第 四 章 盤上の駒
第十話 彼の者等の繋がりを追え
私は多くの協力者の手を借りまして、金売佐喜治、鞍馬昇斗、反町駈、唱野甲斐、鳥羽忍、富士川勝、三多久留須、武蔵弁慶等の足取りを追っていました。
誰か一人でも見つけますことが出来たのなら、チェス盤上に彼等と言います駒を配置しました者の手がかりになると思いましたから。
私自身も必死に情報収集をしているのですが、二足の草鞋、UNIOとの両立は容易ではなく進捗状況は思わしくありませんでした。
彼等八人とADAMの関係性の観点からも調査はしているのですが、糸口が全くつかめませんでした。
私は何をどの様にすべきか悩みながら、拳銃の引き金に力を込めまして、標的を破壊していました。
本日、10月10日、月曜日の夕方、UNIOと警視庁刑事部捜査二課の職員の方々と麻薬取引現場を押さえるために港区河川沿いの廃墟建造物へと突入しました武装捜査二課十一名と私。
その建物の中に居ましたのは既に捜査二課が特定していました暴力団組員五名と海外麻薬市場の末端員三人。
彼等は突然に押し入りました私達へ、大慌てで隠し持っていたようでした銃火器で攻撃して来たのでした。
ですが、私にとって組の方が扱います銃など児戯に等しく、私が持っています拳銃の銃倉を交換せずして、使い物にならないようにして差し上げました。
捜査二課の方々が私の銃技に感嘆しつつも、素手で尚も闘争を続けようとします組員を取り押さえまして、手錠を掛けて行くのでした。
私も格闘戦が出来ないことは無いのですが、好きではありませんので、そちらの方はすべて二課の方々に任せ、組員が襲って来ましても、回避するだけで、一切、手も足も上げませんでした。
ああ、ですが相手を転ばせるために足は出しましたね。
私は拳銃を撃ったり、その様に相手側の攻撃を躱したりしている最中、ずっと私が追っている事に関して考えていたのでした。
「ふぅ、どこかに見落としがあるのでしょうか」
縛り上げられました組員達や外国人Pusherを見据えながらその様な事を呟いていたのです。
「どうしたのかね、藤原君?」
今回の捜査を指揮していました捜査二課の本多信義が、私が悩んでいます顔を見て、その様に言って下さったのです。
「ええ、私用の事で、色々と調べているのですが、なかなか、どうしまして、欲しい情報が見つかりませんで・・・」
「ふぅ~む、複雑そうなことじゃなかったら、我等二課が協力してやっても良いぞ。いつも、君や神宮寺君には助けられているわけだし」
「いえ、いえ、個人ごとですので公務の方のお力添えを受ける訳には」
「ふぅ~~~ん、そうですか。なら、物はいいよう、公務としてでは無くて私の知恵をかしましょうか?」
その様に親身になって下さいます本多氏。彼は捜査二課の中で唯一私の立場を知って居る方でもあり、大宮支部長の親友でもある方です。
「忠孝にはだまっておいてあげますよ」
「そうですか・・・、なら、お話しだけでも聴いて頂きましょう」
私と本多氏はその様な会話をしながら、廃屋の外へと出ていたのでした。
「そうですか、なるほどねぇ。優秀な君の事だから、薄々、答えを出して居るでしょう。それら、行方不明の連中や、事件前に故人となった者達の名前が誰か一人によって使いまわされたんだろうとか。それと、その場限りでしかその人物に成りすまして居ないために特定に手間がかかっている」
「ええ、その様な感じです」
「故人に関しては難しいでしょう。だが、行方不明者からなら二課のパイプを使えばどうにかなるやもしれんよ。君ん処と扱っている情報筋が違いますからねぇ」
「ご協力感謝します。でしたら、公務に抵触しない程度でお願いいたします」
「ああ、それじゃ、今後とも君のその銃の腕当てにしてますから、此方こそよろしく、頼みますよ」
本多氏は行方不明者からの視点で情報の提供を約束して下さいました。なら、私の方はどうにかして、故人の方の繋がりを見出します努力をしましょう。
2011年10月11日、火曜日
縞馬柄のエプロンを掛けています私は金属のBowlに入れました生卵を泡立で掻き混ぜながら、本日まで得ました鳥羽忍の情報整理をしておりました。
先ず個人情報から、1964年8月3日、滋賀県大津市産まれ。
1987年、23歳で立命館大学産業社会学部を卒業。滋賀県の地方公務員として、都市開発機構で働き始めたようです。
この方の周囲からの評価は良好で、その人柄を生かしまして、どんどん階級を上へ登らせたようでした。
2001年、外国の都市機構のあり方を見習うために三ヶ月海外出張を行ったようでした。しかし、それが不運の始まりだったのでしょう。
彼は欧州の各地域の大都市を一週間単位で見て廻りまして、最後の週、フランスに立ち寄りましたときに消息不明となったのです。
単身での出張、兄弟が居らず、両親はすでに他界しており、更に独身だった事が、災いしまして、彼が行方不明となった事に役所の方々が気付きましたのは彼が帰国する予定でした一週間も、二週間も後でした。
定期連絡を入れていました鳥羽忍ですが、ぷっつりと連絡が来なくなりましたことに何方も、注意を払いませんでしたずさんさが、彼の助かる可能性を低めました一因でありますことは容易に理解できるところです。
ただ、これは表向きの情報で、この方、表向きの顔だけが良くて、実は相当背徳的な方だった事を突き止めました。
彼は多くの頻度で短期海外出張を行っていました。その理由が、日本における都市間整備に置けます機密を諸外国に提供するためでした。所謂、売国奴と呼べる方です。
行方不明と思われていました彼を遺体としてですが、発見する事が出来たのです。これはUNIOフランス支部の友人が協力して下さって得ました情報です。
相当の時間を経てからの発見でしたので医療解析が困難だったようですが、遺体は自殺ではなく、他殺である事が認められたそうです。
加害者が居る事は間違い無いでしょう。これはあくまでも私個人の意見ですが、その加害者が意図して、鳥羽忍の殺人を行ったのでしょう。
そして、失踪扱いに仕立て上げまして、必要なときにその人物を騙る。そう、涼崎翠君と結城弥生君の交通事故の被告であります方の釈放金を払う時に利用したのでしょうと・・・。
後、鳥羽忍と交友関係や、役人としての仕事の取引先などからも何か情報が手に入りませんかと調べて見ました。
私はいまだにBowlの中の卵を掻き混ぜながら、広げました人物録、取引先録を眺めていました。
「SSIMO(Sun Source International Medical Outsourcing)・・・」
とどこかで聴いた事があります単語なのですけど・・・。
「りゅうっ、いつまで混ぜてんの?一体何を作るつもりなのかな?」
「肌理の細かい卵が舌触りの良いオムライスを作る骨なのですよ」
「だったら、ミキサー、電動泡立てを使えばいいじゃない」
「いえいえ。これを私の手で混ぜる事。それ麻里への愛情の一表現ですから。便利な機械ばかりに頼っていては人の思考能力は落ちる一方ですしね」
「また、また、屁理屈な冗談なんかいっちゃって。私はもっと別の表現で愛してもらいたいけどねぇ」
「それはどの様な表現で、でしょうか?」
「それを私に言わせる気?そんなにっこりとした表情を向けて。龍一の変態っ!」
「何を言うのですか、まったく・・・、・・・。あと小一時間はかかるでしょう。ですから、麻里はそれまでじぶんの好きな事でもやっていてください」
その様に言いまして、私は流しの方へと向き直りました。
「龍々の齧られアンパンマン」
麻里奈は私へ全く理解不能な訳の分からない言葉を残しますと居間へと去ってしまわれました。
その様な彼女の後姿を見て溜息を零してしまう私。
2011年10月15日、土曜日
本日はたまにあります、土曜日のUNIOのお仕事が無い日。
私は麻里奈が作って下さいました朝食後、昨日まで集めました鞍馬昇斗に関しましての調書を眺めていました。
隣には不機嫌な表情の麻里奈が私の行動を監視するかのように座っていたのです。
無論、私には麻里奈が不機嫌な理由など知る由も無く、ただ、今は貴斗達の命を奪った者の特定をする事だけに専念していました。
鞍馬昇斗は泉渓寺と呼ばれます仏閣の住職でした。
泉渓寺と言えば殺生石伝説に登場します玄翁(源翁)和尚と言います方が住持を務めた事がありましたお寺です。
鞍馬昇斗はそこの住職の第三十三代目。
この方が泉渓寺の主管となりましたのは1997年の彼が47歳を向かえました頃でした。
それまでは一切、僧のお仕事はしておらず、他県で医師を務めていたそうです。
先代が急死したとの事で、その寺の高僧達が彼等の中から代理主管を決めずにしまして、昇斗を主にすえます事を望んだのです。
それを受け入れました彼は泉渓寺に戻りまして出家の儀と共に住職とお成りになったようでした。
それから数年と経たずして、失踪と言う訳です。
こちらは鳥羽忍と違いまして、裏も表もありません、とても優れた医者だったようです。
ただ、彼の医師としての体系が若干、他の勤務医の方々と違っていたようでした。
直接雇用ではないお医者様。
委託系派遣医師。彼が正社員として務めます契約元となります企業。その会社の名前はSSMA(Sun Source Medical Alliance)。
数日前にも似た様なお名前の企業名を目にしていますはずなのに、私はそれとの関連性を気が付けて居ませんでした。と言いますより寧ろ、その単語だけが記憶から抜け落ちてしまっていると言う感じです。
調書を読み終わりました私が『フッ』と小さな溜息を吐きました頃。
「うにゃぁぁーーー、りゅぅう、そとはあんなに天気が良いんだから、どこかでかけましょうよぉ」
叫びながら私の首を絞めます麻里奈。
彼女が不機嫌な理由が今になって分かりました。
「私は今ひじょぉ~~~に大切な事を調べているのです。遊びに行きたいのでしたら、お一人でどうぞ」
嫌味っぽく爽やかな笑みで彼女へ言って上げますと、彼女は更にむっとした表情を作ってしまわれた・・・、大きな溜息を吐きながら彼女の意に折れる私。
「その様な表情を作らないでください。可愛らしいですけど・・・。で何処に出かけたいのですか?」
「今日から上映される映画。十四時二十分からの上映」
「そうですか」と言い壁掛け時計で時間を確認しましてから、
「昼食は外で摂りましょう。それでは外出の支度をしましょうか」
「はぁ~~~いっ」
麻里奈は先ほどまで私へ向けていました表情とは別物の嬉しそうな笑みをお浮かべしながら、衣装室へ向かったのでした。
2011年10月17日、月曜日
お昼過ぎに霞ヶ関郵便局止めで届いていました二通の速達を受け取りまして、何時も携していますVictorinoxのSwiss Card Light T3の青色をお財布の中から取り出しまして、その中からLetter Knifeを選び、封筒を開封したのでした。
送り主は三戸特別区とここ東京に住んで居ります、私の高校の時の友人達。
私は郵便局の窓際で最初に開封しました三戸の封筒から取り出しました書類を開き確認し始めたのです。
武蔵弁慶。隼瀬香澄君を乗せましたTAXIを運転しておりました方。
1981年3月十日に誕生されまして出生出身共に埼玉県越谷市。
地元の高校を卒業と同時に普通自動車免許を修得し、二年後に第二種免許を初受験で合格。
その後、直ぐに三戸内で個人TAXIを開始したと書面にはそうあります。
ここまでは普通なのですが、次の頁を開きますと、驚くことに武蔵弁慶といます人物そのものが既に偽装されているとの事で、この人物の後を追う事は出来ないとの事でした。
香澄君を乗せた時に使用されたであろう車両は廃棄されており原型を留めて居なかったそうです。
更に車両登録もされて居なかったようで陸運局から情報を得ることも出来なかったと書かれています。
この友人から受け取りました手紙から推測出来ます事は唯一つ。
香澄君を乗せて運転をしていた方が間違い無く自殺幇助をしたと言うことです。
自殺幇助の扱いは他殺事件と同等扱いですから、香澄君の死は事故ではなく事件。
事件と分かりましても、相手の用意周到さが、真実への道のりの行く先を阻んでくれるようですね。
香澄君の方面から犯人を特定出来ないかどうか、このまま友人には調査を続行していただくよう今すぐに携帯電話へ連絡させていただいた。
それから、快く引き受けて下さった事を感謝しつつ、電話を切りまして、私はもう一通を確認するのでした。
内容は金売佐喜治でした。
事故で無くなり葬儀なしで遺体を焼かれました人物。
彼は人材委託でNNLGへと入社した方で、その人材委託会社の社名は(Sun Source Human Development Corp. SSHD)
「サン・ソース・・・」
私はそう呟きますと一瞬だけですが脳内を焼き切られてしまいそうな刺激が奔ったのです。
痛みを逃がしますように頭を軽く振りまして、続きを読むのでした。
私が無理言ってお願いしました事を実行して下さったその答えが書いてありました。
そのお願いとは金売佐喜治の墓を掘り起こして欲しいと言う物です。
「・・・、・・・、・・・、矢張りそうでしたか」
私は顎を左の人差し指で軽く擦りながらまた独り言のように呟いたのでした。
何が矢張りかと申しますと、墓の中に遺骨が無かったと言うことです。もし、無かった場合の指示も出していましたのでその件に付いても書かれています。
墓石を製作や葬儀を執行しました業者、墓地の敷地を購入した方を調べて欲しいとお願いしていたのです。
その結果は墓石作製と葬儀を執り行った業者は既に倒産しており、足取りが追えないとの事。
唯一、墓地購入者だけは調べが付いた様で金売佐喜治の派遣もとのSSHDでした。
天涯孤独でちゃんとした場所で眠れないのも不憫であろうとその会社のおもんばかりで購入し、葬儀や墓石の製作まで社費で落としたらしいのです。
SSHD社に墓の下には金売佐喜治が居なかったことを直接本社へ出向いて友人は伝えてくれました。
その時の対応は事務的だったようで、すべて業者に任せた事なのであとはどうなろうと知った事ではないそうです。
葬儀やら何やらをすべて社費で支払って置きながら、その後は一切関係ありませんとの回答はなんとも矛盾したことでしょうか?
私は書面を封筒へとしまい郵便局からでまして、UNIO支部があります建物へ向かいながら歩き始めました。
「SS・・・、エスエス・・・」
私は考えるのです。
現在、私は私一人の力で無く多くの友人の力をお借りしまして貴斗達の死の真実を追っています。
私にはもったいないくらい素晴らしい友人達が、親友の方々がいてくださいます。
もし、私に貴斗と言う弟が居ませんでしたら、今こうして生きている間、ずっと侘しさを感じながら私は孤独に世界を見下ろしているだけの存在だったのでしょう。
ですが、今、私はこうして、色々な方々に囲まれ、充実した日々を送っています。
貴斗が私の人生をより良い方向へ導いて下さったのに・・・、私は弟に何の恩も返すことが出来ずに先に立たれてしまいました。
その様な弟に私が出来る事は弟の無念を晴らすことだけです。
必ず私のこの手で貴斗達を死に追いやりました方を断罪する事。
それだけが、唯一、貴斗にして上げられる事だと今は強く思い込んでいたのでした・・・。
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