尚早な迷走を回想して闘争を構想する……たぶん、そう

「R.I.作戦」実施記録  

実行・記録者 レイチェル・ランド ※R=令嬢 I=いびり


〇初回。対象者の教室の廊下で待ち伏せ。初めての接近遭遇に緊張したためか、予め予定していた内容を予定より大声で発言。周囲の注目を浴びる。自己紹介を忘れる。予想外の無反応に当惑。戦略的撤退を図る。


〇二回目。前回の反省を生かすべく、あらかじめ学内食堂に待機し、昼食時に対象者の到来を待つ。

 対象者およびその同伴者、なかなか現れず。昼休憩ぎりぎりまで待つ。結局遭遇できず。ずっと入り口を見張っていたため、食事がとれなかった。対象者、学食以外で食事の可能性について要検討。

 なお午後の授業に遅刻。前回授業を抜け出したこともあわせて教員から注意される。


〇三回目。授業への影響を考慮し、休憩時間の作戦行動は見送る。あと、一日一回が限度か。

 学年が違うため、上級生の教室棟へ単独で向かうのは勇気がいる。なんとなくだけど、上級生は怖いと思う。グロリア様は別。ただし、今のところグロリア様のいないところでの作戦遂行を予定している。

 下校を待ち伏せ、と思っていたら教員に作業の手伝いを依頼される。断れず、その作業が終わってから探しに行ったら、対象者は下校した後だった。不可抗力。


〇四回目。朝、登校時に対象者の待ち伏せを計画。念のため、開門前から校門前で待機。

 校門わきで登校する生徒を監視。たまたま目があった生徒に挨拶された。ので、挨拶を返す。また別の生徒と目が合う。挨拶される。挨拶を返す、と繰り返していたところ、ようやく対象者(とその同伴者。朝から一緒!)が登校。

さあ作戦を、と思ったところ「ごきげんよう」と先に声をかけられ、「ごきげんよう」と返したところ、その隙に通り過ぎられてしまった。作戦不発。

 授業開始前に、教員に朝の「あいさつ運動」を爽やかで良い習慣だとほめられる。解せぬ。


〇五回目。予定外だが、対象者(および同伴者)と校舎内で遭遇。すわ、と思い、すかさず作戦実行。

 学業を修めるべき学園にて、慎みのない異性関係はいかがなものか、と苦言を呈す。人の上に立つ者こそ風紀を重んじねば、とどちらかというと同伴者への攻撃だったような気もするが、やむを得ないと判断。(だって、××嫌いだし。××が一番悪いと思うし)

 すると、対象者が”慎みのない”とは、具体的にどういう行為のことなのか、と問い返してきた。指を顎にあてて小首をかしげてきゅるん、としながら。気のせいか、やたら近い。あとなんかイイ匂い。至近距離で見た噂以上の可憐さに、やや動揺する。

 

 ――カワイイなんて思いませんから!可愛さだって、グロリア様の方が上ですから!略してカワグロですから!(あれ?)


と内心で反論するも、具体的に、と言われて口ごもってしまった。

 破廉恥な!と恥じらったのではなく、単に思いつかなかったので。腕組んでるとか、いつも一緒とかって言葉にするとインパクト薄くない?


 言うことが考えつかなかったので、今日はこの辺にしておいてさしあげますわ、と速やかな撤退を図る。そろそろこの方式パターンが定まってきたかと自分でも思う。さっと刺してヒット・アンドさっと退く・アウェイ。ふむ。


 やはり、何を言うかについては事前の入念な準備が必要と痛感した。またこういう事があったときのために、台本を用意しておこう。あと、あまり同じことばかり繰り返さないよう記録を確認しておかなければ。

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〇×回目(不明。記録不備による。反省)以前より告知されていた学校行事の舞踏会ダンス・パーティ(社交科目の特別授業)にて作戦を決行。ほぼ完璧な作戦行動がとれた。惜しむらくは、グロリア様に一部始終を目撃された点が残念だった。翌日、昼食のお誘いを受ける。その際に何も問いただされることはなく、ただ「なにか悩んでいるなら相談してほしい」とのお言葉をいただく。うっかり泣きそうになる。優しさが痛い……。


 

 

 さて。こうして先日までの作戦記録を読み返すと、さすがに我ながら思うところがあります。

 

 ――やだ、わたしの成功率、低すぎ!?


 ついつい口を両手で覆って困惑しますが、まあまあ、そこはそれ。

 成長の跡も見て取れるじゃないですか。これからだんだんと成功件数を増やしていけば、成功率もあがるというもの。

 そして量より質ですよ。え、数打ちゃ当たると思ってやたらめったら突撃してなかったか、ですって?誤解です。すべては試行錯誤の結果です。反省は必要ですが、後悔は役に立ちません。前をむきましょう。

 あと、気になるのが、対象者と対峙たいじした後、妙に首筋がつるんですよね……。なぜでしょう?

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