終 章

終話 The broken checkmate、龍の逆鱗

 どれ程才能がある方でもその方が立てました計画がすべて順調に進む事が無いのが世の流れです。

 無論、万全を期して練りました私が源太陽への長期間報復の為に立案しました策も論外ではありません。ですが、それでも、不測の事態がなるべく起きませんように事を運んだつもりでしたが・・・。


2011年12月22日、木曜日

 私達がSingaporeの国際空港、Changiに到着した頃でした。

 私の携帯電話では無く、UNIO専用の特別端末が鳴り始め、その着信音で大宮支部長が掛けてきたのだと直ぐに判断出来ました。

 私は特に急ぎもせず、冷静にその端末へ耳を当てまして回線を開いたのでした。

「はい、先月、第一級捜査官に復帰しました藤原龍一です。此方へおかけしましたのは何か特別な用件だと思いますが」

「休暇中にすまんね。先ほど、インド支部から緊急連絡が入りましてね、以前、龍一君と麻里奈君が担当した武器製造及び密売組織の施設の分派が現在、君がいるその場所にあるらしいインスティテュート・オブ・ウィスタリア・フィールズ・メディカル・リサーチ・アンド・デヴェロップメントと長い名前の研究所を占領するために動き始めたとの情報が入りましてねぇ。インド側はまだ情報の信憑性が五分五分らしく、調査を続行中とのこと。」

「で急な事で、申し訳ないんだが、本日こっちへもどらずに、二人ともその動きについて調べてもらいたいのですが。襲撃しようとしているその分派がなぜ、その研究所を選んだのか、その目的は、行動を起こして居ます人員数、実際に行動開始されて居るようでしたら、速やかにそれらの部隊排除。このような緊急任務のために銃を持参させて置きましたが、その使用許可をだします。理解出来ましたか?」

「はい・・・」

 支部長へ返事を戻しながら、考えてしまいました。

 ウィスタリア・フィールズ、Wistaria fields・・、・・・、・・・・、なぜ?

 その施設名はまさに、私の母が設立を祖父に願いました、アダム研究がされています所。

 これは太陽が私を牽制する為に流した虚偽の情報?

 それとも彼とは関係が無く実際に銃器密造・密売組織によります、その研究施設の技術奪取目的?

 私の考えが纏まる前よりも早く支部長が言葉をくださった。

「緊急要請ですから内容の復唱は省きます。では任務を開始して下さい」

「了解」

 回線を切断しまして、今の支部長からの内容を麻里奈にもお伝えしまして、行動を開始しようとしたのでした。

 麻里奈は顎を右手で支えますような姿勢でお顔を下に向け、真剣な表情で何かをお考えしている様でした。

「どうかしましたか、麻里?」

「ええと・・・、うぅぅ・・・」

「話し辛そうですね。私には言えない事なのでしょうか?」

「いいえ、そんなことないわ。龍が今、言った事をちょっと考えて見ただけよ。ただ、・・・、・・・。ねぇ、リュウ?この前のシリア作戦終了後に見つけた怪文書覚えて居る?」

 私は麻里奈の言葉でそれを思い出してみようとしたのですが、一瞬の眩暈と脳裏に雑音が生じました。

 その所為で無意識に目頭を押さえまして、軽く頭を振るっていたようです。

「りゅっ、りゅう、大丈夫?どうかしたの」

「ええ、大丈夫です。少しだけ眩暈がしただけですから。それと怪文書の件ですが」

 私はいつもの笑顔に戻しますと、その言葉の続きを麻里奈に話していました。

 怪文書の内容は『ADAMを手に入れれば、不死の兵を得るだろう』とあれです。

 私はいまだにアダム研究の真髄を理解していませんでした。

「不死の兵ですか?ありえませんよ、その様な絵空事など。どの様な生物でも肉体の生と死は同等に訪れるのですから」

「リュウ・・・」

 麻里奈はその先を話したくなさそうな表情を私に見せながらも、その後に続きます言葉を話して下さるようです。

「それは自然に逆らわなければでしょう?でも、プロジェクトアダムは有る意味それを覆してしまう研究かもしれないの・・・。不死の兵を、死なない兵士じゃなくて、傷を負いにくい兵士と考えれば・・・」

 麻里奈は直接Project ADAMに参加している方では有りませんでしたが、実際に私よりもそれに関する多くの事を知っていたようです。

 かなり禁忌に等しい研究らしいそれが何故海外で、この地、Singaporeでどの様な不都合も起こらずして、十数年以上も継続出来ているのでしょか?

 国家同士の、若しくは藤原科学重工陣営からこの国へ多額の隠匿金が廻っていると考えるのが当然でしょう。

 実際は日本国の法務省の一部の役人と藤原陣営首脳等がSingapore政府外務省と結託し、行われてきたことだと貴斗の死が事故ではなく、事件であると調査を開始しまして、ADAMに関する資料を集めているときに知った事でした。

 それで、その情報の中に神宮寺総一と恵理。麻里奈の両親であり、父は現在四期目と長い間法務省大臣を務め、方や母は厚生大臣。

 麻里奈の父は前法務省大臣からアダムに関します件を秘密裏に引き継ぎまして、彼女の母は私の母と旧知で、恵理は美鈴に何時の日か大臣の椅子に座ったときにはその計画が公に出しても、大丈夫なようにすると誓った方だったそうです。

 私は麻里奈がこのProject ADAMの事をどれ程、ご理解していますのか知りませんし、私自身がいまも尚、それについて深く分かろうとしていません所為もありまして、麻里の造った表情の理由が掴めませんでした。

「申し訳ない、麻里。私には貴女の意図が理解出来ません」

 答える事しか出来ませんでした。その様な私へ麻里奈は横に軽く頭を振る。

「別にリュウリュウが謝ることじゃないの。分からない物は仕方が無いんだもの。うんとね、ぶっちゃけ、簡単に言ってしまえば、強靭な肉体と脅威の再生能力を一から作るか、少年少女くらいの頃から肉体を改造して育てるか・・・。そんなことが可能かもしれない・・・、うん、うん。一部はもう可能なんだけど・・・」

「何をお馬鹿な事を言っているのですか、麻里?現実的にありえませんよ、その様な事」

「じゃあ、どうして、龍一は生きているの?普通だったら死んで居て当たり前の重傷だったって。ミッキー助手として手術室へ入るまでめい一杯泣いたんだって・・・、そんな事をリュウが目を覚ましてくれた後から聞かせてもらったわ。私も医者や研究者じゃないから、どんな技術なのかちゃんと理解して居なくても、助かる見込みの無い龍一が今、私の前に居るの。アダム計画の活用で助かった貴方が」

 その様に麻里奈はお言葉にしながら、私の胸に彼女の前頭を軽く当てまして、寄りかかったのでした。私は彼女のなだらかな両肩に軽く手を置きまして、声を掛けました。

「ですが、その技術は今、悪用されるかもしれない状況になっています。早急に事実の真偽を確かめまして、それが真なら、施設に被害が出ます前に片付けてしまいましょう。父の研究所の時の二の舞、二轍は踏みたくございませんので、協力して下さいますね、麻里?」

「うん・・・。でも、無茶はしちゃ嫌だよ・・・」

 なんとなしに子供口調で拗を含みました感じの声色で彼女は言い、それに私は笑みで見返しまして、再度言い返します。

「大丈夫です、それに付きましても、同様です。もう、麻里奈を悲しませたくありませんから・・・、麻里、私にも同じ気持ちを味合わせないでくださいね・・・」

 私達は会話を終了させ、空港から研究施設のあるNee Soonへ向かいました。インド支部の諜報員等や光姫と連絡を取りつつ、行動を開始したわけです。

 麻里奈が運転します車が藤原医学研究所へと向かって居ます間、私は各方面に特別回線と通常回線とを併用しまして連絡を取り合っていました。

 現場の自体は私達が想像しますよりも緊急を要しますほど切迫していました。

 武器密造組織の分派の首領はBurhan Elrea Pynacie。

 インド支部が現在掴んで居ります情報は不完全ですが行動部隊数は少なくとも二小隊。

 一小隊単位が最低の三十人構成だと考えた場合、六十名もの武装集団が研究所に向かって進行していることになります。ですが、戦術を考える場合、相手を多く見積もって立てますのが基本。

 百名の武装集団。どの様な武器を持参ですのか詳細は不明ですが、戦闘機や戦車などではないでしょう。

 その様な物で攻め入れば、この国の軍が動くでしょうし、大きく騒ぎ立てますような襲撃でも同様です。

 彼等の多くが刃物や小型銃火器を扱うのが得意でありますことはUNIO内では以前より知られていますので、人的強襲部隊と考えて良いでしょう。

 方やUNIO陣営側、私と麻里奈以外にNee Soonの最も近い場所に居ますUNIO諜報員はジャカルタで麻薬密売組織を調査中の三名。

 ですが、直線距離でインドネシア首都から研究所までざっと八〇〇キロメートル。

 音速一割二分のUNIO専用機を利用しまして、大よそ三十分ですが、簡単に利用できるものでもありませんし、それだけの時間の経過でも事態は大きく変貌してしまいます。

 どの様な戦術をたてましても二対百では勝ち目などありません。神懸り、奇跡が起きません限りは・・・。ですが、それでも被害を最小限に収めますための行動を頭の中で組み上げて行きました。

「リュウッ、到着よ・・・」

「間に合うでしょうか」

 私は麻里奈に声を投げかけまして、車から飛び出しますと、腰に挿していました二丁の銃、Night Hawkを握り絞めまして施設内に走り出しました。

 炎上します数台の車両。遠くから聞こえます銃声。

 既に彼等はここへ到着してしまいまして、施設の圧制に乗り出してしまっていました。

 彼等は主義主張の違う相手に対しまして、仮令どんなに無抵抗でありましても相手の命を絶ちます事に躊躇いを示しません。

 老若男女を問いませんですべてに平等の死を与えます、狂った主義信者等。

 その様な相手が今回対峙します方々でしたが・・・、私は私の意志を曲げずに任務の遂行を試みます。

「私がこれで殺すのは命を奪う道具のみ・・・」

 そう呟きまして、最初の標的へ銃口を構えたのでした。

 私の腕が、私の向いています方を十二時として一時と九時の方向を指しまして、火を放ち、私を追いかけいました、疾走して来ました麻里奈がその勢いを殺さずまま、私の数歩手前で跳躍し、更に私が彼女のその気配を察しまして、軽く前に倒しました背を踏み、更に空へと飛びつつ、上空から確認で来ました敵兵等へ金属の雨を降らす。

 その間、中空の的となってしまった彼女。

 相手もその隙を見逃すはずがありませんでした。

 幾つかの銃身が彼女に狙いを定めまして、今まさに引き金に掛かる指に力が入れられようとしていました。

 それよりも迅速に、的確に、私のNight Hawkを喰らい突かせました。

 軽やかに着地します麻里奈。彼女のその瞬間を狙っていました銃口の銃身がはじけ暴発。

「十一・・・、十二ね」

 周囲を確認しました麻里奈がその様に声を出し、私は武器を無くしつつも、襲ってきます相手を麻酔銃で行動力を奪いまして、粘着力の強い化繊tapeで素早く、分派の方々を拘束して行き、再び銃声が聞こえます方へ、駆け出しました。

 近づく拳銃が放ちます破裂音。

 その音の流れの性質が二極化しておりました。

 それが意味する所は、私達以外の何方かが武器密造組織の者達へ応戦していると言います事です。

 この施設で働きます方々では無いでしょうし・・・。

 発砲音の現場に辿り着きましたときに私と麻里奈が見ました物は特殊部隊兵の様な出で立ちの方々が施設を襲撃して来ました強襲者達へ、銃火器を向けまして、戦っている光景でした。

 施設を護って下さる方々。

 どの様な方面から拝見しましてもUNIO関係者で無い事はすぐに理解出来ました。

 UNIOの捜査員には捜査員同士が同職だとすぐに分かりますような装飾を必ずして降りますので。

「一体彼等彼女等は何処の方々なのでしょう」

「りゅう、今はそんなこと考えている場合じゃないでしょう?借りられる物は猫の手でも杓子でもよ。今は現場の沈静化が第一」

「そうでしたね。状況の変化と共に最大の戦術を」

 一帯の様子で分かる事はここで私達の加勢は必要にありません事。ですから、他の場所に赴き更に敵の数を減らすことです。

「三十七よ」

「ではこれまでの合計は四十九ですね」

 確認を取りながら先へと急ぎました。

 他の場所にも同様に所属不明の方々が強襲部隊と応戦してくださっていました。

 顔の作りからしまして、明らかに日本人やアジア人では無い事がすぐに分かります。

 飛び交う声の単語からEnglish系、口語の訛りから、U.Kの方々だと思うのですが断定は出来ません。

 どの場所に向かいましても、その謎の部隊が守護して下さっていたのです。そして、その時に、ふと別の事に頭が廻りますと、強襲部隊の布陣に疑念を感じました。

 武装集団は自爆突進も厭わない方々ですのにそれを実行に移そうとします人が誰も居ないのです。

「どうしたの、リュウ?」

「これは飛んだ失態をしてしまいました。すぐに気が付くべきことでしたことを・・・。これは囮です。たしか、この研究所地下水路を利用しておりましたね?その場所から内部に侵入している可能性が・・・」

 私はすぐにUMPCを取り出しまして、施設の地下経路を確認しました。

 入り口は川沿いに一箇所、陸地に三箇所。

 私達が居ますこの場所から一番遠い河川から小船で進入して来た場合、時計で私達がここへ到着した頃からの経過した時間を弾きまして、一時間。

 河川の地下水路から施設中央までの距離が・・・、迷路のように作られて居ますのでかなりの距離がありますが、相手が施設の地下水路図を入手しているのでしたら、走り続け最短で二十分で到着出来てしまうでしょう。

 ですが、まだ、施設内部は平穏を維持しているようでした。

 私は迷わず研究所内から河川側と通じます地下水路へ降り立ちまして、その中を、私は感覚を研ぎ澄ませながら走り出したのです。

 私と麻里奈の走りますときに踏む、床の音が隧道内の奥へと反響して行きました。

 その音は私達の物だけでなく、こちらに向かってきます物と共に。

「足音からすると、ざっと六よ」

「音だけでしたらね。Assassinがもしまざっているのなら・・・、前方から。・・・、・・・、・・・??後ろからも来て居るようですよ。

麻里、若し、敵兵でしたら背中はお任せしました」

「はいぃ、はぁ~い、任されちゃいました」と暗がりで明るくおどける彼女。

 前方、弱い照明の中、閃光が見えますと同時に発砲音が響き、光が発しました位置から弾道を読みまして、銃撃を躱しつつ、十分な視界がありません現在位置から、武装集団のその武器に私のNight hawkの照準を合わせまして、Triggerに力を込めました。

 私が放ちました金属弾は狙い通り、敵の武器に命中しまして、それを破壊する事が出来たのですが、それとほぼ同時にその所持者の額に隕石孔の様な陥没銃傷が産まれまして、驚愕の表情、口を大きく開けたままで、水の中に堕ちて行くのでした。

 相手を殺すための確実な狙い。Maturely skill(熟達した技)。

 それは私や麻里奈の後方から聞こえて来ました足音の主等が扱って居ます拳銃から放たれた物でした。

 地上でも武装集団と戦闘を行っておりました今は味方であると思っています彼等から発砲された物。

 私と違いまして相手の命を確実に奪うための正確に連射されます銃撃。

 私は本の僅かだけ、目の前の状況に困惑してしまったのでした。

 その数発が、私や麻里奈の方へ、向かっていた事。

 誤射?それとも正射?

 私の思考と、身体の動きは全く別に働いて下さったようで、前頭に命中しそうでした弾を寸前で躱しまして、翻しましたとき僅かに私の袖を掠めたくらいでした。

 麻里奈も危機を感じてか、動こうとしていたのですが、反応し切れなかった。

 私は無理やり自らの身体移動を捻じ曲げ、彼女を突き飛ばすのですが、兆弾が彼女の綺麗なおみ足に一発命中してしまったのです。

 二人して水溜りに堕ち、服を塗らしてしまっていました。

 それなりに綺麗な水が流れます水路。

 負傷しました彼女の傷口から、漏れます血流が水面を赤く濁して行く。

 それを目の当たりにしまして、私の脳が状況を再度認識しますと、私の心が暴走し始めてしまう。

「うわぁぁあっぁぁっぁぁっぁぁっぁあぁああぁぁっ」

 私は咆哮を上げながら前後、敵味方構わず、銃の引き金に力を込めようとしていたのです。

「りゅぅうっ、駄目よっ。私は大丈夫だから、龍はリュウの意志をちゃんと貫いて」

 麻里奈は傷の痛みに耐えますような辛そうな表情を私に見せながら、必死にその様な言葉を掛けて下さり、私が後方へ向けて居ました銃の遊底をしっかりと握り絞めまして打て無いようにして下さったのです。

 歯軋りをしながら私は冷静さを取り戻しまして、崩れてしまっていました表情を一度、手の甲で隠しますと、いつも通りの顔に戻していました。

 先ほどの銃撃は何で有ったのでしょう?

 私と麻里奈が些細な時間その様なやり取りをしていますと、正体不明の兵団がブルハーン派の武装組織の一掃を続けて降りました。

 地下水路を通り中央まで進行して来ましたその集団。

 兵数は少ないと思っていたのですがそれなりに数が多く、味方らしきExpertな方々も苦戦しているようでして、幾人かの負傷者が出ているようでもありました。

 冷静になりました私は麻里奈の足の簡易治療を手早く行いまして、戦闘に参加したのです。

 それから、大よそ、一時間、私の持ち弾薬も底を突きまして、格闘で相手を倒すのも億劫になりました頃。

「Withdraw from here!!(撤収!!)」

 その様な声が遠くから、聞こえてきたのでした。

 私の周囲にもう密造組織で戦えます武装兵団はおりません。

 その撤収と言います単語が、戦闘の終了を告げてくださるものだと私は判断したのです。

 私は麻里奈の所に駆け寄り、彼女に肩を貸しますと、大急ぎで地上へ出まして、周囲を確認しました。

 小さな火の手は上がって居ますもののまだ、どこかで戦闘が続いています様子は感じられません。

 謎の支援部隊も風が攫って行きます霧が如く、消えてしまっていました。

「終わったようね・・・」

 痛切な表情でその様に語ります麻里奈。

 早く私は彼女の怪我を治療していただきたくて、光姫が居るでありましょう場所へ、近くに転がっていました何方かの車を拝借しまして、そちらへと向かったのです。

「やはり、龍達があの訳の分からぬ連中を追い払ってくれたのだな?」

 光姫は麻里奈の治療をして下さりながらその様に確認を取って来ました。

「確かに、私や麻里奈は戦っていましたけど、他の方々は私達が務めて居ます機関とは別の所でしょう。詳細は不明ですが」

「そうか・・・」

 光姫が何かを私へ尋ねるために言葉を続けようとしますと、私の携帯電話の着信音がなり始めました。それは友人からの電話。

 私はその友人と会話をするために光姫に手で話しの続きは電話が終わってからと示しまして、その友人からの言葉を聞き始めました。

 その話しを聞きながら、私は空いた手で顔を隠し、麻里奈や光姫に私の今の表情が見られませんように隠し、唇を噛み締めていました。

 その内容とは私の手駒として用意していた八神慎治、彼が私の予想範疇外の行動へ出ていたようで、私が描いておりました筋書き通り、罰を与えられず決着が付いてしまいそうだと言う事を報せてくださる内容だったのです。

 私は貴斗達の事を調べております間、八神慎治も私と同じような着眼点で事故ではなくて事件だとその様にお考えになり、真相の追究をしていた事を知ったのです。ですから、その彼に主犯は源太陽である事、現在は表向き、大河内星名として名乗って居ますこと等の情報を私と言います存在を明かさずに提供していたのです。

 最後の一節、最終楽章は私の手で奏でなくてはならない筈ですのに、他の者がそれを奏でようとしているのです。

 私が愛して已みませんでした巧妙な弟、貴斗の親友。

 その者もまた類は友を呼びますように逸材だと言う事でありましょうか・・・、私のなそうとしますことに逆らい動く。

 計画を大幅に変更しなくては私の望みが叶う事はないでしょう。

 友人へ私が日本に帰国するまでどの様にか、彼を牽制しまして、彼の行動の足止めをお願いいたしました。

 私は携帯電話を折りたたみまして、背広の内にしまいますと、光姫へ話を戻すのです。

「光姫、一つお聞かせ下さい。私は部外者ですので厳重な機械的監視がされて居ます中枢には入る事は出来ません、破壊活動をしない限りですが・・・。ADAMのCoreは今もこの施設に健在なのでしょうか?」

「さあな、私はそこまでの権限を持った研究者じゃない。分からないし、上司や上層部に問いかけても教えてくれないだろう。何せ、その場所には両手の指じゃ少し足りないが、それでも多くはないくらい程度しか知りえない領域だ。そんな事を聞いて、何か貴様にいいことでもあるのか?」

「どちらかといいますと、不利になる事を再認識してしまうことでしょう。友人の言葉を信じますとして・・・、私は直ぐに日本へ帰ります。光姫、麻里奈をよろしくお願いしますよ」

「私の貸しは高いぞ」


「ええ、心得ました」

 私は薬の副作用で睡眠に入って居ます麻里奈を拝見しまして、空港へ、日本へ可能な限り時間を短縮させまして戻る事になったのです。

 龍一が旅客機に搭乗し、空路の半分を過ぎた頃、薬の副作用が切りれ目を覚ます神宮寺麻里奈。

「あらら、すっかり寝ちゃったわね。私・・・、・・・、誰も居ないの?りゅうりゅぅ~~う、ミッキー」

「起きたか、マリー」

 鬼神光姫は湯気が立つカップを二つ持ちながら、神宮寺麻里奈の所へ姿を見せた。

「ねえ、龍一は?」

「ああ、あれなら、先に帰った」

「えぇえぇえぇぇっ、しんじらんなぁ~~~いっ!!」

「何か急いでいる様子だったから、退き止めはしなかったんだ」

「どのくらい前?」

 麻里奈は不満を表す膨れた表情で光姫に問いかけ、腕時計を眺めるその幼馴染は簡単に言葉を戻した。

「もう六時間くらい前か?」

「なによぉ、もう。私を担いででも一緒にしてくれたっていいのに、龍一の馬鹿・・・」

「フッ、体重はそんなんじゃないだろうけど、お前は無駄にここがでかいから、面倒に思ったんだろう」

 本気で嫌味を込めては居ないが嘲る様な顔付きで麻里奈に対して、その様に吐く光姫。

「なによ、無い人には悪いけど、結構気にしてんのに」

「贅沢な、悩みだな、たしかに」

 麻里奈は光姫のその言葉を耳にしながら、起き上がり、寝台から足を出して、立とうとしていた。

「止めて於け、お前が思っている以上に傷が深い。龍一には分からないようにアダムの応用技術を使っているが、先端分野なんでな、まだ、色々と不都合もある。だから、大人しくしていろ」

 光姫は寝台に腰を下ろし、麻里奈がそこから出られないように阻む。

「わかったわよ。なら、私の表着の中の携帯とって、飛行機の中だから直通出来ないから、メールくらいは打っておきたいわ」

 光姫はすらりと立ち上がり、麻里奈の要求に答え、それを取り出すと無造作に彼女に投げ渡していた。

「嫌みの、一つや二つは入れてやれよ。あの我儘伯爵に」

 そいれをしっかり受け止めた彼女はそれを開き、

「なによそれ・・・、でも言い得て妙ね、クス・・・?あらら、私よりも先に、龍からメールが入ってる」

 麻里奈はそれを開き内容を確認する。

『愛しき・ラヴリー・マリーへ』

『麻里がこれを読んでいる頃、私は飛行機の中、或いはすでに日本に到着している頃でしょう』

『私の計画が大幅に狂ってしまいましたので急遽先に帰国させていただいた次第です・・・』

『本文を伝えます前に謝らせて頂きます。すみません、麻里』

『貴女が日本に戻ってくる頃には私は殺人犯となっているに違いありません』

『私は貴女が私の恋人でありました事を至高に思って居ります』

『ですが、これから罪人になってしまう私』

『神宮寺麻里奈、貴女に相応しくない男に成り下がってしまいます』

『ですから、そうなってしまいます前に、はっきりと麻里にお別れを告げさせていただきたいと思います』

『このような電子書面でしか貴女に伝えられませんが』

『いままで、私を身も、心も愛して下さり、支えて下さり、本当にありがとうございました』

『これから先の未来も貴女がご健勝でありますように、幸せでありますように、心から願わせて頂きますよ』

『藤原の姓に恥じる生き方しか出来ませんでした龍一より、最愛の貴女へ』

 麻里奈はその文面に驚き、そのままの表情で、幼馴染に叫んだ。

「光姫っ、お願い。私を直ぐに日本へ連れて行って、お願いよ、光姫」

「どうしたんだ麻里奈?」

「龍に、龍一に人殺しをさせないで、龍の手を穢させないで」

「言っている意味が分からぬが?」

「理由は移動中でも出来るんだから、お願い光姫っ!」

 あまりにも真剣な麻里奈の表情、長年の付き合いである彼女の事を良く知る光姫。

 麻里奈の醸し出す雰囲気から事の深刻さを読み取り、光姫は直ぐに答えを返した。

「分かった」

 簡潔に答え、光姫は白衣を脱ぎ捨て、何処かへと連絡をしながら、折りたたみ車椅子取り出し、それを広げては、そこへ麻里奈を抱え乗せた。

 彼女等はその車椅子のまま搭乗できる仕様の車両に乗り込むと急ぎ、

「マリー、しっかりつかまって居ろよ。私は貴様と違って運転が荒いからな」

「荒くてもいいから、急いで、みっきー」

「任せておけ、その代わり、今以上の怪我も覚悟しておけ」

 その言葉と同時に、光姫は車を急発進させ空港へと向かうのだった。

 空港に到着した頃、最後に光姫が電話を入れていたのは藤原翔子だった。

 光姫は翔子へ龍一が犯罪で手を汚してしまうかもしれないことを伝え、彼の行動制限を布く様に提案し、藤原家御用達の小型旅客機の使用許可を請うていた。

 小型と言っても軽く五十人は乗れてしまうもので藤原最先端科学と三菱重工が共同で開発した環境適応性の高い航空機だった。

 翔子の要請でシンガポールに在住している専属の操縦士が駆けつけ、その機体が、空港内の管制の指示に従い緊急発進し、陸地との距離をたった数分で大きく広げて、日本へと出立した。

 旅客用航空機としてはすでに退役しているConcorde同様、音速約二・〇〇を滑空出来るその機体は性能限界ぎりぎりの速さで闇の高度上空を切り裂き日本へ向かう。

 果たして、麻里奈達、一向は龍一が行動を起こすよりも先に日本に到着し、彼を止める事が出来るのであろうか?

 龍一の計画を狂わせた八神慎治が起こした行動とは一体どのような事であろうか?

 孰れ開かれる第五部の扉にその真実を垣間見るであろう・・・。

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