第162話 僕らの『がっしゅく!』最終日(3) at 1995/7/30
『次は――町田に停まります。急行新宿ゆきの待ち合わせを――』
まもなく到着の車内アナウンスが流れる頃には、僕と五十嵐君は元いた場所に戻っていた。
「ほら、みんな起きてくれー。乗り過ごしちゃうぞー。スミちゃんも、ほら、起きてよ」
「――!? あ、あたし、もしかして……寝ちゃってた?」
「僕のリュックサックの上で、幸せそうな顔して寝てたよ。だから、起こさなかったんだ」
「へ、変なこと……言ってなかった? よね?」
「うーん、特にはなんにも……。ん? でも、なんでそんなこと聞くの、スミちゃん?」
ぽかぽか。むー!
ふくれ顔で叩かれるのもだんだん慣れてきたなぁ、僕。耐性ついた?
神奈川県との県境でもある
ぷしゅーっ。
「降りるよー!」
「急げ急げ!」
乗り込もうとする人たちにぺこぺこ頭を下げながら、やたら大荷物を抱えた僕らはホームへと無事降り立った。ふぅ、と誰の口からともない安堵の息が漏れ出て、思わず顔を見合わせていた。
「いやぁ、ホント楽しかったよね、モリケン!」
「ですねっ!」
口々に笑顔で言い合うみんなをよそに、僕は真面目ぶった顔付きをしてみせる。
「とか言ってる場合でもないぜ? 文化祭の準備は、ようやくこれからスタートなんだから」
「うげ……そうだった」
舌を突き出し、学年トップの美少女らしからぬ顔をしてうめいてみせたのはロコだ。
「でもさー? あたしとかはメインの部活もあるんだから、そんなに毎日毎日は参加できないんだよ? 本当に間に合うの、部長さん?」
「大丈夫さ。ちゃんと昨日の夜、やることの整理と役割分担もしたろ? でもまずはだな――」
ホームからの長い階段を下りた僕は、改札口の向こう側を指さして、にやり、と笑った。
「顧問の先生に合宿の報告と、これからの計画の説明と予算確保をしなきゃいけない。だろ?」
みんなが見つめるその先には――。
「ははは。みなさん、無事に帰ってきましたねぇ。どうです? 合宿は楽しめましたか?」
「お、
忙しく行き交う人並の中に、にこにこと笑っている荻島センセイの姿があったのである。当然のように安定の白衣姿でだ。しかし、あの姿、いやでも目立つという自覚はあるのだろうか。
「事前に古ノ森君から旅程表はもらっていましたからね。車で来ていますから、送りましょう」
「え! マジで荻島センセー、全員の家まで送ってくれるの!? やっさしーじゃん!」
「ははは。それはどうでしょうねぇ」
荻島センセイの愛車は、一〇人乗りのかなり大きめな白いワンボックスカーだ。駅の横の坂道でハザードランプを点滅させている車まで、最後のチカラを振り絞って荷物を運ぶ僕たち。定員より少ない部員八名とは言いながらも、荷物まで積み込んだらたちまち満杯になってしまった。
「はいはい。では、いきましょうかねぇ」
「……ん? 誰の家からーとかないの? 順番決めなくて大丈夫なの、荻島センセー?」
「んー、何を言ってるんですか、上ノ原さん。これから行くところなら決まっているでしょう」
ウインカーを出し、舵を切るように大きくハンドルを回しながら、荻島センセイは笑った。
「学校に帰るまでが、合宿旅行、です。なにしろ私、顧問ですからねぇ。ははは!」
「……へ? い――いやぁあああああ! 降ろしてぇえええええ!」
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