後日談

いつか貴女を殺すその日まで

 ユリアさんが吸血鬼になってからは、彼女はペアである私の部屋で過ごすことを命じられた。私に彼女の監視をさせるためだ。24時間365日付きっきりで生活している。

 ユリアさんが吸血鬼になって分かったこと。人間と同じ食事では飢えは満たされない。満たすためにはやはり血液が必要らしい。ただ、これは誰かから直接貰う必要はなく、輸血パックでも充分だった。故に彼女の今の食事は輸血パック。一日に三回も補給する必要はないようで、食事は夜の一回のみ。輸血は隊の隊員達に協力してもらっている。

 ただ、一つ問題がある。

 吸血欲は吸血鬼にとって食欲であると同時に性欲でもあるらしく、輸血パックから血液を摂取して食欲を満たしたところで性欲は満たされないとのこと。それを知るのは私だけ。故に、私は毎晩、彼女の性欲処理を手伝っている。


「は……ぁ……メイ……いつもごめんなさい……」


「いえ。仕事ですので。……ん」


「んっ……ふ…………」


 彼女は時折、私をお姉ちゃんと呼ぶ。彼女の姉は幼い頃に吸血鬼に攫われ、幼い姿のままを永遠に保つために吸血鬼にされた。吸血鬼になると成長が止まる。彼女の姉を攫った吸血鬼はそれを利用して、幼い女の子の成長を止めて自分の愛人にしていた。幼い女の子に対する醜い欲望を永遠に満たすために。聞いただけで怒りが込み上げてくる。

 幼いままの姿の姉と対峙した時、彼女は殺すことをためらった隙をつかれて攫われた。そして、戻ってきたら吸血鬼になっていた。姉から血を飲まされたらしい。

 彼女の姉は、彼女と双子だったと聞いている。対峙した当時の彼女は四十過ぎだった。対して姉の姿は六歳ほどの幼い少女。性知識などほとんどない幼女だ。自分がされている行為の意味など理解してはいなかっただろう。

 幼い少女や少年が行方不明になる事例は今も相次いでいる。幼い姿の吸血鬼と対峙することも少なくはない。その幼い姿の吸血鬼達も恐らく——


「メイ……手止まってる……」


「!……す、すみません。考えごとしてました」


「……代わって。私もしたい。されてばかりじゃ満たされないわ」


「……はい」


 ユリアさんは言っていた。恋愛経験などないと。性に関する知識もほとんどないと。なのに——


「ん……ユリアさん……っ……」


 こういう関係になった当初から、彼女はやけに手慣れていた。そして——


「ふふ……気持ちいい?


 私を姉と呼ぶ。姉に攫われた後何があったのか、嫌でも想像してしまう。察したくなくても察してしまう。そして、泣きたくなるほど胸が痛む。なのに身体は気持ち良くて、訳も分からず流れ出た涙を彼女の指が優しく拭う。


「っ……ユリアさん……」


 初めて吸血鬼を殺した時、吸血鬼になった友人を殺した時、彼女は眠れない私を抱きしめてくれた。

 彼女は厳しいけれど、誰よりも優しい人だ。私を抱く手つきからも、それは伝わってくる。


「んっ……ぅ……!ユリアさ……待ってくださ——あっ!」


 私が絶頂に達すると、彼女は満足そうに笑って私の頭を撫でた。愛おしむような視線と手つきにドキドキしてしまう。けれど多分、彼女に見えているのは私ではなく、実の姉なのだろう。そう思うと虚しくなる。私は彼女が好きだ。恐らくそれは、最初はただの敬愛だった。だけどいつしか、恋愛感情に変わった。毎晩抱かれて、優しくされていたらそうなるのも無理はない。だけどこの恋は恐らく叶わない。それでも構わない。彼女の側にいられるのなら。彼女のために生きられるのなら。

 この命が尽きるのが先か、彼女の復讐が終わるのが先か、願わくば後者であってほしい。そして彼女の最期は私が見届けてやりたい。彼女を殺す役目は、私が全うしたい。そのために私は明日も明後日も戦い続ける。

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ヴァンパイアキラー 三郎 @sabu_saburou

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