第12話 入学式
その後も、二週間後にバンブーインサイド建設から合金骨の追加注文が入り、俺は錬金のために本社に赴くこととなった。
どうやら前回の相場だと超過需要が発生したようで、今回は少し単価が上がり、同じ量を計52億クルルで買い取ってもらえることとなった。
まったく、とんでもなく太っ腹なクライアントを抱えることができたもんだ。
まあこんなのはビギナーズラックに過ぎないだろうから、今後も地に足つけてガクチカを作っていこうという気持ちに変わりはないが。
そして更にその一週間後、ようやく入学式の日がやってきた。
一日の流れとしては、まず全体で式典をやったあと、クラスで自己紹介をやるという流れになるようだ。
全体での式典は学内最大の講堂で行われたのだが、校長の話が冗長だったため、俺は講堂全体に時空調律魔法をかけて2倍速で聞き流すことにした。
そんな疲れるイベントが終わると、ようやく教室へ。
ちなみに俺はAクラスだ。
とりあえず最初の席替えまでは席は受験番号順になっているようで、俺はドアに貼りだしてある席指定表を確認すると、自分の席に座った。
それからしばらく、担任の先生が来るのを待つことになるのだが。
待っている間、隣の席のめっちゃムキムキの子が俺に話しかけてきた。
「君、特待生の子だよね? 名前は?」
合格発表の日の受験番号でも丸暗記しているのだろうか。
記憶力いいな。
などと思いつつ、こう返す。
「ハダル」
「僕はイアン。オリハルコンーアダマンタイト合金の剣作ってたの見てたよ。なにせ順番次だったからね」
なんと、ムキムキの子――イアンと名乗った――はあの試験を見ていたようだった。
「そうなんだ」
蓋を開けてみれば満点だったものの、自分的にあの試合は黒歴史なので、あまり触れられたくはないのだが。
話題が変わってほしいという期待から、俺はポーカーフェイスで素っ気なく返事した。
「アダマンタイトを錬金できるなんて凄い能力だよね。そこでなんだけど……もし良かったら、アダマンタイトでダンベルを作ってくれない?」
……どうやらダンベルの話を深掘りすれば話を逸らしていけそうだな。
「いいけど、なんで?」
「見ての通り、筋トレが趣味だからさ。お礼は弾むよ」
聞いてみると、イアンはそう言って腕に力こぶを作って見せた。
「そうなんだ。……いいよ」
……こんな屈強な人が、アダマンタイトごときでトレーニングになるのだろうか。
と思いつつも、まあ要望とあらばと思い、三種類くらいのサイズのダンベルをそれぞれ二個ずつ生成する。
「これでいい?」
「……最高だ。素晴らしい重さだね」
イアンは中サイズのダンベルを握りながらそう答えた。
……そうだ。
これじゃいずれ物足りなくなるだろうし、せっかくだから魔術試験で作ったアレも渡しとくか。
どうせ俺が持っててもあんま使い道ないし。
「よかったら、重力操作装置もいる? 三倍までしかできないけど」
そう言いつつ、収納魔法であの時作った魔道具を取り出す。
「じゅ……重力操作装置? なんだよそれ、流石に冗談だろ……」
「いやいや、このツマミを回したら……」
「うおっ、フワッとした!?」
半信半疑っぽかったので、イアンの周りの重力を6分の1くらいにしてやる。
すると、イアンは若干椅子から浮きながら目を白黒させた。
「逆側に回せば重くなるよ」
「な、何だよこれ……。まるで古代のアーティファクトじゃないか。流石に畏れ多くてもらえないよ」
「どうせ俺がもってても使い道ないし。いいよ」
「え、そんな……なんかごめん。何を以てしても足りる気がしないけど、盛大にお礼させてもらうよ」
「そんなに気を遣わなくて大丈夫だよ」
などと話していると……ようやく先生が教室に入ってきた。
先生が来てからは、予定通り自己紹介が始まった。
最初の方は、みんなただボーっと聞いていた。
が、15人目の自己紹介の時、教室が少しざわついた。
と同時に……イアンがコッソリと小声で耳打ちしてくる。
「なあ、あの子めちゃくちゃかわいくないか?」
……だからどうした。
まさかそんなことでさっき教室がざわついたのか?
「そう? 俺山奥育ちだからそういうのよくわからないけど……」
「かわいいと感じるかどうかに山奥も何もないだろ……。僕は既に許嫁がいるから無理だけど、良かったら狙ってみたら?」
「……」
めんどくさいなと思って聞き流してたら、なんか衝撃の事実を打ち明けられたんだが。
なんでその歳で既に許嫁がいるんだ。
などと思っていると、15人目の子が口を開いた。
「はじめまして。ジャスミン=ベールバレーです。父はバンブーインサイド建設の社長です。よろしくお願いします」
この子はこの子で衝撃の事実があった。
まさかあの社長の娘が同級生とはな。
それを知った上で、俺はイアンにこう返した。
「いや、それはやめとくよ。仕事に悪影響が出るとやだからね……」
重要なクライアントの身内に手を出して万が一関係がこじれたら最悪だからな。
そんなリスクを取る必要はないだろう。
「し、仕事……? なんだよ、俺たち今日まだ入学式だぜ……?」
イアンはそう言って首を傾げた。
「まだ入学式」って、なんでそんな言い回しが出てくるんだろう。
まさかコイツ、1年のうちは就活とか考えなくていいって思ってるタイプか?
もたもたしてると、五次請けの客先常駐型魔道具エンジニアくらいしかなれる職がなくなるからな。
動き出しは早ければ早いほどいいと思うのだが……。
というか、だ。
席順的には、次はイアンの番なんだよな。
「君の自己紹介の番だよ?」
「おっといけない」
どうやら本気で忘れていたようで、イアンは慌てたように教卓の前に向かった。
そして、彼の自己紹介が始まる。
「僕はイアン=ゼルギウス、この国の第一王子だ。趣味は筋トレ。さっき特待生のハダル君から純アダマンタイト製のダンベルをもらったから一層精進するつもりだ」
簡潔に、彼はそう自己紹介をした。
それを聞いて……ようやく俺は、合点がいった。
なるほど、進路が既に決まってるからこそ、かわいい子がどうとか余計なことを考える暇があるわけか。
第一王子ってことは、
戦時や飢饉の真っ只中を除けば、国王は基本ホワイトだからな。
全く羨ましくないと言えば嘘になるだろう。
ただ……裏を返せば「職業選択の自由がない」ということでもあるので、その点はちょっと微妙だな。
普通に就活を頑張った方がいいかなって気はする。
あとそういう立場なら、許嫁がいるってのも納得だな。
ていうか俺……第一王子相手に普通にフランクに話しちゃったけど大丈夫だろうか。
それにさっきイアン、魔道具のことを盛大にお礼とか言ってたよな。
そもそも人間関係を構築するのがこれがほぼ初めてなのに、いきなり王家に招待されてその作法に従ってコミュニケーションとか難易度高すぎでは。
などと考えていると、イアンが席に戻ってきた。
「あの、やっぱり魔道具のお礼はいいですよ。王家に呼ばれたりしたらまともにコミュニケーション取れる気がしなくて……」
「いや、あれだけのものをもらっておいてお礼をしないわけには……まあでもウチに呼ばれると緊張するってならそこは配慮するが。あと敬語はやめてくれ、同級生までその調子じゃうんざりだ」
とりあえず王家招待コースは回避できたようだ。
あと話し方も、今までどおりの方がいいみたいだな。
その後は、特に誰の自己紹介も特筆すべきようなことは何もなかった。
ちなみに俺は、「ハダルです。山奥の田舎からきました。趣味は読書です」ととにかく無難な自己紹介をしておいた。
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