163.疾走



 パリンクロンの居場所とシスが飛び去った方角は一致している。僕たちも真っすぐ向かえば、いつかはシスの背中に追いつくはずだ。

 どう動けば最速でシスに追いつけるのかを考えながら、《ディメンション》を広げる。その途中、屋敷の周囲にコルクの兵たちが集まってきているのを感じ取る。


「いつの間にか、囲まれてる……。いや、派手に二度も戦ったから当然か……」


 むしろ、まだ突入されていないのが不思議なくらいだ。

 僕の独り言にマリアが反応する。


守護者ガーディアンたちとの一戦で、すでに兵が屋敷に様子を見に来てました。何もしてこないので、私は放置していましたが……」

「兵たちは状況がわからず、増援を呼んで待機中ってところかな。この庭の変貌っぷりを見れば、誰だって警戒するからな」


 地面は抉れているというのに、草木が生い茂っている。たった一晩でこれだけ急変すれば、だれだって戸惑うことだろう。

 それに庭へ残った魔力の残滓も濃い。兵たちが迂闊に突入せず、様子を見ているのも当然だ。

 続々とコルクの戦力が屋敷周辺へと集結していっている。


「けど、丁度いい」


 しかし、その集結する戦力を障害だと僕は感じない。むしろ、幸運だと思った。

 僕は最速移動の手順を見つける。


「マリア、あの馬みたいなやつに乗れるか?」


 兵たちの多くが馬のような生き物に乗っていた。

 平原に囲まれている戦地のためか、騎乗兵が豊富のようだ。


「馬? 軍用の『アルァウナ』のことですか? 私は乗れますけど……」


 アルァウナ?

 前にも聞いたことがある単語だ。

 おそらく、この世界の馬のことを指すのだろう。これから、アルァウナと聞いたら馬を思い浮かべるようにしよう。

 とりあえず、その軍馬とやらに乗って追いかけることを僕は決める。


 乗馬の経験はないが、スキルコピーはできるはずだ。すぐ一流になれるとまでは言わない。だが、振り落とされないレベルに至れる自信はある。ラスティアラも「乗れる」と答えたので、コピー先も十分確保できている。


「よし、助かった。これでディアを追いかける『足』が手に入る」

「……えっと、コルクの兵から奪うんですね?」


 僕は後ろめたい気持ちを押さえつけ、マリアへ頷き返す。


 単純な速さだけなら、僕とラスティアラは自分の足で走ったほうが速いだろう。しかし、長距離での移動を考えれば、別の『足』を頼るのが最も効率がいい。その点、あの馬のような乗り物は理想的だ。


「兵たちに事情を説明している暇はないから奪う。どうせ強引に突破するんだから、ついでに頂いていく」

「いい判断です。カナミさん」


 マリアは反対するかと思っていたが、むしろ、その思い切りのよい選択に感心している。良心が痛んでいる僕とは大違いだった。


「兵の数は二十七人。……北のほうにいる兵を数人襲おう。こっちだ」


 《ディメンション》で手薄なところを探し出し、急いで屋敷の北へと向かう。


 そして、そのまま庭の柵を飛び越え、待機していた兵たちへと急襲する。

 北側にいた兵は六人。

 まず、着地と同時にラスティアラが一人の兵の背後を取り、首を締めて気絶させる。

 僕も頚動脈を締め付けて気絶させようかと思ったが、武術の経験がないため断念する。いつもどおり、得意な剣術を使って、足を軽く切りつけていく。


「なっ、どこから現れて――!?」


 声をあげかけた兵には、鳩尾みぞおちこぶしを抉りこませる。呼吸困難へと陥らせて、仲間へ助けを求めさせない。


 ラスティアラと僕の迅速な奇襲により、半分の兵が気絶し、もう半分の兵が倒れこむ。

 倒れこんだ兵のほうは、じきに呼吸困難から立ち直り仲間を呼ぶことだろう。

 その前に、僕たちは軍馬を確保していく。


 三人ともが軍馬に乗ったところで、僕は倒れこんで呻く兵たちをちらりと見る。


 心が痛む。

 誰がどう見ても、僕たちのやっていることは強盗だ。いや、その前に公務執行妨害の罪状がつく。

 せめて軍馬の代金を置いていきたいと一瞬思ったが、そんな自己満足に意味はないと首を振る。たとえ、十分なお金を置いたとしても、それで盗んだものの弁償にはならない。


 仲間のディアのためだと割り切って、僕は視界から兵たちを外す。


 元の世界で育まれたモラルが少しずつ削れているのがよくわかる。良く言えば、適応しているとも言える。けれど、これが適応なんて良い現象でないことはわかっていた。

 異世界での試練と――なにより、夢のせいだ。

 夢の記憶のせいで、急速に異世界へ適応させられて・・・・・・・いる気がする。まだ一ヶ月も異世界で過ごして居ないというのに、あの夢のせいで何年も異世界で暮らしているような気がする。


 その気持ち悪い感覚を振りきりながら、僕は手綱を操る。

 少しだけ軍馬に暴れられたものの、見様見真似で軍馬を嗜めることに成功する。大して手間取ることなく、御しきることができた。

 それは近くにラスティアラとマリアという手本がいてくれたおかげだろうか。それともスキルコピーのおかげか、ステータスのおかげか、それとも――夢のせいか。判断はつかない。

 

 すぐに僕たちは軍馬に乗って、コルクの街外れから北へと出発する。

 後ろをついてきているラスティアラが、僕の移動方向を見て質問を大声で投げかける。


「カナミっ、このまま北の関所を破るの!?」

「ああ、そうするつもりだ! コルクを出たあとは北西へ進む!」

「わかった! なら、関所の兵は魔法で倒そう!」


 街道を進む。

 街外れなので人は少ないが、それでも道を歩く人はいる。すれ違う人たちに怒鳴られながら、僕たちは軍馬を荒々しく走らせた。


 数分ほど進んでコルクの防壁へと辿りつく。

 内側から見ても高い壁だ。

 これを乗り越えるには関所の扉を通るしかないだろう。関所の場所は《ディメンション》で先んじて把握している。もちろん、関所の状況も。


 北の関所には見張りの兵が数人に、木製の巨大扉が一つ。

 僕たちを止めるには薄すぎる関所だ。

 足を止める必要すらない。


「マリアっ、扉に穴を空けてくれ!」


 併走するマリアへ指示を出す。何の迷いもなくマリアは頷き、魔法を構築し始める。

 そして、僕は『持ち物』から投擲用のナイフを取り出す。ラスティアラの方は言われるまでもなく、自分の役割を理解していた。遠距離用の魔法をいくつか構築し終えている。


 僕たちと関所の距離が声の届くところまで近づいたところで、見張りの兵たちが異変に気づく。

 恐ろしい速度で向かってくる敵影三つに対し、大声で制止をかけようとする。


「な、なんだ!? 待て、おまえたち! それ以上進むな!!」

「――《フレイムスフィア》!」


 返事の代わりにマリアの球形の炎が飛ぶ。

 同時に僕はナイフを投げ、ラスティアラは殺傷能力の低い風の魔法を飛ばす。

 左半分の兵を僕が担当をして、右半分の兵をラスティアラが担当した。足止めが目的の攻撃だが、マリアの魔法に巻き込まれないように移動を促すためのものでもある。


 マリアの炎弾が扉へ着弾する。

 そして、火薬が弾けたかのような爆音と共に、大扉が吹き飛ぶ。


 風穴どころか扉そのものがなくなった。

 兵の多くは、その衝撃で腰を地面についていた。

 

 遠慮なく僕たちは、ちりちりと焔の残る焼け跡を走り抜ける。

 背後からの怒号を無視して門をくぐり終えると、視界に平原が広がる。


 これでコルクの街は抜け出せた。

 あとは、この大平原を突き進むだけだ。

 ただ、地平線まで変わり映えなく広がる平原を旅するのは難しい。それを知っているマリアが、再度確認を取る。

 

「カナミさん、この方角で本当に合ってますか?」


 方角を《ディメンション》で正確に測り、『持ち物』から地図を取り出して照らし合わせる。


「合ってる。途中の街は無視して、一直線にパリンクロンのいる砦まで向かうつもりだ」


 ざっと見たところ、北西に一晩かけて進めば辿りつけそうだった。間に街が三つほどあるが、脇目を振らずに真っすぐ進むことを伝える。

 おそらく、飛行しているシスも同じく真っすぐ向かっているはずだ。


 しかし、冷静な声が割って入る。


「駄目です、カナミさん。少し遠回りになっても、街は寄ったほうがいいです。こまめに足を取り替えたほうが、最終的には速く着きます」

「……確かにそうだね。なら、一つだけ街に寄ろう」


 一つ寄るだけなら大きく道を外れることもなかったので、僕はマリアの意見を採用する。

 進行方向を少し傾け、街へ寄れる道を選ぶ。

 《ディメンション》と地図があるとはいえ、道に迷う可能性はある。街道に近ければ近いほど方角は把握しやすいので、そう悪くはないルートだ。


 こうして僕たちは迷いなく大平原を突き進む。


 最善手を取って、考えられる限りの早さで館を出発した。

 しかし、粘りつくかのような不快感は残る。


 まだ何かを間違えているような気がする。

 今日までの失敗の数々が、僕の取った最善手を不安にさせる。


 それでも、僕は軍馬を走らせるしかなかった。

 考えられる限りのことを『並列思考』で考え、『感応』の指示にも従った。これでも無理だというのなら、もはや相川渦波の許容範囲を超えているということになる。


 ――そして、もう超えているという実感がある。


 しかし、そんな状況、もう慣れっこだ。

 限界を超えているからと言って立ち止まる気はない。

 そう決意し直しながら、僕は道を進む。


 前へと進み続ける――



◆◆◆◆◆



 コルクから北西へ進み続け、日が暮れた頃に新たな街へと辿りつく。


 街の名前はコーラル。

 貿易中心の港町と違い、その規模は小さい。コルクのように高さのある防壁はなく、石垣の枠に囲まれているだけだ。もちろん、戦争の渦中にある街らしく、見張りの兵は多い。

 ただ、《ディメンション》を持つ僕たちにとってはザルも当然だった。


 『魔石線ライン』にだけ気を払って、コーラルの中へと侵入する。


 空の陽が失われ、街中は暗く静まり返りはじめていた。

 淡い橙色の光が点いているのは、大きな屋敷か宿くらいのものだ。


「――ねえ、カナミ。完全に日が沈んだけど、今日はこの街に泊まるの?」

「いや、休まずに行く」


 ラスティアラの問いに即答する。

 できれば、守護者ガーディアンアイドや使徒シスよりも先にパリンクロンのところへ辿りつきたい。出遅れた以上、一秒も無駄にしたくないのが本音だ。


「休まずに進むんですか……?」


 その提案にマリアは不安そうな反応を見せる。


「心配しなくていい、マリア。僕は一日くらい寝てなくても、さほど問題ないからね。というか『舞闘大会』のときは、もっと酷い目にあったから……、むしろ、一日くらい寝ていないほうが集中力が高まるって知ったし……」


 冗談のように軽く言う。

 その言葉に嘘はない。実際、『舞闘大会』二戦目の『天上の七騎士セレスティアルナイツ』との戦いは圧勝に終わっている。

 けれど、二人の表情は芳しくない。不眠不休の強行軍には反対のようだ。


 そうなることはわかっていた。

 だから、僕は前もって用意していた言葉をかける。


「もちろん、休まずに進むのは僕一人でいい。二人は船に戻って休んでて。あと、船の三人にも事情を説明して欲しい」


 そして、魔法《コネクション》を街の隅に展開する。

 これが最も合理的な方法だ。

 しかし、その紫色の扉を見たラスティアラは顔を険しくする。


「確かにカナミは弱ってたほうが強かったりするけど……。――もしかして、このまま一人でパリンクロンと戦う気じゃない?」


 僕は首を振る。


「いや、逆だよ。パリンクロンと接触する前には、必ず六人全員呼ぶ。で、万全の状態の六人でパリンクロンと使徒シスを取り押さえて欲しいんだ。だから、疲労は僕一人だけの最小限に抑えておきたいってこと」


 ここで意地を張って、一人で戦うような真似はしない。

 それでは聖誕祭の夜の繰り返しだ。今回もローウェンのときのように全員で戦って、全員が無事に連合国へ帰ってみせる。


 ラスティアラは僕の顔をうかがう。

 僕が嘘をついていないのはわかっている。けれど、一抹の不安が残っているせいで、すぐに頷くことができないようだ。


 そして、十分な時間を悩んだあと、ラスティアラが答える前にマリアが口を出す。


「ラスティアラさん、私たちは戻りましょう」


 助言することは多くとも意思決定することの少ない彼女には珍しいことだった。

 マリアは冷静に現状をラスティアラに伝える。


「休息が必要です。はっきり言って、いまのラスティアラさんがついていっても、足手まといになるだけです。私と一緒に戻って、体調を整えましょう。――お願いします」

「……わ、わかった。マリアちゃんがそう言うなら、そうする」


 ラスティアラは一瞬だけ目を逸らして悩んだが、すぐにマリアの言い分に賛同する。

 自分の不調は実感しているようだ。


「それじゃあ、カナミさん。ラスティアラさんは私に任せてください」

「じゃあね、カナミ……」


 マリアに手を引かれ、ラスティアラは大人しく《コネクション》をくぐった。


 こうして、僕は暗い夜の街の裏通りに一人となる。

 寂しさを感じながらも、心が楽になっていくのも感じる。

 

 パリンクロンを目指すということは、これからの道中は戦争地域を進むということだ。正直なところ、敵地へ潜入するのなら僕一人のほうが何かと楽だ。

 ゲーム的に表現するならば、斥候スカウトの素養があるのは僕とリーパーだけだろう。他のみんなは戦闘に特化しすぎている。


 《ディメンション》を使って、軍馬が手に入りそうなところを洗い出す。そして、金に物を言わせて、『足』を取り替える。

 店の人に強く口止めはしたものの、いつまでも僕のことを黙ってくれはしないだろう。長居すればするほど、僕という異分子が街に混じっていることは露見しやすくなる。


 薄く《ディメンション》を広げたまま、軍馬で駆け出す。石垣を乗り越え、コーラルの夜の街から出て行く。


 街の外には、黒に近い藍色に染まった平原が待っていた。

 走りながら『持ち物』の中から水と食料を取り出す。食事の時間も惜しんで、水筒に口をつけながら地図を見直す。


 コーラルからパリンクロンの砦へ向かうルートは二つある。

 森を進んで時間を短縮するか、もしくは迂回して平原を進み続けるか。

 事故を考慮せずに進むのならば、森の中を進むのが一番早いだろう。

 軍馬を操る能力の習熟も進み、《ディメンション》を持っている僕ならば、速度を落とさずに進むのは可能だ。進行方向に邪魔な木々があっても、剣を伸ばして先んじて斬り倒すことができる。


 ただ、一つだけ大きな問題がある。

 先ほどから、薄く広げた《ディメンション》の中に、ちらほらと人が入ってきているのを感じるのだ。それも武装している高レベルの人間たちばかり。

 纏う装備をよく観察したところ、タイプを二種に分けることができた。遠くに本陣らしきものを見つけたので、彼らが戦時中の軍人たちなのだろう。


 とうとう交戦中の地域へ完全に入り込んだらしい。

 森の中にも兵は多く、兵と兵がぶつかり合えば、その度に殺し合いが始まっている。その善悪を超えた殺し合いの光景に、僕は顔をしかめる。そして、すぐに割り切る・・・・・・・


 この世界の戦争の様式は知らないが、密集した軍隊がぶつかりあうだけではないようだ。主戦場以外では、別働隊の小競り合いが行われている様子だ。


 しかし、小競り合いとはいえ、僕の持っている戦争のイメージと大分違った。

 歩兵は散開しており、全く一纏まりになろうとしない。

 魔法という代物が存在している以上、一纏まりになっていると格好の的になってしまうのだろうか。もしくはこの世界独特の戦術が浸透しているのかもしれない。


 興味深い話だが、すぐに僕は異世界の戦争の考察を打ち切り、現状の把握に努める。

 いま重要なのは、どこをどう進めば一番速いか、それだけだ。

 そして、無心に森を進むと僕は決める。


 怯える軍馬を抑えつけ、僕は木々の合間へと突入する。


 これで競り合いのど真ん中を突き進むことになる。

 しかし、兵の中にレベル10を超えている者はいない。もし、敵と見られても対応はできるだろう。


 人がぎりぎり通れる程度の道の中、《ディメンション》と剣を使って強引に安全を確保していく。


 木々の枝が身体にかすれる。馬の障害になるものが多いので手が休まらない。

 その疾走は静かな夜の森に目立った。

 すぐに森の兵たちが、こちらへ近づいてくるのを《ディメンション》で感知する。しかし、その全てを僕は無視する。


 途中、すれ違う兵に所属を聞かれることもあったが、無言で通り過ぎた。

 もちろん、そんなことを繰り返していては敵と判断されるのはすぐだ。半刻もしないうちに、兵たちから攻撃を受けるようになる。しかし、矢は剣で払い、魔法は《次元の冬ディ・ウィンター》で防ぎ、無視を貫く。


 それを延々と繰り返して、堂々と戦争区域内を横切っていく。


 そして、夜が明けるまでの数時間、軍馬を走らせ続けて、僕はようやく森から抜け出すことができた。

 東から日が昇りかけ、空はしらばんできていた。


 すぐに地図と現在地を照らし合わせる。

 ひたすら森を突き進んでも方角を間違えることはなかったようだ。予定した平原へ出られている。


 近くに多くの砦が建てられているのを感じ取る。その全てが戦争のために急造された砦だ。

 シアから貰った手紙どおりならば、その中の最も大きな砦にパリンクロンはいるはずだ。 


 すぐに軍馬の頭をそちらへ向けて出発する。

 同時に《ディメンション》も広めに展開する。

 先んじて砦の様子を窺うためだ。


 意識を伸ばしていく。それは鳥が空を飛ぶのを主観で感じ取るのに似ている。感覚は砦まで延びていき、空間の情報が頭の中に入ってくる。


 そして、大砦を見つける。

 その砦の広さは一キロ㎡ほど。背の高い塔と石造の平屋が密集し、繋がっていることで構成されていた。三角形となるように防壁が張られており、その高さはコルクの街の二倍近くある。この異世界で見てきた建造物の中でも、かなり立派な防壁だ。

 流石に連合国のフーズヤーズ大聖堂には劣るが、外敵を寄せ付けないという物々しい空気はこちらのほうが強い。


 砦の中はざわついていた。

 一瞬、僕の森での所業が伝わっているのかと驚いた。『魔石線ライン』を使えば、僕よりも早く情報が辿りついていてもおかしくはない。


 しかし、すぐに僕が原因でないことがわかる。

 様子を観察すれば、すでに侵入者がいることがわかった。砦のあちらこちらに気絶した兵士がいて、砦全体が臨戦態勢に入っている。


 その中でも特に異常の際立つ場所――それは中央の庭だった。


 砦の中央には、四方数十メートルの開けた空間がある。

 そこに人が集まっていた。


 魔法で交戦したであろう痕跡の中、異常な魔力の三人が向かい合っているのを見つける。

 守護者ガーディアンアイド、使徒シス、そして――パリンクロン・レガシィ。


「見つけた……!」


 胸の鼓動が早まるのを感じる。

 憎き敵がいる。そして、助けるべき仲間がいる。

 緊張と興奮が身体を固くさせる。


 《ディメンション》で見る限り、戦闘していたのはパリンクロン一人相手に、使徒シスと守護者ガーディアンアイドの二人。その表情と衣服の状態から、パリンクロンだけ余裕がないとわかる。

 奇襲をかけるなら、いましかない。


 丁度、夜が明けるところだった。

 砦までの距離は残り数キロメートルほど。このまま軍馬を走らせ続ければ、ものの数十分で着く。

 時間も丁度いい。

 そろそろ《コネクション》でリヴィングレジェンド号で待機している全員を呼び出すべきだ。そう思い、軍馬の進む速度を落としていく。


 そのとき、《ディメンション》が妙な動きをしている人物を捉える。

 砦から一人、同じく軍馬に乗ってこちらへ真っすぐと向かっているのだ。


 僕は遭遇を回避するために、進行方向を少し変えた。

 しかし、それに合わせて、その軍馬も動きを少し変える。


 完全に補足されていた。避けることはできないとわかる。


 僕と同じで、敵を逃がさない能力が彼女にはある。

 砦から出てきたのは白き少女――ハイリ・ワイスプローぺだった。 


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