第42話 リモートワークの完成
作業現場に着くと……まず俺は施工管理技士を呼んで、こう頼んだ。
「あの……一旦作業員を集合させてもらうことってできますか? ちょっと重要な話がありまして」
「重要な話……? まあ作業再開前の今なら、全員集合させるのは簡単だが……」
無事施工管理技士の協力が得られ、全員を一同集結させてもらえることに。
「じゃあ……フランソワはここで待っててくれ。一個やりたいことがあるから」
「お、おす……」
そしてフランソワにそう伝えると、グレートセイテンの雲に乗ってアシュガーノ支社へと向かった。
理由はもちろん、支社の従業員たちにも集まってもらうためだ。
「皆さん、ちょっと大事な話がありまして。今オフィスを空けて大丈夫な人は……俺に掴まってもらえませんか?」
支社のオフィスにて、俺はそんな風にお願いする。
「ハダル君に掴まってって……一体何するつもりなの?」
「訳あって、一瞬作業現場に来てほしいんだ」
「えっちょっ……まさか全員抱えて空を飛ぶなんて言わないわよね!?」
事情を説明すると、ジャスミンに変に誤解されてしまったが……別に俺は、そんなことをするつもりはない。
「違うよ。もっと穏便に着くから」
「そう……なの?」
半信半疑ながらも……少しの押し問答の末、一応今手が空いてるスタッフたちには俺に掴まってもらうことができた。
そこで――スイッチングを発動する。
「「「えっ……!?」」」
現場――すなわちフランソワがいた地点に着いた瞬間、驚いて戸惑う支社のスタッフたちの声が重なった。
と同時に現場作業員や施工管理技士たちからも、俺たちを見て驚きの声が上がる。
「うおっ、何か急に大量の人が湧いた!?」
「ていうか、さっきまでここにいた謎の綺麗なお嬢さんはどこへ……」
「話は一斉に伝えたいので、魔法で支社の人間を移動させました。……少し待っててください」
それだけ言うと……俺は全員に離れてもらったあと、再度スイッチングを発動した。
そして雲に乗り、現場に飛んで向かう。
現場に着くや否や、施工管理技士の一人がこう質問した。
「い、いったい何をなすったんだ……?」
それを話すにしても……まずフランソワの素性から説明しないと、チンプンカンプンになるよな。
皆フランソワの人化した姿しか見ていない以上、「スイッチングというテイマーの魔法で~」とか言っても混乱と誤解しか生まないだろう。
というわけで、順を追って話すことに。
「それを説明するためにも……まずはフランソワ――この子を紹介させてください」
一息置いて、俺はこう続ける。
「フランソワは、インフェルノ大陸から来てくれたドラゴンです。今は人化の術で人間の姿になっていますが」
「「「「い、インフェルノ大陸のドラゴン――!?」」」」
素性を明かすと……ここにいるほぼ全員の声が、そうシンクロした。
「フランソワ、一旦人化を解いてくれないか?」
「了解っす!」
俺が頼むと、フランソワは人化の術を解き……この場に一匹のドラゴンが出現する。
「ほ、ホントにドラゴンだ……」
「なんて威厳だ……圧倒的過ぎる……!」
その姿に、ここにいるほぼ全員が口をあんぐりと開けた。
中には若干怯えてしまっている人もいるようだ。
「あ、安心してください。フランソワは俺がインフェルノ大陸を散策してる時に会って以降、ずっと仲良くしてますから」
「そーっすよ! アニキの大事な仕事の邪魔なんてするわけないっすから!」
慌てて落ち着かせようとすると、フランソワも再度人化しつつ、そう言ってフォローしてくれた。
「い、インフェルノ大陸のドラゴンがアニキって……」
「最初っからとんでもないお方だとは思っていたが……これに関してはハダルさん、ほんとどうなってるんだ……」
幸いにも……フランソワのアニキ呼びのお陰で、みんなの警戒心は解けたようだ。
じゃ、最初の疑問に答えるか。
「そしてさっきみんなをここに集めるのに使ったのは、スイッチングという魔法です。これは本来、自分と従魔の位置を入れ替える魔法なのですが。別に特段従魔契約を結んだ覚えはないものの……なんかやってみたらできることが分かりました。以来重用してます」
これで瞬間移動に見えた現象についても、納得してくれることだろう。
……と、思っていると。
「そんな魔法が……。俺、ウーバーレターを飼って何年にもなるのに知らなかった……」
支社のスタッフの一人が、そんなことを呟いた。
……なんでだよ。
ウーバーレターといえば、とにかく飛行速度が速くてどんな遠くでも往来してくれることで有名な魔物じゃないか。
お前一番この魔法が真価を発揮するタイプのテイマーだろ……。
と、それは置いといて。
本題に入らないとな。
「そして皆さんにお集まりいただいたのは……他でもない、安全管理業務に関して重大なお知らせがあるからです。俺は今後……安全管理業務の大部分を、フランソワに代理でやってもらおうと考えています」
そこまで言うと……俺はフランソワに小声でこう耳打ちした。
「最低出力の竜閃光を防げる強度の結界を張ってくれ」
フランソワが結界を展開すると……俺はそこに最低出力の竜閃光を放つ。
「ご覧の通り、フランソワは俺がよくギガントフェニックスやラッシュタートルを瞬殺するのに使う魔法を防ぐことができます。つまり、フランソワにとってアシュガーノ岬に来るような魔物などは敵ではないということです。実力は十分だということは、お分かりいただけるでしょう」
そんな感じで、俺はフランソワが代理に相応しいことを軽く実演して見せた。
「流石ドラゴンというだけはあるな……。ハダルさんのあの破壊の象徴みたいな一撃を防ぐとは……」
「ア……アニキはこんなもんじゃないんっすよ! もっと威力が高くて絶対避けられない、グレートセイテンすら瞬殺する魔法さえ連発できるんっすから!」
作業員の一人が呟いた感想に……なぜかフランソワはそう噛みつく。
「え、グレ……ハダルさんって、神話から飛び出して来た存在か何かなのか!?」
おい。変なこと言うから訳の分からない推測を立てられちゃったじゃないか。
それもまあ置いといてだ。
「俺、なんだかんだ言ってまだゼルギウス王立魔法学園の学園生ですからね。ライト社長の交渉のおかげで、特別に留年無しでの卒業は確約されたものの……学生時代をこの業務だけに費やすのは何だかなと思っていたんです。なので、この業務はフランソワにほぼ委託し、俺は学園に戻ろうと思います」
そう言って、一旦俺は頭を下げた。
そしてこう続ける。
「もちろん、万が一の時は引き続き俺が対処します。フランソワにも倒せない魔物がアシュガーノ岬を襲いそうな時は……先ほどのスイッチングで岬に瞬時に駆けつけ、ソイツを討伐しますから。その点はご安心ください」
実は……支社のスタッフたちをスイッチングで運んだのは、体感でこういう移動手段があることを分かってもらうという狙いもあったのだ。
ゼルギウス王立魔法学園からアシュガーノ岬まで瞬間移動できるなんて、口で言うだけでは信用されないかもしれないと思ったのでな。
「ドラゴンを従えるほどのお方が、いったい今更学園で何を学ぶというんだ……」
「それな」
俺の話を聞いて、施工管理技士やスタッフたちはそんな感想を口にする。
学園で、というよりは他にもいろんなインターンとかに参加してみたい感じだな。どちらかといえば。
なんだかんだで、まだ建設業と教会くらいしか実地での業界研究ができてないし。
ま、そんな話はどうでもいい。
とりあえず、俺から全体に対し説明しないといけないことは、これで全部話しきったはずだ。
「俺からは以上です。わざわざ集まってくれてありがとうございました。では引き続き、作業の方に戻ってください」
最後に俺は、そう話を締めくくった。
そしてまたスイッチングを活用し、スタッフたちを支社のオフィスに戻す。
フランソワにはインフェルノ大陸沿岸に戻ってもらい……俺は支社で、王都に帰るにあたって必要な諸手続きを済ませた。
ちなみにジャスミンも、これを機に学園に復帰することに決めたそうだ。
支社を後にしてから、チェックアウトを済ませに宿に向かう途中のこと。
ジャスミンは、突然何やらポツリと呟きだした。
「全く……まさかこんなことになるなんて、全く考え付きもしなかったわ」
「……何が?」
「この業務はハダル君にしかできないことだと思っていたら。人材発掘すら、こうも予想の斜め上を行くとはね……」
「竜材だけどな」
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