第349話 少女たちに何が起こったか? at 1995/11/22

「なるほどね……。アレ、そういうわけだったんだ……」



 決死の極秘任務を終え、無事に『電算論理研究部』の部室へと生還した僕らの――いや、正確には、会話の一部始終を速記で記録し続けていた五十嵐君の口から語られると、妙に納得したような顔つきで咲都子はつぶやいたのだった。



「なるほど、って……何か知ってるのか、咲都子?」


「あ、ううん。大したことじゃないわよ。でもこのところ、クラスの女子、変だったでしょ?」


「確かに……。てっきり僕、またサトチンがセクハラでもしたのかと」


「しねえわっ! つーか、一度もしたことないでしょ!? かっ! 彼氏持ちなんだし……!」


「おっ。デレたか」


「デレましたねぇ」


「あ、あんたたちねぇ………………!!」



 珍しく照れて真っ赤になった咲都子は、逆の意味で怖い。渋田によれば、アレでも普段はセーブしているんだ、とのこと。


 しかし、照れの極致にある咲都子はリミット・ブレイクする!



「じょ、冗談だってば……。で、アレってなんのことなんだ?」



 盾代わりに構えた渋田のぽっちゃりボディのうしろから尋ねると、咲都子は眉をしかめてみせた。



「いやさ? さすがにああまで露骨に隠されるとさ……余計に気になるじゃんか?」


「へ? 露骨に隠される?」


「アレってさ? あたしたち『電算論理研究部』の部員だけハブられてんの。知らなかった?」


「ええっ! そ、そうなの、サトちゃん!?」


「ま、正確に言えば、『電算論理研究部』の部員プラス、室生たちだね。荒山とか、あのへん」


「そ、それって、どういうことなんです!?」


「ちょ、ちょ――! ま、まあまあ! スミもかえでちゃんも落ち着きなって!」



 美少女ふたり――いや違った、ひとりは自称『漢の中の漢の子』だ(違う。そうじゃない)――から、ずっ! と詰め寄られた咲都子は、たちまちたじたじになる。


 こほん、咳払いをひとつ。



「あたし独自の情報網を駆使して聞き出してきたハナシだとね? ごにょごにょごにょ……」




 咲都子がもったいつけて話した内容を要約するとこうだ。




 そもそもの事の発端は「西中まつり」での、ある出来事だった。


 体育館にて披露された体操部の出し物だったが、元々センターには桃月が立つと決まっていたのに、出番直前になって山崎センセイのひとことでロコと交代することになったのだという。


 いくら指導するセンセイの意向だとはいえあまりに突然の交代劇だったし、あきらかにロコは練習不足の状態だった。それで交代したまではよかったのだが、結局ロコが足をひっぱるカタチになり、体操部の発表は散々な結果に終わった。これは観客席から見ていても明白だった。




 そこから、三年生の抜けたあとの体操部の内部体制は崩れはじめた。


 その一番の原因こそ、ロコ――上野原広子の独断的なふるまいだった、と言われている。




 はじめに、学校・教師側に対して積極的に優等生としての顔を全面に押し出し、自分の立場が有利になるように取り計らってもらっているのだ、という疑惑が湧いた。それは『西中まつり』の一件からもあきらかだ。


 加えて、生徒たちの不正や好ましからざる行為を見つけては、学校側・教師側に逐一情報を提供している『情報屋』なのではないかという疑いもかかっていた。




 と同時に、部内でロコに対して懐疑的な目を向ける部員たちには、陰湿ないじめやいやがらせをしていたのだという。なかにはすでに退部してしまった生徒もいるらしかった。そうやって部内でロコに反発する者を排除し、体操部の実質的な支配を試みたロコだったのだが、結束を取り戻そうとする一派と対立して、現在もなお、膠着状態が続いているというハナシだった。




 また、一学期の終わりに、小山田・室生とあと一名――これはたぶん僕のことなのだろう――を焚きつけ競わせて、三つ巴の争いをするよう仕向けたのも、すべてロコの策略なのだそうだ。


 だが、これもはなからロコが室生と付き合いたいがために仕組んだ演出であり、室生は騙されていることにも気づかず、ロコからの告白を受け入れて自ら勝負を降りたのだ、という。




 ではなぜ、そこまでわかっていながらロコは今なお自由なのか?




 それはロコが、体操部員たちの弱みを握って脅迫しているからなのだ、というハナシだった。



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