第120話120「決勝トーナメント決勝(3)」



「し、信じられない⋯⋯。あ、あの若が、まるで子供扱い・・・・だなんて⋯⋯」

「⋯⋯ウキョウ」

「っ!? イグナス⋯⋯!」


 舞台横で観戦していたウキョウに、イグナスが声をかけた。


「お前んとこの大将・・、どうなってんだよ⋯⋯尋常じゃない強さじゃねーか」

「フン、何をいまさら」

「正直、若⋯⋯リュウメイ様があそこまで劣勢になる姿なんて、今まで見たことなかった」

「⋯⋯」

「あと、お前もだ、イグナス・カスティーノ! お前の強さも異常だ! 正直、俺はヤマト皇国で若以外の同年代の中では『最強』だった。だから、まさか、お前に負けるなんてのも思ってもいなかった⋯⋯。それなのに、まさか、こんな結果になるなんて⋯⋯」

「⋯⋯まあ、ヤマト皇国お前らクラリオン王国俺たちを舐め腐っているのはわかっていた。だから、よかった・・・・じゃねーか」

「よ、よかった・・・・?」

「その伸びた鼻っ柱をへし折るほど、には強い奴らがいるってことがわかったんだからよ」

「っ!? イグナス、お前⋯⋯」

「まあ、俺の強さなんて、あのカイト化け物に比べればまだ遠く及ばねー」

「い、いやいや、お前は十分強いだろ⋯⋯」

「んなわけあるか! 俺なんてまだまだだ! まだ強い奴そっち側なんて思っちゃいない!」

「イグナス⋯⋯」

「お前にだってまだ完勝したわけじゃねーからな! 今度こそ完全にぶっ潰してやる!」


 イグナスがニチャァと笑う。しかし、


 プッ!


「て、てめえ! 何、笑ってんだ!?」


 イグナスが吹き出したウキョウに顔を紅潮させ声を上げる。


「プッ、ククク⋯⋯す、すまん、すまん!? その、なんというか⋯⋯」

「なんだよ!」

「俺や若なんて、カイト・シュタイナーが若に言ったように大したことなかった・・・・・・・・・んだなって、お前を見てやっと理解したよ⋯⋯」

「はぁ?! 何が言いたい!」

「お前らは、ずっとを見続けているんだなってことだよ」

「っ!?」

「お前だって、カイト・シュタイナーだって、目の前のことだけじゃなく、もっとを、を見ているんだなって⋯⋯。なんつーの? 向上心ってやつ? 今の強さに満足しないことが、どれだけ大切なのかってことを⋯⋯⋯⋯お前らに教えてもらった気がするよ」

「⋯⋯ウキョウ」

「とは言ってもよ! 試合はまだわからんぞ?」

「何?」

「若がいよいよ⋯⋯本気・・を出す。体への負担は大きいが、若にとってそれはもはや問題じゃない。なんせ、初めて対等⋯⋯いやそれ以上の強い奴と出会ったんだからな」

「リュ、リュウメイ王太子は、今まで、まだ本気じゃなかったのか⋯⋯?!」

「ああ。本気を出した若は俺なんてまったく相手にならないほど強い。なんせ、ヤマト皇国の皇族だけが持つ特別な魔力コントロール『龍の息吹』があるからな」

「りゅ、龍の息吹?」

「ああ。ヤマト皇国皇族だけが使える『龍の息吹』は、若を一時的にではあるが『爆発的』に魔力を増幅させる。そして、その結果、身体能力の底上げはもちろん、すべての物理・魔法攻撃、あと防御力が飛躍的にアップする」

「なん⋯⋯だと? リュウメイの強さが今よりもさらにアップするのかっ!?」

「ああ、そうだ」


 ウキョウの言葉にイグナスが愕然とする。


「リュウメイが『龍の息吹』を使った上で、それでもカイト・シュタイナーがそれに勝る強さなのだとしたら、それこそ、本当に⋯⋯⋯⋯『化け物』だ」



********************



「⋯⋯『龍の息吹』」


 ん?⋯⋯龍の⋯⋯息吹?


「コォォォォォォォォォォ⋯⋯⋯⋯」


 何だ、あの『呼吸法』は?


 ズォォアアァァァァァアアアアアア⋯⋯っ!!!!


「くっ!? な、なんだ?!」


 突然、リュウメイからもの凄い威圧のようなものが発せられる。俺はそれだけで体が後ろへと押し出された。


「い、いったい、何が⋯⋯⋯⋯っ!?」


 俺はリュウメイのほうを見る。すると、そこには、


「カイト・シュタイナー、これが僕の本気だ。手加減はできないから死んだら⋯⋯⋯⋯ごめんね?」

「⋯⋯何?!」


 感情のなくなったような表情から一変⋯⋯穏やかな表情で薄らと笑うリュウメイ。


 その穏やかな表情と相反する言葉を放つ目の前のソレ・・は、もはや、最初の愛らしい姿BLチックは消え、ラスボス感満載の存在感を放っていた。


 体から『透明な膜』のようなものがユラユラとリュウメイを包み込んでいる。おそらく、体内で魔力が増幅されて少し漏れ出しているのだろう。


 さーて⋯⋯⋯⋯俺のの全力で対処できるのかな、これ?


 俺が若干の不安を漏らしたその瞬間——リュウメイが目の前からフッと消えた・・・・・・


 ガキィィィィィィィ!!!!!!!!


「ぐぅぅぅーーーーっ!!!!!!!」


 俺はリュウメイが消えたと思った瞬間、奴の気配を即座に察知し、右横からの蹴りに反応できた⋯⋯⋯⋯が、それでも防御するのがやっとだった・・・・・・・・・・・・


「⋯⋯これも防ぐか、カイト・シュタイナー」

「いやいやいや⋯⋯お前、隠しすぎでしょ!? さっきとは比べ物にならないやん」


 俺の防御した腕はジンジンと赤くなって今もまだ痺れている。リュウメイは速さだけでなく、攻撃の威力も段違いに変化していた。

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