第153話 僕らの『がっしゅく!』三日目(3) at 1995/7/29
「ふう……。とりあえず、こんな形で行こうと思うんだけど……。どうかな、みんなは?」
書きに書きつくした表面を裏返して現れた真っさらなホワイトボードに、文化祭の出し物の最終版の概要を書き上げた僕。わずかに浮いた汗をぬぐい、一息ついて後ろを振り返ってみると――はははっ、返事は聞かなくても大丈夫そうだな。
「じゃあ、僕はこれを整理して、生徒会提出用の資料を作るよ。夜にもう一回会議して、その時に各部門の作業担当とサポートを決めよう。夏休みの間も、できるところは進めたいからね」
そう言い終えた僕は、ホワイトボードから一歩離れて、あらためて僕ら『電算論理研究部』の文化祭の出し物の最終案を眺めてみる。うん、これはきっとみんなに楽しんでもらえるぞ。僕は誰にも見えないのをいいことにポケットからスマホを取り出すと、遠慮のカケラもなくライトを自動点灯させてホワイトボード上の完成予想図を写真に収めておいた。文明様様だ。
「よし。……で、だ」
手についたマーカーかすを払うようにぱんぱんと打ち鳴らしてから僕はみんなに笑いかけた。
「みんなのおかげで予定より早めにまとまったから、あとは夜の会議までは息抜きタイムだ!」
「じゃー、これ。作っといたよー」
合図とともに、咲都子が数本の竹串が入った紙筒を差し出した。本数は六本。二本ずつ同じ色に塗り分けてあるので、三組のペアができるわけだ。草むしり、夕飯の買い物と準備、夜のイベント用の買い出し、それぞれの担当をくじ引き一発勝負で決めようってことなのである。
「はーい、みんなー集まってー」
「えー……どれにしよう……かな?」
「いやいや。モリケンさ、これ、もし男同士のペアになったら……」
「アリなんじゃないの? ぜひ草むしりとかお願いしたいわー」
「あたしは残ったのでいいから。……だーかーらー! 残ったのでいいってば!」
「うわぁ……どきどきしちゃいますよぅ。じゃあ……これで!」
とりあえず全員を引いた――ロコは最後まで粘ったので紙筒ごと渡した――のだけれど、よく考えたら、どの色がどの担当だとかまで決めてなかった。咲都子も色を塗っただけだという。
「ごめん、ハカセ。赤、青、緑の三色で、どれがどの担当か決めてくれないかな?」
「ええ。お任せください」
五十嵐君と水無月さんはくじ引きには参加していないのだけれど、突然のお願いに嫌な顔をするどころか、むしろ仲間に入れてもらえて喜んでいるように見えた。ふむ、と
「では、ここは順当に、赤・草むしり担当、青・夕食の買い物と準備担当、緑・夜イベント用買い出し担当、としましょうか? 覚悟はよろしいですね? はい、手元で確認してください」
次の瞬間――。
「ひぃいいい! ヤな予感したんだよ! 赤じゃん、僕ぅー!」
「あ……あははは……。渋田サブリーダーと一緒ですね。僕も、赤、引いちゃいました……」
「い――いやいやいや! 僕は! 草むしり! すっごくやりたかったんだ! やったー!」
草むしり担当は、渋田と佐倉君だ。
ただ……渋田には隠れ「かえでちゃんFC」の嫌疑がかかっている。しっかりと見張らねば。
「おっと。あたし青だわ。料理かー……何度やってもうまくいかないんだよねー……マジかー」
「あ! サトちゃんと一緒だー! 大丈夫! スミが教えてあげるから、一緒にがんばろっ!」
夕食の買い物と準備担当は、咲都子と純美子だ。
咲都子に若干の不安要素があるものの、スミちゃんは料理も上手だから心配ないだろう。
そして――。
「じゃあ、僕は緑っと。……ん? ってことは?」
「……なによ? 残ってるのはあたししかいないじゃない。あらもしかして、ご・不・満・?」
そう。
夜イベント用買い出し担当は、僕とロコの幼馴染兼師弟コンビになったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます