兵器前線異常無し

影武者

第1話 白猫

長年敵対する2国があった。

その2国間では国交もなく民間同士の交流もない。

資源の奪い合いで紛争をもする程であった。


しかし、そんな両国にも平和協定の話が無かった訳ではない。

ここ何年かで紛争も治まると、国交を結ぼうと言う声が上がって来ていた。

世界的に平和運動が盛んになっていた事もあり、急激に国交を結ぼうとする動きが出てきていたのである。


この度、ここアトラン連合国と、フェイート合衆国との間で、核兵器全廃と、軍備縮小の平和協定が結ばれた。

長年緊迫した状態だった両国の間は、この協定により回復しようとしていた。


しかし、フェイートが協定を結んだのには理由があったのである。

それは、核兵器に代わる最新兵器が完成したからである。


軍内部ではその名を、『降下機動歩兵団ディセントフォース』と呼んでいる。


降下機動歩兵団ディセントフォースは降下部隊であるが、超高高度降下に対応し、自由に空中を疑似飛行することも可能である。

武器は主に150mm長の超小型ミサイルと40mm口径の無痛ガトリングポッドを使用し、全員特殊な鎧を装備している。


超小型ミサイルは、熱誘導探知弾、大陸弾道弾、核弾頭弾、等搭載可能で、その性能は核兵器を遥かに超えていると言って良いであろう。


そして、その最強部隊は、


白昼攻撃部隊:ホワイトキャッツ

夜間攻撃部隊:ブラックフォックス

水中工作部隊:ブルーシャーク

特殊工作部隊:イエロースネーク


以上の4部隊が結成されたが、その詳細を知るものはいない。


*-------------------------------------------------------------*


ある山中を大型のジェットヘリコプターが数機で飛んでいた。

国旗がないため国籍は分からない上、機番すらない。

やがて、どこからともなく1機また1機と姿を現わし合流していく。


最終的には8機が集結すると、ダイヤモンド編隊を組み更に上空へと上昇していった。


「ジュークボックスより、ホワイトキャッツ!!」

「ジュークボックスより、ホワイトキャッツ!! 応答せよ!!」

「ホワイトキャッツ!! 応答せよ!!」

「ホワイトキャッツ、作戦通り行動せよ!! 繰り返す...」


無線機からの呼出しが何度もある中、誰もそれには答えようとはしていなかった。

8機の内の先頭を飛行するヘリに搭乗する通信兵が、堪りかねて上官へと詰め寄った。


「テリー中隊長、また本部からコールがかかってますが、どうします?」


「放っておけ、このまま進軍しろ」


「ラジャッ!!」


上官の言葉に、通信兵はサッと敬礼をするとヘリに設置してある通信機器の間へと体を埋めた。

機内は非常に薄暗く、狭い感じである。


しかし、何か様子が変である。

上官はその通信兵が持ち場に戻るのを確認すると、やるせない思いを愚痴るのであった。


「俺は納得いかん!! いつまでも上層部の命令なんかに…」


テリーと呼ばれたこの男、180cmはあろう体を狭いシートに押し込んで座っている。

軍服は新調したての紺長袖のワイシャツ姿だが、腕を捲くり分厚い胸板の前で毛深い腕を組み唇を噛み締めていた。


そして、テリーは少し興奮している様子だ。

任務前の興奮とは明らかに違っていた。


「よし、回線開けチャンネル3だ、全機にコンタクト!!」


「チャンネル3、ラジャッ!!」


通信兵が機器を操作しだすと、それが終わる頃を見計らって隊長がマイクを手にした。

現在飛行中の全編隊8機のヘリに対して、なにやら命令を下す様である。


「私だ、テリーだ、今回の任務を伝える」


そう言うと、わざと無言となりしばらく間を空けるテリー中隊長。

次に隊長の声が全機にこだまするまでの間、兵士達は今回の己の使命をはじめて仕事をもらう新人会社員の如く待ち受けた。


「我々の、本来の目的は...」

「アトラン連合国シェルドン村南部にある、レーダーサイトの破壊である」

「さらに、前回の作戦で、村人達にイエロースネークが目撃されている為、」

「機密保持として、この村を壊滅せよ、との命令だ」


「… 当然、村人達は全員抹殺との命令だ」


ここまでは、いつものように淡々と語る隊長であったが、兵士達にもただならぬ何かを感じ取っていたに違いない。


「しかし今、我中隊は、軍の管轄下を離れた…」

「そして、私からの命令は、村を破壊させてはならぬ…と言う事だ」


「これは、明らかに軍に対する反逆行為だ」

「気の進まない者は、隊を離れ、ホワイトキャッツ本隊に合流してもらっても構わん」

「諸君らの意思に任せる」

「… 作戦開始は1:00ワンゼロゼロ以上だ」


所々言葉を詰まらせて言う隊長の言葉が終わると、兵士達はざわめき出していた。

部隊の反乱にさぞ驚いたに違いない。


「冗談じゃないぞ、オレは後4か月で除隊だったんだぞ」


兵役は長いようだが、丸顔の少し小柄の兵士がわめいていた。

他の兵士はそんな兵士の事など特に気に留める様子もない。

その人物が、髭剃り後のきれいな刈ったばかりの頭髪の兵士(明らかに新米兵士と判る人物)に言った。


「ボウヤ、お前はどうするんだ」


「は? オレですか? オレは中隊長の後を着いて行くよ」


「おおっ、そうか、お前も反乱するのか... アハハハハハハ」


「なんだ、じゃあ、あんたも…」


新兵の筈なのだが、あまり先輩に対する態度はよろしくない様子。

だが、妙に周りに溶け込んでいるこのボウヤと呼ばれる兵士。


声を掛けた兵士も、友を励ますように背中をドンと、叩くのであった。


*-------------------------------------------------------------*


時計をじっと見つめる隊長。

ずっと、黙ったままだったが、無線指令で伝達した時刻になるのを確認すると、わずかにため息をついたように感じられた。


「中隊長、除隊希望者は、一人も居ませんでした」


「ウム。… 作戦開始だ」


「ラジャー」


通信兵は再び無線機を手にすると、腕の時計のデジタル表示を凝視した。


「総員、時刻セット!!」

1:00ワンゼロゼロ!!」

「10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、セット!!」


その声と共に、兵達は一斉に時計のリセットするのであった。


*-------------------------------------------------------------*


1機のヘリに、約30人の兵士が搭乗していた。

兵士達は、黒のアンダーウェアを着ていて、それに、白のアーマーや、装置をギッシリ身に付けていた。

胸にはそれとは似合わぬ、猫のシルエットのエンブレムが着いている。


そして、ヘリの両側に降下用ハッチがある。その前で兵士達は、作戦前の憩いの一時を過ごすはずだったのだが…


「ボウヤ、お前も大変だな、入隊早々に隊が反乱を起こすとはな」


後4か月で除隊と言っていた兵士だ、やはり新兵の彼に気を使っているようである。

ボウヤと言われるこの新兵、まだ任務に就いて3日目であった。


「まぁ気にすんない! ガトリングポッドの手入れでもしておけや」


「戦場じゃ、教科書通りには、いかないわよ」

「殺られそうになったら、サポートしてあげるわ」


「悪いね、みんな、気ィ使わせてしまって」


恐らく他の部隊で経験が豊富なのであろう熟練風の兵士や女性兵士もいる。

皆が彼を励ましてくれていた。

ボウヤと呼ばれる新兵はその激励を照れくさそうに受け止めていた。


「軍の落ちこぼればかり集めた降下機動歩兵団ディセントフォースも、」

「とうとう… 軍からも、落ちこぼれてしまったか…」


不精髭を生やした兵士がウイスキーの小瓶を手に呟いていた。

ほろ酔いで戦闘をするのが彼には当たり前なのであろうか、彼の落ちこぼれと言う言葉の意味はそこにあるのやも知れない。


「ボウヤ、お前は戦闘はこれが初めてじゃなさそうだな?」

「何部隊出身だ?… 何処かで会ったか?…」


「その部隊は全滅したので…」


酔っ払いながら言う兵士にボウヤと呼ばれる兵士は笑顔で答えていた。

この酔いどれた兵士、酔いの勢いでありもしない事を良く言うのであろう、他の兵士達は”まただ”とばかりに彼からそっぽ向くのであった。


それを最後に、ウイスキーの小瓶を手にした彼は黙ってしまった。

そしてボウヤを目を細めて睨んでいた。何かを思い出そうとしている様子である。


「けっ、一人だけ生き残っただと!?… ありえねぇ…」


そう呟くと、またウイスキーの小瓶を口にした。

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