第15話 奴隷少女の元へ
「なっ……!?」
レナを地下牢に? それにもう二度と会えない? そんなのおかしいじゃないか。レナには一切非は無いのに、どうして彼女が巻き込まれなければならない!
「マルクはその奴隷のためにいろいろと動いていたようだが……何を勘違いしている。奴隷は人間ではなく、あくまで我々の玩具だ」
「父上……あなたって人は……! 言うに事を欠いて、民を玩具だと……!?」
「話は終わりだ。しっかりと頭を冷やし、今回の件を反省しろ。兵よ、その女を連れていけ!」
「やめろ! くっ……離せ!!」
「いやぁ! マルク様! マルク様!!」
レナを連れていこうとする兵から守ろうとしたが、多勢に無勢とはまさにこの事……三人の兵士に抑えられてしまい、そのまま他の兵士にレナが連れていかれるのを見ている事しか出来なかった。
「あれあれ~随分と悔しそうだね~。うん、いいねいいね~! マルクのそんな表情は新鮮でおもしろ~い!」
「フォリー兄上……あなたって人は……!!」
「父上、あの女の処罰はどうされますか?」
「ふむ、奴隷としては上玉だからな……殺しても構わんが、また奴隷商人に売ってしまうか」
「え~父上、アタシにくださいよ~」
「ジョイまでマルクと同じようにさせるわけにはいかんから、許可できん」
「ざ~んねん……」
また奴隷商人に……!? そんな事になったら、今度こそレナは絶望のどん底に落とされてしまう……!
僕は……僕はどうしてこんなに無力なんだ……レナにも、レナの母君にも守ると誓ったのに……どうして僕は……!
くそっ……くっそぉぉぉぉぉ!!
****
「マルク様、ちゃんとお食事はとられた方が……」
「すまないサルヴィ、食欲が無いんだ」
「左様ですか……では、もう今日はお休みになられた方が良いでしょう」
「……そうだな。サルヴィも今日はもう休んでくれて構わない」
「……かしこまりました。失礼いたします」
「すまない……」
同日の夜。自室に引きこもっていた僕の前には、いつもの様に食事が並べられていた。でも、僕には一切食欲がない。それよりも、レナが無事かどうかしか頭になかった。
レナは大丈夫だろうか……痛い思いをしてないだろうか……お腹を空かせてないだろうか……何とか会いに行きたいけど、今僕の部屋の前には監視が付けられてしまっている。これのせいで、レナのところに行くことが出来ない。
くそっ……なんとか……なんとかレナの元に行ける方法は……そうだ、もしかしたら真夜中だったら、監視が薄くなるかもしれない。限りなく少ない可能性だが、今行くよりかは可能性がある。
よし、そうと決まれば……レナがお腹を空かせている事を考慮して、目の前に用意されたパンをいくつか隠しておいて……もう寝ているように見せよう。
「すまない、今日はもう疲れたから寝る。食事の片づけをお願いしてもいいか?」
「かしこまりました」
監視をしていた兵士にそうお願いすると、すぐにメイドがやって来て食事を片付けてくれた。
本当はちゃんと食べられるのが一番なんだが……食べようにも胃がうけつけてくれない。きっとこの食事は捨てられてしまうのだろう……この食事が、スラムの民達の元に届けばいいのに……。
ありもしない事を考えていても仕方がない。今はレナの元に行くために、寝ているふりをしなければ。そう思い、僕は明かりを消してから、ベッドに横になった。
「…………」
ベッドに横になったまま、時間が経過するのを待つだけというのはかなりもどかしいものがあるな……以前、レナを部屋において学園に行った時と同じような感じだ。
早く……早く時間よ進んでくれ……早く、僕をレナの元に行かせてくれ……!
そう思いながらベッドで悶々とする事数時間。日付も変わり、夜も更けてきた頃に、僕は音をたてないように起き上がった。
レナ……今行くからな……もう少し待っててくれ……。
「…………」
「マルク様、どうかされましたか?」
部屋を出ると、さっそく監視の兵士に見つかってしまった。
くっ……この時間でもしっかり監視をつけていたか……ここから行くのは諦めるしかないか……そう思っていると、兵士は少し強引に僕を自室へと押し込んだ。
「手荒な真似をして申し訳ございません。彼女の元へ行かれたいのでしょう? その恰好では目立ってしまいます」
部屋を出ないように言われると思っていたのに、想像もしていなかった発言に驚く僕をよそに、兵士は自分の着ていた甲冑を脱いで僕に渡してくれた。
「これを着ていれば顔は判別できません。少しサイズが大きいですが、そこは我慢してくださいませ」
「いいのか? あなたの役目は僕の監視のはずじゃ……」
「そうですね」
「なら、この事を父上に知られたら……」
「知られなければいいんですよ。私個人の話になってしまいますが、私はスラム出身でして。スラムの民を蔑ろにする国王陛下達よりも、スラムの民も大切にしようとくれるマルク様の力になりたいと思った次第です」
「……ありがとう。本当にありがとう」
僕は受け取った甲冑を身に纏い、地下牢へ向かって歩き出した。
これならバレる可能性はほぼないだろう。万が一バレてしまったら、僕が彼を襲って無理やり鎧を奪った事にすればいいだけだ。それが、彼の好意に返せる、僕の誠意だ。
……それにしても、甲冑ってこんなに重いものなんだな……生まれて初めて着たんだが、想像以上に重くて歩きにくい。兵士達はよくこんな重いものを着ていて普通に歩けるな……。
「はぁ……はぁ……よし、何とかたどり着いた」
自室を出てしばらく歩いた所にある、地下牢に続く階段まで来れた僕は、ゆっくりと階段を下りていく。ここの階段は壁に掛けられているロウソク以外に光源が無いから、とても歩きにくい。転んでしまわないようにしなければ。
「……ん? なにか用か?」
無事に地下牢まで降りてきた僕に、牢屋の見張りが怪訝そうな声で問いかけてきた。
ここに来るまでに、言い訳は考えてある。上手くいってくれよ……!
「見張りの交代だそうだ」
「そんな話は聞いてないが」
「兵士長から直々の命令でな。君、かなり兵士長に期待されているようだぞ」
「なんと! ふふっ……そんな未来があったらいいですね、マルク様」
「っ……!?」
馬鹿な、どうしてバレた? 声色も変えているし、甲冑で顔も見えないはずなのに……!
「お優しいあなたの事ですから、来られるだろうと思っておりまして。ご安心ください。私はあなたの味方です」
「……どうして味方をしてくれるんだ?」
「民を分け隔てなく大切にしようとしてる、あなたのお考えに賛同してるからです。あなたはご存じではないかもしれませんが、最近あなたが民のために考えているのが、城で話題なんですよ」
そ、そうだったのか……全く知らなかったな……。
「牢屋の鍵をお渡しする事は、私の権限上出来かねますが、彼女の元にご案内する事なら問題ないでしょう。どうぞこちらへ」
「……ありがとう」
僕は彼に心から感謝をしつつ、牢屋の奥へと進んでいくと、一番奥の小さな牢屋の前へと案内された。
その牢屋の中には、出会った頃を思い出させるように、膝を抱えて小さくなっているレナの姿があった――
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