『恐怖の大王シリーズ』 その3

やましん(テンパー)

『暗殺』


 独裁者は、常に暗殺の恐怖と向き合う宿命にある。


 地球の歴史でも、大王の王国でも、そこは、変わらないようだ。


 独裁者の地位を狙うものにとって、民主制は害悪でしかない。


 ややこしいばかりだから。


 その点、独裁者制ならば、ひとり倒せば、良い。



 だから、恐怖の大王も、しばしば狙われる。


 もっとも、独裁者には、やたら、運の強い者もいるのである。


 恐怖の大王は、実は、今日も背後から次官に狙われたらしい。


 しかし、ふいに、足元に咲いていた一輪の花に目を止めた恐怖の大王が、ふと、かがんだ瞬間に、次官は、なぜだかバランスを崩して、大王を飛び越し、王宮の空中庭園から自らダイビングした。


 地上までは、一キロ近くある。


       🌷


 『惜しい人材を無くしたなあ。大臣。』


 『まことに。』


 『自分は、あいつとは、幼稚園から同期だった。ときに、自分は、なにか悪いことをあいつにしていたかなあ。』


 恐怖の大王は、かなり、神経質という、か、気にしすぎる傾向にあった。


 『いえ、陛下。特にはないかと、思います。いつもと、変わらないでしょう。あんなものです。みな。』


 『そうか。ならよいが。』


 恐怖の大王は、それから、暫くは、次官に襲われる恐怖の夢に、苦しんだのである。


 ただし、それは、新任の次官だったが。


 そこで、新任の次官は、すぐに逮捕された。


 『もう、ダイジョブかなあ。』


 恐怖の大王は、内心、そう思った。


 しかし、またまた、悪夢にうなされた。


 地球に向かって放ったミサイルが、なぜだか、返ってくるのだ。


 恐怖の大王は、悩んだ。


 はたして、ミサイルを処分すべきか、否か。


 それより、新しいのを、もう一発、地球に向けて撃っておこうか。


 そうすれば、心配事は、半分こになるだろう。



  恐怖の大王の、悩みは深い。


 『ああ、わが人生に幸福はなかったか。』


 恐怖の大王は、ひたすら、涙に沈むのであった。


 『おれが、山に入っても、庭園の花ばなは、1000年後に、春になれば、また咲き乱れるだろう。』


 だから、恐怖の大王は、山に入るのは、とりあえず、やめにした。


 大王には、殺されない限りは、宇宙が有る限りの、長い寿命があるのだから。


 『地球という、ところに、また、一度、行ってみるかなあ。壊す前に。むかしは、ただの火の玉だったものなあ。』


 恐怖の大王は、そう、考えたのである。



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