異世界迷宮の最深部を目指そう

割内@タリサ

1章.挑戦の始まり

0~7.異世界迷宮に迷い込む



 ――暗い・・


 どこまでも黒く塗りたくられ、光を感じることができない。


 最初に違和感を覚えたのは臭いだ。

 鼻が抉れるかのように生臭い。

 喉の奥からは、泥がり上がってくるかのような感覚。

 その不快さに驚き、目を見開いて飛び起きる。


「――っ!!」


 まず視界に飛び込んできたのは暗い回廊。

 光は差し込んでいないはずなのに、ぼんやりと発光する石造りの空間だ。


 辺りを見回すと、僕の背後に小さな祭壇のようなものが鎮座していた。

 注意深く観察して、ようやく祭壇であると気づけるそれは、いまにも崩れそうなほど風化している。

 小さな石台に、二本の蝋燭の残りかす

 動物の皮らしきものが供えられており、それには古びた矢が刺さっている。


「なにこれ……」


 独り言の多い僕は、自然と言葉を零した。


「い、意味がわからない……。気持ちが悪い……」


 言葉を重ねると共に、心臓の鼓動が速まる。

 動悸が跳ねるように大きくなっていく。


 本当に意味がわからない。

 状況を理解できない。


 僕は寝て……そして、起きたのか?

 けれど、ここに暖かなベッドはない。うるさい機械仕掛けの目覚まし時計もなければ、カーテンからこぼれる朝の陽射しもなく、電球の明かりもない。


 不衛生で冷たい石床。

 鼻を潰すかのような異臭。

 気味の悪い仄かな石の発光。


 気持ちが悪い……。


 僕は口を押さえて、吐き気が通り過ぎるのを待った。

 そして、遠くから聞こえる咆哮――


「――――、――――――ッッ!!」


 それは理性を一切感じさせない慟哭だった。

 手負いの獣の放つ怒声のような、熱と殺意の振動だ。


「ま、待って……。待って、待って待って……!」


 何が起きているのかわからないから、自分で何を言っているのかもわからない。


 僕は混乱に振り回されるがまま、聞こえてきた咆哮とは逆方向に走り出す。


「――はぁっ、はぁっ、はぁっ!」


 息を切らして、石造りの回廊を走り抜けていく。

 何度か道を折れ曲がって――でも、全く変わらない景色に苛立ちながら、ただ遠くに向かって逃げ出す。


 ――その途中、ぐちゃりと、気味の悪いひしゃげた音がした。


 何か角ばったものを踏み抜いた感触がして、靴の裏を確認する。

 そこには握り拳ほどの大きさの昆虫が、断末魔の鳴き声に合わせて、蠢き――


「う、うぁっ!」


 その惨状に声を上げる。


 特別に昆虫が苦手なわけではない。けれど、コンクリートに囲まれた都会では絶対に出遭うことはない大きめの虫に、強い生理的嫌悪が走った。


 昆虫がキィキィと鳴く。

 まるで、助けを叫んでいるかのように聞こえる鳴き声。

 ふと僕は寒気を感じ、顔を上げる。視線を道の先に向ける。


 次の曲がり角から、人の大きさほどの昆虫が顔を覗かせていた。


 およそ、常識ではありえない大きさ。

 昆虫特有の角ばった手足を、ギチギチと嫌な音をたてながら動かしている。

 ぱっと見たところ、クワガタムシに近い。ただ、その異常な大きさサイズと、異常な形の二本の角が、僕の正気を削っていく。


「――ッ!!」


 もう声をあげることもできない。

 あげてしまえば、その怪物が僕に向かって飛び掛かってきそうで、後ろに走り出すしかなかった。


 ――走って、走って、走り抜ける。


 道を選ぶなんて上等な思考は頭になく、ただ移動し続けることしかできない。


 体力が尽きるまで駆け抜けて、自然と走る速度が緩む。

 そこで僕はささやかな理性を取り戻しかけ――


「――――、――――――ッッ!!」


 また獣の怒声が僕の耳を打った。


 今度はもっと近い。

 馬鹿なことに、僕は最初に逃げてきた道を全力で戻ってしまっていたのだ。


 血の気が引く。

 混乱が加速する。


 しかし、その獣の怒声に近づいたことにより、他の音も拾えるようになっていた。

 それは人の話す声だった。


「ひ、人! 人の声――!!」


 光に誘われる蛾のように、勝手に僕の身体は声の聞こえる方角へ動き出していた。


 僅かに回転する脳が、他人を――『人』を求めていた。

 近づいていくことで獣の怒声も大きくなっていくが、人の話し声もはっきりと聞き取れるようになっていく。


「――距離をとれ! 距離をとって、時間をかせげ!!」


 大人びた男の低い声だ。

 ある男が、近くにいる人間たちに号令をあげている。


 辿りつき、目にした光景は、おとぎ話のようだった。

 博物館でしか見られないような皮の鎧や木の弓を身につけている者。

 無骨な鉄の剣を力任せに振り回す者。

 機械的な要素のない木の杖から火を噴かせている者。

 現実味のない人間たちが、二メートルほどの大きさの狼と大立ち回りを演じていた。


 その中に飛び込めるほどの勇気は僕になかった。

 遠くで立ち止まって、その戦いを見続けることしかできない。


「時間を稼げば、なんとかなる! 粘れ!」


 リーダー格と思われる低い声の男が、大剣を持った戦士に指示を飛ばす。


 戦士は大剣を大きく振りかぶり、打ち下ろそうとする。

 しかし、その前に巨大な狼が恐ろしいスピードで戦士に体当たりを行う。戦士はゴム玉が跳ねるように吹き飛ばされた。


 次に狼が目をつけたのは、火を噴く杖を持った女性だ。それに気づいた他の人間たちは女性を守るように大きく陣形を変えていく。


 ――ともない、大幅な移動も行われる。


 戦場が僕のほうに近づいてくる。


 僕は混乱していた。

 そして、恐怖もしていた。

 もし冷静であり、余裕もあったならば、ここを移動することもできていただろう。しかし、いまの僕は呆然と立ち尽くすことしかできなかった。


 ――細剣を持ったリーダー格の男と目が合う。


「なっ!? おまえ、誰だ!?」


 男は驚いた顔で僕に怒鳴りつけた。


「ぼ、僕は迷って……――た、助けてくださいっ!!」


 咄嗟に助けを求めた。

 僕の言葉は途切れ途切れだったが、それでも意思は伝わったはずだ。


 だが、その僕のSOSに対して、男の反応は酷く冷たいものだった。


「……おい。助けて、だと? おまえ、馬鹿か?」

「――え?」


 肯定でも、否定でもない。

 そんな要求は論外であると言わんばかりの侮蔑が返ってきた。


 常時の僕だったならば、気づけただろう。

 この人たちには誰かを助ける余裕なんてないことに。

 その装い、手にする凶器、狂った獣、危険でしかない状況――気づけないはずがない。


 ただ、いまの僕にそこまでの思考力はなかった。


「ここは迷宮――それも、管理外領域にいるんだ。覚悟の上だよな」


 男が続けた言葉は、さらに冷たかった。

 そして、男の持つ冷たい細剣が、僕の太股を撫で――斬り裂いた。


 僕の太ももに冷たい刃が通り過ぎ、燃え盛るような熱が灯る。


「う、ぅああっ!!」


 剣先で斬られたことを理解して、僕は叫びながら尻餅をつく。


「――おい! みんな! ソロの同業者がいた! 全員、さがれ! なすりつける!」


 リーダー格の男は周囲の人間たちに号令をかけた。

 その内容を僕は理解できなかった。したくなかった。


 まず杖を持った女性が僕を見て、何も言わずに隣を通り過ぎていった。続いて、先ほど吹き飛ばされた男も、その他の人間たちも――全員が戦いを中断して、僕の後方に走り去っていく。


 当然、いまこの集団と戦っていた巨大な狼は追いかけようとする。

 その途中には動けない人間が一人。

 つまり、僕の目の前に、狼が――


「う、うあああぁああぁアア――!!」


 恐怖で真横に飛び跳ねようとするが、斬られた太ももに激痛が走り、無様に地面を転がる。


 その動きと叫び声に釣られ、狼は完全に僕を視界に入れた。

 もう男たちは安全圏だ。

 狼は最も手近な僕に向かって、走り出す。


 このままだと僕は死ぬ。

 あの巨大で獰猛な狼に食われて、死ぬ。

 死にたくない。

 死にたくない死にたくない死にたくない――


 思考が奔流する。


 様々な悪感情が吹き荒れる。

 今日までの人生が想起される。


 そして――



【スキル『???』が暴走しました】

 いくらかの感情と引き換えに精神を安定させます

 混乱に+1.00の補正が付きます



 何かの『表示』が僕の視界に浮かんだ。


 いまはそれどころでなく、それがどういったものかを理解しようとは思わない。


 だが、その『表示』と共に、頭の中が冷え込むのを感じた。

 奔流した思考が静かになり、悪感情が消え去り、どうすればいいかだけに集中できるようになる。


 僕は斬られた左の足を使わず、右足だけで立ち上がる。

 その瞬間、丁度狼は僕に襲い掛かる。


「――っ!!」


 襲いかかってくる狼に対して、垂直に飛び退く。


 しかし、圧倒的に速度が足らない。火事場の馬鹿力でも、狼の速度には全くついていけなかった。すれ違い様に、狼の鋭い爪が右の上腕部を切り裂いた。


 そこで、安全圏に逃げ延びた男たちの声が聞こえる。


「――よし! この位置だ! 撃て! 道を閉ざすんだ!!」


 悪寒が背中を走る。

 この狼だけが敵ではないのだ。

 あの人間たちも僕の敵だ。


 あいつらは僕を囮にして、逃げ出して――!

 それでも尚、足りずにっ――!!


 悪寒に従い、後ろに目をやったときには、もう――回廊全てを覆いつくすほどの轟炎が迫ってきていた。


 その轟炎に狼も気づく。だが、遅かった。僕を噛み殺そうと飛び上がっていた狼は、それを回避することが叶わない。

 僕も当然、全てが遅い。


 ――くそっ、あいつら! 僕ごと、狼を燃やそうとっ!!


 心の中で悪態をつく。


 そして、轟炎は弾け――爆発する。


 咄嗟に僕は両手で頭部を守り、できるだけ遠くに飛び退きながら伏せた。だが、背中に炎をともなった突風が打ち付けられ、吹き飛ばされる。


 全身を炎が焦がしていく。

 バーナーを当てられているような感覚だ。

 発狂するような激痛が脳を襲う。


 その激痛を気つけにして、僕は思考を保つ。

 悔しさと憎しみで、気力を保つ。


 吹き飛ばされ、地面に叩きつけられたあと、ゆっくりと目を開けて、周囲を窺う。

 回廊全てを埋め尽くすほどの炎は、魔法のように・・・・・・一瞬で消えていた。


 ただ、人間たちが逃げ出した方角には綺麗な炎の壁ができていた。


「そ、そ、ぁ――」


 それが、やつらの狙いだったのか。

 焼けた喉は、その言葉を最後まで言わせてくれなかった。


 そして、状況を再認識する。

 炎の壁によって道が遮られた事で、いまここに残るのは巨大な狼と僕だけだ。

 その事実をゆっくりと噛み締める。


 狼も僕と同じく立ち上がっている。

 しかし、見るからに僕よりも炎を浴びている様子だ。

 身体の大きさもさることながら、最後僕に覆いかぶさるように飛び上がっていたことが原因だろう。


 僕よりも被害が大きい。弱っている。

 狼は息が荒く、ふらつく様子も見える。


 しかし、未だ目は燦々と輝いている。

 全く闘志は萎えておらず、「狼は傷を負ってからが恐ろしい」と言わんばかりに呻り声をあげ、こちらに向かって歩を進め始める。


 僕も狼と同じく覚悟を決めた。


 飛ばされた位置が良かった。

 狼からは見えないだろうが、僕の背後には先ほどの戦いで戦士が使っていた大剣が落ちてあった。虚をついて、それを使えば、本当に僅かではあるが……勝算はあると思う。


 すぐさま僕は踵を返し、全力で駆け出す。

 ただ、踵を返す瞬間、視界の端で狼が飛びかかろうとしているのを捉えた。


 左の太ももからは激痛が走り、けたたましい危険信号が脳に響く。


 それでも僕は走った。

 感覚が薄れてきている足で、地面を無理やりに踏み抜く。

 反撃のタイミングは掴めない。

 どう狼が迫ってきているのか、予測できない。


 それでも僕は全速力で駆け、大剣を拾い、そのまま振り向き様に大剣で薙ぎ払った。


 大剣は両手でも支えきれないほどに重かったが、ただ一度に全てを賭けて、力任せに振り抜く。

 生々しい鈍い音と共に、狼の首に大剣が埋まるのが見えた。


「や、やった――! っ、ぁ、ぐあァ!!」


 反撃は成功した。しかし、狼は大剣を首に抉りこませたまま、僕の身体にしかかった。


 かろうじて牙と爪をかわすことはできたが、二メートルの巨体に真正面から圧しかかられるのは致命的だった。

 信じられないほどの重量ウェイトが襲いかかり、胃の中のものが全て逆流し、口から吐き出される。

 さらに狼は首が千切れかけていても、僕を食い殺そうと動くのだ。


 大口を開け、僕の頭を飲み込もうとする狼。

 僕は遠ざかる意識を引き戻し、身体を限界まで捻り、かわす。

 そして、その勢いを利用して、さらに大剣を抉りこませる。


「あぁっ、ああああアアアアアア――!!」


 叫び、二メートルの巨体を吹き飛ばすつもりで両手を振るった。


 すると僕と狼の間に、僅かな隙間が生まれた。

 その隙間を使って、僕は狼の下から抜け出す。そして、大剣がこれ以上抉りこまない事を感じた僕は、大剣を手放し距離を取る。


 狼は僕に追従してこなかった。

 いや、しようとはしている。

 けれど、身体が進んでいない。


 狼は大量の血を流し、体中が焼け焦げ、ボロボロの姿だった。


 油断なく狼の様子を窺っていることで僕は気づく。

 狼は片目が焼けて、見えていないようだった。後ろ足には矢が深々と突き刺さり、引き摺っている。大剣は気道まで達しているのだろう。その呼吸音が、笛のような音を奏でている。――僕よりも重傷なのは明らかだった。


「あぁ……。おまえ、もう……」


 ふと言葉が勝手にこぼれる。


 狼は大剣を引き摺りながら、僕に向かって歩を進める。

 僕は万全を期して、焼けた目が生んだ死角に移動し続けて、姿を捉えさせない。


 ほどなくして、狼は倒れた。

 そして、狼は淡いエメラルドグリーンの光を放ちながら消滅した。

 カランと音をたて、大剣と矢は地面に落ちる。


「え……?」


 そう、消滅したのだ。

 死体は残らず、光のように、幻想のように、狼は消えた。


 その光景を呆然と見送った。

 狼の消えた跡には、煌く翠の石が残っていた。



【称号『深翠の始まり』を獲得しました】

 Strに+0.1の補正がかかります



 という『表示』と共に。



 ◆◆◆◆◆



 狼を倒したあと、急いで僕は周囲を調べ始める。


 まず狼に切り裂かれたであろう死体を二つ見つけた。

 その死体を漁り、僕は食料や道具を手に入れる。


 罪悪感はなかった。それが必要なことだということもあったが、それ以上に感覚が麻痺していた。僕は震える身体で、何も考えずに、生きるための最善を尽くしていく。


 奪えるものは全て奪う。

 この死体が持っているものは、ここ・・で必要なものであると判断したからだ。


 奪った手袋を手にはめて、外套を服の上から羽織り、皮袋を腰にさげる。

 変わった形のナイフ(おそらくは、手投げ用なのだろう)をジーンズのベルトに挟めるだけ挟み、片手剣を手に持った。


 ただ、死体が二つに対して僕は一人。

 持ちきれない物も多々あった。


 最後に、死体へ向かって手を合わせる。

 そして、例の炎のないほうへ足を進める途中、ふと狼が消えたところに目をやる。


 大剣が無造作に転がっていた。

 これを使いたいところではあるが、片手剣の二倍もの重さがあるものを持ち歩くのは現実的ではない。大剣は諦めようと心に決めたとき、視界の端に光るものが映る。


 輝く翠の石だ。


 死体の持ち物の中にも、こういった宝石みたいなものは多かった。

 現状では重いだけの代物だ。無駄な物を持つことは命を脅かすと判断して荷物には入っていない。


 ただ、この石の色は、あの狼の毛並みに似ていた。


 はっきり言って、感傷だ。

 あの人間たちに襲われた同士で、親近感が生まれたのかもしれない。

 最後に僕は、その石を拾ってポケットに詰め込んだ。


「さあ、どうしようか……」


 できることは全て終えた。

 何らかの敵対生物が現れても、迎撃する手段もある。


 決めるのは、ここで『待つ』か『動く』かだった。


 太ももの切り傷は思ったよりも浅かった《おそらく、反射的に身体を引いていたのだろう》。

 ただ、圧迫の止血でいくらかましになっているものの、歩くのも億劫な状態だ。


 『動く』を選択すれば、出血は増していき、体力を失っていくのは間違いない。

 ただ、『待つ』のが恐ろしいのも確かだ。


 誰か助けてくれる人を『待つ』には、先ほどの体験は恐ろし過ぎた。

 狼もだが、何より――助けを求めた人間に斬られたことが心に根付いている。


 だから、僕は『動く』ことに決める。


「……この剣を杖にして歩くか」


 片手剣をついて感触を確かめる。

 あまり、杖には向いていない。


「もっと良いもの……。いい『道具』、何かないかなぁ……」


 そう言いながら、またあたりを見回して――



【Item】

 Empty



 と、宙に『表示』されているのが見えた。


「え……? なに、これ……?」


 また非現実感が加速する。


 そして、乾いた嗤い声が出る。

 まるで網膜に張り付いたゴミのように、はっきりと『表示』されている。視界を動かしても、その『表示』は視界から消えない。


「は、ははっ、まるで――」


 まるで、ゲーム。

 薄々は感じていたワードだった。


 幻想。迷宮。モンスター。巨大昆虫。巨大狼。冒険者。剣士。魔法使いの炎。死後の光。宝石――どれもがおとぎ話の中の存在で、王道ゲームに頻出する存在だ。


 色が反転するような錯覚と地面にぶら下がっているような眩暈が、僕を襲う。


 だから、すぐにそれを僕は認めた。

 認めることで楽になるところがあった。

 夢のように視点が遠くなるのを感じるが、それで恐怖が和らぐのなら、それでもいいと思った。


「それなら……まず、僕について。僕を『表示』してくれ」


 とりあえず、適当に言葉にして望んでみる。



【Status】

 Name:KanamiAikawa HP4/51 MP72/72 Class:

 Level1

 Str1.01 Vit1.03 Dex1.01 Agi2.02 Int4.00――



「わ、わかりにくい……。もっと読みやすくならないのかな……」



【ステータス】

 名前:相川渦波 HP4/51 MP72/72 クラス:

 レベル1

 筋力1.01 体力1.03 技量1.01 速さ2.02 賢さ4.00 魔力2.00 素質7.00 

 状態:混乱1.01 出血0.52 

経験値:805/100

 装備:鉄の片手剣

    異界の服

    エルフェンの外套

    革の手袋

    焼け焦げた異界の靴

    呪印の入った手投げナイフ



「あ、日本語になった」


 なんとなく呟いた文句に『表示』は対応した。

 英文字と比べると少し不恰好だが、わかりやすさのほうが大切だ。この日本語表記のまま、僕は『表示』を読んでいく。


 まず何よりも気になったのは先ほどの『ItemEmpty』だ。

 素直に言葉を受け取れば、いま僕は何も持っていないと認識されているということになる。


「干し肉とか、水とか、腰にぶらさげているんだけど……」


 それにも関わらず、こうなる。



【持ち物】

 なし



 再度確認したが、やはり僕は何も持っていないらしい。


「まあ、大体の方向性はわかるけど……。ゲーム、好きだし……」


 要は条件を満たしているかどうかだろう。

 稚拙で、ゲーム的な――それも融通の利かない条件がそこにはあって、それを僕は満たしていないのだ。


「おそらく、装備品は直結して戦いに影響するもの……。いわゆるパラメーターを左右するもので……」


 パラメーターが変動するようなもの以外は『装備』すべきではない気がした。つまり、身につけたり、持ったりするべきではない――


「よくある無限に入る袋とかそういうのがあるのかな……?」


 僕は再度身につけているものを確かめる。

 袋や、空いているポケットに対して、色々と出し入れしてみる。

 だが、何も起こらない。


「じゃあ……」


 入れぇー……。


 そう祈りつつ、僕は何もない空間に対して、実験として干し肉を一つかざしてみた。

 すると、空間がぐにゃりと捻じ曲がり、干し肉が呑み込まれた。


「――っ!? こ、こわっ……!」


 咄嗟に僕は手を引いた。

 生理的に恐怖を抱く光景だったが、おそらくはこれが正解なのだろう。


「よし。また『持ち物』を――」



【持ち物】

 干し肉



「ははっ。うん、すごくゲーム的だね」


 笑いが半分に、恐怖が半分の結果だった。


 しかし、これで『持ち物』のルールが一つ把握できた。

 入れようとする意思を持って宙にかざすことで、どこか・・・へ入れることができるのだろう。


 うん。

 どこか・・・へ……。


「……これで、かなり楽になる」


 先ほど諦めてた死体の食料や道具を、再度漁ることができそうだ。

 僕は試行錯誤を重ねながら、次々と物を宙のどこか・・・に入れていく。


 ちなみに冒険者の死体や小さな虫は入らなかった。

 大きすぎたか――それとも、生物だからか。何らかの条件で弾かれたようだ。

 こうして、僕の『持ち物』は――



【持ち物】

 干し肉 水袋 止血薬 油 痺れ針 解毒薬 鑢 オーリアの大剣 革の手袋 革靴 布の服 木の弓 鉄のナイフ 無印の矢 ライター スマートフォン 小石 枝 十位魔法石 九位魔法石



 となった。


 ちなみに、ライターとスマートフォンは着ていたジーンズに入っていたため、出し入れの安全を確認したあと、『持ち物』に入れた。

 スマートフォンは通信を試みたが、当然のように繋がらなかった。最後に確認した時間よりも数年ほど時間がずれていていたので、スマートフォンは衝撃で故障している可能性がある。ただ、ライトや時計機能が生きていたのは助かった。


「色々入るなあ……。何より、よくわからないものに名前がついているのが助かる。ゲームとして難易度が下がっているんじゃないかな、これ。いや、助かるんだけど……」


 ただの粉にしか見えなかったものに『解毒薬』と表示がされたときには自然と顔が緩んだ。


「まだ、色々と試せそ――」

「――、――――――――ッッ!!」


 さらに本腰を入れて試そうと考えたとき、回廊に獣の咆哮が響く。


「た、試すのは後にしよう……」


 あまりに都合の良いことばかりが起きていて失念していたが、まだまだ僕は危険の最中にいる。


 優先順位の高い『止血薬』を使用し《使い方がわからなかったので、水洗いした傷口に塗りたくった》、咆哮から遠ざかるために剣を杖にして歩き出す。


 焦らず、身体に負担をかけないように……。

 注意深くあたりを窺いながら、道を進む。


 『表示』で自分のステータスを確認すると、出血が緩和しHPは自然回復していた。

 命の危機が少し遠ざかったのを感じつつ、僕は迷宮の中を歩いていく。



 ◆◆◆◆◆



 『持ち物』の整理は足を止めなければ行えないが、他のことを試すのは歩きながらでもできた。どうしてか妙に冷静な僕は、思い当たるワードを呟きながら、暗い回廊を歩く。


「ステータス、ヘルプ、マップ、セーブ、ログ、チャット、ログアウト、ログイン、スキル――」


 新しく『表示』されるものはないかと、手当たり次第に基本的なワードを思い浮かべていく。


 一番表示してほしいヘルプに反応はなかった。あとオンラインゲームにあるようなログやチャットに関しても、全く反応がない。反応があったのは『マップ』と『スキル』。


 『マップ』はマス目で作られた簡易的なものが出てきた。だが、どうも自分が通った箇所しか表示されないようだ。迷う心配がなくなったのはいいことだが、状況が進展するものではない。

 ただ、『スキル』に関しては、かなりの収穫が見込まれそうだった。



【スキル】

 先天スキル:剣術1.01 氷結魔法2.00

 後天スキル:次元魔法5.00 

 ???:???

 ???:???



 『???』と表示されたものが二つ。

 ここにきて、このシステムを考案した者(人か神かはわからないけど、『者』と暫定的に表しておくことにする)は出し惜しみしているようだった。もしくは、別の思惑があるかもしれないが。


 というか、普通に『魔法』があった。

 いつの間にか、僕は魔法使いになっていたようだ。当然、嬉々として『魔法』『マジック』などのワードを思い浮かべて『表示』させる。



【魔法】

 氷結魔法:フリーズ1.00 アイス1.00

 次元魔法:ディメンション1.00



 何もない覚悟はあった。

 だが、三つも魔法が『表示』されたのを見て、僕は小躍りしたい気持ちになる。

 なぜ、そんな魔法が使えるのかはわからないが、使えるものは使おうと思う。

 ゲーム的に初期スキルがいくつかあるのはおかしいことじゃない。


 ゲーム的には、だけど……。


 僕は試し撃ちをすることを決めて、《アイス》を選択する。


「えーっと、出ろっ! ――氷結魔法《アイス》!」


 叫び、手をかざした。

 期待したのは氷の飛礫が手から飛んでいく光景。


 魔法を宣言したあと、何かが抜けていく感覚がした。そして、手のひらが冷たくなっていき、その抜けた何かが集まっていく。集まっていくのだが……あまりにも遅い。


 集まるのは小さな氷の粒。

 おそらく、空気中の水分が集まった上で、分子運動が静まっていき、凍っていっているのだと思う。だが、十秒ほどかけて成立した魔法《アイス》は、手のひらサイズの氷が一つ発生しただけだった。

 ちなみに、飛んでいってなどいない。どう見ても攻撃手段にはなりえそうにない。


「…………」


 魔法とは一体……。

 うごごごご……。


 これは生活魔法にでもあたるのだろうか。

 これまでの流れから僕は、モンスターの対抗手段になる派手なものを期待していたので、残念でならなかった。


 ただ、氷がせっかくできたので、『持ち物』から死体の服を取り出して、綺麗なところだけを切りだして、簡易的な氷のうを作った。――作ったが、火傷跡にあてたところ鈍痛が発生したので、すぐ捨てた。


 続いて、僕は《フリーズ》の試し撃ちを行う。


「――魔法《フリーズ》!」


 だが、似たような結果だった。

 とても緩やかに僕の周囲の温度が下がっていくのを感じた程度だ。


 最後の《ディメンション》に関しては悩んだ。

 ディメンションという言葉は確か、寸法や次元といった意味だった気がする。

 先ほどの氷結魔法の前例から、その言葉の意味に関した効果が現れると僕は予測している。

 ワープゾーンでも現れて、この迷宮から出られるかもしれないと思ったが、この状況を完全打破できるような魔法が最初からあるのは考えにくいことだった。効果を明確に想像できない以上、この魔法を使うことは控えた。ぶっちゃけると、下手すればブラックホールとか出てきそうな気がして怖い。 


 ただ、これで魔法の試行錯誤は中断ではない。

 せっかくなので、違う魔法も想像していく。


「――えーっと、回復魔法、白魔法、魔法取得、新しい、新魔法、応急手当、火傷、治す――」


 全くもってヒットしなかった。

 どうにかして回復する系の魔法が欲しかったのだが……どうにも、僕にはそういったものが用意されていないようだ。だが、その中でおもしろい『表示』が現れた。



【ポイントの割り振り】

 剣術1.01 氷結魔法2.00 次元魔法5.00

 現在のスキルポイントは0です



 ゼロらしい。

 おそらく、レベルの上昇と共にポイントが溜まっていくのだろうが……。

 レベル……?



【レベルアップメニュー】

 805/100

 条件を満たしています



 さきほどのステータス画面の『表示』の際、経験値の欄があって、分子が分母を上回っていたことを思い出した。案の定、レベルアップが可能になっている。


 しかし、「条件を満たしています」という表記には嫌な予感がする。

 自動レベルアップではなく、任意レベルアップである可能性が高い。

 さらに、その方法がシビアな可能性も高い。


 とりあえず、任意レベルアップの方法を探そうと思った。


「できるなら、レベルアップをおねが――っ! っ!!」


 そのとき、唐突に右腕に熱が走る。

 ふと見ると、上腕部が切り裂かれ、血が出ていた。


「――っ!?」


 すぐさま、周囲を見回す。


 僕は視界の隅に動くものを捉えた。

 それは『歪み』だった。

 宙に人間の頭ほどの大きさの『歪み』が浮き、小さな羽音と共に揺らめいている。

 よく観察すると、その『歪み』のシルエットは虫に近い。


「モンスター!?」


 すぐに思考を切り替える。

 それは現実が普通でないからこそ、自分を見失っているからこそできる切り替えだった。

 日常生活を行っているときのそれ・・から、ゲームをしているときのそれ・・に切り替える。麻痺しかけていた脳が、ゲーム的な効率に特化されていく。


「このっ――!」


 僕は反射的に、手に持った剣を下から斬り上げた。

 しかし、それは『歪み』に直前でかわされる。


 かわされたことを確認した僕は、すぐに駆け出す。

 来た道を戻るように、『歪み』から距離をとる。


 一撃目をかわされた場合。もしくは、耐えられた場合――そのときは絶対に無理をしない――そう僕は前もって決めていた。


 未開の道ではなく、一度通った道を僕は戻っていく。

 後方から羽音が僕を追いかけているのが聞こえ、冷静に距離を測る。


 僕を追いかけているのだから当然だが、敵の方角は真後ろ。

 なら、あとはタイミングだけ。

 いまある材料で反撃できる。


 僕は頭の中で反撃の方法を固めていく。

 ゲームだから駄目と言われるかもしれないが、その方法を試す価値はあると思った。


 敵が近づいてきたところで、すぐに『持ち物』から水の入った皮袋を取り出し、中身を全て後方にぶちまける。


 羽音が乱れ、金切り声が響いた。

 羽を持った生物ならば、水に弱い可能性は高いと僕は踏んだのだ。

 そして、ゲームの虫だからという理由で通用しないことはなかった。『歪み』の輪郭がはっきりと見え始める。さらに、その動きは明らかに鈍り始めていた。


 それを確認して、僕は静かに魔法を放つ。


「――《フリーズ》」


 ただ、温度を下げる魔法だが……この調子だと、敵は温度差にも弱い可能性がある。

 僕は魔法を使い、距離をとって終わらせるのが最も安全だと判断した。


「凍れとまでは言わないけど、地面に落ちてくれないかな……」


 『歪み』は悪あがきのように僕に向かって飛ぶ。

 しかし、その動きは弱々しく、僕の元まで辿りつくことはなかった。その様を僕は『注視』し、何も見逃さないようにする。



【モンスター】

 ダークリングフライ:ランク2



 そこで『表示』が発生する。

 『表示』は『歪み』を指して、その情報を表している。


 ……ひどい。


 正直言って、これはひどい。

 おそらく、このダークリングフライさんは姿を消すことを武器としたモンスターだろう。にもかかわらず、『表示』は遠慮なく、モンスターはここに居ますよと指し続けている。


 もはや、攻撃を受ける要素はなかった。

 時間が経てば経つほど鈍くなっていく『歪み』を、適当なところで剣を使って叩き落とす。


 落ちた『歪み』は光と共に消え去り、くすんだ透明の石が残った。


 ちなみに石は『十位魔法石』と『表示』されていた。経験値の変動も確認し、総合して『ダークリングフライ』は下位のモンスターだったと判断する。


「ん、んー……。ランク2のモンスターに道具やMPを使うのはもったいなかったのかな……?」


 僕の残りMPは68になっていた。

 まだまだ残ってはいるが、無駄遣いすればどうなるかはわからない。


 僕は戻った道を進み直し、未開の回廊を進んでいく。


 その途中、レベルアップの調査を再開する。

 ただ、数分ほどかけて調べた結果――結局、レベルアップはできなかった。

 レベルアップをするためには何らかの特殊な条件を満たす必要があるようだった。

 経験値だけが過剰に溜まっているので、歯がゆい気持ちになる。


 調査が終わったあと、次は先ほどの戦闘を思い返す。

 視認の難しいモンスターによる奇襲だった。これがランク2ではなく、もっと凶悪なモンスターだったならば、僕は命を落としていただろう。


 『表示』に関して試すのは、安全を確保してからのほうがよさそうだ。

 でないと注意が散漫して不意をつかれてしまう。


 そんなことを考えながら歩いていると、遠くから物音が聞こえてくる。

 進む方角の先、そこには巨大な虫が佇んでいた。


 そいつは僕がここに来て、最初に出遭ったモンスターだった。

 その異形の二本の角が特徴的な巨大昆虫を『注視』する。



【モンスター】

 リッパービードル:ランク3



 名前から攻撃手段を判断できそうだが、先入観を持って動かないほうがいいだろう。

 僕は何が起こっても対応できるように、中腰となる。

 リッパービードルもこちらに気づいているようで、じりじりと距離を詰めてくる。


 ランク3ということだが、どれほどの危険度を隠しているかはわからない。

 しかし、ランク2のあっけなさを見たばかりの僕は、ランク1から5くらいならば膂力に任せた剣だけでも大丈夫ではないかと考えている。


 リッパービードルはある程度の距離を詰めたところで、唐突に突進してくる。

 しかし、巨大な狼と比べると段違いに遅い。

 すれ違いざまに僕は剣を振り抜く。


「っせい!」


 鉄と鉄が打ち合ったような甲高い音が響き、剣は弾かれた。

 斬った箇所が悪かったかもしれない。けれど、こんなに重い刃物が、こうも簡単に弾かれるとは予想外だった。格好つけて「っせい!」とか言ってみたものの、二重の意味で歯が立っていない。


 ただ、敵の動きに関しては、さほど問題はない。

 あの巨大狼よりも、あの少し憐れな『ダークリングフライ』よりも、格段に遅い。

 僕は頭の隅で考えていた別のプランを実行するために、『持ち物』から道具を一つ取り出す。


 その間も、リッパービードルは突進を繰り返すだけだった。

 その突進を僕は避ける。

 もちろん、避けるだけではない。一度目は避け様に油をリッパービードルに浴びせ、二度目でライターを使って火をつけた。


 火をつけるのは何度か挑戦しなければならないと思ったが、運良く一度で成功した。

 リッパービードルは火達磨になり、のたうちまわりはじめる。


「う、うわぁ……」


 高温により関節が抜けて、手足が外れていくリッパービードルを見届ける。

 無脊椎動物のようなので、高温に弱いようだった。すぐに動かなくなったので、剣で色んなところをつついているうちに光となって消えた。

 同時に、ぽとりと石が落ちる。


 今回のモンスターが落とした黒い石を『注視』すると――



【黒蟲石】

 通常の魔法石とは違い、虫属性の魔力で構成された魔法石

 等級は存在せず、虫のモンスターからならば、どのモンスターからでもドロップする



 しょ、詳細が出てしまった……。

 この『表示』って、詳細も見れるのか。

 便利過ぎる。


 すぐに僕は不明だったものたちの詳細を調べていく。


 まずは装備品からだ。

 エルフェンの外套やオーリアの大剣といった名前が長い物は、どうやらちょっとした加護がついているようだった。エルフェンの外套は高温や低温から身を守り、オーリアの大剣は自分より格上と相対した場合にボーナスがつくらしい。


 その数値がどれほどの影響を及ぼすかはわからないが、どうもアイテムには攻撃力や防御力が設定されてあり、詳細を見るのは大事だとわかる。


 そして、最も気になっていた魔法の詳細を見る。



【ディメンション】

 消費MP1

 次元魔法の基礎。術者の力量に応じた分だけ、空間把握を補助する



 単なる補助魔法だった。

 願わくばワープの様な魔法で元の世界に戻りたかったが、そこまで都合よくはなかった。


「――次元魔法《ディメンション》!」


 とりあえず、どういったものかを確認してみると――魔法名を告げた瞬間、途端に五感が研ぎ澄まされる。

 さらには第六感と呼ぶべき『五感ではない何か』が周囲の情報を拾っていく。

 おそらくは半径五メートルほど、はっきりと空間を認識できるように感じられる。


「こ、これはいい……!」


 様々なアドバンテージを得てきた僕だが、この魔法が最も素晴らしいものであると理解する。

 何よりも、索敵能力が格段に上がるのがいい。

 命の危険が、ぐっと下がっていくのを肌で感じる。


 僕は《ディメンション》の効果時間を計りつつ、その異様な索敵能力を駆使し、迷宮を進んでいく。


 ときには拾い物をしながら、ときには新たなるシステムを試しながら――歩いていく。


 《ディメンション》が働いているときに不意を突かれるということはなかった。

 効果の及ぼす領域内ならば、生き物を見逃すことは絶対になかったからだ。


 《ディメンション》を駆使することで、僕はどんどん『マップ』を把握していく。

 これまでの何倍ものスピードだ。


 ――ただ、それは僕から油断を生むのに、十分な要素だった。


 圧倒的に有利な魔法を手に入れて浮かれてしまった。

 このゲーム的迷宮について考え抜き、最善を実行していると僕は過信してしまった。

 事態が悪化したのは歩き始めて三十分を過ぎた頃であった。



 ◆◆◆◆◆



 状態異常にあたる『毒』が、僕の体力を削っていく。


 《ディメンション》を使い始めて十五分ほど経った頃、ランク1のモンスターとの戦いが発生した。

 ずっとモンスターを避けていた僕だったが、偶然に動かないモンスターを発見してしまったのだ。その敵はランク1であり、見たところ眠っている様にしか見えなかった。


 《ディメンション》を使用していなければわからないであろう瓦礫の下、微動だにしない大きめの蛙。名前もビッグフロッグと単純だったため、危険もなく例の経験値を稼げると思い、剣を使って潰したのだ。


 そして、潰した際に体液が飛び散った。


 その一撃でビッグフロッグ自体は絶命したが、体液が僕の身体に付着してしまった。

 ここで重要なのは、いま僕の身体はボロボロで、傷口が身体の至るところにあったということ。こうして、傷口に入り込んだ体液によって、僕は状態異常の毒に陥ってしまった。


 ステータスから毒を確認した僕は青褪め、すぐに道具から解毒薬を使用した。

 が、毒は解除されない。


 残った解毒薬の詳細を確認して、事態の深刻さに気づく。



【解毒薬】

 市販されている一般的な解毒薬。ポイズンビーの毒攻撃に対して調合されている

 それ以外の毒に対しては5%の確率で解毒が成功する



 急に呼吸が苦しくなる。


 『表示』通りならば、解毒薬にも種類があるらしい。 

 つまり、いまの僕にはこの毒を消す手段が5%しかないということだ。案の定、その5%には当たらず、全ての解毒薬を使い切ってしまい――


「――や、やばい。やばいやばい」


 もはや余裕はなくなった。

 大量の発汗と、目減りしていく体力。

 魔法《アイス》の氷を口に含んで、水分を補給しているものの、システム上のHPを回復する手段はなし。


 堪らずステータスを確認する。



【ステータス】

 名前:相川渦波 HP17/51 MP61/72

 レベル1

 筋力1.12 体力1.01 技量1.03 速さ2.02 賢さ4.00 魔力2.01 素質7.00 

 状態:混乱1.09 出血0.21 毒1.00



 HP17/51。

 一時期は30近くまで自然回復していたHPが、いまや17である。

 数分毎に1ずつ減っていく毒は、現実的な体力だけでなく焦燥感で精神も削っていく。


「はぁっ、はぁっ、はあっ――!」


 息が荒れ、意識がぼやけていく。


 このままでは死んでしまう。


 僕は頭の隅で、解決方法を思案する。

 ただ、案だけならばいくつもあるが、その成功確率はどれも低い。

 案をいくつか取捨選択し――余っているMPを犠牲にして、《ディメンション》をより強く重ねがけにすることに決める。


 これは《アイス》で水分補給をしていた際に確認した方法だが、同じ魔法でも条件によっては効果は異なるようで、こめた力の強弱やMPの消費量で効果が強まるようだ。


「――ディ、《ディメンション》!!


 何倍にも膨れ上がっていく知覚範囲。

 特徴的なモンスターたちが溢れる中、解決策に繋がるものだけに意識を割いていく。


 そして、知覚範囲が五十倍ほどまで拡がったあたりで、回廊に大きな違いがあるところを見つける。


 その回廊は整備されていた。

 ある程度だが床はならされ、何か別の鉱物でコーティングされている。

 一定間隔ごとに灯りが設置されていて、まるで人工の道だ。


 そこを中心に、さらに感覚を拡げる。

 すると、その整備された道を、数組の人間が歩いていることがわかった。


 すぐに《ディメンション》を打ち切る。

 残りのMPは一桁まで消耗されていた。



【ステータス】

 HP16/51 MP9/72



「っぷはぁ! はぁ、はぁはぁ……」


 人を見つけた。

 それも、その人たちは別の集団とすれ違い合っても揉め事になっていなかった。


 おそらくだが……あの道が、いま僕が歩いている道とは別物であるからだろう。

 僕が襲われたときの会話内容を思い出す。あの男は「迷宮、それも『管理領域外』に――」と言っていた。つまり、いま僕がいる道は管理領域外だから争いが起きて、あの道が管理領域内だから争いは起きない。その可能性は十分にあると予測する。というよりも、その可能性に賭けるしかない。


「最低限の《ディメンション》で、あそこまで一気に行く……!!」


 整備された道に向かって、全力で歩く。

 目減りしていくHPを確認することも止めて、ただ人を探して歩く。


 僕が解毒薬を手に入れたのは死体からだ。

 貰うにしても、奪うにしても、まずは人に会わないことには話が始まらない。


 目が血走らせ、意識だけは手放さないようにして、足を動かし続けた。

 そして――



 ◆◆◆◆◆



「――今日は10階層まで進んでみようか?」

「いいな。最近、調子が良いからな。そのくらい行ったほうが、儲けが出るだろう」

「俺も賛成だ」


 物陰から男たちの会話を盗み聞く。

 会話の内容から、この三人の男たちは迷宮で生計を立てているようだった。


 しかし、その風貌は三人とも堅気の人には見えない。

 僕の世界ならば、ヤクザでもやっていそうなコワモテの男たちだ。

 なけなしのMPを使い、強めの《ディメンション》で先に会話を拾って正解だった。


 ちなみに、これで僕の残りMPは4である。


 僕は整備された道の近く、物陰で思考し続ける。


 僕としては一対一での対話が望ましい。さらには、年下、女性、お人好しそうな外見――いずれかの条件に当てはまる人がいい。しかし、高望みばかりもしていられない。いまもなお、毒によってHPは減っている最中だ。


「……――魔法《ディメンション》」


 僕は最後のMPを使い《とはいってもMPを0にするのは怖いので、1だけは残す》、《ディメンション》で条件に近い者を探し始める。


 ざっと周囲200メートルほどを策敵し、見つけたのは四パーティー。

 まず、先ほどの男三人組。次に、男女混成のバラバラな装いをした五人組と男女混成の銀鎧で身を固めた四人組。最後に、女性の二人組。


 即決で、女性の二人組に決める。

 様子も物静かで優しそうだったため、話し合いの内容によっては助けてもらえるかもしれない。


 ただ、途中で五人組と銀鎧集団を挟んでいるので、物陰でやり過ごすことにする。

 息を潜めて、このままやり過ごすことにした――かったのだが……、


「――おい。そこで身を潜めている者、出てくるがいい」


 銀鎧の集団に隠れていることを看破されてしまう。

 バラバラな装いをした五人組には見つからなかったが、なぜかこの集団には死角にいる僕のことがわかるらしい。


 心臓の鼓動が跳ね出す。

 しかし、優先順位としては二番目になっていた集団だ。僕は気を持ち直し、会話を頭の中で組み立てる。

 そして、片手剣を物陰に置いて、ゆっくりと整備された道に出る。


「ふむ。ただの物盗りか?」


 銀鎧の男の一人が、何でもないように問いかけてくる。


 銀鎧の身に包んだ四人は、いままで出会った人間たちと違い、とても裕福そうに見える。

 ただ、四人の内で一人だけが少女であり、恐ろしく目を引いた。


 年の頃は僕と同じほどで、背も近い。そして、恐ろしく――そう、恐ろしいという言葉が相応しいほどに、美しい。金砂が流れているかのような長髪に、人形にも再現ができそうにない整った顔の作り。


 すぐに少女から目を逸らす。

 少女は身に持つ非現実感をもって、僕の現実感を奪っていくからだ。


 仕方なく僕は、最も背が高くて誠実そうな男に目をつけて話しかける。


「その、僕は物盗りではありません……。体調が優れなかったので、休んでいました」

「それならば、『正道』で休めばいいだろう。すぐわかる嘘をつくんじゃない」


 すぐに僕の話は男に否定された。

 そこには少しばかりの怒気も感じる。


 どうやら、この整備された道は『正道』と呼ばれ、休むのに適しているらしい。警戒に警戒を重ねて、整備された道に入らなかったことが逆に仇となってしまった。


 初手にて間違いを起こしてしまい、血の気が引いていく。


「せ、『正道』で休めない理由がありました……。害意はありません。信じてください」


 嘘は逆効果と判断して、誠実に訴えかけることにする。

 目の前の彼は、僕が嘘をついたことに腹を立てているように見える。

 見た目通りの誠実な人間であるならば、それに合わせたほうがいい。


「……ふむ。確かに、待ち伏せするにしても一人ではな」


 男は顔を少し和らげた。

 その対応に、他の男たちも同意していく。


「子供一人だ。何にしろ、問題ない」

「大方、迷い込んだか、無謀にも挑んだか。もしくは、荷物持ちで手伝っていたパーティーが全滅して、一人だけになったのだろう」


 勝手に都合良く解釈してくれる男たち。

 そもそも、ボロボロの僕一人では大した脅威と見なされていないようだ。


 できるだけ事が大きくならないように、その様子を僕は見守り続ける。


「あまり子供を怖がらせるなよ、ハイン。我らの騎士道に反するぞ」

「……わかってる。だが、細心の注意を払うべきだろう?」


 仲間内で、おどけた空気も出てくる。

 騎士道という言葉が聞こえ、この人たちがお人好しにあたる部類であることを僕は期待する。裕福そうな出で立ちから余裕も窺える。賭けに出るのならば、いまかもしれない。


 僕は意を決して、毒について相談をしようと声をかけようとして――


「あ、あの――」

あなた・・・面白そうですね・・・・・・・


 その言葉は、近くにいた少女によって遮られた。


 いつの間にか、少女は僕のほうに寄って来ていた。

 そして、その幻想的な黄金の瞳が僕を捉える。

 美しすぎて、僕の色々なものを削っていく瞳だ。 


 男たちは少女の突然の行動に驚き、声をかける。


「え、えっと、お嬢様……。何か要望でも……?」

「あぁ、すみません。大したことじゃありません」


 そう言いながらも、少女は僕に近づいて来ている。

 大声を上げたかった。

 僕に近寄るんじゃないと叫びたかった。

 しかし、喉は渇いて、張り付いて、言葉にできない。


「ちょ、ちょっと待って下さい……! 他の冒険者との接触は控えてください!」


 男の一人が声を荒らげる。


「このくらい、いいじゃないですか。他の何も触らせてくれないんですから、ちょっとお話ぐらい」

「それはそうですが……」


 少女の言葉に男たちも納得するものがあるのか、反論が途絶える。

 こうして、少女は僕の手の届くところまで近寄り切り、


「あなた、本当に面白いですね――」


 そう僕にだけ聞こえるように囁いた。


「面白い。羨ましいくらい。本当に……。本当に、妬ましいくらい……」


 その囁きは僕だけにしか聞こえない。


 ふと少女の顔を見る。

 顔が歪んでいた。

 僕を本気で妬んでいるとわかる表情。

 角度的に、僕しかそれを確認できない。

 ゆえに、男たちはそれを見守っているだけだった。


「いいな……。いいなあ、いいなぁいいなぁ……――」


 そして、呪うかのように少女は囁き続ける。

 その女神のように整った口から、呪詛が呟かれ続けるのを僕は耐えることしかできない。


「ど、どうかしましたか? それとも、その『目』で何か見えました?」


 痺れを切らした男が問いかける。


 それを機に、少女の顔が無表情にスッと切り替わった。

 少女は笑顔になって、男たちのほうに向かって振り向いた。


「ええ、そんなところです」


 さっきまでの呪詛なんて嘘のように、晴れやかな声をあげる少女。


「ああ、そうでしたか。で、何か面白そうなスキルでも持っているので?」

「いえ、そうではありません。どうも、この方……毒にかかり体力も少ないようです。回復魔法をかけてあげようかと思いまして」


 僕は「え?」と声を漏らした。

 凍りついた身体が陽に照らされたように、血が巡り出す。


「なるほど。そうでしたか」

「じゃあ、すごーく優しい私は、人助けをしますねー」


 そう言って少女は僕のほうに向き直り、魔法を詠唱し始める。


「――『撫でる陽光に謡え』『梳く水は幻に、還らずの血』『天と地を翳せ』――」


 純白の光がふわふわと少女の手から溢れ出し、僕の身体を包んでいく。

 それと共に、身体にまとわりついていた倦怠感や痛みが和らいでいく。

 いままでの出来事が嘘だったかのように、身体が軽くなり始めた。


 その様子を僕は見つめることしかできない。

 回復魔法をかけてくれているという話である以上、僕が抵抗する理由はない。


「――魔法《キュアフール》。っはい、終わり」


 少女は光の噴出を止め、僕に笑顔を向けた。

 その表情の中に、先ほどの妬みのような感情は一切ないように見える。


 そして、少女は「どれどれ」と僕の様子をさらに窺ってくる。


「ふーん、へー、ほー。その『混乱』、バッドステータスじゃないんですね。面白いです。あっ、あと火傷は処置が遅かったようなので、跡が残りますから」


 少女は感心したように頷いている。

 『混乱』と言った。言葉通りならば、僕は――



【ステータス】

 名前:相川渦波 HP51/51 MP1/72

 レベル1

 筋力1.12 体力1.03 技量1.03 速さ2.02 賢さ4.00 魔力2.01 素質7.00 

 状態:混乱1.00



 混乱という文字が残っている。

 そして、少女もこの『表示』が見えているのか?

 同じものではないかもしれないが、少なくともなんらかの形で知覚していそうだ。


 そんな僕の様子を見て、少女は薄く笑い、小さく僕だけに聞こえるように喋る。


「また会いましょう、アイカワカナミ。私の名前はラスティアラです」

「……お嬢様? 何かありましたか?」


 そこで回復魔法が終えたのを確認した騎士たちが合流する。


「いいえ、なんでも。ああ、人助けは気持ちいいですね。さあ、奥に行きましょう。時間もありません」


 ラスティアラと名乗った少女は、これ以上することはないと言わんばかりに僕から離れていく。

 咄嗟に僕は声を絞り出す。


「あ、ありがとうございました……」

「いいんですよ。すぐ・・返してもらいますから」


 ラスティアラは獲物を狙う肉食獣のような笑みを張り付けて応えた。

 もちろん、その顔は僕にしか見えない角度だ。


「それじゃあ、坊主、またな。気をつけろよ」

「まっすぐ帰ることだ」

「違いない」


 他の男たちも、小さく笑っている。

 けれど、男たちからはラスティアラのような害意を感じない。

 それは弱きものを守ったことに対する安心感や達成感の笑みだろう。


 騎士たちは構わない。

 しかし、このラスティアラとやらからは、できるだけ早く離れよう。


「はい、助かりました。それでは、みなさん、また――」


 そう言って僕は整備された道――『正道』を、少女たちとは逆方向へ進んだ。

 こちらが出口で合っているはずだ。

 僕を見送る男たちも疑問なく手を振っていた。


 それに愛想笑いを浮かべて応え、その集団と僕は別れた。



 ◆◆◆◆◆



 結果だけ見れば、ただのお人好しの集まりだった。


 一度足を斬られて囮にされたせいか、その思いはより強い。

 ただ、言いようのない不安が残っているのも確かだ《主に、ラスティアラとかいう少女のせいで》。

 僕はお人好したちの話を統合し、『正道』を堂々と歩くことにした。


 すぐに女性二人組とすれ違う。

 しかし、何事もなかった。


 出口がこっちで合っているかどうか聞こうかと迷ったが、人がこちらから流れているのは間違いないので踏みとどまった。


 道中、色々な集団とすれ違う。

 僕を値踏みするような目で見てくる集団も居たが、これといった問題は起きなかった。


 そして、『正道』を数十分ほど進んだ結果、出口に辿り着いたのだった。


「やった……、やった……!」


 目を焼く日差し。

 穏やかな陽気を運ぶ風。

 迷宮内とは比べ物にならない澄んだ匂い。


 僕は地上に生還した。

 その喜びを身体全体で表していると、綺麗に身を整えた警備兵のような男が声をかけてくる。


「おいおい、オーバーだな」


 男はフレンドリーな様子で笑っていた。

 だが、凶器を――剣を腰に下げているのを見て、僕は身構える。


 見たところ、敵意は感じない。

 この『出口』の前で立っていたところを見ると、警備兵の可能性が高い。装いもフォーマルなものだ。すぐに僕は思考に氷を落として、浮かれた感情を抑える。


「ええ、かなり苦労したので……」


 当たり障りのない言葉で返して、様子を窺う。


「ふーん、確かに見たところボロボロだな。この時間帯なら、ギリギリだが水道が使えるぞ」


 そう言って、男は親指で遠くを指した。


「……ありがとうございます。行って来ますね」


 水道という言葉を聞き、僕は内心で大喜びしながら頭を下げた。


「いいよ。仕事だからな」


 僕は男の指し示す方角に歩いていく。

 歩きながら、もう少し何らかの話を、いまの男としたほうがいいと考える。いまの会話を彼は『仕事』だと言った。公的な仕事かどうかはわからないが、僕の助けになってくれる可能性は高そうだ。


 ある程度歩くと、そこには井戸があった。

 水道と聞き、現代的なものを想像していた僕は落胆する。けれど、助かることは助かるのは確かだった。


 僕の世界の井戸と同じ仕組みだったので水を上げるのに手間取ることはなかった。

 まず、水を『持ち物』の空の皮袋に補充する。衣服に付着した泥は、濡れた布でぬぐうことで、ある程度は綺麗にする。刃物は水洗いでいいのか迷ったが、匂いが気になるので水ですすいだ。


 洗いながら、先ほどの男とすべき会話を考えていた。

 人通りも余りないため、他人に聞かれる危険も少ないだろう。

 人柄も人相も悪くなく、早急に情報を得たいならば、好条件な人物だと判断し終える。


 いくつかの会話をシミュレートしたあと、僕は自然を装って男に近づく。


「……いやあ。いくらかましになりました。すごく助かりますね、水道」

「ああ、水道があるのは迷宮の入り口の中じゃ、この北の『フーズヤーズ』だけだからな」

「へえ。そうなんですか。他のところにはないんですか」

「ああ、騎士国家さまさまだな。迷宮に張り付いている五国の中じゃあ一番金があるからな」


 ごく普通に、聞いたことのない言葉が飛び交う。


 正直なところ、現代のこと――つまりは、僕の世界のことを話したい。けれど、もう『魔法』なんてものが飛び交っている世界だ。望みは薄いし、不審に思われるだけだろう。まだ何もかも賭ける段階ではない。


 僕は知っている振りをして、さらなる情報を引き出そうとする。


「『フーズヤーズ』って、他にもお金がかかっていたりするんですか?」

「そうだな。迷宮のために造られた専用の施設で一杯だ。なんだ、坊主。こっちの国は今回が初めてなのか?」

「ええ、そんなところです」

「最近は五国の行き来が楽だからな」

「なので、この国のことをよく知れる場所があれば教えてくれませんか?」

「んー、そうだな。なら、まずはここから真っ直ぐ進んで中央広場に行くといい。看板地図がある。そこから国立図書館なり、仲介所なりに行って、詳しく調べるといいぞ。慣れたら、ギルドや教会にも行け。おすすめだ」

「なるほど。ありがとうございます」


 深々と頭を下げて礼を言うと、男は気恥ずかしそうに頬をかきながら礼はいらないと言う。


「いいよ、仕事だしな」


 これ以上、会話の引き伸ばしはできないだろう。

 仕事と言いながら色々と世話を焼いてくる彼とは、また話す機会があるかもしれない。不審がられないうちに別れることにする。


「では、また……」

「ああ、またな」


 僕は軽く手を振り、助言通りに真っ直ぐ中央広場とやらを目指していく。


 その途中、ふと一度だけ振り向いた。

 ある程度距離が空いたことで、背後にあった迷宮の全容が把握できるようになっていた。


 僕が出てきた迷宮は、とてつもなく巨大な遺跡・・だった。

 そして、その遺跡の中央には天を貫く巨木がそびえたっている。その枝には濁った宝石の装飾がなされていた。装飾それも巨大で、もしかしたら中には空間があり、そこも迷宮になっているのかもしれない。


 僕は前を向き直し、その異様な遺跡から遠ざかっていく。

 あそこから脱出できたという事実をかみ締めながら――



 ◆◆◆◆◆



 ――そして、街に辿り着く。


 街の景観は王道RPGそのものにしか見えなかった。

 文化の傾向は西洋に偏り、時代は中世ぐらいのように感じる。


 特徴的なのは、道の整備が異様に整っていることだ。

 道の端々は宝石と思われる綺麗な鉱物で装飾されていた。

 迷宮の『正道』もそうだったが、宝石の線が途切れなく延びている。

 この異世界では、宝石は貴重なものではないのかもしれない。


 街道を歩き続けると、多くの家屋を見つける。

 木製のものからレンガでできたものまで、多様な種類が不規則に並んでいる。


 その街を歩く人々には活気があった。そして、人々も多様だった。装いはスモックのような簡易な布だけの者もいれば、鋼鉄の重装備をガシャガシャと鳴らして歩く者もいる。様々な肌の色の人間が溢れ、たまに獣のような姿をした者もいる。いわゆる、半人半獣にあたる人種だろう。鋭い牙を剥き出しにしている者、横に長い耳を持っている者、ふさふさの尻尾や美しい羽を持っている者――幻想的な種族たちが、ここで生きている。


 元の世界とのギャップが凄まじい。

 当然、常識と非常識が、ぐちゃぐちゃと音をたててミキサーにかかっていく。同時に、ゴリゴリと大切なものが削れる音もしていた。


 こんなにも人は多いのに、世界に誰も居ないような孤独感があった。

 こんなにも空は広いのに、襲い掛かる閉塞感もある。

 幼い頃、大きなデパートで迷子になったときのような感覚だ。


 ああ、ここは僕の居た世界ではなくて……。

 いま僕は、僕は……――



【スキル『???』が暴走しました】

 いくらかの感情と引き換えに精神を安定させます

 混乱に+1.00の補正が付きます



「あっ……」


 告知が『表示』される。

 それを僕は静かな気持ちで見送った。


 文面通りの症状が現れる。

 焦燥や不安を代償に、クリアな思考を手に入れる。

 『???』ということに不安を覚えるが、いまはこのスキルに助けられていると判断するしかない。これがなければ、いまごろは巨大狼の胃袋の中だったかもしれないのだ。


 手に入れたクリアな思考で、再確認をしていく。

 いま周囲に見知った者など誰一人いない。見慣れた建物もない。


 それは鮮明で、リアルで、大掛かりすぎて――何かのドッキリ企画、外国のアトラクション、地球にある未開の土地――そういった希望的観測は、全て剥がれ落ちている。


 ああ、仕方がない。


 覚悟していたことだ。

 それよりも大切なのは「ならば、どうする」ということだ。

 自失しているだけでは得るものはない。

 冷静に僕は次の行動を頭の中で組み立てていく。


「まずは看板だ」


 気合いを入れ直し、堂々とした面持ちで街の中を歩いていく。

 幸い、僕の装いでも浮くことはなかった。

 綺麗な身なりの人もいれば、僕のような外套に剣を携えた冒険者も少なくなかったからだ。


 数分ほど歩いたところで広場を見つける。

 大きさは野球ドームほどで、噴水や石の長椅子といったものが置かれている。


 その中央には一際大きな噴水があり、その隣には巨大な看板が立っていた。

 看板を眺める人はいなかった。というよりも、この広場で足を止めるものが少なかった。公的なイベントのために確保されている土地で、普段はただの道になっているのかもしれない。


 看板には地図がいくつか記されていた。それと、国の歴史やらも書かれている。

 隣の噴水には壮年の男の彫像が建っていた。もしかしたら、これはこの国の記念碑みたいなものかもしれない。

 その全てを記憶するつもりで、僕は看板を見始める。


 ――看板の情報を読む限り、この国は『迷宮のための国』らしい。


 正確には連合国。

 宗教を同じくする五国が教えに従い、巨大な『迷宮』を囲み、攻略しようとしているというのが全容だ。その宗教の伝承によれば、この迷宮の『最深部』――『第百の試練』をクリアすれば、「どんな望みでも叶う」とのことだ。


 あつらえたようなクリア条件だと思った。

 帰りたければ、迷宮の100層まで潜れということだろうか。


 少しだけ眉をひそめて、続きを読んでいく。


 いま僕が居るのは迷宮の北部に位置する『フーズヤーズ』国。

 偉大なる騎士を祖とした騎士道を重んじる貴族中心の国。


 地図は僕がフーズヤーズのどこに居るかを詳細に記していた。

 フーズヤーズは番地を百分しており、番号が若いほど高貴な人間が住むという風習があるらしい。ちなみに、ここは21番地。ここから22番地に進んでいけば商店街があり、20番地には公的機関である仲介所などがあるようだった。


「よし……」


 それらの情報を頼りに、まずは20番地に存在する図書館らしき場所に向かうことを決める。


 図書館は街のシンボルのように目立ったところにあった。

 なので、迷うことはなく、短時間で辿りつく。


 僕は不安を隠しながら、建物に入っていく。

 係員の人が少しこちらを確認したが、止められることはなかった。


 木造の広い洋館だ。

 とても静かで、僕の知っている図書館と変わりないように見える。

 僕は現状を助けてくれそうな書物を数冊手に取り、備え付けのテーブルの一つに座った。


 書物を広げ、本を読み初め――そこで『読む』という行為に対して疑問を持つ。

 正確には、いままで目を背けていた事実が前面に現れる。


「なんで……。読めるんだろう……」


 僕は呟いた。

 それに反応して、静かに読書をしていた人たちが顔を上げてこちらを見た。


「すみません」


 小さく頭を下げた。

 すぐにこちらを見た人たちは興味を失い、自らの本に目を向け直す。


 いまの謝罪が通じているのもおかしい。

 こちらを見た人たちの中には金髪の白人もいれば、ふさふさの獣耳の人もいる。およそ、日本語を嗜んでいるはずのない人たちが日本語に対応している。


 僕が広げている書物は一際おかしい。

 よく見れば、英語にも日本語にも属さない奇妙な文字の羅列だ。なのに僕は、これをこの世界を知るのに丁度良いと思って、手に取ったのだ。


 日本語が奇妙な言語に、奇妙な言語が日本語に、勝手に翻訳されている。

 『魔法』と言ってしまえば、それまでかもしれない。

 けど、これを僕の世界で行うとしたら大事おおごとだ。

 まず脳の改造が必要になる。脳を弄って、記憶や人格を足したり引いたりすることになる。続いて、科学の解剖実験が頭に浮かんだ。ただ、恐ろしい。それは本当に恐ろしい――



【スキル『???』が暴走しました】

 いくらかの感情と引き換えに精神を安定させます

 混乱に+1.00の補正が付きます



 まただ……。


 どろどろと沸いてきていた恐怖が掻き消えた。失敗の繰り返しを後悔することも許されず、また頭がクリアになる。


 色々助かっているのは確かだが、嫌な予感がするのも確かな『表示』だった。

 発動条件は精神的なものが切っ掛けになっていると思う。

 できるだけ思考を制限して、激しい感情に支配されないようにしないと……。


「ふう……」


 深呼吸をして冷静になる。


 ただ、これは冷静だなんて良いものではなく、もっと別のものかもしれない。

 『表示』の『状態異常』の欄に、『混乱』がどんどん足されていっている。しかし、『混乱』という表現とは逆に、僕の頭の中は澄み渡っていく。不思議な感覚だ。

 スキル『???』自体に混乱無効の効果があるかもしれないが、それでも目に見える『状態:混乱2.99』という『表示』は不安を掻きたてる。


 とても不安だが、これ以上考えても仕方がない。

 この荒波立たない静かな精神に、僕は集中していく。

 そして、用意した書物を読み進める。


 この世界を、国を、文化を、迷宮を知っていく。

 時間が許す限り、延々と――



 ◆◆◆◆◆



 日が傾いてきたあたりで、僕は読書を止めて係員の人に道を聞いた。


 図書館で書物を読んでいる最中、係員に道を聞いている人が、ちらほらいたのだ。

 それにならって、特に怪しまれることなく情報を得ていった。


 数時間の読書だったが、本当に収穫は多かった。

 歴史について記されていた本から基本的なものを知り、専門書や近代書から人々の職業や生活を把握することができた。

 何より、ここが迷宮都市の図書館ということもあり、冒険者や迷宮といったものに関する情報が多かったのだ。


 図書館の係員から聞いた道を進み、換金所という施設まで辿りつく。


 誰にも見られないように、『持ち物』から皮袋を取り出し、腰に下げる。

 図書館の情報からは、『表示』や『持ち物』といったシステムの存在を確認できなかった。

 このシステムは僕にしかない可能性が高いので、存在を隠して行動しようと思う。 


 中に入ると、そこは僕の世界で言うところの骨董品屋に似ていた。

 乱雑に古いものやガラクタのようなものが散らばっている。

 その中で、店主と思われる小太りした男を見つけ、声をかける。


「あのー……。少しばかりですが、お金に換えてもらえませんか……?」


 丁寧な言葉で交渉を始める。

 最初は、舐められないように強気で交渉しようかと考えたが思い留まった。

 換金が目的ではあるが、できれば追加の情報収集も行いたい。

 基本的に僕は無駄なリスクを負わない方針だ。


「ん、いいぞ。見せてみろ」

「はい」


 すぐに店主は対応してくれた。

 その態度に妙なところはないと思う。



【持ち物】

 干し肉 水袋 止血薬 油 痺れ針 鑢 オーリアの大剣 革の手袋 革靴 木の弓 鉄のナイフ 無印の矢 ライター スマートフォン 小石 枝 十位魔法石 九位魔法石



 まず、『持ち物』から十位魔法石を全て――計十二個、後ろに下げた皮袋から取り出す振りをして、店主の前のカウンターに広げる。


「ああ、浅いところの魔法石か。一律、銅貨一枚だな」

「……わかりました。お願いします」


 最初から交渉する気がなかったのもあるが、一律という言い方を聞いて即答した。


「ほれ、銅貨十二枚だ。証明書はあるか?」

「……いえ、ありません」

「じゃあ、それを指につけて押してくれ」


 黒色の朱肉のようなものを指して、そう店主は言った。

 証明書と言われて驚いたが、どうやら必須ではないようだ。僕は「指紋って、僕の世界だと西暦何年から使われていたのかな?」なんて変なことを考えつつ、言われた通りに指示された紙に拇印を押した。


「それで、証明書もなしに迷宮へ行っていたということは、異国の出身か?」


 ぎこちない僕の様子を不審に思われたのかもしれない。

 店主は、いぶかしむように聞いてきた。


「はい。というよりも、迷宮自体が初めてです。迷宮の噂を聞き、遠くの国からやってきました」

「ほう。初めてで、この量か。なかなかだな。どこ出身だ?」


 なかなからしいが、死体から盗んだものばかりだから心苦しい。

 ただ、会話の流れは悪くないので、これに乗っかることにする。図書館で得た情報から無難なものを選択する。


 僕の故郷は遠国に設定しよう。

 それも遠国の中でもマイナーな国――確か、『ファニア』だったかな。


「かなり遠くです。ファニアっていうんですが、わかります?」

「ファニアか。詳しくはないが、位置はわかるぜ。それはまた遠くから来たなぁ。ファニアって、どんなところなんだ?」


 妙に食いついてくるのは暇なのだろうか。

 ボロが出る前に本題に入ろうと思う。


「いやあ、特に何もありませんねー。それよりも、今日泊まれる場所で、どこかお勧めはありませんか?」

「ん、泊まれる場所か。フーズヤーズなら、公的な宿泊施設がある。ただ、高い。と言っても、そもそもフーズヤーズに安いところなんてないがな」

「そうなんですか?」


 このフーズヤーズは割高な国のようだが、迷宮前の警備兵の話から薄々と予測していたことではある。


「見たところ、適当に選んで入国したようだな。フーズヤーズは一番見栄えの良い国だから、迷宮について詳しくないやつは、まずこの国に入る。見栄えも治安も良い国だが、その分、あらゆるものの値段が高い。伊達に貴族中心で、騎士国家なんて謳ってねえ」

「なるほど……」


 フーズヤーズに入ったのは偶然だ。

 しかし、どうもメリットとデメリットが尖っている国のようだ。

 金持ちによる金持ちのための国といったところか。


「正直なところ、よっぽど金に余裕がない限りはフーズヤーズで迷宮探索していくのは難しいぞ。少し銅貨を稼いだぐらいじゃ、飯もろくに食えねえ。だから、フーズヤーズは高レベルで高収入の迷宮探索者や冒険者でなければ滞在しねえ」

「そこまでですか……。ちなみに、宿泊料は他国と比べて何割増しくらいなんですか?」

「割り増しどころじゃないな。隣国と比べると数倍だ。フーズヤーズでの宿泊は、どこも銅貨ならば数百枚は普通にかかる」

「す、数百枚……!?」

「金貨を気軽に持ち歩いているようなやつらの国だ。残念だが、もし金がないなら今日は『魔石線ライン』のないところで野宿して、明日にでも東の『ヴァルト』へ行くんだな。あの国は少しばかり治安が悪いが、迷宮探索するには打ってつけの国だ。銅貨数枚で泊まれるところもあったはずだ」


 野宿をするのだけは遠慮したい。

 例のスキル『???』の暴走条件を満たすに決まっている。

 ただでさえ、精神の消耗が激しいのに、これ以上のストレスを溜めるとどうなるかわからない。あれに助られているものの、回数を重ねていいものではないという予感がある。


 さらには、『魔石線ライン』というものをしっかりと把握できていないというのもある。店主の口ぶりだと、野宿をするにしてもそれを避けなければならないようだ。図書館の文献では『魔力を伝える宝石の線』とあったが、それ以上のことはわからない。


 ――つまり、今日の金策において出し惜しみはできないということだ。


 なんだかんだで初心者の僕の面倒を見てくれている店主の良心に、僕は賭けていく。


「え、えーっと、それじゃあ、持ち物全て見てもらえませんか? いくらぐらいになるか知りたいので……」

「ふむ、まだあるのか。とりあえず全部見せてみろ」

「はい……」


 その後、僕は店の外に出て、『持ち物』から大剣などを取り出した。知人に預かってもらっていたと嘯いてみたが、やはり怪しまれた。しかし、深く聞かれはしなかった。

 もしかしたら、『持ち物』システムと似た魔法や道具が、この世界にはあるのかもしれない。


 こうして、最低限のものだけを残して、金になりそうなものは全て換金した結果――



【持ち物】

 レヴァン銀貨 レヴァン銅貨 鉄のナイフ 干し肉 水袋 止血薬 油 ライター スマートフォン 小石 枝



 現在、僕の『持ち物』には、銅貨100枚の価値のある銀貨が10枚ほど入っている。

 名前が付いていた大剣と巨大狼の魔法石、この二つだけで銀貨9枚分の価値があった。


 フーズヤーズでの宿泊の目処が立ったので、いま僕は店主さんにフーズヤーズの安い宿を教えてもらい、徒歩で向かっていく途中だ。


 大した時間もかからずに、特筆することもない古い宿に辿りつく。

 僕は堂々と宿泊の手続きをフロント《のようなところ》で行い、一部屋借りた。


 夕食と朝食付きだったので、すぐに食堂へ足を運んだ。

 食事はヴァイキング形式で、独特な料理が多かった。作法や暗黙のルールに関しては、恥を忍んで近くの店員に聞いた。フーズヤーズの宿だったおかげか、懇切丁寧に教えてもらえた。


 ……正直、夕食は不味かった。


 僕の世界と比べてしまうと段違いである。米なんて気の利いたものはなく、すりつぶした穀物や芋類、異様に硬いパンなどがメインだ。僕は自分に、これ以上安全な食べ物は手に入らないと言い聞かせて、胃の中に詰め込んだ。


 ――こうして、僕は夕食を終え、借りた部屋に入る。


 簡素な部屋だった。

 自分の採点では決して清潔とは言えない。

 けれど、この部屋が、この世界の上等な部類に入るらしい。


 その事実に僕は軽い眩暈を覚えたので、精神を乱さないように深呼吸をする。


「ふう……」


 備え付けの固いベッドに倒れこむ。

 何も考えずに、両手を伸ばす。


 今日、初めての休息だった。

 ここまで長かった。本当に長かったけど、やっと休める。


「あぁ……」


 ゆえに気が緩む。

 ふと思考が『正常な方向に』逸れてしまう。


 ――正常に考えるならば、今日一日の全てがおかしい。


 疑問は無数に存在する。

 そして、疑問には答えを出さないと落ち着かないものなのだ。


 一体何が起こっているんだろう……。


 僕は何をしているんだ。

 目が覚めれば迷宮で、モンスターに襲われて、魔法があって、RPGみたいな世界だって……?

 馬鹿にしてる。血が流れて、死にかけた。死体から追剥のような真似までした。余計なことは考えず、生きるために足掻き続けた。


 けど、納得がいかない。わけがわからない。この世界は何だ。僕の世界はどこだ。僕の家族はどこだ。両親はいないけど、『妹』がいるんだ。僕は向こうの世界から消えたのか? あの家に妹は一人ぼっちなのか? 

 なら、早く帰らなくてはいけない。早起きをして、あの部屋で二人分の朝食を作ってあげないといけない。こんな嘘みたいな世界、早く抜け出すんだ。そもそも『表示』なんてものが出るのが気持ち悪い。吐き気がする。網膜にどんな処理をすればそうなる? 科学的に考えてみろ。ゲームの様なステータスに、僕の思考を反映するシステム。どれだけ脳を弄ればそうなるんだ。怖い、怖すぎる。明らかに外国の人たちと言葉が通じる。ハリウッド映画を日本語吹き替えで見ているような違和感だ。ありえないことが、ありえない便利さでそこにある。ああ、気持ちが悪い。僕に何をさせたい。ふざけるな、ふざけるな――吐きそうだ。熱いシャワーも浴びれない。なんでだ。くそ、腹が立つ。ああ、ああっ、ああっ――!!



【スキル『???』が暴走しました】

 いくらかの感情と引き換えに精神を安定させます

 混乱に+1.00の補正が付きます



 告知が『表示』される。

 燃え盛る頭の中が、一瞬で鎮火された。


「あぁ……」


 またやってしまった。


 ――でも・・仕方ない・・・・


 スキル『???』の導くままに、そう諦める。


 やってしまったことは置いておいて、いまは現状の把握を進めて、対策を打つしかない。

 最善を尽くすんだ。

 それを繰り返していくことが、いまの僕に唯一できることだ。

 なら、いまはゆっくりと身体を休めることが大切だろう。


「…………」


 僕は疲れ果てた脳を休めようと、泥のように眠り始める。


 漆黒の温かい泥濘ぬかるみの底へと、ゆっくり落ちていく。

 夢なんてものを見る余地は一切ない。


 ただただ、黒くて、不安な、暗闇に包まれていく――


 はずだった。



「――起きましょう!!」



 正確な時間は定かではないが、目をつむってから数分後。意識が落ち切ってしまう前に、叩き起こされる。

 肺に詰まった空気が全て、強引に外へ押し出された。

 腹の底が押しつぶされ、痛みと共に意識が覚醒する。


「――っ!?」

「さっ! 早く、起きてくださいっ。早く早く!」


 声が聞こえる。

 高く、澄んだ、幼い声。

 これは、確か――


「あ、あんたは……」


 瞼を開けて、その声の主を確認する。

 僕にとっての非現実の象徴が、そこには居た。


「いいものを持ってきましたから、起きてくださいっ!」


 声の主は、迷宮で出合った不気味な少女だった。

 確か、名前はラスティアラ。

 迷宮内で見た鎧の格好ではなく、白い絹のラフな格好をしている。


 どうやら、この少女ラスティアラに、眠っていた僕は腹をぎゅっと押されたようだ。


 突然の出来事に理解が追いつかない。けれど、元々理解なんてものはどこにも追いついていなかったためか――冷静に話をすることができた。


「ここ、僕の部屋ですよ……」


 とりあえず不法侵入について咎めてみる。

 ちなみに、この世界にそんな法があるかは知らない。


「お、おお……。すごいですね。こんな事態なのに驚いていません……」

「驚いていますよ。思考が追いついていないだけです」


 僕は自分よりも幼そうな少女に対して、敬語をもって接する。

 得体が知れないということもあるが、迷宮の件で上流階級のお嬢様である確率が高いとわかっているからだ。


「そうですかぁ。いや、困っているかなと思いまして。あなた、レベル1のままでレベルアップできていませんでしたから」


 ラスティアラは楽しそうに話しかけてくる。


 その楽しそうな目が恐ろしい。

 ピンポン玉程度の大きさの眼球が、深海魚に似た異質さを放っている。焦点が合っているのか合っていないのかわからない彼女の両目は、僕を酷く不安にさせる。


「……あなたはレベルが見える人なんですね」


 僕は淡々と対応する。


 ちなみに、この世界でレベルという概念は一般的ということは把握している。図書館で読んだ書物には多くのところでレベルやステータスなどの記述があった。そして、選ばれた人間だけがレベルなどの詳細を見ることができると書かれた。

 ただ、宗教的に・・・・神に選ばれた人間と、記述されていたのが不安に残る。


「ええ、『アイカワ・カナミ』。この世界では・・・・・・、運が良い人はそういう技能を持っています。あとは信仰深い人が長い修行を経て手に入れることもありますね。公的機関、教会などでレベルアップを担当している神官は後者に当たりますね。ちなみに、私は前者です」


 ラスティアラは何でもないように僕の知りたいことを喋る。

 この世界に僕が不慣れなことを当然としている。

 そして、「この世界では」という表現を普通に使った。


 驚きと共に、息を飲む。

 慎重に言葉を選んで、最善を尽くしていく。


「それは知りませんでした……。ありがとうございます。けど、あなたの目的がわかりません。得体も知れませんから、人を呼んで追い払いたいところなんですけど……」

「え!? それは待って待って! 困ります。私はあなたを助けに来たんです。あなたの溜まっている経験値を消化してあげようと、善意で来たのです!」


 オーバーリアクションに両手を挙げて、ラスティアラは自分の善意を表現する。


「結構です。図書館でレベルについては確認しましたし、教会の場所もわかっています」


 冷たく否定する。

 こんな不審者にそういうことをされるのは遠慮したい。

 僕にとって、レベルアップというイベントはとても重要なのだ。

 現実的にも、ゲーム好き的にも。


「え、えぇー……」


 ラスティアラは僕の返答に肩を落とす。


「なので、出てってください」

「普通ならさ。もっと、こう……。なんかリアクションも薄いです。ああ、もう……」


 いじけた様子でラスティアラは呟く。

 どうやら僕の対応は、彼女にとって予定外のものだったらしい。


 それでも僕は、毅然として無言で退出を促す。それに対してラスティアラは何かを決心した様子で顔をあげてこちらを見た。


「よし。なら、強制でしましょうか」


 今日一番の良い笑顔だった。


 その瞳を僕は覗き込んでしまう。

 最初に抱いた印象と何一つ変わらない。

 深い黄金の瞳に畏怖することしかできない。


 怖い。僕は彼女を『人間の皮を被った化け物』としか思えなかった。

 どれだけ感情豊かに、その美しい顔を動かそうとも、その目からは人の温かみというものが全く感じられない。獲物を狙う爬虫類のような冷たい目をしている。


 僕は恐怖で身を竦ませながらも、全力でベッドから立ち上がり動こうとする。

 それに対してラスティアラがとった行動は、詠唱だった。


「――『忌み嫌う木箱』『音のない空、振るわない唄』『梳きすらう光』――」


 指揮者のように小さく手を振りながら、魔法を唱えている。


 その間に僕は、一目散に出口に向かう。

 こいつと対峙していても得なことはないのだから、第三者の介入が望ましい。まず部屋から出るのが先決だ。


 そして、部屋の出口に辿りつき、その扉のドアノブのような出っ張りに手をかけて――動かない。


 微動だにしない。

 扉は『魔法』のように固まり、ドアノブは薄紫色に発光している。


 僕は助けを求めて、ドアを強く叩きながら叫ぶ。


「だ、誰か――!!」

「防音だからいいけど、大人しくしてもらおうかな」


 いつの間にかラスティアラは背後に近寄り、僕の喉を後ろから撫でていた。


 その手を僕は、すぐに払いのけた。だが、自分の喉元から口にかけて薄紫色に発光し始めていることに気づく。ドアノブと同じような魔法を、僕の喉にかけられたことに悪寒を覚える。


「――っ!?」


 喉が震えない。

 それをラスティアラは確認し、僕の喉を撫でた手を再度伸ばしてくる。

 僕は覚悟を決めて、その手首を取る。ラスティアラの背中まで捻りあげるつもりで、力を入れる。


 ――瞬間、僕は宙に放り出されていた。


 眼下にラスティアラの頭頂部が見える。そして、理解する。僕は手首を取った手を逆に取られ、放り投げられていたのだ。

 体重50キロにも満たないであろう少女の膂力ではない。


 僕は急速に冷えていく頭をフル回転させて、受け身を取ることに集中する。何が起こっても不思議ではないと決めていた心構えが、その思考を助けていた。

 天井すれすれを通り過ぎ、床に叩きつけられる。

 運良く、両の足と右手で接地したものの――その衝撃は計り知れない。衝撃と痛みで顔を歪ませているうちに、ラスティアラは目前まで迫る。


 『持ち物』からナイフを取り出して構える。

 少しばかりラスティアラは驚いた様子を見せた。しかし、すぐに苦笑して何もなかったかのように手を伸ばしてくる。


 対し、僕は動くことができなかった。

 ナイフで少女を切りつけるという行為に対して、良心がブレーキをかけたのだ。

 ここまできて甘っちょろいことを考えているのは百も承知で、僕はナイフで切りつける振りだけを見せて、空いた手で『持ち物』から水袋を取り出し、目くらましを行おうとする。


 その僕の反撃を予期していたのか、ラスティアラは取り出した水袋をはたき落とす。そして、恐ろしく速い動きで手に持ったナイフも弾かれ、足を払われる。


 とどめに頭を押さえつけられ、魔法を唱えられる。

 脳裏に薄紫色の発光を感じた瞬間、身体が一切動かなくなった。


「んー。受け身といい、判断力といい、すごいですね。これでレベル1ってのは俄かに信じられません」


 全く持って歯が立たなかった僕だが、ラスティアラにとっては感嘆に値したようだ。

 心底驚いた様子で話を続けていく。


「これが『数値に現れない数値』って奴なんですかね。いやー、すごいすごい。力も速さも私の十分の一ほどなのに、どうやればさっきのを受け身できるんですか。魔法もすごく通りにくいですし、恐ろしいですね」


 薄紫色の魔法のせいか、僕は何も答えることができない。

 身体が動かなければ、悪態をつくこともできない。

 この状況に不安しか感じない。


「そんなに心配しなくてもいいですよ。信じられないかもしれませんが、本当に悪意はありませんから。レベルアップするだけですよ。いや、ほんと」


 そう言いつつ、ラスティアラは這いつくばったまま動けない僕の背中に乗り、懐から古そうな本を取り出した。


「えーと、レベルアップのための詠唱は、っと……。『汝、刮目し省みよ――」


 ラスティアラは詠唱に入り、僕たちの身体から白い光が漏れ出す。


「――我に在り、汝に在る』っと。……たぶん、これで終わりです」


 すぐに魔法は終わった。

 ラスティアラに嘘がなければ、これで僕のレベルは上がったことになる。


「大事な私の『候補』なんですから、レベル1なんてふざけたレベルのままでうろちょろされると困ります。ステータスが低いと何かの拍子で、ぽっくりと死にますからね、気が気でありませんでしたよ。ですが、これで一先ずは安心です」


 ラスティアラは一仕事終えたと言わんばかりに汗一つかいていない額を拭い、部屋の窓に近づく。


「さて、怖い方々が私を血眼になって探しているので、そろそろ私はお暇させていただきますね。あ、そのうち、身体は動くようになりますから、ご心配なく。それじゃー」


 その言葉を最後に、ラスティアラは窓から飛び去っていった。


 ちなみに、僕の身体は動かないままである。

 僕は嵐のように去っていったラスティアラを見送りながら、自らのステータスを確認する。



【ステータス】

 名前:相川渦波 HP119/121 MP71/141 クラス:

 レベル4

 筋力3.03 体力3.15 技量4.07 速さ5.05 賢さ6.09 魔力8.08 素質7.00 

 状態:混乱4.29

経験値:127/800

 装備: 異界の服


【ポイントの割り振り】

 ボーナスポイント3

 スキルポイント3

 発生しました



 レベルアップはしている……。

 しかし、一体何だったんだ……。


 ラスティアラという少女に害意がなかったのは確かだった。

 けれど、身勝手が過ぎる。


 警戒は依然として解くことのできない人物だ。

 次に会ったら絶対に問答無用で逃げ切ってやる。

 『持ち物』に、それ用の砂を入れておけば、今度は――


 と倒れたまま熟考していく。


「…………、……あぁ」


 が、長くは続かない。


 元々、疲労で脳と身体が限界だったところに、この襲撃だ。

 緊張が解けた瞬間、急速に思考は鈍っていく。


 いまは、休んだほうがいいか……。とにかく、休もう……。

 明日、疲れで動けなくなったら、元も子もない……。

 元も子も……、ないんだから……――


 今度こそ、泥のように眠っていく。


 ただ、先ほどのベッドの上と違い、今度は固い床の上だ。

 温かい泥濘ぬかるみには沈めず、その眠りは浅くなるだろう。


 結局、僕は一日目の終わりに、高い金を払って、冷たい床の上で。

 深い睡眠に届くことはなく、眠ることになり――



 ◆◆◆◆◆














 …………。

 ……………………。


 夢を見ている。


 そう確信したのは、奇妙な浮遊感。

 何かに「糸のようなもの」に繋げられて、引っ張られて、海中から浮上していく感覚があった。


 身体だけではない。

 思考も揺らめいて、ずっとうわついている。


 ただ、その特徴的な感覚のおかげで、いま自分が目覚める手前だと認識できた。

 その夢が夢と分かる不思議な時間に、僕が見ていたのは――


 薄暗い部屋だった。


 狭く、陰気な石造りの地下室。

 そこで誰かと誰かが談笑している。


 牢と見紛うかのような部屋の中央には、古びた木製の机と椅子があった。

 その机の上にある蝋燭の明かりだけを頼りにして、見知らぬ二人が楽しそうに話し続けている。


「――――、――――っ!」

「――――――、――――!?」


 そして、その談笑を眺める僕の視点は、なぜか部屋の天井近くにあった。

 人ならざる高さから見下ろすことで「やっぱり、夢だ」と再確認して、よく二人を見る。


 まず目を惹かれたのは、女性。

 夢特有の霞む視界のせいで、少し見えにくいが……金の長髪を足下まで垂らして、装飾過多の修道服のようなものを身に纏っているようだ。


 その女性は、目の前の誰かに聞く。


「――へえ、そういうこと? だからなの?」


 それに薄暗くて顔のよく見えない相手が、どこか聞き覚えのある声で返す。


「はい。『魔の毒』を含んだ空気は、苦しいどころか美味しくて……、僕の生きる力になってくれました。だから、『魔力』と呼んだんです」

「まだまだ私は、ただの『毒』だと思うけれど……。まあ、構わないわ」


 魔力はともかく……、魔の毒?

 ゲーム好きが高じて、夢にまで出てきているのか……?

 それならば、まだ納得できる気もする……、けれども……。


 そう呑気に考えていると、薄暗くて顔の見えない相手が机の上から羊皮紙らしき一枚を手に取って、目を細めた。

 その様子を見て、女性は口元を緩ませる。


「ああ、あれだけ計算はできても、まだ文字は読めないのね。……私が書き直したほうがいいかしら?」

「いえ、大丈夫です。頼ってばかりだと、いつまでも上達しませんから」

「上達なんて気にしなくてもいいんじゃない? 上のほうで、言語に関して色々試しているみたいよ」


 何を話している……?

 分からない……。


 だが、顔が見えない相手も口元を緩ませたようだ。

 安堵した様子で、話を続けていく。


「なら、まず優先すべきは名称なまえですかね。この世界では、名称なまえが非常に重要だと分かった以上、もっともっと変えていきたいと思っています。あの『魔力変換』が、呪術・・レベルアップ・・・・・・》となったように……。いま数値化している『変換結果』も、別の言葉にしたいですね」

「す、数値化……。数値ねえ。そういう難しい話は、他の誰かと話して頂戴。私は感覚派の『使徒』なのよ」

「だから、言葉の感じを聞きたいんですよ。例えば、『変換結果』は『ステータス』。……どうです?」

「すてーたす? ……いいんじゃないかしら? 言いやすいわ。その言葉に何か問題でもあるの?」

「え? も、問題は……、ありません! あ、あるわけないですよ! あははっ!」

「そう? なら、もし問題があるとすれば、それが世界に浸透するかどうかね。少なくとも、いま私は覚え切れてないわよ? また次に会ったとき、全く同じことを聞くかも」

「いや、そこで胸を張らないでください……」


 苦笑を漏らし合い、楽しげに話し続ける二人。


 …………。

 夢というのは荒唐無稽で滑稽なものだ。

 それにしてもシュールな話をしている。


 これではファンタジーを超えて、ゲームそのまま……と夢の出来に文句を思い浮かべたとき、その言葉は出てくる。


「ねえ……。こうやって、少しずつ変えていけば、私たちは本当の・・・魔法・・』に辿り着けるのよね?」

「ええ、きっと……。実験を重ねていけば、いつか『魔法』に辿り着いて、世界の誰もが幸せになれる。そう僕は信じています」


 ここで、いまさら魔法……?


 本当に状況がわからない。

 意味もわからない。『混乱』は止まらない。


 だけど、その明るい声だけは、はっきりと聞こえてくる。


「必ず、ここにいるみんななら、世界を救えます。だから、一緒に目指しましょう。『青い空』まで――」


 世界を救う……、王道だ……。

 ああ、つまりこれは……。


 夢は記憶の整理だと聞いたことがある。

 これは僕の疲れ果てた脳が、今日覚えた単語やゲーム知識を繋ぎ合わせて、継ぎ接ぎのストーリーを作っているのかもしれない。

 だから、こんなにも適当で、曖昧で、ぼやけて、荒唐無稽が極まっている。

 それならば、納得できる。


 ――所詮は、ただの夢。


 そう、はっきりと僕は認識した。

 ただ他にも一つ、はっきりと認識できてしまうことがあった。


 ――僕は目覚めるとき、これを覚えていない。 


 この最後に繋がった「糸のようなもの」が切れれば、もう夢見ることさえ許されないだろう。そう決められている。


「いや、みんな一緒なら! 『青い空』どころか、さらにその先まで! きっと行けるはずです! どこまでもどこまでも――」


 決められているから、その希望に満ちた声は徐々に遠ざかっていく。

 ここまでの「『作り物』のような物語の始まり」もだ。

 この地下室の冷たい石の床に呑み込まれて、消えていって――


 視てはいけないものを遠ざけられるように、急速に夢は薄らいでいく。

 聞こえなくなる。

 見えなくなる。

 感じられなくなる。


 意識が落ち始める。


 だから、天井にあったはずの夢の視点も、下に落ちていく。

 冷たい石の床さえも突き抜けて、地中の奥深くまで、真っ逆さま。

 下へ下へと、どこまでもどこまでも。

 落ちていって――


 ――『最深部』まで。


 そんな言葉が頭に浮かんだところで、落ち切る。

 糸が切れたような音を立てて、夢の中で意識を失ってしまった。


 つまり、目覚めのときだ。


 夢でなく、現実へ。

 一日目が終わり、二日目の朝へ。

 僕の意識は戻っていく。

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