第49話 その8「好きな子を仲間に誘おう」 at 1995/5/2
早速我らが『電算論理研究部』の活動開始!
……といきたかったところだけど、僕らはまだ最初のハードルすら越えていなかった。
夏休み前までにあと三人の部員を集めなければ、これだけの後ろ押しがあったとしても部として認められず廃部になってしまう。だからこそ、何としても新入部員を獲得しないとダメだ。
そのタイミングで、親睦を深めるにはうってつけの校内行事があることを朝のHRで知った。
校外活動、いわゆる遠足である。
「ねー、モリケン? 鎌倉って飽きない? 僕、小学校の時も行ったんだけど……何回目?」
「確かに、あたしたちも何回か行ってるわね。ね? スミ?」
「……ふぇ? あ、あ! う、うん! そうだったねー!」
「僕は懐かしいけどね。それに今回は、センセイに引率されて行くわけじゃなく班行動だし」
思わず『懐かしい』と口にしたものだから、三人は不思議そうな表情を浮かべていた。四〇歳の僕にとっては、実に二〇年ぶりとなる鎌倉旅行である。ずいぶん変わったろうなあ、と思いかけたところで、ここは過去の世界なのだと改めて思い出し、忍び笑いを漏らしてしまった。
それにしても、今日の純美子はなんだかそわそわとして落ち着きがないように見える。心ここにあらず、といった風情で、ときおりぼーっとしていて咲都子に怒られている有様だ。
「えっと……だ、大丈夫、スミちゃん? なにか考え事でもあるのかな?」
「ふ、ふぇえっ! だ、大丈夫だってば! な、なんでもないからっ!」
大丈夫には見えないんだけど。
「そ、それよりもっ! ケ、ケンタは誰と班を組むつもり?」
「ん? それはもちろん、スミちゃんに決まってるじゃんか」
「ホ、ホント!? 嬉し――!!」
「で……あとシブチンとガタさんでしょ? この四人は決定だよねー」
ぎゅむっ――いっ、痛ぁあああああっ!!
「な、なんで僕、足踏まれたの……? しかも、小指だけピンポイントに全力で……?」
「あんたバカぁ?」
「残念な奴だよね」
なんで純美子はフグみたいにふくれっ面してるし、渋田と咲都子は呆れた顔してるんだよぉ。
ともかく、とりあえず四人は集まったものの、荻島センセイからもらってきたプリントをみると『なるべく一班あたり六人から八人で調整するように』と書いてあった。班決めでガヤついている教室をぐるりと眺めてみたところ――ほぼ中央あたりで例の二大勢力がメンツの取り合いで互いに競い合っている雰囲気が感じ取れた。やれやれ、また面倒臭いことになりそうだ。
「おい、ムロ! モモもいるんだから、ロコはこっちの班だぞ!? 手ぇ出してくんなよ!」
「そうは言うけどさ。そっち、女子ばっかでズルくないか? バランス悪いぞー、ダッチ!」
「いいんだよ。俺様ハーレムなんだからよ! うひひ!」
「ふざけんなって。ほら、女子たちも嫌がってるだろ?」
小山田と室生が激しい舌戦を繰り広げている中、当の女子たち――広子や桃月たちイケ女グループは、低レベルな争いにすっかり呆れ果ててしまっている様子で、一歩離れたところから腕組みをしたまま醒めた目で傍観している。こんな騒動のさなかに、あと二人確保するのか。
お――そうだ。
ふと思いついて、教室の隅の方に目を向けると、こういったグループ決めには決まって消極的な姿勢になってしまう控えめな性格の生徒たちが、一定の距離を置くようにして、ポツリ、ポツリ、と立っていた。その中には、部活動に所属していないことが判明した、佐倉君と五十嵐君の姿も含まれていた。この校外活動で親睦を深めれば、入部してくれるかもしれない。
佐倉君と五十嵐君か……考えてみれば、ほとんど交流がない二人だ。
直接話してみるか。
「ちょっと僕、勧誘してくるよ。あと二人」
他の三人をその場に残して立ち上がると、僕は早速行動を開始した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます