藪萱草に絆されて

瑠璃山遥樹

第1話

 マルコは、がぶり一口、飲み込んだ。

 コーナにそれの答えを聞いたけれど、答えてくれなくて、それでひどくおちこんでしまって、だから酒と友達になりたくて、がぶりをまる二日、くり返している。悲しみと水分-マルコの父親に言わせれば、人生における一番の友達-こいつらを一緒に、なんべんか吐き出しているのだが、どうやら悲しいままで、何も変わらないみたいだった。

 悲しみと酩酊で、頭はとっくに働くのを諦めていた。


 おっと彼が、マルコがもうあとニ、三秒で寝てしまいそうだから、彼の代わりに、私がマルコの話をしよう。ああ、こう言っている間にもう彼は、マルコは寝てしまって、ずきんずきんする頭から解き放たれたみたいだ。


 アグネスが死んで、もう二日か三日か四日かそのまた或いは何日か。

彼はその悲劇が起きてからずっと、考えて、がっかり。考えて、がっかり。また考えて、がっかり。またまた考え、がっかり。それを延々繰り返して、マルコはもう、このまま一生がっかりするしかないんだ、と、また殊更にがっかりと、くらーい気持ちに溺れている。


 彼はニ歳の頃、この町に越してきた。向こうみずな気性の父親と、口うるさい母親と一緒に、両親の永年の夢だった肉屋をやるため越してきた。銀行が根負けして、やっと貸してくれた金で開いた肉屋だ。毎日酒を呑み、近所中に響き渡る大ドラ声で何やらかんやら喚きまくるという噂の大男が営む、ごちんまりとした、しかし拘りと趣のある店だった。

 ただ、ものすごい強面、しかも肩幅は広くがっしりした体つきとあって、父親は街の人にびくびくされていた。父親の所為だろうか、マルコは小さい頃から友達が少ない。


 マルコの名前を正式に言うと、マルコ・アルバート・ジャーノン。彼のお父さんは、「アルジャーノン・アルバート・ジャーノン」と言う名前にしたがったけれど、お父さんのお義父さんは、「アルジャーノンに花束を」がだいっきらいだった。そもそも、小説、と呼ばれるものはなんでもだいきらいだったけれど。それに、マルコのお母さんのお義母さんは、語呂が気に食わない、といやがった。「いい語呂じゃねぇか母さん」といつもように父親がごねたが、母親の意見は変わらなかった。だから、彼の名前は「マルコ・アルバート・ジャーノン」になった。何故マルコと名付けられたか、それはマルコの父にしか分からない。


 しかし、マルコ少年の無骨な父親は、マルコという名は使わなかった。彼の付けたかった名前で呼んだ。それが、周りの人からすれば不思議で、面白くて仕方ない。例えば、授業参観のとき、マルコが十三かける五を七十五、としたら、「おいそりゃねぇぜアルジャーノンよ。それでも俺の息子か!」と、ばかでかい声で言う。クラスメイトと周りの親どもは大笑いする。十三かける五を間違ったことでなく、父親の呼び方を嘲笑うのだ。何故息子のことをちゃんとした名前じゃなく、アルジャーノンと呼ぶのだ、と。こういう時、子供達はマルコを囃し立てる。流石に親父は怖くて馬鹿にできないので、マルコをからかうのだ。囃し立てるのには字名が要るものだ。マルコの字名は「くそったれのイカれねずみ」と決まっていた。「アルジャーノンに花束を」のアルジャーノンはいかれねずみだからだ。マルコが字名で呼ばれるたび、彼の荒くれ者の父親は顔を紅く染める。酷く憤慨するのだった。「アルジャーノンを馬鹿にしやがって、きっと許さないからな」と。


 町の住民は皆、マルコの父親、アルバート・ロフトス・ジャーノンを嘲笑っていた。かなり粗野で阿呆に見える親父。なにせ息子の名前も覚えられないらしい、と言って。でも私は全く賛成できない。マルコは、文学に理解のある、一概に良い、とも言い切れないが、まぁ悪くない親をもったものだ。少々物語の世界に浸かりすぎてはいるが。アルバートは高校に行っていたわけではない。勉強より動物を育てるのが好きだった。でも小説が大好きで、昔からこつこつ町の店の手伝いをして貰った小遣いで、少しずつ古本を買って読んでいた。

 

「ジャーノン精肉店」は、爆発的に人気、というわけでもないけど、生活に困らない程度のお金を十分得られるだけの利益を出していた。ベーコンと腸詰がとてもうまい。アルバートは、毎晩の様に自家製の腸詰を食べ、麦酒(ビール)を飲んでは、俺の腸詰はこの世で一番上等な味がするにねげぇねぇ、と豪語していた。当然、その声は辺り一帯に響き渡る。

 「将来お前は、俺を遥かに超える様な男になるにちげぇねぇ。」 

 これが、アルバートの口癖だった。マルコは豚が好きだった。豚を食べるのはもちろん、ことに世話をするのと、屠殺して挽肉にし、腸詰にするのが好きだった。五歳になってすぐ、父親の仕事を手伝い始めたから、マルコにはもう、豚について知らないことは殆どなかった。「揺り籠から墓場まで」ならぬ、「豚箱からソーセージまで」を体現するが如く、生まれてから死ぬまで、豚はずっとマルコと面付き合わせて、そして腸詰になる。十五になる頃に、マルコはもう父親よりも良い、腸詰職人になっていた。豚匠アルバートも認める、豚のゑきすぱあとである。


 手先が器用な、でも力と気が弱い男の子、というのは、どこでも決まって仲間の少年たちに小馬鹿にされるものだけれど、マルコの街もその例外でなかった。しかも、彼の母親がマルコにしっかり教え込んだから、マルコの裁縫の技術は物凄かった。その辺の女の子たちよりもずっとうまくステッチを縫ったから、学校の女先生はたまげて、「こんな裁縫の上手い男の子は、いまお目にかかったことがない。女の子だったらどこでも嫁げたのに。」とまぁ、いささか褒めてるんだか貶してるんだかわからないことを言うし、要はマルコは、ちょっと女々しくて、変わりもんだ。なんせあの親父の子供だし。少なくも周りからはそういう風に見られていた。

 



 さて、私は今まで何回、「マルコ」と思い浮かべたろう。私には分からない。大体何回かもわからない。頭にぽっかりと、ドリルで穴を空けられたみたい。少し、あたまがぼんやりしているのだ。



 そんなことはいい。マルコの話をしよう。まだまだたくさん、あれ、あった。 話したいこと、あったのだ。あった。あった筈だ。マルコ、マルコの話を。話をしたい。したい。これは、これはなんだろう。ぽっかりと、あなが...










 アグネスは、ずっとマルコと一緒だった。日曜から月曜まで、いつもマルコといっしょだった。


 おっとマルコ、マルコがお目覚めだ。彼はエタノールでぼんやり痛む、悼む頭で考える。結局何にも変わらないじゃないか、と思った。僕が酒を飲もうが飲むまいが、何も変わらないじゃあないか。そんなのどうでもよかった。アグネスはいないのだ。感傷感染症にだだびたりながら、悲劇の主人公を演じていたかった。僕はこの世でだんとつにふしあわせな十七歳にちがいない、そうだと想い至って、結局アルコールとの親睦を深めることにするのであった。眠い。




 さて、アルバート、マルコの父親は、喧嘩っ早い子供時代を経て、まあまあ豪胆で豪快な父親になっていたから、私はマルコのことを心配していない。直ぐ父親に励まされ、元気を取り戻すだろう。その街では珍く、アルバートは一切の煙草をやらなかった。それが有り難くて仕方のないことだった。

 そういえば、何故私はアルバートを知っているのだろう。彼と私はいつどこでどのようにどんなきもちのときにであったんだろうか。

 






 わからない、






 わからなかった。




 先頃からマルコを見ているけれど、この悲しさはどこから来るんだろう。

何故私は、ここでマルコを見ているんだろう。このなんとも言えない倦怠感、そして暖かいきもちはどこからだろう。


   






 それもわからなかった。








  コーナがドアをこつりと拳骨している音が聞こえる。アルジャーノンは、いや、聞こえないふりなのか、反応がない。小太りくんが突入してきて、アルジャーノンは肩を叩かれ起きた。

 ひどい顔をしているね、と愛らしい丸顔が困っていた。コーナは人を気遣う青年だった。


 黙っててくれ。とマルコは幾分かの、ぴんと張った沈黙の後に吐き出す。僕の頭は一切の思考を拒絶しているし、鼓膜は合切の音を拒んでいるし、君の顔なんて見たくもない、と僕の目は言っているときてるんだ、と。

 コーナは顔をさらに憂そうにして、また寝始めたマルコのことを見つめながら、紙煙草に火をつけた。太陽の光が、逃げるみたいにして面積を減らしている。


 それから二、三時間が経って、でもコーナはまだマルコを見つめている。ゆっくりと四本目を吐き出して、マルコが顔を上げるのを見た。外はとっくに暗い。

 「気分はどうだい?」

 と訊くと、

「まだいるのかコーナ」

 と、呆れたような嬉しいような声でマルコは返事をした。

「幸いちょっとはましになったよ。」

 そいつはよかった。とコーナは、優しい、そしてまた少し憂い目でマルコの背を見つめていた。明かりが灯って、何時間かぶりにマルコの部屋に光が広がる。

 

 コーナは口数こそ少ないが、根の綺麗な人だ。コーナの言葉一つを聞くたび、マルコは気持ちが和らぐのを感じていた。その度私の気持ちも身体も軽くなった。

 しかし、頭は重くなる一方だった。

 それから、マルコについていたでかくて濃い染みはコーナが漂白剤みたいに薄くしてくれた。 だからもう、悲染みはほとんど見えない。あれから二週間くらいたって、マルコはあることを始めていた。


 こつりと拳骨、コーナがやってきた。

 「やぁコーナ。」

 マルコは微笑んでいる。部屋の戸を開けたコーナに挨拶した。

 「随分元気になったじゃないか。」

 優しいコーナの声。

 「そうなんだ。」

 「酒はやめたのかい?」 

 安心したような、コーナの声。

 「ああ、君のおかげで。」

 「そうか、ところでなにを書いているんだい?」

  マルコの机の上には紙とインク壺、羽根ペンがあって、マルコはその机に覆い被さっていた。

 「うん、小説を書いてみることにしたよ。」とマルコ。

 「へぇ、どういう話にするんだい?」

 「アグネス。」

 「そうか。」

 

 間隙。優しい表情。


 「うん、書ける気がしてるんだ。」

 そうか。そうなんだ。

 マルコはまた、哀愁風味に笑んだ。コーナはその笑みに、アグネスがまだ抜けきっていないのと、しかしそれを乗り越えようとしかかっていること、それを読み取った。








 ところで、アグネスが、だれか、マルコのなんだったか、はさっぱり、きれいにわからない。

















 それから一、二ヶ月、マルコは言葉を探し続けて、そして遂に話を書き終えた。ありとあらゆる(アグネスに対する)感情を吐き出して、原稿を墓に埋め込んだ。何組か書き写して出版社に送ったけれど、返事はまだない。


 私は自分が誰なのか、自分はアルバートのなんなのか、なぜここにいるのか、マルコの背を見ながら考え続けた。

 掴めたのなら、それならよかった。でも、考えるほどに、答えを捉えようとする度に、頭は酷くぼんやりとして、ストライキをしてしまう。


 ただ、ここには悲しみがあって、私もどことなく悲しい、それだけがはっきりしている。



 階段を気をつけながら登る。これを一日三回、ここ一、二カ月欠かさず続けている。盆の上の腸詰とコーヒーと小麦の塊は良い匂いだった。夕暮れの六時、腹ごしらえの時間だ。アルジャーノンはもう、アグネスを失った悲しみから抜け出しつつあった。

 

 マルコ、と綴られたドアを叩いて、飯だ。と声をかけた。


 がちゃんと空いて、息子はありがとう、と微笑う。二作目の書き物も順調みたいだ。きっと良い話を書いてるんだろう。

 床に座りこんで、話をしながら飯を食った。アルジャーノンは、ちょうど彼の机がある、その反対側の壁にかかるお手製シャツを見上げる。そして呟く。



 部屋はまたコーヒーの匂いに包まれていて、私は穏やかな気持ちで目をあけた。最近、長く起きていられなくなっている。眠い頭では、というか、どうやっても私がなんなのかなんて結局そもそもわからないじゃないか、ということになっていた。

 

 刹那、突如茜が刺した。窓から照らされ、寝起きの眼に二人の顔がしっかり見える。

 その時浮かぶ愛おしさみたいな何か、それも私は掴めない。

 つかめなかった。

 でも激情は降ってきて、それは私の喉を詰まらせて、酷く苦しかった。なんだかお先真っ暗真っ黒最悪だ、という気分に呑み込まれて、久しぶりに涙が出た。

 いや、何も出ていないのかもしれない。ひどく視界が歪んだことだけが確かで、私はまた死んだような眠気に支配されている。そしてほんの少し、暖かい安心を伴った幸せなきぶんだった。




 

 それから、何日だろう、時間が過ぎたことと、身体はどんどん軽くなり、脳みその中身が留めなく抜けてくみたいに頭のぼんやりが酷くなっていることだけが確かだ。

 マルコはまだ二作目を書いている。コーナとアルバートに読んでもらって、高評価だったと喜んでいた。

 その姿を見ながら、哀しさと、それから愛おしさみたいな何かが一対一で混ざった、カフェオレみたいな気持ちがが訴えてきたけど、それを解釈するためには、私の思考回路は儚すぎる。



  重い足音が鳴っていて、アルバートがいつものように部屋に来る。今日はノックの音はしなかった。ノックされる前にマルコが戸を開けた。

 「どうしたんだい父さん、まだ三時過ぎ過ぎじゃないか。」

 マルコの目が丸く見開かれて、想定外への驚きを示す。

 「たまにはいいじゃないか。一休みだよ。」

 珍しいコーヒーブレイク、マルコは嬉しそうに微笑う。

 「たまにはいいか、そう言うのも。ありがとう父さん。」

 「おうよ。なぁマルコ、お前花好きか?」

 そう言ったアルバートは、鉢植えの藪萱草を差し出した。

 「×××が好きだった花じゃないか。」

 「そうよ。どうだね、これを・・・」

 

 言葉が脳みそからすり抜ける。

 藪萱草、余りにも鮮やかな橙のその色に、私は目を盗られてしまった。そして、全部絆された。

 アグネスは突然、理解した。

 自分がアグネスと呼ばれていたこと。自分が何故ここにいて、アルバートとマルコを眺め続けていたか。何故自分とマルコの目があった時、溢れんばかりの愛しさと哀しさに呑み込まれたのか。自分は、二人にとっての何なのか。


 全部わかってしまった。


 その時、今までとは比べ物にならないくらい急に、身体が軽くなった。軽くなったなんてものではない。

 宙に浮いていた。ゆっくりと、だんだん昇っていくのがわかる。


 頭は晴れた。急にわかった。一点の曇りもなく、知りたかったこと全てがはっきりした。というか、思い出したのか。


 そして何より、わかりたくなかった、と悲しくなった。ここを離れたくなかった。ずっと、愛する夫と息子の側にいたかった。


 でも、その時が来た。私はアグネスだ。マルコの母親で、アルバートの夫だ。そして二人に愛されていた。

 涙は出そうで出ない。

 

 そうか、私は亡霊だったのだ。


 マルコがシャツに刺繍した、「アグネス」の文字に縛られた、魂だった。その刺繍入りシャツは、マルコの部屋の、書き物机の反対側の壁に掛けられている。思い出せば、そう、私はこの部屋から見えるもの以外の風景は目にしていない。

 だからその場から動けなかった。

 そして、マルコが小説を書き上げ、私への執着をとても美しい、綺麗な思い出に変えた後、頭はぼんやりし、身体は軽くなった。天に近づいた。マルコはどんどん、私を必要としなくなっていったから。


 そして、マルコが完全に私を必要としなくなってからも、私はなんとかここに留まった。


 私が二人に執着していたから。いつまでも家族の側に居たいから。二人から離れるのは、とてつもなく痛いから。

 神は私の体を毎瞬上に引っ張っていて、だから身体が軽くなったんだ。脳みその中身も神様が減らして行ったに違いない。マルコが執着を薄めるたびに。私のいるべきところは、どうやらここではないらしい。

 藪萱草が全てを蘇らせた。私が好きで仕方のなかった花。花言葉は、たしか「××××」だった。

 馬鹿。アルバートの馬鹿め。忘れちゃ駄目じゃないか。私のことを一生忘れないで、死ぬ時も思い出して欲しいのに。花言葉なんか、きっと夫は気にしたこともないだろう。

 でも、私が藪萱草を気に入っていたことは、マルコもアルバートも、しっかり覚えていてくれた。


 愛しさと哀しさと、嬉しさと安心と、少しの寂しさでぐちゃぐちゃになってしまった。

 しかしもう、ここに留まる理由なんてないのだった。

 十分だった。これだけいい家族に恵まれたのだから。二人はきっと生きていく。私よりずっと長く生きて、そして死んだら、私にまっすぐ会いに来てくれるだろう。それでいい。

 

 私はもう随分高いところに居て、二人が刺繍入りのシャツを見ながら笑顔で話しているのを見下ろしていた。


 嬉しかった。最期に見れた二人が、私の話をしながら笑っていたから。

 暫く会えないだろう。だから、愛してる、と二人に声をかけた。


 その時、マルコは唐突に天井を見上げて、アルバートもそれにならった。

 「なんか、母さんの匂いがした気がする。」

 「俺もだよ。」

  アルバートは優しく笑って、二人は亡き家族に想いを馳せた。

 「そうか、父さん、この花の匂いだよ。」

 「何がだね。」

 「母さんの匂いさ。きっとこの匂いだろう。」

 「そうか、そうだな。」

 そう言って上を見た。見下ろす母と見上げる息子の目が合い、見上げる夫と見下ろす母の目が合う。そのことはアグネスにしかわからなかったが、でも、暖かい何かが自分たちを包んでいることは、親父と息子にしっかり伝わっている。

 マルコは、父親の目に煌めきが宿るのをみた。そして言う。

 「父さん泣くなよ。大丈夫、きっと今頃あっちで藪萱草、育ててるさ。」

 「ははは、そうだな。そうにちげぇねぇ。なあマルコ、これから毎日、アグネスの墓に                                               藪萱草、持っていこうか。」

 そうだね、そうしよう。あと、やっぱり母さんについての本、題名変えるよ、とマルコが呟いた。


 


 二人の姿はとっくに見えなかった。でも、二人の鼓動と、私への愛を感じる。

 真っ暗に幕を閉じた私の世界で、確かなのはそれだけだ。そしてそれで十分すぎる。満たされた気持ちで、私は橙の光に包まれた。



 地上のマルコはふと考えた。コーナがわからなかった、あの答えはなんなんだろう。でも、死者の気持ちなんて、きっと死ぬまでわからなかった。


 それでいい、死んだ時のお楽しみくらい、一つや二つくらいあっても、絶対に足りないだろうから。マルコは優しく微笑った。アルバートに似た、アグネスが大好きな笑顔だ。


 おわり

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藪萱草に絆されて 瑠璃山遥樹 @ruriyama99

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