第155話 僕らの『がっしゅく!』三日目(5) at 1995/7/29
『次は「
しまった!
ぼんやりしているうちに、窓からの日差しでついうとうとしてたらしい。急いで車幅いっぱいの長い座席の反対側を見ると、ロコも似たようなリアクションで慌てている。
みーっ!
『――次、停まります』
そして、そのまま大急ぎでロコが降車ボタンを背伸びをするようにして押した。
「ふぅ……あ、危なかったわね……」
「うん……居眠りしちゃってたよ、僕」
そう気恥ずかしそうに告白してから、笑い顔を向け合って――ああ、そうだった!
「ふ……ふんっ!」
「ふ……ふんっ!」
僕らは同じ過ちを犯したことで共通意識を持ってしまっていたのだ。いやいや、喧嘩中だろ。
「……だっ! だいたい! リーダーのくせに居眠りするとか。ホント、責任感ってないの?」
「そっ! そっちだって! バスに乗る前からプリプリ怒っててさ! 子供じゃないんだから」
「なによ!?」
「なんだよ!?」
ロコは腰に両手を置き、挑むように上半身を折って睨みつけてくる。僕もまけじと睨み返す。
その時だった。
「あの……お取込み中失礼ですけど、お二人は、忍野八海見学にいらっしゃったんですよね?」
「はぁ? なによ、それ!?」
「ひっ――!」
ほぼ条件反射でロコが噛みつくように尋ね返すと、見知らぬバスガイドさんはたちまち涙目になった。
「せ、せっかくいらしたんですからぁ、ここはひとつ仲直りされてぇ、見学されてみてはどうかと……。『忍野八海』は、富士の伏流水に水源を発する湧水池で、とてもキレイでステキなんですよぅ」
「はぁ……。でも、なんでそれを僕たちに?」
「今回の『富士絶景巡り』に参加されている方……ですよね? みなさん、もう先に進まれてますので!」
ははぁん。この新人っぽいバスガイドのお姉さん、どうやら僕とロコをツアー参加客と勘違いしているらしい。僕は愛想笑いを浮かべながら、お姉さんの間違いを正そうとしたのだが、
「あ! そうなんですね、すみません! け、喧嘩っていっても、ぜんっぜんマジな奴とかじゃないんで! ほらほら! もう仲直りしますし、してますから! ねー! ケンタくーん?」
急に声のトーンを跳ね上げたかと思うと、今まで見たことも聞いたこともない女の子女の子した仕草でロコは弁解しはじめ、なんの前触れもなく僕に飛びつくように抱きついてきた。お、重い。
(ちょ! お、おま! むむむむねが! く、苦し……)
(……しーっ! ちょっと黙ってなさいよ、馬鹿ケンタ)
ロコは余計な発言を阻止するべく、僕の頭を胸の谷間にひしと抱きしめたままお姉さんに尋ねる。
「でもぉー……。入るにはー、別にチケットとかがー必要なんですよねー?」
「あ! 大丈夫です! それ、ツアー料金に含まれてますから! そのまま入ってください!」
(……よっし! このまま入っちゃおうよ、ケンタ。勘違いしたのは向こうが悪いんだしー)
(おっ前……悪い奴だなー? このお姉さん、あとできっと怒られちゃうんじゃないのか?)
(なにか渡すわけじゃないみたいだし、人数なんてきっちり数えてないって。ほら、行くよ)
「じ、じゃあー、早速仲直りもしましたしー、もーらぶらぶなんでー、見学してきまーす!」
「はい! ごゆっくり見学ください! あ! バスへの集合時間は――!」
まだガイドのお姉さんは話し続けていたが、駆け出したロコはもはや聞く耳を持っていなかった。
「ラッキーだったじゃん、ケンタ! ほーら、いつまでもぶすーっとしてないで行くわよっ!」
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