【1000字小説】とある巨大生物が招いた東京滅亡に関する覚書

八木耳木兎(やぎ みみずく)

【1000字小説】とある巨大生物が招いた東京滅亡に関する覚書

 二〇××年、東京は壊滅した。

 たった一体の巨大生物、通称【怪獣】によって、人口一千万都市は一夜にして灰燼に帰した。


 【怪獣】の襲来は、これまでにも何度かあった。

 その度に、政府が極秘に設立させた特殊防衛隊、及びその主要兵器たる二足歩行型ロボットが、【怪獣】の都市壊滅を阻止してきた。


 初期の【怪獣】との戦いによって、怪獣の生まれる原因は既に防衛隊内に知れ渡っていた。

 赤外線、熱センサーなどを利用した防衛隊による【怪獣】の体内観測によって、内部に生きた人間が存在していることが発覚。

 救出作業によって【怪獣】の体内から摘出された人間たちは、みな失恋や就職難などの様々なストレスを抱えていた。

 それらのストレスをエネルギー源として、異世界から混入した特殊細胞が急速に成長し。人間たちを核とした巨大な【怪獣】となったのだ。



 それを早い段階で察知した防衛隊は、セラピー部門を大幅に拡大し、東京内のあらゆる人々の悩みに向き合うことにした。

 それが功を奏したのか、日に日に【怪獣】発生の頻度は下がっていた。

 しかし、東京を壊滅させた【怪獣】は、どこか様子が違っていた。

 高精度化した体内測定によって個人特定された、その【怪獣】の核となっていた五十代男性。

 彼は前にも一度【怪獣】の核となっていたが、インタビューや【怪獣】化前の彼のSNSでの書き込みで解明されたストレスは、他の核の人間とは少し異なっていた。


【最近は子供向けロボットアニメを全然放送してくれない】


 それが彼のストレスの原因だった。

 彼は自分自身がかつて視聴していた、子供でも理解できる単純明快な勧善懲悪型のロボットアニメが全く放送されず、たまにロボットアニメが放送されても暗い戦争ものや謎の多いいわゆるセカイ系ばかりで子供向けは一切放送されないことを嘆いていたのだ。

 一度目の【怪獣】化の際、セラピーに居合わせていた防衛隊のロボット搭乗者の青年は、そう悩む彼にこう告げた。


【いや、今でも放送されてるじゃん。シン〇リオンとかアース〇ランナーとか】


 皮肉にもその言葉が、その男性の二度目の【怪獣】化の原因となった。

 彼にとっての【子供向けロボットアニメ】とは、手書き作画を駆使した夕方放送の子供向けロボットアニメであり、今のCGでロボットを描写した朝方放送の子供向けロボットアニメではなかった。


 要するに【自分の好きな子供向けロボットアニメ】こそ、彼の求めていたものだったのだ。

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