千石くんに振り回される

ぺんなす

第1話 最初から振り回される

夕暮れの帰り道。

近道の公園を通ろうとする。

でも、今日は無理みたい。

不良達が集まってる。

こんなの、怖くて近づけない…。

どうしよう…。

その瞬間、私の後ろから不良たちに向かって走る人が──


「お前らさ、こんなところで何してんの?ここ、お前らみたいなのがたむろする場所じゃないけど」

「あ?なんだ??てめぇ」

不良が彼の方を見た瞬間、彼は彼よりも体格の大きい相手を蹴り上げた。相手は後ろに倒れた。

「だからさ、邪魔だって言ってんの」

後ろ姿でも伝わるほどの凄まじい気迫…。

不良達はその場から去って行った。

私はただ、見てるだけだった。

呆気にとられてしまった。

気がつくとさっきの人が目の前にいた。

「ねぇ、大丈夫?もう通れるよ」

さっき蹴り上げた人と同一人物とは思えない綺麗で無邪気な笑顔。それに、宝石みたいな瞳、雪みたいに白い肌、どこか儚げな雰囲気、端正で少し中性的な整った顔立ち。こんな綺麗な人いるんだ…この世に。

「あっ、えっと…ありがとうございます」

「うん!」

「そ、それじゃあ私はこれで──」

「あ、待って!手、出して」

「え?手…ですか…?」

「うん。…………よいしょっと。はい!これ〜あげる!俺のお気に入り〜♪」

謎の飴を渡された。

「えぇーっと…あ、ありがとうございます……?」

「うん!」


………一刻も早くこの場から立ち去りたいけど、何故か手を離してくれない…。ていうか何故かずっと私を見てる…。なんで?この状況…どうしたらいいの……?私から何か言った方が──

「君、今日から俺の恋人ね!!」

そう言われた瞬間、唇に知らない感触。そう、これは所謂…

「じゃあね〜」

彼は手を振りながらそう言って、呆然と立ち尽くす私を置き去りにした。

そう、私はこの日、初対面の人にいきなりキスをされたのだった。

正直、あの後どうやって帰ったのか記憶にない。記憶にないってことはきっと夢。


次の日。確実に寝不足。眠い。まぁ昨日、眠れるわけがない出来事があったんだから当然と言えば当然なんだけど…。

未だに昨日のことが処理しきれていない。

夢だと思ってたけど私の手には確かに彼から渡された飴があった。ということはきっと…あれは……。

「はぁ…」

溜息しか出ないでいると

「愛衣ちゃん!おはよう〜♪」

後ろから昨日の彼が抱きついてきた。

私はびっくりして、思わず彼を人のいない校舎裏に連れて行ってしまった。

「はぁ…はぁ…」

思いっきり走ったから疲れた…。

「愛衣ちゃん、どうしたの?」

「ど、どうしたの、じゃなくて…昨日のアレ…何?どういう意味??」

「ん~??そのまんまの意味だよ。愛衣ちゃんは俺の恋人。だって昨日キスもしたし」

夢だったらよかったのにって思ってたことが全部本当だった瞬間。

「ちょっと待って。まず、あなたと私は初対面でしょ?お互いのこともよく知らない状態で恋人なんて…ありえない!」

「え~でもキスしたよ?」

「きっ、キスをしただけで、恋人にはなりません!!!それに!!初対面の人にいきなりキスするなんて……!」

「え~そうなの?じゃあ……俺が君の事、振り向かせればいいってことだよね?分かった!俺、手加減しないから、してね~」

彼はそう言って、手を振りながら去ってしまった。

人の話聞いてないしなんてめちゃくちゃな人なの…。

はぁ…。なんだか面倒なことになった気がする…。

覚悟してね、ってどういう意味だろう…。

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千石くんに振り回される ぺんなす @feka

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