第159話 インタールードⅢ at 1995/7/29
『……なぜお前は、そうまでして皿洗いがしたいのだ? 理解ができない……』
「っていうか、どうして皿洗いをしてるってわかるんだよ?」
『ハハハ。もちろん見張っているからな。お前がそのスマホを持っている限り、特定ができる』
「……軍用の衛星まで、好き勝手にハッキングができる、とでも言うつもりなのかよ?」
『ハハハ。むろん、冗談さ。タチの悪い冗談だよ、古ノ森健太。そう怒るな』
じゃあ、どうやって? という問いは、あえてしなかった。どうせはぐらかされるに決まっている。僕は溜息を押し殺し、最後の一枚の皿の水気をふき取り、食器立てにそっと並べた。
そうしてから、ぼんやりとテラスを照らす
「でもさ……。お前の狙いなんて、正直に言って、もうどうでもいいんだ。……感謝してる」
『おいおいおい――』
「なにも私がやったわけではない、そう言うんだろ? それも大方予想がついてるよ、僕は」
この中学二年生の一年間のやり直し、『リトライ』は、時巫女・セツナが仕組んだものではない。それは、彼女もまた、僕と同じ『リトライ者』である、と知った時点で確信していた。
「僕とお前は『運命共同体』……そう言ったよな? つまり、僕が変えることに意味がある」
時巫女・セツナはこたえなかった。
こたえられなかった、というべきか。
「誰が仕組んだか? それだって、もうどうでもいいのさ。それよりもっと大切なことは――」
僕はエプロンをほどき、ふきんと一緒にキッチンの台の上に置いた。
「僕は歴史を、運命を変えなきゃいけない。自分のために。そして……君のためにも。だろ?」
『………………ああ。そういうことだ、古ノ森健太』
そのセリフは、まるですぐそばに時巫女・セツナがいるかのように響いた。
僕は意を決して振り返る。
が――。
「え……? そこで何してるの、スミちゃん……?」
――違う。
そうじゃないはずだ。
僕は薄暗闇の中に目をこらすようにその姿を見つめた。
すると、純美子は囁くように言った。
「今……誰かと話してなかった、ケンタ君?」
「い、いやいやいや。気のせい……じゃないかな?」
「そっか……そんな気がしたんだけど……」
すうっ、と滑るように純美子が近づいて、ふわり、とシャンプーの香りが鼻先をくすぐった。男女別々の部屋で寝泊まりしていたから知らなかったけれど、白くて大きめのパジャマ姿の純美子は、あまりにも無防備で、今にも壊れてしまいそうで、近づくことすら僕にはできない。
「……ね? ケンタ君?」
「ん?」
「あたし、ケンタ君に伝えたいことがあるの。どうしても」
だが純美子は、恐れおののくばかりの僕の胸にそっとカラダを寄せると、こう言った。
「やっと言える……。やっと言えるの。あたし、ケンタ君のことが……。ねえ、抱いて……?」
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