第500話 せわしない日々に at 1996/3/10
「………………はぁ」
やけにバタバタと慌ただしい週末だった。
五十嵐君の予測どおり、僕ら『電算論理研究部』の三学期の目標であり、一年間の活動の集大成として作成していた仕様書は、残りの10パーセントの部分を整理して、無事完成した。
「これ、コイツと一緒に荻センのとこ行って、やり方聞いて、製本しとくねー」
「コイツって言うんじゃありません」
控えめな小競り合いをしつつ完成した資料を抱えているのは渋田と咲都子だ。
「おー。よろしくー。ついでにシブチンもよろしくー」
「そーいや、終わったらどこ置いとけばいいのん?」
「……それは考えてなかったな。ま、この部屋だと戸棚ないから、荻センに相談してみてよ」
「パソ置いてる文机あるじゃん。あそこじゃダメなの、モリケン?」
「あくまで保管用に作ったものだから。きちんと管理できる場所がいいんだ」
「うーい。じゃあ荻センに聞いて、うまいことやっとくわ」
それから、その作業と並行して学年末テストに向けた勉強会も実施した。
「先週やったばっかじゃん……」
いや、お前の場合は、時間が足りない! と怒るべきだろ、ロコよ。
「それはタツヒコのせい。僕のせいでも、学校のせいでもないぞ。ま、一年の振り返りだから」
「……うえっ。いくらなんでも量ありすぎない?」
「それは覚えたそばから忘れるからだ。な、ムロ? ロコの一年の振り返り、手伝ってあげて」
「あ……うん。わかった。任せてよ。僕がみっちりお付き合いするからね」
そして土曜には、残りの候補となっていた八ヶ所の神社へと自転車で調査に出かけもした。
「あの……ありがとうございました。僕、来年受験なので、また近くなったらお邪魔します」
「ええ、ぜひそうなさってください」
(結局どこの神舎にもあの異様な『違和感』を覚えなかったな……これ以上、どうしたら……)
足取り重く、赤いママチャリを押しながら思案にふける。コトセとはあいかわらず連絡が取れない。ロコは普段の勉強が足りないので、室生とマンツーマンでおさらいしてもらっている。
(あ……。そうだ、バレンタインのお返しも買ってこないといけないんだった……なんか――)
――うまくいかないなぁ。
そんなことをぼんやりと考えながら、夕暮れの道を家まで帰った。
そして――今日は日曜日。
ひさしぶりの純美子とのデートだ。
教室や、登下校でいつも一緒にいるものの、ちゃんとどこかへ出かけたのは、前回がバレンタイン前だったので、気づけばもう一ヶ月近く前のことになる。とはいうものの、今日も声優養成所でのレッスン終わりに会おうよ、という程度で、どこかへ行こうというハナシではない。
「にしても……なんか今日、遅いな、スミちゃん……」
左手首の黒のGショックを見る。
いつもなら小走りで駆け出してくる時間を、もう三〇分も過ぎていた。
「あ――!」
と――純美子の姿は見えたが、表情が暗い。近づくにつれて、様子がおかしいことに気づいた、ココロなしか、いつもなら思わず見とれてしまうその目の下も赤く腫れている気がする。
「ケンタ君……行こ」
「え……ああ、うん」
純美子は一方的に僕の腕をきつくつかみ、いつもとは違う道へ、逃げるように進んで行く。
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