第307話 『リトライ』の意味って at 1995/11/2
「お、おい! ちょっと待てって、ロコ!」
一同が
「ま――待てよ!」
いらだちが高まって、だっ、と一足飛びに追いつきロコの肩を掴んだ。
するとロコは、ぎろり、と非難がましい目で僕の手を睨みつける。
「……何? 痛いんだけど?」
「あっ……ご、ごめん……。い、いやいやいや! ロコ! あんな言い方ってないだろ!?」
「だったら何?」
「う………………」
ただでさえキツイ顔立ちのロコが真剣で冗談のカケラも入り込む余地のない顔をしていて、反射的に僕は
気持ちだけで言葉が思うように出てこない僕を冷ややかな視線で眺め、ロコが告げる。
「ホントのことを言っただけじゃん。どんなキレイごと言ったって、事実でしょ? 違う?」
「それでもっ! それでも、ハカセや佐倉君は、一生懸命チカラになってくれてるじゃないか」
「はぁ……それが困るんだって」
「?」
僕の手はもう肩から離れていたけれど、とりあえずハナシをする気にはなってくれたようで、ロコは溜息とともに振り返り、握った拳を腰に添えると、きっぱりと僕に向けて言い放った。
「出来の良くないあたしなんかの面倒見てるせいで、ハカセもかえでちゃんも自分の勉強がちゃんとできてないじゃんか。そんなの困るんだよ。ただの足手まといなんてまっぴらごめん」
「で、でも二人だって言ってたろ? 誰かに教えるのも理解を深めるにはいい勉強法だって」
「……冗談でしょ? あんな初級の問題、二人ともとっくに理解してる。馬鹿にしてんの?」
「ばっ! 馬鹿になんて、してないって……! そうじゃ……そうじゃなくってさ……!」
突然のロコのココロ変わりが僕にはまるで理解できなくって、ロコが一体何を考えているのかわからなくって。どうしたらいいのか、僕にはうまいアイディアが浮かんでこなくって。
とっさに出てきたのは――。
「こっ! このままだと、また同じような未来で、同じような結婚をして、そして――!!」
口に出してしまってから、はっ、と後悔の念が脳裏をよぎる。僕を見つめる――いや、刺すように睨みつけるロコの表情には、嫌悪の感情が混じっていた。
「……何が言いたいの? ねえ、言ってみなさいよ、ケンタ?」
「い、いや……今のは……。違う、違うんだって! 僕が本当に言いたかったのは――!」
「ホントかどうかなんて関係ない。ココロのどこかでそう思ってた、ってことじゃん。違う?」
僕は――何も言えなかった。
「同じような未来? 同じような人生? はン、そんなわけないじゃん。忘れたの、ケンタ?」
ロコはわずかに目を細め、馬鹿にしたように口端を引き上げて言った。
「あたしたちは『未来』を知ってる。何を選べば失敗するのか、それを学んでる。それと同時に……誰が幸せな人生を歩んで、
「けど――!」
「けど、何?」
僕は――何も言えない。
その、長くて重苦しい沈黙を破ったのはロコだった。
困ったように笑って僕に言った。
「……ごめん。言いすぎちゃったみたい。……でもさ? なんのための『リトライ』なのか、ちゃんと考えた方がいいよ、ケンタ。……みんなには謝っといて。今までどおりに戻るから」
「ロコ……」
そしてロコは、二度と振り返ることなく去っていったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます