第353話 二学期・期末テスト(2) at 1995/11/27

 新しい週がはじまった。

 が、今週も先週に引き続き、期末テスト週間だ。




 一、国語   九:〇〇~九:五○

 二、音楽   十:○〇~十:五〇

 三、保健体育 十一:○〇~十一:五〇




 教室の一番前にある黒板には、荻島センセイの字でそう書かれていた。今は一時間目の国語のテストが終わり、一〇分間というわずかな時間を有効活用して二時間目に向けた復習中だ。



(――ともかくだ。ロコと一度、きちんと話す機会を作った方がいい)



 時巫女・セツナ=コトセは、土曜の『リトライ者』会議でそう言った。



(それができたら、こんなに困ってないんだって……)

(なぜ、できない? 付き合いはじめようが、友人であることに変わりはないのだろう?)

(それは……そうなんだけど)




 室生とロコ、この二人は小学校からの友だちだ。


 高学年の頃、同じクラスにもなったし、三人で遊んだこともある。あれから月日が経って、それなりに変化があって、なんとなくイケメングループ・イケ女グループ・ぼっち(だった)底辺陰キャと、それぞれ立ち位置は変われども、過去の記憶と思い出はまだ残っている。


 だから、二人が付き合うことになっても、別に話すことをためらう必要はないのだろう。というか、むしろ室生が球技大会の後言ったように、僕は二人を祝福したっていいくらいだ。まさか君たちがね――そんな呆れたような口ぶりで、やれやれ、とチカラなく首を振るのもいい。


 しかし、なぜか僕はそうすることをひどくためらっていたのだ。



「――どうだった? 言ってたところ、バッチリ出たでしょ?」


「あー、マジ助かったー……。さんきゅーね、ムロ――」



 教室の前の方に目を向けると、楽しそうに会話をしている二人の姿が目に入る。そのたびに、ずきり、と胸のあたりが痛みで疼く。その痛みの意味が、僕にはどうしてもわからなかった。




『ちょっとっ! 聞いてるの、ケンタ!?』


『あのさ……ありがとね、ケンタ』


『ケンタ、苦しいってば。そうじゃなくって――』


『ほら! ど真ん中まで行って踊っちゃおうよ、ケンタ!』



 いつも隣にいてくれるのが当たり前になっていた。僕の隣で、笑ったり、怒ったり、泣いたりしながら同じ感情を共有していた幼なじみの女の子。ちょっと気が強くて。勝ち気で男勝りで。学校で一番の、誰もが憧れる美少女。遊びのやり方も、喧嘩のやり方も、仲直りのやり方も、都会から来たもやしっ子の頼りない僕に一から叩き込んでくれた兄貴分であり大師匠。




 そして。



『……だからあたしは、こうすることに決めたんだ』




(あの夜、ロコが僕に言ったセリフは、どういう意味だったんだ……教えてくれよ、ロコ)



 どうしてもわからない。

 わからないのだ。






 ――と、そんな一瞬だった。






「……」

「……」



 教室の、廊下側にいた女子たちが、誰にも気づかれないように目くばせをしながら、一枚の紙片らしきものをこっそりと手渡している光景を、僕は目にしたのだ。渡された女子は手の中の紙片を裏返し、光沢のあるそこを見つめ、たちまち目を丸くする。渡した方が、ね? とうなずいた。


 そして、二人の視線は憎々しげに歪められ、談笑するロコたちに向けられた。



(単なる直勘でしかないけれど……あれはきっと、この問題に関係している物だ。よし――)



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