第301話 かげろうのごとく at 1995/10/28
『ずいぶんと、まあ、遅い時間の開催になったじゃないか? 何か不都合でもあったのかね?』
「ケンタが、どうしても外せない用事があるから、って言ったからさ? で、なんだったの?」
「――!? うっ! げほってげほっ……!」
「……なんでそんなに動揺してんのよ……ほら! ほら! ……どう? 少しは楽になった?」
「サ、サンキュー、ロコ。い、いや、慌てて麦茶飲んじゃって。き、気管に入っちゃった……」
本日に限っては夜中の一〇:〇〇から開始となった『リトライ者』定例会議。
早速二人からカマをかけられてしまった――まあ、当然か――僕は、不意を突かれて慌てに慌てまくってしまった。ぜろぜろと死にかけくたばりかけの音を立てながらもなんとか肺に息を吸い込み、また吐きつつ、極力平静を装う僕である。
「なーに慌ててんだか……。で? さっきのコトセのハナシに戻るけど、なんだってのさ?」
『おいおいおい。ちゃんと聞いていたのか? 私が言いたいのはだな――?』
「ど、どうして……僕とロコの『リトライ』が……一年で終わると知っているか……だろ?」
とりわけ、今日一日の鮮やかな思い出の余韻のせいで、ぽやーっとふわふわ気分で頭が働いていなさそうな僕だったが、今繰り広げられている会話ならきちんと耳に入っていた。
そもそも疑問だったのだ。
なぜ、途中で『リトライ』をリタイヤしてしまう水無月さん、いや、『時巫女・セツナ』=コトセが、僕とロコの『リトライ』はこの一年間で終わる、と断言できたのか、をだ。自分たちの意思でコントロールしている現象ではないと言っていたし、カノジョたちはその時すでに現世を去っているはずなのだ。実体験ではない、ということは誰の目にも明らかである。
『時巫女・セツナ』=コトセは僕の言葉を後押しするように深くうなずき、こう答えた。
『それはだな? この私がそうだと知っているからだ。そういう能力があるからだ』
「おいおいおい……なんともご都合主義な展開だな?」
『なんとでも言え。そうだとしか説明できない。信じられなかろうがしったことではないさ』
「疑っているわけじゃないんだけどね……なんというか――」
「そっか、いつもその瞬間には立ち会えないんだもんね……」
『より正確に言うならば、なんとなくその場には漂っているんだがな』
「それって……幽霊……ってこと?」
ごくり、と唾を飲み、ロコは緊張のあまり怖い表情を浮かべてみせた。
僕はにやりと笑う。
「はははっ。ロコって、昔っから得体のしれないモンにはからきし弱いからなぁ」
「う、うっさい! 触れないし、言葉も通じないなんて、そんなの怖いに決まってるじゃん!」
『そういった霊的な類かどうかはわからないがね。残留思念、といったことろだろうか』
『時巫女・セツナ』=コトセは一旦言葉を切ると、少し考えを整理するかのように考え込んだ。
『概念としては、夢、に近いものだな。ただ見せられている。カラダは言うことをきかないし、介入したり干渉できるわけでもない。ただ頭の中で、カウントダウンが続いている感覚だ』
「その間、水無月さ――琴世ちゃんの方は?」
『……存在を感じない。もしかするといるにはいるのかもしれないが、何ひとつ反応しない』
「なるほど、ね」
僕の中に、先日の『月夜の
それは、この『リトライ』そのものを引き起こしているのが、当初の推測どおり『時巫女・セツナ』=コトセなのだ、というものだ。
カノジョは『水無月琴世の死』を受け入れることができず、それを拒絶し、『リトライ』することを望んだ。よりよいエンディング・ルートに巡り合うため、何度でもやり直すためにだ。カノジョの悪意あるなしはあまり関係がない。元々無意識下に発動する能力なのかもしれない。
だが、この仮説において、明確に一点矛盾するところがあるのだ。
(もし、ツッキーが一年間を生き延びることになって、『リトライ』が終わってしまえば……)
そう、それだ。
(ツッキーの『リトライアイテム』であるお前は消えちまうんだぞ? わかってるのかよ……)
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