第193話 夏の、祭の夜に(2) at 1995/8/27
僕は膝下を外してハーフスタイルにしたトレッキングパンツのポケットからスマホを取り出すと、まだ光ったままのスクリーンを見つめた。
『分岐点が現れました』
(やっぱりだ……でも、過去にこんな体験なんてしてない、してないっていうのに……!)
僕は震える指先で、前回と同じ操作をする。
そして、やがて現れたのは――。
『過去あなたの行動:読み込みエラー』
(くっそ、またこれか! 一体これから何が起こるっていうんだ――僕に……僕たちに!?)
僕はまたしても訪れた『未来の見えない瞬間』に焦りを隠せず、咲都子の隣であどけなく笑う水無月さんの様子を
(く……っ! いっそ、助けてくれ! チカラを貸してくれ! って言ったら……無理か……)
みんなのいる前で、ましてや、まったくそんなそぶりのカケラもない水無月さんを掴まえて、お前が『
(もう私たちには未来を変えることができないらしい。変えることができるのは、お前だけだ)
(そう……僕だけだ……。この僕だけなんだ……!)
僕は『電算論理研究部』の仲間たちに悟られないように、あたりに油断なく視線を向ける。
(なんだ……一体これから何がはじまるっていうんだ! もしかして、僕たちの誰かが……!)
『中央公園』の正面入り口から祭の会場へと進んで行く人の群れは、徐々に多くなっていく。皆、一様に楽しそうな笑顔で溢れている。何も――何も知らず、ただただ楽しそうな笑顔で。
その中に。
僕の視界の端の方に、かすかに、ほんの一瞬、青白い輝きがかすめた。
(あれって……!?)
とっさに僕の脳裏に浮かんだのは、あいつの困ったような笑顔――。
(でも、あの髪飾りはただのオモチャで、光る仕組みなんてなかったはず……いや、きっと!)
次の瞬間、僕の足は迷いもなく駆け出していた。
「あ! モ、モリケン!? ど、どこ行くの!?」
「ごめん、シブチン! 僕、追い駆けないと!!」
突然のことに泡を喰った渋田の呼びかけに短くそれだけを伝えると、僕は青白い光があったはずの方向へと全力で走っていく。のんびりとした祭会場の参加者たちが何事かと仰天するが、そんなこともまるでお構いなしに僕は人波をかきわけるようにしてただ前へと走っていく。
(今……今ここで掴まえないと……! あいつがどこかに行ってしまいそうな気がして……!)
どん――誰かのカラダをよけきれず、罵声が浴びせられた。僕はまともに振り返ることすらできず、ほとんど口先だけでもごもごと謝罪らしき言葉を垂れ流しながら、なおも走り続ける。
(はぁ……はぁ……! どっちだ……!? どっちに行ったんだ……!?)
けれども、追いかければ追いかけるほど、闇夜を泳ぐ青白い蝶のような輝きは焦る僕を嘲笑うかのように遠ざかり、人影から人影へ、ひらひらふわふわと飛び去っていってしまう。
どうしても。
追いつけない。
あの青白い蝶にも。
そして、僕の本当の気持ちにも――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます