第4話 騎士と火事と化け物と

 蓮はやっと見つけたマウンテンバイクを置き、すぐに声の方向へ向かった。

「朱天羅さん!」

 そこには、異様な光景が広がっていた。

 狭い路地裏に3人の男達が捨てられた人形の様に倒れている。

 3人は頭から血を流し、気絶している。

 そして、蓮の目の前には、竜騎士が居た。

 兜は顔全体を覆い、ケラトの竜装鎧に似ていたが、ケラトのとは違い、トサカに角が花弁の様についているのがわかった。

 そして、右手には兜と同じような盾を持っていた。

 その盾はまるで、中生代後期白亜紀カンパニアン期の北アメリカ大陸に生息していた角竜の一種。

 スティラコサウルスの顔を模した盾だった。

「朱天羅………さん」


 蓮はその場に呆然と、ただ立っていた。

「あなたも………竜……騎士」

 朱天羅は、突如蓮の顔面に盾をぶつける。

 蓮は後ろに吹き飛ばされ、電柱に背中をぶつける。

 蓮の背中に大きな衝撃が走り、そのまま地面に倒れる。

「あっ……何故……」

「私が怖くないの?」

 朱天羅は蓮に聞いた。

 蓮は背中の痛さで声が出なかった。

「………痛くて声も出ないのね」

 蓮は少しずつ、立ち上がった。

「……体力は見た目に反してあるのね……あなた」

 そして、腰にバックルを出現させる。

 朱天羅を見て、蓮は今出せる全力の声で叫ぶ。

「竜装!」

 そう言うと、蓮の体を鎧が覆う。

「そう……同じなのね」

 朱天羅はこころなしか、悲しそうに言った。

「俺も……同じなんですよ……」

「そう」

 朱天羅は蓮に追い討ちをかけるように、盾で蓮を弾き飛ばす。

 さっきよりかは痛くなかったが、それでも痛い事に変わりはない。

「何故……竜騎士なのに……人を……」

「あなたには分からないでしょうね。私の気持ちなんて」

「確かに、朱天羅さんの気持ちは俺には分かりません!!でも!その力で人を傷つけるのは絶対に間違ってると思うんです!」

 その言葉を言うと、蓮は吐血した。

 兜の隙間から、血が垂れる。

「この力をどう使うのかなんて人次第でしょ?中にはこの力を全く使ってない竜騎士が居るかもしれない。その人に、勿体ないから使えと言えるの?」

淡々と彼女は言う

 蓮は言葉を濁し、何も言えなくなる。

「いや……それは」

 朱天羅は立ち上がろうとした蓮に膝蹴りを放つ。

「だから、私はこう使う」

 トドメに蓮の兜を足で踏んづけた。

 その後、朱天羅はその場から去った。

 蓮は鎧を解き、マウンテンバイクを押しながら帰路に着く。

 その日の一歩一歩はいつもより、何倍も重たく感じた。

 アパートに着くと、蓮は玄関に倒れた。

 既に中学校から帰ってきていた小夜と、肉じゃがを作っていたケラトが駆け寄って来る。

「兄ちゃん?!」

「蓮様!?」

 2人はすぐに蓮を持ち、布団に寝かせる。

「小夜さん、冷えピタを。容態が変わり次第では救急車を呼ぶ準備をお願いします」

「う、うん」

「蓮様……一体誰が……」

 ケラトは怒りで拳を強く握りしめる。


 その頃、朱天羅は自分の部屋に戻っていた。

 そして勉強机の引き出しからカッターナイフを取り出す。

 そして思い切り自分の手首に、刺しかけた。

「…………っ!」

 もう一度自分の手首に刺そうとしたが、朱天羅はできなかった。

 また、竜騎士の力を使ってしまった。

 そんな自分へのケジメとして、手首を切ろうとしていた。

 だが、やはり、怖くて、痛くて刺すことが出来ない。

 そんな自分が、憎くて憎くてしょうがなかった。

「………馬鹿」


 時は、遡ること5年前。

 私、朱天羅希愛智が小学六年生だった頃。

 私は今よりもみんなの為に尽くしていたと思う。

 学級代表にはすぐに手を挙げたし、クラスメイトの喧嘩を何回止めたか覚えてない。

 将来の夢は確か、消防士や警察官だった。

 今思えばそれは男の子が目指すものでしょと言いたいが。

 そんな私が竜騎士の力を手に入れたのはそんな時期だ。

 その時の私はどういう気持ちだったんだろうか。

 詳しくは忘れたけど、とても嬉しかったのは覚えてる。

 それでもっと人を助けられる。

 そう考えていた。

 しかし、あまりその力を使う機会は無かった。

 でも、今の私とは真逆だった私はむしろ平和だと思い、竜騎士に竜装して、自宅でずっと練習してた。

 そんな事が2年程続き、中学2年生の夏の頃。

 私には彼氏が出来た。

 彼は基本的にのんびり屋で、いつも期末テストの範囲を間違えて勉強していた。

 彼との思い出で印象的なのは、耳に鉛筆を付けたまま登校してた事かな。

 そんな彼と私は互いに惹かれていた。

 そして7月の花火大会で彼が告白してくれた。

 私は勿論OKした。

 相思相愛の関係だ。

 そして、楽しい二人の時間は過ぎ、秋に入る。

 その時、事件は起きた。

 学校で火事が起きた。

 無論、私達は避難訓練の通りに避難した。

 しかし、1人だけ、避難に遅れていたのに気づく。

 それは、私の彼氏だった。

 気付いた時には、私の身体は動いていた。

 すぐに竜装し、私は彼氏の居る所へ向かう。

 多少燃えて落ちてきた瓦礫が多かったが、竜騎士の力なら問題は無い。

 彼の居た図書室に向かうと、そこにはハンカチで口を塞いで二酸化炭素を吸わないようにしていた彼氏を見つけた。

 私は直ぐに手を差し伸べた。

 しかし、彼の目はいつもの優しい目では無かった。

 まるでその目は醜いものを見る様な目で私を見ている。

「ば、化け物ぉ!」

 彼は、その場を逃げようとした。

「まって!!そこは!」

 燃える本棚が崩れ、彼は下敷きになった。

 私は脱力し、持っていた盾を落とす。

 私はその場に膝をつき、兜の隙間からは涙を流した。

 その後の記憶は私はあまり覚えていない。

 でも、その後の中学生の日々は一転した。

 私の性格が他の女子が気に入らなかったのか、私はいじめを受けた。

 いじめた人達の中に、私が小学生の時に助けた子や、中学で部活を共に頑張った者もいた。

 その時私はようやく気づいた。

 自分がみんなの為にやっていた正義は

 それ以来私は竜騎士にはあまりなりたいとは思わなくなった。

 そして卒業式。

 1人の後輩が、私に近づいてきた。

 その時、私はこう言った。

「私なんかと関わらないで」

 そして、今に至る。

 自分でもこの力を極力使わないようにしているつもりだった。

 それなのに。

 朱天羅は、そのままベッドに身を置いた。

 そしてそのまま眠りにつく。

 自分の過ちをいち早く忘れよう。

 そう願いながら。


 後日

 朱天羅はいつも通りの時刻に起床し、いつも通りの朝食を取り、いつも通り家を出て、学校に行き、いつも通りの授業を受ける。

 こうして、何も無い日々が続けばいい、自分がわざと関わると、ただの迷惑でしかない。

 だから、何も関わらない。

 そうして生きていたい。

 朱天羅は、そう生きると決めていた。

 はずだった。

 目の前で、人が消されている。

 頭がアンモナイトの様な怪人が、人を消している。

 消している、と言っていいのかどうかは分からないが、その場で体を消滅させているとは思えなかった。

 どこかに飛ばされていると言った方が正しかった。

 朱天羅は身の危険を感じた。

 そして荷物を捨て、その場から立ち去ろうとしたその時。

 怪人の腕から生えた触手が朱天羅の首を絞める。

 自分も消される。

 朱天羅がそう思った時だった。

 触手の力が緩んだ。

 その瞬間に朱天羅は地面に倒れる。

「大丈夫ですか!?朱天羅さん!」

 そこには、騎士がいた。

 そう、橘蓮が。


 とあるビルの一室での会話。

「社長、データロイド2号は順調に計画を進めています」

「そうか、出来れば私が付けた名前で読んで欲しいが……まぁいいだろう。何人捕獲した?」

「12名捕獲しております」

「私の計画のためには後70人ほど必要だな……捕まえた12名を早速実験に使用したまえ」

「よろしいのですか?まだあの装置は試運転を行っておらず、人体にどのような影響を及ぼすか分かりません」

「じゃあなんの為にこの計画をしている。たとえモルモットがいくら死んでも構わない」

「………かしこまりました」

 To Be Continued

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