第128話 月曜日は嫌い at 1995/7/17
(おはよう、ケンタ君!)
(おはよう、スミちゃん)
そんな今までの日々だったらごく普通の、ごく当たり前に交わしていたやりとりもなく、僕はいつもよりかなり遅めの、一時間目ぎりぎりの時刻に登校すると無言のまま席に着いた。
「……」
極力純美子の方を見ないように、意識しないように、と思いながらカバンに手を差し入れ一時間目の準備をはじめるが――教壇へと視線を向ければ、否が応にも視界の隅に映ってしまう。
(この状態のまま、金曜日の終業式までなんて……あと五日もあるのか……)
……はぁ。
これじゃあ、地獄に堕ちた方が数倍マシだ。
今すぐ水泡のように
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
もうすぐ二時間目の『英語』の授業が終わろうかというタイミングだった。
――かさり。
突如右手の先に触れたモノの感覚に、思わず僕は、はっ、とカラダをこわばらせた。単純で反射的な驚きからではない。今、自分の手の中に渡されたものが一体何か、気づいてしまったからこその驚きだった。こわごわ視線を徐々に移動させて、わずかに握った拳をゆっくり開く。
ていねいに折り畳まれたメモがそこにはあった。
懐かしく、見るだけで暖かな記憶を呼び起こす、手紙の形を模した純美子からのメモだった。刹那、潤みそうになる瞳に、ぎゅっ、とチカラを込めてなんとか堪えると、なぜかを問おうとして僕は純美子の横顔を盗み見た。
「――!」
しかし、素早くそれを察知した純美子は、急いで僕とは反対の方向に顔をそらせてしまう。
(一体なんで……? い、いや、まずは中を見てみないと……)
僕は授業そっちのけで手元に視線を落とす。開けようとするが、手が震えていてうまくいかない。ようやっと元の一枚の紙の状態にまで戻すことに成功すると、そこには――。
『このあとの休み時間に、二人きりでお話がしたいです。一階の視聴覚室の前で。 純美子』
(………………!)
再び、ばっ、と顔を上げて純美子の方に視線を向けたが、一向に僕の方を見ようともしない。
(どういうつもりなんだ、スミちゃんは……? いまさらなんで……?)
考えを巡らせる余裕もなく、無情にも終業のベルは鳴り響いた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
二時間目と三時間目の間の休み時間は『長休み』と呼ばれていて、他の休み時間より五分長い。
変わらず僕の方には視線を向けずに席を立とうする純美子に続いて僕が腰を浮かせかけると、僕らの前にロコが行く手を塞ぐように立っていた。その表情はひどくこわばっていて堅い。
「……話しがあるんだけど、スミ」
「えっと……。ごめん。あとにしてくれない?」
「後回しになんて……できない。今すぐに――」
それ以上、ロコは言葉を続けることはできなかった。
なぜなら――。
「………………悪い。先約は僕だ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます