかない。

 次元魔法に直接的な攻撃能力がないため、他の仲間たちと比べると、どうしてもバリエーションが少ない。


 そして、いまの僕は氷結魔法が使えない。ローウェンで斬りつけても駄目なら、逃げるしかなかった。

 有効な攻撃手段がないと知り、逃亡を選択する。


 しかし、その背中に放たれるエルフェンリーズの魔法。

 竜のアギトから無数の風の球体が放たれる。

 おそらく、風属性の基礎に当たる魔法だろう。本来ならばバスケットボールほどの大きさのはずの魔法は、隕石のごとく空から降り注いでくる。


「ァガアア゛ア゛アア゛――――!!」

「――風魔法《ワインドウィング》!!」


 呼応してライナーが魔法を使う。

 瓦礫に張り付いての様子見を止めて、風をまとって空へと飛び出す。魔法名通りにウィングを背中に生やすわけではないが、身を包む風の衣が重力を無視し始める。飛ぶというよりは、跳躍の力を活かす魔法のようだ。


 僕の手を掴んでライナーは飛ぶ。

 襲い掛かってくる風の球体を避けつつ、地面を目指して翔る。


 そして、落ちる瓦礫と同時に地面へと戻ったところで、安全圏でぱたぱたと飛んでいたロードが帰ってくる。

 にやにやした顔で僕の感想を待っていた。その期待に応えて、僕は存分に弱音を吐く。


「ランク的に強いとは思ってたけど、ここまでとはね……。まるで勝ち目がない……」


 空を見上げて、顔を青くする。

 悠々とエルフェンリーズは空を泳いでいる。どうやら、空に近づくやつだけが敵であり、地上に落ちたものには興味がないようだ。


「なあ、キリスト。あんたの氷の魔法でなんとか落とせないのか?」


 しかし、まだライナーは僕に期待してくれているようだ。

 確かに、僕の氷の大蛇の魔法なら、飛んでいる敵相手に有効のように見える。もし、まだ使えるのならいますぐ試すところだろう。


「えっと、その、言い難いんだけど……」

「どうしたんだ。パリンクロンのやつに叩き込んだ氷結魔法があれば、あいつを地面に落とすなんて簡単じゃないのか?」

「使えないんだ」

「え?」


 もったいぶっても仕方ないので素直に白状する。


「氷結魔法は妹に持っていかれたから、いまの僕は次元魔法しか使えないんだ……」

「次元魔法しか使えない……? な、なら、いまは何ができるんだ?」

「さ、察知とか転移とか?」


 いま僕が自信を持って使えるのは《ディメンション》《フォーム》《コネクション》の三つだけである。

 ぶっちゃけると攻撃力が皆無だった。


 それを知ったライナーは期待の目を落胆の目へと変える。


「それ、ただの索敵役レーダーじゃないか……」

「ご、ごめん。いや自分でもびっくりだ。妹なしだと、こんなに僕って平和的な能力なんだね……」


 補助特化の魔法使いになってしまっているのがわかる。もしくは生産担当の非戦闘要員だろう。

 もし、ローウェンとの修行で剣術スキルを鍛えていなければ、本当にただの索敵役レーダーになっている。


 ただ、よくよく考えれば当たり前のことだった。

 各々の先天的な才能は本人の性格を反映していることが多い。

 僕一人の『魂』だけならば戦闘用のスキルがないのはよくわかる。そして、陽滝が超攻撃的な才能の持ち主であったこともよくわかる。


「そ、そうか……。キリストなら何とかできるって思ってたんだけどな……」


 ライナーは僕を責めはしない。平和的な能力であることは褒めこそすれ、責めるべきものではないと思っているようだ。ただ、落胆を隠せてはいなかった。


「い、いや待って! 確かにあの竜を倒せはしないけど、突破できないとは言ってないよ。これでも撹乱は得意なんだ。うん。あの竜は倒さなくても、通り抜けさえすれば何とかなるんだ。任せて、ライナー!」


 必死に自分の有用性を売り込む僕だった。

 なんとなく、ライナーの前では頼れる人でありたいと見栄を張ってしまう。


「いや……、あの風竜は、その『通り抜けるだけ』が最も難しい相手なんだ。速度に自信があった僕でも、全く勝ち筋が見えない。風に触れている限り感知され、その飛翔スピードはあの巨体で僕より速い……!」

「ライナーより速い……?」

「ああ。いまさっきの攻防で、風竜は本気にさえなってない。小蝿を払った程度だろうね」


 嘘ではないだろう。

 そう思わせるだけの力が、あの竜にはある。なにせ、僕の剣で傷一つついていないのだ。

 現時点での完敗を認めるしかなかった。


「た、確かにいまの僕たちじゃ、ちょっと手に負えないかな……。けど、まあいつかは倒せるはず――」


 強大な敵だろうと、いつかは倒せる。そういう風に迷宮はできていると僕は知っている。なにせ、そう作った本人だからだ。

 しかし、楽観的な僕とは正反対に、ライナーの顔は暗い。


「違うんだ、キリスト。何より厄介なのは、あいつに勝つため鍛えることができないってところなんだ……。六十六層と六十七層にいるのは、あの風竜のみ。他のモンスターが一匹もいない。なのに、僕たちは低階層で地道にレベルを上げることができない」


 迷宮は挑戦者を『最深部』まで導く造りになっている。


 だが、それはきちんと上から下へ目指した場合の話だ。いまの僕たちのように下から上を目指す人のことは想定していない。これも作った本人だからわかることだ。

 わかるこそ理解も早かった。

 この状況の絶望的な袋小路に――


「僕たちは完全に六十六層へ閉じ込められてる。だから、キリストの復帰に期待していたんだが……」


 経験値を貯めるという行為を縛られ、現状のレベルでの突破のみを強制されている。

 なのに、いま現状のレベルでの突破は無理だと通告されたところだ。


 僕もライナーと同じように顔が暗くなっていく。

 それを見たロードは、満面の笑顔になる。


「むふふ。ゆーっくりしていきなよ。永住は大歓迎だからね」


 ロードも確信している。

 いまの僕たち二人だけでは、この六十六層を突破できないことを。


「な、なんだこれ……」


 まるで、RPGゲームで後戻りできないダンジョンに入ってセーブしてしまったかのような詰み具合。いや、ゲーム開始と同時に、ラストダンジョン手前の街に放り込まれたかのような状況。

 どちらにせよ、『ここ』から出られないということだけは間違いなかった。

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