第518話 強制リセット、再び at 1996/3/19

『修復できない致命的なエラーが発生しました。まもなく強制リセットが実行されます……4』




 僕が取り出したスマホのスクリーンには。

 あの日と同じ、忌まわしいメッセージが表示されていたのだ。




「コトセ……お前っ……何をしたんだ!?」


「大したことではないさ、



 くく――そう笑う白い少女は、僕の知っているカノジョではなかった。


 そうか。そうだったのか――。

 ようやく僕は、今まで見事にだまされていたことを知ったのだ。



「これから先、この世界で起こりうることを話してやったにすぎない。未来の確定事項をな?」



 雄弁に語りながらも、カノジョは罪の意識にココロをさいなまれながらその苦痛に眉をしかめる。ひとたびはじまってしまえば僕には『強制リセット』を止める手だてはない――いや、誰にも。



『……3

    ……2

       ……1』



 そして、



『………………0。これより強制リセットを実行します。しばらくお待ちください……0%』



 無情な機械音声がそう告げると、は目を閉じ、ため息をそろりと吐いた。



「……どうしてだ? どうしてなんだ? 教えてくれ、コトセ――いいや、



 僕のセリフを耳にしても、水無月琴世――ツッキーにはあまり驚いた様子はなかった。ただ、とても疲れたように再び長いため息を吐き漏らしただけだった。


 もう一度静かに問いかける。



「どうしてだ。教えてくれないか、ツッキー。どうして君のパパの記憶を強制削除したんだ?」


「……い、いつ気づいたんですか、?」


「ほら、その呼び名だよ」



 コトセなら僕を呼び捨てにはすれど、敬称なんて絶っ対につけっこない。その指摘に、あ、とツッキーは照れたように口元を手でおさえて頬を染める。それから言い訳のようにこう告げた。



「つ、つい、油断するといつものクセが出ちゃいますね。あー、失敗しちゃったなぁ、ふふふ」


「……どうして笙さんの記憶を強制削除したんだ?」


「き、決まってるじゃないですか」



 いくぶん語気を強めた僕のセリフを耳にすると、警戒するようにツッキーは距離を空ける。



「あ、『あの絵』のありかを知っているのはパパだけですからね。それと――こ、このあたし」


「『あの絵』は完成させちゃいけない。いけないんだ」


「ええ、コ、コトセお姉ちゃんもそう言ってましたね」


「し――知っていたのか!?」


「は、はい」



 ツッキーはうなずく。



「コ、コトセも言ってましたよね? 『記憶を』って。あたしも同じ。でも……つ、ついこの前までは、違いました。最近です。さ、最近になってわかるようになったんですよ」




『あの絵を完成させるな。琴世に話すな。聞かせるな。そして――私を信じるな』




 くそっ――そういうことだったのか。

 あれがこのことだったのだとしたら――。



「『あの絵』は……すでに完成している!?」


「そ、そのとおりです。で、でも、一度完成したら、もう破壊することはできませんよ――」



 そして――。

 ツッキーはベランダに面した窓を開けると、僕らを残して姿を消したのだった。



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